箸休め パワーストーンで気になるア・イ・ツの♡をゲット! ④日本は真珠の国
番外編です。
パワーストーンのアレコレを語るシリーズも、今回で最終回。
そして『亡霊葬稿マスタード』の「箸休め」は、これでお終いです。
今回は「箸休め」を書くだけで、一ヶ月近く掛かってしまいました。
次回はもう少し楽したい……。
JSの支持を集めるつもりが、回を追うごとにどんどん小難しくなっている今回のシリーズ。真珠層やら外套膜やら、もはやJSは完全に置き去りです。
最終回となる今回は、真珠の歴史について語りたいと思います。
第2回に紹介したラピスラズリ同様、真珠もまた古くから珍重されてきました。一説には、世界最古の宝石とも言われています。
真実はどうあれ、真珠が特異な宝石であることは間違いありません。
ダイヤモンドやルビーの原石は、驚くほど地味です。多くの人を魅了する輝きを与えるには、研磨し、形を整えなければなりません。
一方、真珠は始めから美しい状態で発見されます。
食べ物から産出される関係上、偶然発見される確率も低くありません。現に縄文時代の貝塚からは、幾つも真珠が出土しています。
シュメール文明の人々は、既に真珠を宝石として扱っていたと言います。また後に続くメソポタミア文明の遺跡からも、真珠を使った装飾品が発見されています。尚、シュメール文明については、前々回をご覧下さい。
当時の真珠は、現在のバーレーンで採取されたものだと考えられています。
ペルシア湾に浮かぶバーレーンでは、悠久の昔から真珠の採集を行っていました。それを示すように、島からはアコヤガイの貝塚や、遥か紀元前の真珠が見付かっています。
真珠はキリスト教においても、重要な宝石と考えられていました。
事実、有名な「豚に真珠」は、新約聖書に登場する言葉です。仮に真珠が無価値なら、「貴重なもの」の喩えに使われるはずがありません。
真珠を特別視していたのは、イスラム教や仏教も同じです。
7世紀に完成したコーランには、サンゴやルビーと共に真珠が登場します。また前々回書いたように、仏教は真珠を七宝の一つに数えています。お葬式の際にも、真珠のアクセサリーは身に着けることが許されています。
我々日本人も、古くから真珠と関わって来ました。
3世紀に中国で書かれた「魏志倭人伝」には、日本から真珠を贈られたと言う記述があります。5世紀や7世紀に書かれた歴史書でも、日本は真珠の産地として取り上げられています。
7世紀初頭に創建された法隆寺には、古の真珠が残されています。ガラスのビンに入ったそれは、五重塔の地下に埋められていました。
また古の真珠は、奈良時代に創建された東大寺からも発見されています。
有名な正倉院には、4000個以上もの真珠が残されています。その多くがビーズのように繋がれ、聖武天皇の衣服を彩っています。
13世紀末に登場した「東方見聞録」では、日本を黄金の国として紹介しています。しかし真珠の産地としても取り上げていることは、あまり知られていません。
何より、日本は世界で初めて、丸い真珠を養殖することに成功した国です。
わざわざ「丸い真珠」と限定したのには、わけがあります。
実のところ、人類はかなり古くから、人工的な真珠を作ってきました。
代表的な例が、12世紀の文献に記された「仏像真珠」です。
名前こそ「真珠」ですが、仏像真珠は丸くありません。と言うか、ただの貝殻で、真珠層には仏像が浮かび上がっています。
貝殻の中に仏像を作るなんて、気が遠くなるような作業に思えることでしょう。その実、原理は呆気ないほど簡単です。
前回説明したように、真珠と貝の裏側にある銀色の部分は、全く同じ物質です。そして銀色の部分の元となる液体は、貝殻と身の間にある外套膜から分泌されます。
仏像真珠を作る際には、外套膜と貝殻の間に小さな仏像を挟み込みます。すると貝は分泌液で仏像をコーティングし、銀色の部分と共に固めていきます。後はある程度、真珠層が重なるのを待てば、仏像の形をした真珠の完成です。
中国ではこの方法を応用し、貝に付いた真珠も作られました。
一方、人類が丸い真珠を作り出したのは、明治に入ってからのことです。
大々的に真珠事業を展開した人物と言えば、何と言っても御木本幸吉でしょう。
御木本幸吉は安政5年(1858年)生まれの実業家で、「真珠王」の異名を持つ人物です。
その名の通り、御木本は真珠の養殖で、莫大な富を築き上げました。また有名なジュエリーブランド「ミキモト」は、彼が創業した会社です。
御木本がアコヤガイの繁殖に乗り出したのは、1888年のことでした。
真珠の養殖は苦難の連続で、一時は全財産を失うところまで追い詰められます。しかし1893年、御木本は養殖真珠を作り出すことに成功します。
とは言え、彼が作り上げたのは、貝に付いた真珠でした。形も半円で、今日流通している養殖真珠とは、大分隔たりがあります。丸い真珠が作れるようになるまでには、更に10年以上もの歳月が掛かりました。
1世紀以上経った今でも、アコヤガイを養殖する難しさは変わっていません。
多くの方が知っている通り、養殖真珠を作る際には、アコヤガイの体内に異物を挿入します。しかし何を入れているのかについては、意外と知られていないのではないでしょうか。
現在、アコヤガイの体内には、数㍉にカットした外套膜と貝殻が入れられています。貝殻は淡水に棲む二枚貝のもので、球形に加工されているのが特徴です。
移植された外套膜は袋状に姿を変え、球形の貝殻を包み込みます。同時に真珠の元となる液体を分泌し、貝殻をコーティングしていきます。
異物を移植された貝からは、2年ほどで真珠を取り出すことが出来ます。
ところが、その2年の間に、半数近くのアコヤガイが命を落としてしまいます。赤潮や台風が発生し、壊滅的な被害を受けることも珍しくありません。
運よく真珠を取り出すところまでこぎ着けても、宝飾品に使えるのは半分程度です。形が歪だったり、シミのある真珠には、宝石としての価値がありません。
短期間で出来る真珠には、ダイヤモンドやルビーに比べて増産しやすい印象があります。しかし実際には生き物を相手にしている分、他の宝石とは違った難しさがあるようです。
4回に渡ってお届けした当シリーズ、お楽しみ頂けたでしょうか。
何とかJSの好きそうな方向に持っていきたかったのですが、結局最後まで小難しい話に終始してしまいました。次回は今回の反省を踏まえ、原宿の人気スポットを紹介します(大嘘)
参考資料:真珠の世界史
山田篤美著 中央公論新書刊
真珠の博物誌
松月清郎著 (株)研成社刊
貝のミラクル 軟体動物の最新学
奥谷喬司編 東海大学出版会刊




