56 マリア派
睡眠不足でちょっと重い頭を抱えたまま、次の日の朝僕はラボでタブレット端末に向かっていた。
朝、きっちり制服を着込んで寝室から出てきたフランがコーヒーを入れてくれた。僕が何も言わなくても僕の目の前にはブラックコーヒーが置かれた。昨夜僕が飲んでいたのを見ていたんだろう、フランは馬鹿じゃないし悪い子じゃない。ただ、考え方が違うだけだ。
そう思うから僕は、フランのように特定の相手以外とそういうことをすることを嫌がる人について調べてみた。
200年ぐらい前にはそういう人たちはいた。いたけれど、国民は全て1人か2人の子供を生んで育てるという義務が厳しくなってきたあたりから、彼女たちは迫害される。
最初の夫以外とそういうことをしたくないと、再婚を拒んで結局子供を作ることができなかった女性は夢の国に送られた。その処遇は間違った考え方を正すためのものであるとされていた。
「うーーん」
これはちょっとあんまりだと思う。一番したくないことを強要するわけだし。
唸っていたらサニアがやってきた。何か小さい袋を持っている。
何をうなっているの?
「ちょっと調べもの」
サニアにもフランのことは言わないほうがいいだろうと思う。フランの話をすればユウミの話になるだろうし、その話になると、僕は昨夜のユウミとの話をしてしまうかもしれない。
僕はサニアに軽蔑されたくはなかった。
「ちょっとマリア派のことを調べていたんだ」
フランのような考え方の人はマリア派と呼ばれていたらしい。
それはまた古いことを。とサニアは言った。知っているらしい。サニアは何でもよく知っているな。
「そういう人は考え方を正すために夢の国に送られたと書いてあるけど」
ああ、それはね、マリア派の人の考え方が、宗教に通じるものがあるということで必要以上に迫害されたのよ。
宗教か。だったらしょうがないのかも。と僕は思う。宗教はよくわからない考え方を他人に強要する悪だとされていたから。もっとも宗教はだいぶ前、400年か500年前にはなくなってしまったものだけど。
「それで、どこにも書いてないんだけど、そのマリア派の人は特定の1人としかそういうことをしていないわけで、それで夢の国に送られてそこで子供ができたらどうなるの?」
多分、、、強制堕胎じゃない?
「うーーん」
僕はまた唸っていたようだ。
ひどい話よね。サニアがそう言うから、
「サニアもマリア派なの?」と聞いてしまった。
はぁ?マリア派だったらB計画に参加するわけないじゃない。
そう言われた。そっか、そりゃそうだよね。




