箸休め 吸盤あり! 鎧あり! ヤツらの名はプレコ!
番外編です。
本編では語りきれなかった雑学を紹介しています。
あまりにもマニアックな生き物を題材にしてしまった今回。
書いている時は、「誰が読むんだ、こんなん」と思ってました。
しかし完成から数週間後、奇跡が!
何とあの「鉄腕DASH!!」が、プレコを取り上げたのです!
おいしく調理されてしまった彼等が、一体何者なのか?
詳しく知りたい方は、本文をお読み下さい。
『亡霊葬稿マスタード』に登場する〈マスタード〉は、ナマズをモチーフにしています。更に限定するなら、〈マスタード〉のモデルになったのは「セイルフィンプレコ」です。
セイルフィンプレコ? と多くの方は首を傾げたことでしょう。熱帯魚を好きな方でもない限り、彼等の姿を思い描くことは出来ないはずです。
セイルフィンプレコはロリカリア科に分類されるナマズで、アマゾン川流域に棲息しています。最大60㌢前後にもなる魚で、成長が早いことでも有名です。
反面、丈夫で環境を選ばないため、飼育は難しくありません。そのため、ビギナーからベテランまで、多くの熱帯魚ファンに育てられています。
日本に棲むナマズは細長く、色も派手とは言えません。
一方、セイルフィンプレコはしゃもじのような流線型で、色も黄色に近い茶褐色です。しかも全身に黒い斑点が刻まれており、ヒョウのような柄を形作っています。
「セイルフィンプレコ」の「セイル」とは、ヨットの「帆」を意味します。
その名の通り、セイルフィンプレコには帆のように大きな背ビレが生えています。また胸ビレも翼のように大きく、日本のナマズとは大分印象が異なります。
最大の違いは、口かも知れません。
日本のナマズの口は、顔の真ん中にあります。
対してセイルフィンプレコの口は、限りなく腹側に付いています。
驚くべきことに、正面からはほぼ見て取ることが出来ません。
そもそも「プレコ」とは、「プレコストムス」を略した呼び方です。「プレコストムス」とは「折り込まれた口」と言った意味で、彼等の特徴を端的に言い表しています。
彼等の口は吸盤状で、岩や水槽に貼り付くことが出来ます。本編では〈マスタード〉が壁に吸い付きましたが、セイルフィンプレコも同じことが可能です。
岩に貼り付ければ、流れの速い場所でも流されることがありません。
また流線型の体型も、急流に対する適応だと考えられています。
吸盤の内側には歯があり、岩や水槽に生えたコケを削ぎ取って食べることが出来ます。このことから彼等は、水槽の掃除役として重宝されています。
門外漢の作者には美しい魚に思えるのですが、観賞用として飼っている方はほとんどいないそうです。
とは言え、セイルフィンプレコが人気者であることに間違いはありません。
彼等は数百種類とも言われるプレコの中で、最も古くから飼われてきた魚です。現在でも最もポピュラーなプレコで、東南アジアで養殖もされています。
先ほどから頻出している「プレコ」とは、吸盤状の口を持つナマズたちを指します。その特徴から、英語では「sucker cat」、「吸い付きナマズ」と呼ばれています。
とは言え、学術的な用語ではなく、あくまでも観賞魚の世界で伝統的に使われている分類です。
そのため定義は曖昧で、「これがプレコだ!」と断言することは出来ません。現在では概ね、「ロリカリア科に含まれる一部のナマズ」と言った意味で使われているようです。
「ロリカリア科」とはナマズのグループの一つで、全ての種が中南米に棲息しています。
ナマズの仲間では最大のグループで、アマゾン川を中心に500種から600種前後が属しています。しかも、まだまだ未発見の種がいると考えられているとか。
数百種類のナマズが含まれる以上、ロリカリア科のナマズは大きさも様々です。セイルフィンプレコに代表される大型種から、インペリアルゼブラプレコのように10㌢前後の種まで幅広く存在します。
現在、最大のプレコと言われているのは、アマゾン川広域に棲むアカリエスピーニョです。大きな背ビレや胸ビレが美しい魚で、1㍍以上に成長します。
数百種類もいるプレコたちは、それぞれ独特の色や形をしています。
全長10㌢程度のプッシープレコは、口の周りに突起状のヒゲを生やしています。ガリバープレコのように真っ黒な種がいる一方で、ニュータイガープレコのようにトラ柄のプレコもいます。
とは言え、同じプレコに分類される以上、彼等には幾つか共通点があります。
まず先ほど紹介したように、プレコたちは吸盤状の口を持ちます。
また彼等は雑食で、コケや生野菜、アカムシと何でも口にしてしまいます。
特にロイヤルプレコは、木を食べる魚として有名です。
ロイヤルプレコは最大40㌢前後に成長する大型種で、コロンビア周辺の川に棲息しています。
大きな頭が愛らしい魚ですが、迷路のような横縞は華麗さも感じさせます。セイルフィンプレコ同様、人気の高い種で、古くから飼育されてきました。
ロイヤルプレコの腸内には、数種類の細菌や菌糸が棲み着いています。
彼等には木を分解する働きがあり、エネルギー源となる糖を宿主に供給しています。他のプレコもよく木を囓るのですが、エネルギーを取り出すことは出来ません。
ロイヤルプレコは、木を与えるだけでも問題なく成長していきます。と言うか、野生環境下では、水中に沈んだ木を主食にして暮らしているようです。
第二にプレコと呼ばれるナマズは、骨の板で身体を覆っています。この板は脊椎から変化したもので、瓦屋根のように列を成しているのが特徴です。
多くの種の体表には、エナメル質の細かい棘が生えています。
特に「トリム」と呼ばれるグループは顕著で、全身に鋭い棘を備えています。
元来、ナマズの仲間は鱗を持ちません。
そのため多くの人は、ナマズにヌルヌルした印象を持っています。
しかし骨の板を纏ったプレコは、ゴツゴツと硬い魚です。
また全身に生えた棘は、ざらざらとした手触りを彼等に与えています。
第三にプレコの仲間は、明るさによって形を変える目を持っています。
人間の黒目には、瞳孔の大きさを変える機能があります。
周囲が暗い時、人間の瞳は瞳孔を大きくし、少しでも光を集めようとします。逆に周囲が明るい時は、瞳孔を縮め、光の量を制限します。
プレコもまた、周囲の明るさに応じて瞳孔を変化させます。ただし、彼等は瞳孔の「大きさ」ではなく、「形」を変えて光の量を調節します。
暗い場所に潜んでいる時、プレコの瞳は丸い形をしています。しかし一度明るい場所に出ると、どんどん中央が凹んでいきます。
最終的に彼等の瞳は、真ん中がすっかり窪んでしまいます。その形がギリシア文字の「Ω」を逆さにしたようであることから、彼等の瞳は「オメガアイ」と呼ばれているそうです。
参考資料:プレコ大図鑑 プレコの全てをなめつくせ!
アクアライフ編集部編 マリン企画刊
最新図鑑 熱帯魚アトラス
山崎浩二・阿部正之著 (株)平凡社刊
大アマゾン展公式ガイドブック
岩科司監修 TBSテレビ発行




