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25 最後の映画

その朝、所長が宣言した。

今日で皆さんがこの惑星に来て29日目になりました。B計画では28日ごとにパートナーチェンジをするように定められています。


ああ、やっぱり、という空気が僕たちの間に広がる。けれどそれだけだ。僕たちは決まったルールに従う以外のことは考えないように教えられてきた。

それが良いことなのか悪いことなのかわからない。どんなことを押し付けられても、ああそうなのかと従い、陰でブツブツ不満を言うのがせいぜいだった。


そうだ、フランは、と彼女を見たけど、俯いたままでその表情はわからない。パートナーチェンジをしたくなさそうだったフランは最初のペアのタキタが好きなんだろうなと思った。


ですので、今日の昼食後は各自今まで使っていたコテージを片付けて、最初に渡されたバスケットに荷物を入れて夕食の時に持ってきてください。

所長は続ける。


ねえ、どうして1ヶ月じゃなくて28日なんだろ?隣に座っているアウラに聞くと「女性の生理周期」という答えが返ってきた。

はぁ、僕はB計画のそういうところが嫌いだ。もちろん、声に出してそんなことは言えなくて、僕に出来るのはこっそりため息をつくことだけだ。


午前中にその日予定していた作業を終わらせて、ラボの外の壁際に置いている芽を出した大豆に水をやっていると農作業の一団だろうか、何人かが「次のペアは誰がいい」とか、そんな話をしながら歩いてくる。

誰の身体がどうとか、そういう話になっているのを、それは女の子たちに聞かれないほうがいいなと思う僕はおせっかいだ。


昼食のあと12番の僕たちのコテージに行くとそこはいつものようにキレイに片付けられていて、ああ、そうだ、コテージの掃除はいつもアウラが僕の気が付かない間にやってくれていて、

僕は今更ながらアウラに、いつもありがとう。ごめん、今まで気が付かなくて。

だから洗濯して干してあったシーツを掛けて、各自の荷物をバスケットに詰めたらもうすることがなかった。


残りの時間で僕たちはあの日、アウラの出血騒ぎがあって途中までしか観ていなかった映画の続きを観ることにした。いつものように合成インスタントコーヒーを飲みながら。


お姫様は王子様と出会い、最初は敵対していた2人がやがて理解し合い同じ目的のために戦う。戦いが終わって、2人は結婚してメデタシメデタシなのかと思っていたのに、お互いのことを想い合っているはずなのに2人は別々に暮らすことを選択する。


映画は面白かったけれど、アウラと一緒に観る最後の映画だから、文句なしのハッピーエンドがよかったのに、と思う。


映画が終わってしまって、僕はアウラに言いたいことは沢山あったけど「楽しかった。アウラと一緒に居られてよかった」そんな月並みなことしか言えなかった。

アウラは「私も楽しかった。寝ていた私にジェイミィが食事を運んでくれた時は嬉しかった。家族ってこんなのなのかなって思った。ごめんね、大変なことに巻き込んでしまって」

何事も無くパートナーチェンジの日が来たということは、本当のことは所長にもドクターにもわかっていないということなのだろう。あのことがバレてしまったのなら、アウラと僕に何らかの処分が下されるはずだし。そのことに関しては僕たちはようやく安心したんだけれど。

大丈夫、あの話は僕は墓場まで持って行くよ。だから安心して。

「それより、アウラ、僕は、、、」

言葉に詰まってしまった僕にアウラは、もう二度と会えなくなるわけじゃないからそう言って静かに微笑む。


僕はもう1度ベッドルームを見に行って、黄色いカーテンを開けた。

アウラは小さな流しでマグカップを洗って電気ポットの横に伏せる。


僕はソファを眺めた。最初、幾夜も独りで眠ったソファ。アウラと並んで映画を観たソファ。


次にほかの誰かとペアになっても、この12番のコテージ以外のコテージがいいな。僕がそんなことを考えているうちにもう夕食の時間だった。


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