箸休め 彼等はなぜ光るのか? ④綺麗だけど、検索しないほうがいいツチボタル
番外編です。
光る生物に着目したシリーズも、今回で最終回。
本編では紹介しませんでしたが、実はサクラエビも光ります。
サクラエビがお好きな方は、その内、発光液を吐けるようになるかも。ギンオビイカみたいに。
光る生き物を取り上げている今回のシリーズ。
前回は光を使い、他のホタルを捕食するフォトゥリス類を紹介しました。
彼女たちがそうであるように、光は獲物をおびき寄せるためにも使われます。
チョウチンアンコウがご自慢の提灯を使い、獲物を集めているのは有名な話です。またツチボタルは、羽虫を捕らえるために光を使っています。
「ホタル」と言っても、彼等はホタルの仲間ではありません。
昆虫であることに違いはありませんが、正体はヒカリキノコバエの幼虫です。
ヒカリキノコバエはニュージーランドやオーストラリアに棲むハエで、主に渓谷や洞窟を住処にしています。「ハエ」と名付けられていますが、実際はカに近い昆虫です。
事実、成虫はカに瓜二つですが、口は存在しません。
寿命は3、4日足らずで、ひたすら交尾と産卵に費やされます。
幼虫は10㍉から20㍉程度で、ウジと言うよりミミズに似た姿をしています。
発光するのは尾で、青白い輝きを放つのが特徴です。
輝くのは幼虫とサナギだけで、成虫は光りません。
2017年現在、キノコバエ科には2000種以上のカが分類されています。
実のところ、光るのはヒカリキノコバエだけではありません。
そして光るキノコバエの中には、成虫が発光する種類も存在します。
卵から孵化した幼虫は、洞窟の天井から粘液の糸を垂らします。
一匹の幼虫が垂らす糸は、10本から30本程度です。
長さには個体差があり、時には30㌢にも及びます。
糸には等間隔で、透明な玉が付着しています。
一番判り易いのは、透明な数珠を想像して頂くことかも知れません。
洞窟の天井から無数の数珠が垂れ下がる様子は、この時点で既に神秘的です。
粘液の糸は彼等の巣であり、同時に罠です。
空腹に陥ったツチボタルは、数十分に渡って光を放ち続けます。
強い輝きは透明な糸に映り込み、周囲を青く染めてしまいます。
複数のツチボタルが輝く様子は、満天の星と言っても過言ではありません。
神秘的な光景は、観光資源としても利用されています。
特にニュージーランドのワイトモ洞窟には、多くの観光客が訪れています。
しかし昆虫たちにとって、青い輝きは死への誘いに他なりません。
多くの方が知っている通り、昆虫には光に引き寄せられる習性があります。
事実、夜の自動販売機は羽虫の集会所です。
深夜のコンビニには、ガが屯していることが珍しくありません。
青い光を見た昆虫たちもまた、天井のツチボタルに吸い寄せられます。気付いた時には粘液の糸に絡め取られ、身動きを封じられていることでしょう。
まんまと獲物を捕らえたツチボタルは、該当する糸を手繰り寄せます。
そうして獲物を天井まで吊り上げ、相手の体液を啜ってしまいます。
ツチボタルの成虫が、彼等の罠に掛かることも少なくありません。
その場合も幼虫は、容赦なく成虫を食べてしまいます。あまつさえエサが獲れない時は、幼虫同士で共食いを始めてしまうそうです。
とてもではありませんが、成虫になると断食してしまう生き物とは思えません。ひょっとして、一生分の食欲が幼虫時代に集約されているのでしょうか。
ツチボタルの輝きは、ルシフェリンとルシフェラーゼの反応によって生み出されています。
ルシフェリンとルシフェラーゼを使っているのは、彼等だけではありません。
今回のシリーズで紹介したホタルやウミホタルは勿論、多くの生物が同様の理屈で輝いています。本編で紹介した通り、ホタルイカもその一つです。
こちらも本編で説明しましたが、ルシフェリンは発光の基になる物質です。
一方、ルシフェラーゼは酵素で、ルシフェリンを酸化させる働きをします。
「酸化」と聞いても、文系の方々は身構えるばかりでしょう。現に化学の成績が「2」だった作者は、ガッチガッチにガードを固めてしまいました。
その実、酸化は実験室でしか見られないような現象ではありません。
それどころか、我々は日常的に酸化を目にしています。
馴染みがないのは、その現象が「燃焼」と呼ばれているためです。
ロウソクが燃焼(=酸化)すると、炎と光が発生します。
ルシフェラーゼによって酸化したルシフェリンもまた、光を放ちます。
ただしロウソクとは違い、ほとんど熱を発生させません。
光を発生させているのは、酸化によって発生したエネルギーです。
これはロウソクも同様で、熱もエネルギーによって生じています。
本編でも解説しましたが、生物はエネルギーを効率よく光に換えることが可能です。必然的に、熱へ費やされるエネルギー量は少なくなります。
実のところ、各自のルシフェリン、ルシフェラーゼは同じ物質ではありません。名前こそ一緒ですが、生物によって使われている元素や、構造は違います。
ルシフェリンやルシフェラーゼの入手経路も、生物によって様々です。
ホタルやウミホタルは、自らの力でルシフェリンやルシフェラーゼを作り出しています。
一方、ヒカリキンメダイは、目の下の発光器にバクテリアを飼っています。ルシフェリンやルシフェラーゼを持つのは彼等であり、ヒカリキンメダイ自身は発光する能力を持っていません。
また前々回紹介したギンオビイカは、エサとなるヒオドシエビから発光液を獲得しています。ヒオドシエビを食べない限り、発光液を補充することは出来ません。
光る生物に付いては、まだまだ判っていないことが多くあります。
実は光る理由に付いても、はっきりしない生物が大半です。
実際、前回紹介したキノコは、何のために光っているのか判明していません。
新たな発光生物が見付かる可能性も、決してゼロではないでしょう。
作者的には、巣を光らせるクモがいるんじゃないかと睨んでいます。
巣がピカピカしていたら、自分から獲物が飛び込んできてくれるでしょう?
参考資料:発光生物のふしぎ
光るしくみの解明から生命科学最前線まで
近江谷克裕著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊
トンデモない生き物たち
白石拓著 (株)宝島社刊
光る生き物 ―ここまで進んだバイオイメージング技術―
池田圭一 武位教子著 (株)技術評論社
深海魚 摩訶ふしぎ図鑑
北村雄一著 (株)保育社刊
せいぞろい へんないきもの
早川いくを著 (株)バジリコ刊




