こんなの簡単! 俺ツエー物語の第一歩
ゼースアカデミアのモットーは、実践と力、らしく、入学初日から授業が開始していた。
教師はそれぞれ科目ごとによって違う為、ここは小学校というよりも高校に近い雰囲気を感じた。
最初の授業は、最も簡単な魔法力を球体にして飛ばす魔法だった。
この球を射出する事で、相手を倒したりモノを動かしたり、様々な利用方法ができる初歩的な魔法のようだ。
魔法にはそれぞれ詠唱があるらしいが、この魔法に関しては詠唱はいらずイメージだけでなんとかできるらしかった。
使用人たちがせっせと机をどかして、教室の後ろから教卓まで一直線の道が作られた。
ようは、真後ろから教卓の教師に向かって球体を射出しろという授業らしい。
大した説明もないまま、階級順に生徒たちが並んでいく。つまり、ボクは一番最後だ。
「ちなみに俺はマジックシールドを張っているから、全力でかかってきなさい!!」
熱血系の教師はそう言うと両手を握りこぶしで打ち鳴らし、格闘家のような構えをした。
列の先頭に居るのはもちろんミリアで、彼女は手を教師の方にかざしながら真剣な顔をした。
彼女の全身からもやのようなものが沸き上がったかと思うと、一瞬のうちにかざされた手の先にそれが集まり、紫色の球体となって教師に射出された。
すさまじい勢いのそれを教師は両手で少し後ろにのけぞりながらも受け止め、球体を霧散させた。
「さすが!!! 王女様ですな!!」
豪快な笑い声をあげながら両手を数回叩き、次!!!と怒鳴りあげた。
ミリアは当然、といった風に鼻で笑うと、教室の端の方へ行き、机に腰かけた。
彼女の前に居た人達は別の場所に移動して、すぐさまそこは授業が一番見やすい特等席になった。
やる事が単純な為か、流れは早く、あっという間に最後……ボクの番が回ってきた。
「おっ、お前が期待の新入生だな!! よし、来い!!」
教師は言いながら、腰をさらに低く落とし、こちらをじっと睨みつけた。
ボクは、夢見がちだ。
例えばマンガの主人公だったら、こういう時どうするだろうか。
どんな俺ツエーを見せてくれるだろうか。
そういったことを元の世界に居た時から考えるクセがあった。だから、だろう。
圧倒的な強さを見せつけたくて、心が、身体が、ウズウズしていた。
「先生」
ボクはもったいぶったように言うと、片足を踏み鳴らした。
ボクの周りに七つの球体が浮かび上がり、徐々にそれは回転をしながら凝集し、より小さく、より密度の濃い球になっていく。
「受け止めてくださいね」
言って、全ての球体を自分の目の前に集め、くっつける。
イメージするのはライフルの弾丸。先のとがった、細く長い形状になるや、突風と共にすさまじい勢いで教師に向かっていった。
教師は目を見開き、当たる寸前で横に体さばきで躱し、拳で弾丸をアッパーのような姿勢で打ち上げた。
鈍い音が教室中に響き渡り、弾丸は霧散した。
「んむ!!!!」
教師は何事か納得し、授業は終わりだ!と言って、早々に教室を出て行った。
残った生徒たちは恐れるような眼でこちらを見ていた。ミリアを除いて。
彼女だけは、悔しそうな目で睨み付け、目が合うとそっぽを向いてどこかに立ち去っていくのだった。
ボク何か悪い事したかな。