58 感性
僕はフランとはそういうことをしないと決めたけど、そうなると夜コテージに戻ってから時間をもてあます。
なのでTVを見ることにした。フランに何がいい?と聞くと、フランは番組表を眺めながら、
そうねえ、故郷の惑星にいた頃は歌謡曲番組とかドラマとか見てたけど、ここにあるのは去年やってて1回見たやつばかりなのよね。
ドラマを見ていたのか。僕はあんなのあんまり面白いとは思えなかったけどなぁ。
結局フランが選んだのは教養番組だった。こんなのを見るのは久しぶりかもと言いながら、教養番組の1つを見た。
地下から発見された古代の遺跡の話だった。
スゴイ!キレイよねえ。
とフランは感心しているけど、僕には壊れた建物にしか見えない。
彼女と僕は、モノの感じ方というか感性のようなものが違うんだろうな、とボンヤリ考える。
ユウミとはその他の話をすることすらあんまりなくてそういうことしかしていなかった。
リザリィとは、僕はその時は居心地がいいと思っていたけど、あれはリザリィが合わせてくれていたように思える。
アウラは、前半はなんだかんだあったけど、後半はうまくやっていたと思う。
そしてエリナは?最近僕はエリナのことを思い出すことが少なくなっていた。彼女とはどんな話をしていたんだっけ?
ジェイミィはこういうの面白くない?
突然フランに聞かれた。画面には精巧な彫刻を施された大きな柱が映っている。
「建築機械とかない昔にこんなに大きいものを造ったのはすごいと思うよ」
もっともその遺跡は今は埋め戻されて農地になってしまった。どんなに学術的に価値があっても、農地にしなければ今の人口が養えない。
こんなにすごいものを壊しちゃうなんてもったいない。フランはそう言うけれど、それは飢えたことがない人の意見だ。
まあ僕もパンが無くて困ったという経験は無い。あの惑星では贅沢を言わずにちゃんと働けば少なくとも飢え死にすることはない。
だから僕も故郷の惑星に帰ったら、地味に働いて普通に暮らせばいいのだろうか。
僕がそんなことをグダグダ考えていたら、そのままにしていたTVでは遺跡の話が終わって次の話、微生物の話が始まった。
パンを膨らませるのにも微生物が必要という話になったので、僕はふと思い出して言った。
「タキタの家ってパン屋だっけ?」
そうなの。フランはなんだか嬉しそうに見えた。
タキタは故郷の惑星に帰ったら、パン作りを教えてもらって自分もお店を出したいんだって。
「そっか、タキタは先のことをちゃんと考えているんだ」僕はちょっとだけ悔しかった。
それで、タキタは私に故郷の惑星に帰ったら結婚しようって言ってくれて、
そう言うフランに僕は少し苛立ちを覚えた。コイツら、なんでこんなに幸せそうなんだろ?
「それで、タキタと結婚しても子供が出来なかったらどうするの?」
僕はフランにそう聞いてしまった。
それは、、、離婚して他の人と再婚してもらうわ。タキタに強制労働なんかさせられない。
「でフランは?マリア派としてはどうするの?」
フランは唇を噛んだ。
わからない。フランはそう言った。そんな先のこと考えてない。
フランの目尻にはうっすら涙が溜まっていた。
「ごめん、イジワルなことを言ってしまって」
僕は即座に謝った。フランとタキタが幸せそうに見えて嫉妬してしまったんだ。
「ホントにごめん。もう寝よう。フランは先にシャワーを浴びて寝てて。僕はコーラかなんか入れてくるよ」
僕はコテージの外に出た。




