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転生!! 王女! 隠れ巨乳

 幼少期の記憶というのは、あんがい残り続けるものらしい。

 転生してボクが三歳の頃の話だ。

 ”この世界にも”赤ん坊向けの定期的な検診のようなものがあるらしく、晩婚の両親(といっても二十代前半だ)はうっきうきで王城近くにある王立の研究所付属の神殿へとボクを抱いて行った。

 この世界では魔法力の上限が定まるのがだいたい三歳という事で、三歳前後で検診を受ける事が義務付けられているのだ。

 その魔法力の上限によって今後通える学校が決まり、受けられる魔法教育のレベルが変わるようだ。

 上限が高ければより高度な魔法を扱う事のできる実践家としての魔法教育を受ける権利が得られる。

 魔法は金になる。この検診によって将来の職業選択が大きく左右すると言っても過言ではないらしい。

 らしい、というのはゼースの言であって、ボクが実感しているわけでもないからだ。

 鈍麻の魔法で痛みを鈍くさせられると、腕を切って血を少し取られる。

 治癒の魔法ですぐに傷は癒される。血を魔法陣の上に乗せると、魔法力の強さに応じて一瞬発光する。この光の強さによって魔法力が測られるのだ。

 幼少期のボクに最も強く焼き付いている思い出は、この陣に血を乗せた瞬間の出来事である。

 ボクの血がぽたりと陣に垂れ落ちると、辺りは眩い光に照らされ、目を焼き付かれた。

 目のくらんだ人々のうめき声と、子ども達の泣き声。事態を察知して駆けつけてきた衛兵たちの装備が慌ただしく掠れる甲高い金属音。事態の収拾や理解をしようとする衛兵たちの怒号。

 結局その日の検診は、ボクだけ別の部屋に移して再度検査される事になった。

 両親の疲れ切った、それでも誇らしげにボクのホッペをつつく顔と大人たちの慌てふためく顔は、今でも鮮明に思い出す事ができる。

 そうした出来事もありつつ、ボクは本来であれば貴族等の高貴な人たちが通う小学校のような場所に行く事になった。


*


 いわゆる入学式の日、学校から送られてきた制服に着替えながら、ボクの頬は緩み切っていた。初日は私服登校でもよいとのことだったが、両親から制服を着ていくように言われたのだ。

 特待生扱いで最も優秀な学校に通う。初めてできる親孝行だ。それに、大人たちが慌てふためく程の才能を有しているとわかっているのだから、これほどの優越感はない。

 ボクってすげぇじゃん! そういう気持ちになっていた。

「ユーヤ。こっちに来なさい」

 母が、ボクを呼んだ。着替え終わったボクは母から何か褒め言葉でももらえるものだと思って、もったいぶるように歩いて近寄るのだった。

「なーに、お母さん」

 言って、母の顔を見ると、厳しい顔をしていた。ボクは何か怒られることをしたかと心臓が不安にバクバクと脈打つのを感じた。

 今朝は起きて、歯を磨いたし、髪も整えたし、着替えだってもう済んでいる。何も怒られることなど、していないはず。

「とっても難しいことを言うけど、よく聞いてほしいの。お母さんはね、あなたに…もし力がなかったとしても、変わらずに愛しているのよ」

 ゆっくりとした、だけどハッキリとした言葉だった。母は膝を床について、ボクの肩を優しく触れると抱きしめるのだった。

「だから、その力で人を見ることのないようにしなさい。あなたはとっても強くなる。だからこそ、強さで人を見てはいけないの」

 そうして頭を優しくなでると、母はもう一度ボクの顔を見つめるのだった。

 厳しかった顔は、心配そうな顔になり、おでこにキスをしてくれた。

「お友達いーっぱい作っておいでね! 学校は楽しいぞー、私がお父さんと出会ったのもね、学校だったからね!」

 母はそう言ってボクの手をひき、学校に向かうのだった。

 母から言われた言葉は、グサリと突き刺さった。

 前代未聞の力、地上にもう一つの太陽が産まれたかのような発光。

 あまりの力の大きさに秘匿されたが、ボクはあの場に居た誰よりも強い力を秘めている。その思いは、確実に驕りとしてボクの心を増長させていた。

 ゼースから言われたにもかかわらず、ボクは既に驕っていた。

 母にその増長を見抜かれ、心配させていた。その事があまりにふがいなく、情けなくて、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

 ゼースがいたらきっと、言われたことをすぐに忘れて、挙句母に叱られたことを茶化されてるところだろう。今後、自分の気持ちの驕りに、気をつけねば。

 それにしても、ゼース。会いたいな。


*


 子ども達が通う学校のことを一般的にアカデミアというようだ。

 ボクがこれから通う事になるのは特に力を持つ王族や貴族などが通うアカデミアで、ゼースアカデミアというらしい。

 あまりぱっとしない名前だが、一応この世界の神であるゼースの名前がついていることからわかるように、この国の中で最も高い魔法力の持ち主が通う学校のようだ。

 いわゆる階級を持っていない生徒が通うのは初めてらしく、両親は様々な手続きに追われてしばらく疲れた顔をしていたのを覚えている。

 ちなみにアカデミアは15歳になるまで変わらないようで、小学校ぐらいの年齢から高校生ぐらいの年齢まで同じところに通い続けるようだ。

 入学式というのはどこも変わらず退屈なもので、ぼーっとしていると気づけば教室に居た。

 教室は広々としていて十五人程の生徒が居た。

 向こう世界と教室の作り自体は大して変わらないが、唯一違う点は、教室の後ろにそれぞれの使用人らしき人達が控えている点だろう。もちろん自分にはそんな人はいない。

「んっんー!」

 わざとらしい咳払いに、視線を向けると、ゼースのように長い髪を二つに分けた女の子が立っていた。身長はボクと同じぐらいで、明るい緑を基調としたワンピースに、襟元は白いレースが飾られていた。胸には涙のような形をした青い宝石のついたネックレスが垂れていた。

 柔らかな印象の服装とは裏腹に、きりっとした目元が印象的な女の子だった。

「あなた、平民ね!」

 女の子が言うと、周りは興味深そうにこちらを見つめていた。彼女と、そしてボクを。

「うん。それが何かな」

 精神年齢だけだったら十五歳+六歳分の年齢をとっているボクだ。こんなことじゃ動じない。たぶん。

「平民がここに入るのはイレイ?な事なのよ。だから、あなた、私とこうして学べることを感謝しなさい!」

 大真面目な顔をして、どやっとふんぞり返る女の子。

 なんだこのチビ。そんな思いであたりを見回すと大真面目な顔で全員がこちらを見ていた。

「あのさ、キミ誰?」

 ボクがそう言うと、さっきまで静まり返っていた教室が急速にざわめき始めた。

 それは子ども達だけでなく、後ろの使用人のような大人たちからも発せられていた。

 辺りをゆっくりと観察してから、女の子の方に視線を向けると、いらだったような顔をしてこちらを見つめていた。

「良い度胸ね。王女である私を知らないなんて言えるなんて、さぞ名のある家なんでしょうね! 私はミリア=ゼシリア! この国の第三王女よ!」

 恐れおののけと言わんばかりに、彼女は両手を組んで睨み付けてくる。

 王女様というともっと高貴な印象があるのかと思っていたが、あんがい普通の女の子らしい。

 自分を知らない人などいるはずがないと、そうした自信のこもった表情を見ると、逆に(精神的には)大人の余裕が出てきた。

「そうだったんだ! ごめん。そういうの、よくわからなくて。ボクはユーヤ! 城下町で職人をやっている家の一人息子だよ。よろしくね」

 にっこりと笑って言うと、彼女は鼻で笑うのだった。

「よろしく? 王女に向かってずいぶんと偉そうな口を利くのね、平民」

 気づけば周りは人だかりができていて、そーだそーだと野次が飛んでいる。

 見るからに取り巻きっぽい女の子三人組が王女の後ろに横並びになり、同じように腕を組んでこちらを見ていた。なんだこいつ。

「やめなさい、ミリア」

 ざわつく教室の中、それほど大きくないにもかかわらず、よくとおる声だった。

 一瞬にして教室は水を打ったように静まり返った。

 目の前にいる女の子と同じように長い髪を三つ編みにした、高校生くらいの女の子が教室に入ってくる。

 ミリアに似ているが、幾分か柔らかな顔立ちに少しごつい眼鏡をかけていた。白いYシャツのような服に黒く長いロングスカート。モノトーンが良く似合っているように感じる。

「お姉さま! だ、だけど!」

 そこまで言って、割って入ってきた女の子は、ぼそりと何事かつぶやくと、ミリアの口から音が出なくなった。初めてみる魔法だった。

「妹が失礼したわね。ユーヤ君……だったかしら?」

 彼女は言って、何事かまたつぶやいた。

「はい。ユーヤです。あなたは?」

 ボクが返事をすると、女の子は何も言わずじっとこちらを見つめていた。

「エレノア=ゼシリア。この国の第二王女よ」

 エレノアは言いながら、手を差し出してきた。細く長い手、身長はボクよりもずっと高く、少し見上げると胸のふくらみが目についた。落ち着いた見た目とは裏腹に思いのほか大きなふくらみ。握手を返すと、彼女はちょっと驚いたような顔をしていた。

「あなたが例の子ね」

 それだけエレノアがつぶやくと、教師が入ってきた。にぎられていた手はあっけなく離され、周りを取り囲んでいた生徒たちも気づけば席についていた。

 色々な事が一挙に起こって少し混乱しながらも、初めて見た魔法に胸の高鳴りが止まらないボクであった。

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