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3 惑星に住む人

ぞろぞろと歩いていた僕たちは、かたまって建っている建物の中で一番大きな食堂と呼ばれる建物に入れられ、そこには長いテーブルがあり、僕たち全員が座れる椅子が、カウンターのほうを向いて並べられていた。ここは普段は本当に食堂として使用されている場所だった。

その椅子に座り、配られたペットボトルの水を1/3飲んだところでやっと感覚が人間に戻った気がする僕は、これからそういうことをすることになる女の子の顔を見たいと思ったけれど、僕が座ったのは一番後ろの列だったので、顔は見えず、オレンジ色のジャージのような作業服のような揃いの制服を着た後姿が見えただけだった。


「この水、美味しいわね」と隣の席にいた女の子に話しかけられ、僕は改めてもう一口水を飲んだ。

「本当だ、消毒薬の匂いがしない」故郷の惑星では、1人1日2リットルと決められている、ペットボトルに入って売られている水は、いつもなんとなく消毒薬の匂いがして、暑い季節にはその匂いがキツくなるのだった。


そうこうしているうちに、1人の男性が僕たちの正面、カウンターのところに立って挨拶を始めた。

彼は所長のリリシャと名乗り、年齢は僕たちの親よりも上だろう、髪に白いものが少し混ざっていた。


例えば校長先生とか、そういう偉い人の話は長くて退屈なものだと僕は思っていたけれど、所長のリリシャの話はわかりやすくて面白かった。

彼はまず、僕たちの故郷の現状を嘆いた。もちろん僕だって作物が豊富に収穫できているとは思っていなかったけれど、状況は思っていたよりも逼迫していたらしい。

開墾できる土地には全て、小麦やなんかが植えられていたけど、備蓄などというものは1つも無くて、本物の小麦がどれくらい入っているのかわからない合成パンも次に天候不良があれば足りなくなるということだった。

それは、強化スープの原料になる肉や野菜も同じだ。


他の惑星で、キャベツやほうれん草は栽培できるのだから、それを運べばいいと僕なんかは考えるけど、それは燃料代が高くついて採算が取れないらしい。

もっとも、こちらのほうも化石燃料が眠る惑星を全力で探しているそうだ。


けれど。

安い燃料が手に入ったとして、他の惑星を農地にして人を送り込んで野菜を作っても、そうすれば食糧問題は多少マシになるかもしれないけれど、それは出稼ぎであって移民ではないとリリシャは強調した。

その場所で子孫を増やせなければ希望がないと。子孫を作れなければ希望がないというのは、僕には実感がわかなかったけれど、それは僕も子供を持てばわかるのだろうか?


そしてその希望となるのがB計画であると。


僕はその話を聞くうちに、なんだか壮大なプロジェクトに参加しているような気分になってきた。

最初は母の小言から逃げるために応募したんだけどさ。


次にドクターが紹介された。

ドクタースイブの専門は産科だということで、ずいぶん手回しがいいなぁ、と僕は感心した。

B計画は今年で4年目だけど、今まで妊娠した人がいるという話聞いたことがないから。

もっとも、医学が発展して、病気というものがほとんどなくなっていて、医者といえば産科か外科だ。あとは、老人たちを看取る老人医。

ドクタースイブは所長と同じぐらいの年齢だろうか?

彼は、ここにいる全員の健康管理が仕事なので、頭痛とか、すり傷とかでも僕のところに来てください、と言った。まあ話しやすそうな人だと僕は思った。


それからカウンセラーのケイト。

ケイトはどう見ても30歳より上には見えなくて、小さい子供がいるはずの年齢なのに独りでここにいるということは離婚したのだろうか?

少数ながら離婚する人はいるけど、子供は母親が引き取ることが大半なので、父親が引き取って故郷の惑星に置いてきたのだとしたら、彼女にもなにか事情があるんだろうと思う。

環境が変ってとまどうことも多いと思います、何かあれば、じゃなくて、なにもなくても話にきてください、とケイトは言った。


最後はコック兼雑用係のヤコブ。この人は年齢がさっぱりわからない。

屋外での仕事が多いのだろうか、日に焼けた肌と白い歯で若いようにも見えるけど、けっこう深いシワが刻まれている。

そして彼は片足を軽く引きずっていた。怪我をしたのだろうと思う。病気という物がほとんどなくなった今、90歳より前に引きずるほど足が悪いというのはそれ以外考えられなかった。

彼は短く、よろしくお願いします、とだけ言った。


その後、トイレ休憩があって、僕は女の子たちをチラチラ見たけれど、僕は人の顔を覚えるのは苦手なんだ。しかも全員が同じ制服を着ているしで、これは覚えるのに時間がかかるなと思った。


それから、僕たちは3つのグループに分かれて、所長とドクターとケイトに付いて、施設の中を案内してもらった。

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