表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

最終話。そんな互(きみ)がいいんです。

「なあ、シュウト」

 ひとしきり笑った後で、不意に真剣な顔で、あいかわらずぼくの上に乗ったまま且つ、パーの両手をぼくの胸に置いたままでハルカが切り出した。

 

 声も真剣で、だから目線を合わせることで続きを促すことにした。

 なんだか、今口を開くのは、いけない気がする。

 

「いいのか? あたしで。ほんとに」

 あれだけ大喜びしたすぐ後だって言うのに、この不安な顔と声で。

 ぼくは、小さく頷くのと同時に うん って声を出す。

 

「こんな。やかましくって。すぐ手が出て。それに……」

 自分の体に目線をやって、

「こんなに平たいあたしでも」

 そう左手をキュっと握り込みながら言葉を続けた。けど、目線はこっちに向かないままだ。

 

「ぼくが。あんな嘘。つけると思う?」

 はっきりと、かまわないって言えれば、かっこいいのにな。やっぱりぼくは、かっこつけるの無理そうだ。

「……そっか。そう、だよな。そう……だよ……な」

 また。Tシャツに、小さなしみが増えて行く。

 もう、ハルカに押し倒された時点で、服は濡れてるし 今更一粒二粒増えたところで気にしないけどね。

 

 ぼくはハルカのあったかい雫が止まるまで、彼女を見つめ続けることにした。

 

 

***

 

 

「ごめんな、シュウト。服、びしょびしょにしちゃって」

 どれくらい泣いてたのか、もう空ではオレンジと黒が共演し始めている。涙のおさまったハルカはぼくの上からどきながら、そう苦笑いで謝って来た。

「いいよ。気にしてないから」

 答えながらぼくは立ち上がる。服が張り付いて、ちょっと気持ち悪いけどそれがどうした、だ。

 

 少し目を赤くするほど泣いたおかげか、ハルカの表情は目とは反対にスッキリしている。

 

「そっか。じゃ、帰るか」

「そうだね」

 言ってぼくらは歩き出した。

 

「「あの」」

 歩き出してすぐ。同時に声が出て、足が二人とも止まった。ちょうど真横に並んだ位置。

「あの。どうぞ」

 一秒ぐらい固まった後で、言ったのはぼくからで。

「いいよ、そっちからで」

 少し考えて、頷いてわかったって答えて、ぼくは聞きたかったことを口にする。

 

 

「ハルカ。どうして一人称が何回かかわったの?」

 聞いたとたんに、ハルカはホっと溜息を一つ吐く。

「どうしたのさ?」

「や、言おうとしてたの おんなじだったんだよ」

「そうなの?」

「うん。実はな」

 ぼくの質問に答えるわけじゃなさそうだけど、ぼくの疑問は解消してくれそうな、そんな気がする。

 

「オレさ。オレかあたしか、どっちがいいのか。迷ってて」

「どうして?」

「その……ずっとオレだと、そのぉ……」

 なんだか、言いにくそうだ。なんだろう?

 

「幼馴染から、かわってくれないなぁって思って。でも……幼馴染から、かわらないままの方が、いいのかな。とも思って」

 視線を下げてもじもじと。ハルカの言ったこと、衝撃を受けないわけがない。

 

 なんてことだ。ぼくとまったく同じこと考えてたなんて。

 

「で、今日。思いきるからって、ちょっと……試しに一人称、変えてみたんだ。けど……なんか、あたし って。恥ずかしいって言うか、てれくさいっつぅか でさ」

「そっか。それでだったんだ」

「うん。で、さ シュウト」

「ん?」

「……どっちが、いい?」

 また、上目遣いで。遠慮がちに聞かれて。

 

「……そうだなぁ」

 どぎまぎを必死で噛み殺して平然を装いながら、ぼくは想像してみる。

 

 あたし、って一人称を常に使うハルカ。なんだか、特別な感じがして……なんか、ドキドキする。

 そして、もう一方の、これまで通りのオレ。自然に話ができるって確信できた。

 

 

 ーーよし。なら、こうしようじゃないか。

 

 

「どっちも、だな」

「え?」

 予想外だったのか、軽くのけぞったハルカに、ぼくはクスっと微笑がこぼれた。

「他の人といる時はこれまで通り。でも、今みたいに二人っきりならあたし。これでどうかな?」

 

「あ、ああ。そおゆうことか。両方ってどういうことかと思った。一人称 オレたしにするってことじゃなくてよかった」

「お……折れたし?」

 

「だって、両方だろ? でも、使い分けるなんて思わなかったから……その。合体させるのかな。って」

「そんなバカな」

 言いながら爆笑するぼくに、ハルカは「わらうなよぅ」って、またさっきみたいにほっぺたふくらまして抗議。

 

「ごめんごめん。まさか、一人称を合体させるなんて言うとは思わなかったんだよ」

「じ、じゃあ。今は、あたし……だな、よし」

 言うとハルカは歩き出した。だからぼくも歩き出す。

 

「あの、あたし。状況かわるたんびに変えるなんて、器用なこと できないと思うから、ごちゃごちゃになると思うし。オレたしって普通に言っちゃうかもしんない」

 黙って聞く。あたしって言うの、てれがあるのか ほんのり顔がピンクだ。夕日のせいじゃ、こんな薄色にはならないと思う。

 

「それでも。よければ。両方、使うよ?」

 こっちをうかがうように、チラっと見て来て。それがなんだかかわいくて、またクスっとしちゃって、「む」って不満顔されてしまった。

 

「かまわないよ。むしろごちゃごちゃになった方が、可愛げあるし」

「かっかわいいとかゆうなバカー」

「いでで! アイアンクローなし! ギブギブ!」

 声に力がないのに、なんだこの威力っ! 正面に回り込んでるハルカの左肩を左手でパシパシする。

 

「ったく。おまえがいきなりかわいいとかゆうからだろ、じごうじとくだ」

 手を離してから、そんなむちゃくちゃ言ってきた。

「そんな理不尽な……」

 けど。なんだか、おかしくなって。笑いが込み上げて来た。

 

「な、なんだよシュウト。なにがおもしろいんだよ」

 ハルカ、ぼくの笑いにつられたみたい。

 そこから少し。ぼくたちは意味もなく面白くなって、やたらに笑い合った。

 

 

***

 

 

「ふぅ。じゃ、改めて」

「おう。帰ろう」

 笑いすぎてお腹が痛い。体、また 固まってるかもと思って一つ、のびをする。

「ん~」

 

「あ、おいシュウトみろよ」

「ん?」

 上を指差してるハルカ、自然と目線で追って。

「一番星。まだ見えるんだ」

「他の星に邪魔されてるかと思ったけどな」

 珍しく、ハルカがちょっぴり詩的なこと言ってる。

 

「ありがとな、お星さま」

 不意に空に向かってそんなこと言った。それが子供っぽくてかわいくて、「なにが?」ってまた笑い含んで言っちゃって。

 怒られるかと思ったけど、今回はそんなことなくて。

 

「オレ じゃあなくて。あたしたちのこと、祝ってくれてる気がしてさ」

 照れ笑いで、左手で頭を掻きながらそんなことを言う白い青水玉水着の幼馴染。

「ハルカ。そういうとこ、女の子 なんだね」

 

 素直な感想言ったら、

「そうだよ。これでもオレは女の子なんだって。さっきもいったろ」

 そう言ってそっぽ向いて。

 

「一人称」

「うっせー。しるか」

 言うなりザクッザクッと早歩き始めて。

 

「あ、ちょっと」

 慌てておいかけようとして。

 もう一度空を見上げて、呟く。

 

「ありがとう、お星さま。か」

 自分の言葉に一つ、大きく頷いて。

 

「おっと。まってよハルカ!」

 慌てて駆け出すぼくだった。

 

 

 

 

 

         おしまい。

元々はこの二人のお話、朝露だけで終わるつもりでした。

けど、アンリさんの告白フェスタの告知を見た時、この二人の続きを書こうと思いました。

で、密かに書こうと思いつつおりましたが、筆が思うように動かず。

駄目なのか、と思ったところ 作業用BGM作戦が功を奏したのか、無事にこうして執筆することができました。よかった。

どうにも、若干朝露の時とキャラがかわってる気がしますが……。

この二人のジレ解消。楽しんでいただけていれば幸いです。

読者の皆様、お読みいただきありがとうございました。

そして告白フェスタ主催のアンリさん。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ