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3オブザデッド


「ふう」と作家は息をついた。そこにゾンビ映画に登場したら真っ先に死にそうなモブっぽいエークが笑いかける。


「脱出できて、よかったですね」

「いや、うん、でもまだ館内にはたくさんのゾンビが」

「ここまで来ればもう大丈夫ですよ。ほら、ゾンビなんてもうどこにもいないじゃないですか」


 そう言って肩をすくめたエークの背後からゾンビが急に現れ、首元をがぶっとやった。


「うわあああああ!」


 作家はおびえながら後ずさりする。エークは一瞬で事切れた。まさしくゾンビ映画に登場したら真っ先に死にそうなモブらしい最期であった。


 こんなに人がひしめいている中にもゾンビが混ざっていたのだ。ゾンビ(とエーク)は腕力自慢の何人かが始末したものの、これからどうやって進めばいいのかわからない。館内地図を見てみると、どうやら外に出るためにはふたつのルートがあるようだ。


 1:安全だけど遠回りのルート

 2:危険だけど近道のルート


 そもそも館内地図としてその表記はおかしくないか? と作家は思うものの、まあそれはそれでいい。どちらに進もうか。

 するとほとんどの人は安全で遠回りのルートを選択したようだ。だが、中には危険な道をあえて進みたがるやつらがいた。先ほどの判定で致命的な失敗を出した面々の残りだ。


「やっぱり安全な道なんて面白くないよね」

「わかるぅー」


 ダイスケの言葉にポチが同意した。


「と、とりあえずわたしは安全な道をいこう……」


 そう言って作家はおそるおそる大集団についてゆく。


 あえて危険な道を進んだのは、ダイスケ、黒くて硬い脳筋マン、望月さん、ミナギ、あき、さとうゆきこ、太もやし、クロノ、ブヒブヒと餌を貪るだけの豚、佐藤悟、模部伽羅、仏陀、怠惰なるもの、ポチ、るーね、モニブドの、16名であった。




「よし、俺たち16名はひとつのチームだ」とダイスケは語る。


 この16人(というか15人と豚一匹)は、危険な道を警戒しながら進んでゆく。ふたりか三人並ぶのがやっとという狭い通路だ。挟み撃ちにされたらどこにも逃げ場はないだろう。


 だがこちらには身長3メートルの筋肉の塊である、黒くて硬い脳筋マンがいる。その腕力はなんと10だ。ゾンビの一匹や二匹など、ものの数には入らないだろう。


「頼りにしていますから」

「フンガー!」


 女子大生であるあきの言葉に、黒くて(以下略)は奮起した。白いタキシードにシルクハットをかぶった幼女、さとうゆきこも黒(以下略)の大腿筋に心細そうに手を当てている。


「おっと、おいでなすったかぁ、ひっく」


 ほろ酔いのクロノがつぶやくと、目の前からゾンビの集団がやってきた。どこかで披露宴を行なっていたのか、みんながびしっとした正装をしている。そのギャップが悲劇性を際立たせた。


「こんな姿になってまで、生きたくはねェだろうよ」と、傷だらけの喪服をまとった40代土木作業員、るーねがなにやらバックボーンがありそうな声で言った。便座がおしりにはまって抜けなくなったままでパーティーにやってきていた怠惰なるものも、静かにうなずいた。


 そして、戦いが始まる──。


 腕力自慢の黒(以下略)が先頭に立ち、その横にガテン系のポチと、意外と体力のある三十代二次ヲタ喪女のミナギが並んだ。というかそれ以外の全員は腕力が2以下であった。スティーブンセガールそっくりの顔をした太もやしも戦闘でまったく頼りにはならない。


 しかし体力なら負けていないものたちもいる。それが佐藤悟と模部伽羅(クッソ変換面倒くさい)だ。彼らは死ぬほど体力のない黒(以下略)のサポートに回る。見事なチームだ。


 うがぁーと襲いかかってくるゾンビの頭を黒(以下略)が一撃で粉砕する。チームは今、脱出に向かって、生存に向かって動いている。仏陀はとにかく祈り、豚は鳴いた。


 正面からだけのゾンビなら押し返せただろう。だがゾンビは後ろからもやってきた。それに気づかずに気の抜けた顔をしていた中肉中背のモニブドがまず噛まれた。叫び声があがる。


「や、やばいって!」


 望月さんが逃げだそうとするが、しかし前後はすでに挟まれている。狭い通路で身動きがとれない間に、望月さんも噛まれてしまった。蝶のマスクがぽとりと落ちて、若い男の顔があらわになった。


 徐々に徐々に、一同は追い詰められてゆく。太もやしが噛まれ、豚が噛まれ、仏陀が噛まれ、怠惰なるもの、そしてポチが噛まれた。残るメンバーは円陣を組む。その中心にいたのは、幼女であるさとうゆきこだ。


「おじちゃん……」

「──」


 さとうゆきこの言葉に、黒(以下略)はサムズアップした。お前だけは逃がしてやるぞ、という意思表示だ。ほろ酔いのクロノも笑いながらさとうゆきこの頭に手を置いた。


「とんだクリスマスプレゼントになっちまったな」

「お兄ちゃん……」

「ま、いっちょやるとしよっかね」


 ミナギが腕まくりをしながら拳を握る。ゾンビは次から次へと現れる。それどころか、噛まれた面々もゾンビとなって蘇っている。らちが空かない。


 残るはダイスケ、黒くて硬い脳筋マン、ミナギ、あき、さとうゆきこ、クロノ、佐藤悟、模部伽羅、るーねの七人。そこで全員は、この現状を打開するための『知力』判定を行った。クリティカルが発生すればもしかしたら、こんな絶望的な状況からでもなにか、思いつくことがあるのだろうが──!



【 判定 → 全員失敗 】



 ガッシボカ! なにも思いつかず、七人は死んだ。ゾンビは強かった。


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