箸休め パワーストーンで気になるア・イ・ツの♡をゲット! ③真珠はただの貝殻?
番外編です。
本編では語れなかった雑学を紹介しています。
貝を解剖する寸前まで追い詰められた今回。
一時は、テーマをムーンストーンに変えようかと思いました。
ちなみに、ムール貝も真珠を作るそうです。
お暇な方は、パエリアを食べるついでに探してみて下さい。
JSと仲よくなるため、パワーストーンを紹介している今回のシリーズ。
「片想いに効果バツグン☆」とか、「お小遣いアップ↑」とかでお茶を濁すつもりが、気付いたら七宝の話をしていました。果たして、JSは付いて来ているのでしょうか?
第三回目は、再び『亡霊葬稿ダイホーン』に焦点を向けたいと思います。
ミケランジェロ・フォレストさんの着けている真珠は、パワーストーンと言うより宝石と言ったほうがいいでしょう。
事実、真珠は6月の誕生石に定められています。装飾品として重用している女性は多いですが、おまじないとして身に着けていると言う話はあまり聞きません。
とは言え、パワーストーンとしての効果が設定されていないわけではありません。
パワーストーンとしての真珠には、女性の魅力を引き出す効果があると言います。また結婚や出産、女性特有の不調にもいい影響をもたらすとされています。
概してパワーストーンとしての真珠には、女性の美容健康に寄与する働きがあるようです。ただ美しさを求めるなら、いっそ飲んだほうが確実かも知れません。
美に敏感な女性はご存知でしょうが、真珠には薬としての側面もあります。
有名なクレオパトラは、お酢に溶かした真珠を服用していたと伝えられています。また明(1368年~1644年)の時代に中国で記された「本草綱目」でも、真珠を薬として扱っています。
「本草綱目」は全52巻にも及ぶ薬学書で、薬になる動植物が幅広く掲載されています。中国医学に名を残す名著で、薬学書の決定版と言われています。
江戸時代の人々も、真珠を薬として服用していました。「真珠丸」と名付けられた丸薬は、気付けや解熱に効果があるとされています。
現代でも美白や美肌を求める女性は、真珠の粉末を飲んでいます。
真珠を配合したクリームもあり、多数の通販サイトで販売されています。
実際、真珠には美容にいい成分が含まれていると言います。
しかし多くの女性が口にしてしまうのは、やはり真珠が美しいからでしょう。ツルツルで白い真珠を飲めば、いかにも肌が綺麗になりそうです。
しかし、わざわざ高価な真珠を飲むのは、お金の無駄かも知れません。誰もが捨ててしまう貝殻を服用すれば、理論上は同じ効果が得られるはずです。
ご承知の通り、真珠は貝から産出されます。
特に二枚貝のアコヤガイは、真珠の養殖に使われていることで有名です。
実のところ、真珠を作れるのはアコヤガイだけではありません。あまり知られていませんが、貝殻を持つ軟体生物は全て真珠を作ることが出来ます。
とは言え、虹色に光る石を生み出すのは、「真珠層」を持つ貝だけです。
よく貝を食べる方はご存知でしょうが、貝殻の内側はおよそ2パターンに分けられます。
アサリやハマグリの貝殻は、内側が陶器のように白くなっています。一方、アワビやサザエの内側は銀色です。しかも、虹色の光沢を伴っています。
「真珠層」とは、この銀色の部分を指す言葉です。
「層」と付く通り、真珠層は炭酸カルシウムとタンパク質が、交互に積み重なって出来ています。とは言え、炭酸カルシウムが90㌫以上を占めており、タンパク質の割合は4㌫程度に過ぎません。
レンガの花壇は、一つの層が複数のレンガで出来ています。
またレンガとレンガは、モルタルやセメントで接着されています。
同様に一枚の真珠層は、複数の結晶で構成されています。タンパク質にはモルタルの役割があり、結晶と結晶を強固に接着しています。
アコヤガイの場合、層一枚の厚さは300から400ナノ㍍程度です。ちなみに1000ナノ㍍は1マイクロ㍍で、1マイクロ㍍は0.001ミリに相当します。
もはや言うまでもありませんが、一枚の層は極めて薄く出来ています。たった1㍉厚くするだけでも、2000枚以上積み重ねなければなりません。
この気の遠くなるような作業をせっせと行っているのが、「外套膜」です。
「外套膜」は貝殻と身の間にある「膜」で、貝の内臓を丸々覆っています。二枚貝の場合は、上下に一枚ずつ持っているのが特徴です。
外套膜には貝の成長に合わせて、貝殻を大きく、分厚くしていく役目があります。
外套膜の貝殻と接する面には、分泌液を出す働きがあります。この分泌液にはカルシウムが含まれており、真珠層を含む貝殻の元になります。
実は真珠が形作られるためには、この働きが絶対に欠かせません。
本来、真珠層を作る部分は、外套膜の最も外側に位置します。しかし時として、外套膜の内側や、貝の体内に入り込んでしまうことがあります。
主たる原因とされるのが、寄生虫です。
彼等は貝の体内に侵入する際、外套膜を突き破ります。この時、外套膜の表面を身体に付着させ、貝の体内に持ち込むことがあります。
体内に入った外套膜は、細胞分裂を起こし、しばしば丸い袋に姿を変えます。しかし、この状態になっても、分泌液を出す性質が失われることはありません。
袋の中に出される分泌液は、真珠層を重ねていきます。当然のことながら、丸い袋の中で作られた真珠層は球形になります。
この球形になった真珠層こそ、他でもない「真珠」です。
つまり、「真珠」とは貝の体内に出来た貝殻に過ぎません。
貝の裏側にある銀色と真珠は、全く同じ物質です。貴婦人の着けているネックレスとゴミ箱の貝殻には、形しか違いがありません。
虹色を伴う光沢は、構造色の一種です。
『亡霊葬稿マスタード』で紹介した通り、タマムシの翅は「クチクラ」と言う薄膜で出来ています。
クチクラは二〇層ほど重なっており、層ごとに異なる色の光を反射しています。反射された光は互いにぶつかり合い、タマムシに虹のような光沢を与えています。
同様に無数の真珠層は、層ごとに異なる色の光を反射します。
反射光同士は重なり合い、お互いを強めたり弱めたりします。「多層膜干渉」と呼ばれるこの現象によって、真珠はミステリアスな光沢を生み出しています。
長くなったので、今回はここまで。
次回は真珠の歴史に目を向けたいと思います。
参考資料:一番くわしいパワーストーンの教科書
天晶札乃 須田布由香 著 (株)ナツメ社刊
パワーストーンBOOK
マダム・マーシ著 (株)主婦の友社刊
真珠の世界史
山田篤美著 中央公論新書刊
真珠の博物誌
松月清郎著 (株)研成社刊
貝のミラクル 軟体動物の最新学
奥谷喬司編 東海大学出版会刊




