哀れなネズミの一生
〔チュチュ〕
〔チューー〕
一ヶ月たった。
ネズミに生まれ変わった俺は特に何事も無く普通のネズミとしてスクスクと育っていった。
生まれてすぐはネズミに嫌悪感しか無かったが同じく幼児の兄弟達と一緒に母ネズミに世話されるうちにネズミ達を家族のように思えるようになった。今やもう清潔感の無さだけが気になっている。
食べ物は住み着いている家からかすめ取ってるため(調理したかどうかの差はあれど)人間と変わらないし、寝床も家の中。ネズミに生まれたことへの悲観はとっくに無くなっていた。
地球のネズミとは成長速度も能力も違うようだ。
ネズミに転生してから三ヶ月たった。
遂にネズミ語を覚え、巣立てるぐらいに成長した。今日は巣の外に出る許可が大人達から降りて他の三匹の兄弟達と一緒に巣を出て探検をしている。
〔はやくー〕
〔落ち着けってば〕
初めての外の世界に兄弟達は怯えていたが、すぐに慣れてウロチョロし始めた。危なっかしいことこの上ないが案内兼お目付け役として父親と母親がいるし今は深夜だから人間が出てくる危険もあまりない。
〔ヒャッホー〕
〔おい!チュチュ!〕
あまり離れるなと大人に言われていたにも関わらず兄弟の中で一番やんちゃなチュチュが遠くへと走っていった。慌てて後を父が追って俺達も続いたがチュチュが以外に足が速かったようで見失ってしまった。
母と兄弟二人、父と俺の二手に別れて探そうとなって別れる時に
〔ヂューーーー!!!!〕
とチュチュのらしい叫び声が聞こえた。父は俺達に母と共に帰るように言いつけて全力で走っていった。残された俺達は母に先導されて大人しく帰っていった。
巣についた俺達は不安に思いながらチュチュと父の帰りを待っていたが待てども終ぞ帰って来るものはいなかった。
大人達は人間に見つかったのだろうと言っていた。仲間が捕まる事は多くネズミ達は人間への恨みと恐怖が強く根付いていた。兄弟達も同じでチュチュと父を亡くした悲しみを人間への恨みに変え紛らわしていた。その中で人間だった事のある俺はそれが出来ずただただ1人で家族を失った事と周りと違う事を悲しく思っていた。
生まれてから一年。
弟分や妹分が続々生まれて姪っ子、甥っ子まで出来て大所帯になった。頭数が減る事も度々あったが増える方が速いのはネズミであるが故だ。
もうそろそろ巣に入り切らないので隣家にも移り住み始めてる頃だ。俺と唯一残った兄弟のチューチュも移り住んだ。俺はといえば人間を敵と思うようになった、ネズミだから当然のはずなんだがまだ自分は人間だという思考は捨てきれない。ネズミなのにさ。
今住んでる家の人達は前の家の人達よりもネズミに厳しい、長くは住めなさそうだ。
二年たった。
俺はネズミだし人間は敵だ。巣を完全に追い出された最初に住んでた家も隣家も更に移りこんだ裏の家からもだ。近所の家が結託して一挙にネズミを殺そうと目論んだのだ!
殆どの家族を殺されて命からがらに生き延びて今は路地の隅っこにいる。俺が生き延びれたのは元人間であった為だが人間であったことに少し嫌気がさした。他にも生き延びた仲間はいるかもしれないがネズミの身分では再び会うことは奇跡だろう。
それでも俺は仲間が欲しかった、町の中を俺はネズミを探しさまよい続けたが今迄ずっと家の中でしか暮らしていなかったネズミに外の世界は苦労が多すぎた。食うのに困るし寝てた所を子供に捕まって危うく命を落とす所だったしずっと独りでいるため神経がゴリゴリ削られていった。
〔チュチュ〕
一月の長い放浪の末やっと仲間を見つけた、若いネズミ5匹集である。同じく巣を失った彼らとはとある路地のゴミを漁ってる時に出会った。
やっと会えた仲間に喜び声を掛けたが若くして巣を失った彼らは言葉が上手く分からず生きる術も拙かった。俺は彼らと共に倉庫の1角に住み着きネズミ語と生きる術を教えた。そして彼らと築いた巣で生を終えた、三歳だった。
生の灯火が消える時に俺は思う。俺はもうネズミになり切れたと思っていた、人間を恨んでいると思っていた。しかし俺は5匹に、その子供に人間を恨まないようにと言いながら育てた、ネズミとしてそれなりに生きたにも関わらず子をなそうともしなかった。俺は相変わらず人間だったな。