箸休め 色々な色 ③青い血は$になる!?
番外編です。
前回に引き続き、カブトガニの蘊蓄を垂れています。
他の作者さんが美少女とイチャコラさせてるってのに、ウチはヘモシアニンとか語ってます。
そら、人気出ないわな(笑)。
いっそカブトガニを異世界に飛ばすか……?(錯乱)
前回はカブトガニの血が、人間とは異なる色をしていることを紹介しました。
いきなり結論を言ってしまうと、カブトガニの血は青い色をしています。
やはり前回、人間の血が赤いのは、ヘモグロビンを含んでいるためだと説明しました。ヘモグロビンは赤血球の主成分で、全身に酸素を送り届ける役目を果たしています。
ヘモグロビンはタンパク質の「グロビン」と、色素の「ヘム」で作られています。「ヘム」は鉄を含む化合物で、いわば人間の血を「赤く着色している」存在です。
人間同様、カブトガニの血にも酸素を運ぶための成分があります。
ただし、「ヘモシアニン」と呼ばれるそれには、「鉄」ではなく「銅」が含まれています。
赤いヘモグロビンとは異なり、ヘモシアニンは無色です。しかし体内に取り込んだ酸素が銅と結び付くことで、鮮やかな青に変色します。
青い血を流しているのは、何もカブトガニだけではありません。食卓の常連であるイカやタコ、カニもヘモシアニンを持っています。
ただし、彼等とカブトガニには一つ大きな違いがあります。
何を隠そう、血の「価値」です。
カブトガニの青い血は、1㍑1万5000ドルで取り引きされています。たかが牛乳パック一本分の量が、何と150万円もの値段で売られているのです。
高価な理由は、彼等の血が持つ性質にあります。
人間の血は、凝固し、出血を止める働きを持っています。
同様にカブトガニの血には、細菌に反応し、凝固する性質があります。この働きによって、彼等は細菌が体内に入るのを防いでいるそうです。
医療の世界では、この性質を薬剤や医療器具のチェックに利用しています。
使われているのは、アメリカカブトガニの血液に多く含まれる「LAL」です。
「LAL」とは「Limulus Amebocyte Lysate」の略で、「カブトガニ血球抽出成分」を意味します。
この成分には有害な細菌に反応し、素早く凝固する働きがあります。しかも驚くほど精密で、有害な細菌が一つでも付いていると固まってしまうそうです。
テストを行う際は、「LAL」に蒸留水を加えた液体で、医療器具や薬剤を洗浄します。
無事、液体が固まらなければ、対象は無菌と言うことになります。逆に液体が固まれば、対象に有害な細菌が付着していると言うことです。
我々が口にする錠剤は、多くの場合、「LAL」で検査されていると言います。NASAもまた、宇宙で使う検査の器具に「LAL」を使用しているそうです。
首長竜と泳ぎ、大量絶滅を切り抜けと、今までも大冒険を繰り広げてきたカブトガニですが、ついに地球の外にまで活躍の場を広げてしまったようです。
アメリカでは、毎年50万匹ものアメリカカブトガニが捕獲されています。
LALの市場規模は、何と150億円にもなるそうです。
カブトガニから血液を採取する際には、直接、心臓に針を突き刺します。なかなかスプラッターな話に思えますが、針を抜くと、問題なく血は止まります。
彼等の負担を考慮し、一回に抜き取る血は全体の30㌫程度に留められています。とは言え、失った分の血液を取り戻すには、数ヶ月の時間が必要です。
残念なことに、衰弱し、死亡してしまう個体も少なくありません。一説には、血を抜かれたカブトガニの15㌫が命を落とすと言われています。
毎年の捕獲数を考えるなら、一年に8万匹近いカブトガニが犠牲になっていることになります。人間の命が守られる代わりに、カブトガニが死んでいるとは、何とも悲しい話です。
カブトガニは繁殖出来るようになるまでに、10年近く掛かる生き物です。
また一回に数万個の卵を産みますが、子供の生存率は決して高くありません。最初の一年間を無事に過ごせる子供は、数匹程度と言われています。
人間に乱獲されたことも災いし、近年、彼等の棲息数は減少の一途を辿っています。一方で彼等を養殖する試みも進められており、少しずつ成果を上げているそうです。
さて、ここまではカブトガニを紹介してきましたが、地球にはもっと奇妙な血を持つ生物が存在します。
南極に棲息するコオリウオの仲間は、青いどころか血に色がありません。
端的に言うなら、彼等の血は「無色透明」なのです。
そもそもコオリウオ科はスズキの仲間で、現在16種類の魚が名を連ねています。
人間同様、魚の血液にも赤血球が存在します。当然、赤血球にはヘモグロビンが含まれており、彼等の血を赤く染めています。
ところが、コオリウオの血には赤血球がありません。
つまりヘモグロビンがないため、血に色が付くこともないのです。2017年現在、赤血球を持たない脊椎動物は、彼等しか発見されていません。
ただ、ここで一つ疑問が生じます。
冒頭に説明した通り、ヘモグロビンには酸素を全身に届ける役目があります。コオリウオがヘモグロビンを持たないなら、酸素を運べないはずです。しかし実際のところ、彼等が窒息死することはありません。
秘密は、人間も持つ血漿にあります。
血漿とは血液に含まれる液体で、栄養を全身に届ける役目を担っています。人間の場合、見た目は黄色い液体で、実に血液の半分以上を占めています。
コオリウオはこの血漿に酸素を溶け込ませ、全身に運んでいます。またごく微量ですが、皮膚呼吸によって酸素を取り入れていると考えられています。
余談ですが、コオリウオは凍らない魚としても有名です。
彼等の血中には、不凍タンパク質と言う成分が含まれています。
その名の通り、不凍タンパク質には氷の成長を妨げる働きがあります。南極の水温はマイナス2度ほどですが、コオリウオが氷漬けになってしまうことはありません。
参考資料:トンデモない生き物たち
白石拓著 (株)宝島社刊
地球ドラマチック 「血液の不思議~知られざる驚異の力~」
2015年8月22日放送 放送局:NHKEテレ
地球ドラマチック 「生きた化石 カブトガニ
~知られざる太古の力~」
2014年6月21日放送 放送局:NHKEテレ




