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24オブザデッド

 エピローグ──。




 千堂は学校への道を歩んでいた。こうしてひとりでとぼとぼと歩いていると、あの最後の道を駆け抜けた日のことを思い出してしまう。ヒナプロからのクリスマスパーティーの夜から数週間が経っていた。


「おっす」と後ろから隣の家に住む幼馴染みの少女が声をかけてきた。ボーイッシュでショートカットの友人だ。人なつっこい笑みを浮かべた彼女に、千堂は眠そうにあくびをかみ殺す。


「ああ、立河か」

「なんか最近ぼーっとしているじゃない? どうかしたの?」

「ん、いや……、日常っていいもんだな、って思ってさ」


 立河は一瞬きょとんとした後に、ぷっと吹き出した。


「あんた、まじめな顔でなにいってんのー?」

「うっせ」

「ぷぷっ、なにが日常なのよ。あんたは休み明けのテストの心配でもしてなさいよー」

「あー」


 千堂は大きくため息をついた。


「日常は日常で大変だよな」


 噛みしめる日々もいつかはこれが当たり前だと思ってしまうだろう。千堂は空を仰いだ。世界はきょうも平和だった。





「疲れたにゃあ」


 あしあはソファーに寝っ転がる。トレードマークの猫耳がぴこぴこと揺れている。今は脳波を通して感情を読み取ることができる猫耳があるのだが、これもそのうちのひとつだ。


「おいおい、見たか見たかあしあ」


 双子の兄である赤髪のショタが駆け寄ってくる。彼の開いたタブレットにはひとつのニュースがあった。


「ほら、神山荘があるヒナプロ市がゾンビに襲われた!? だってよ! これお前がこないだ言ったところだろ!?」

「……」

「な、なんだよ?」


 じーと兄を見つめて、あしあはこてんとソファーに横になった。


「もうそういうの、いいにゃあ……」

「そういうのってなんだよ!? なあ、お前こないだここいったんだろ? ゾンビとか見なかったのかよ、なあなあ」


 あしあは胸の中でつぶやく。腐るほど見たからにゃあ……、と実際にあいつらは大量に腐っていた。というわけで、あしあもこうしてソファーにふて腐れたように寝そべりながら、大切な怠惰を満喫しているのだった。





 のすおのすのすは旭山動物園へと帰っていった。


 同僚の白熊は帰ってくるやいなや「今度美人の白熊が入園してくるらしいぞ」と顔を赤らめながら伝えてくれた。


 のすおのすのすは興味なさそうに窓の外を眺める。


「いや、俺はそういうのはいい」

「なんだよ、美人の白熊だぞ? 色白でかわいいだろ。お前だってそういうの大好きだったじゃねえか」

「……前まではな。気が変わったんだ」

「んだよ、ノリの悪ぃーやつ!」


 白熊は肩を揺らしながら他の白熊の元へといってしまった。のすおのすのすもわかっている。切り替えて、旭山動物園に来てくれたお客さんを楽しませるために全力を尽くすべきなのだと。


 もう一度着ぐるみを着て外の世界に出ていこうかと思ったが、しかし外は暑すぎる。それに環境もよくない。所詮、白熊はコンクリートジャングルでは生きられない定めなのだ。


 そうさ、元々縁などなかった。そう思いのすおのすのすはせめてちびっ子にサービスのひとつでもしてやろうかとのしのしと水槽の窓ガラスへと向かって。


 そこに、見覚えのない四人の女性が立っていることに気がついて、目を見開いた。


 眼鏡をかけた寒がり少女。30代の女性 茶髪 長身。黒髪ロングヘア。ゴスロリ。そう、彼女たちはまさしく、のすおのすのすが命をかけて守りたかった女性たちである。


「フッ」


 のすおのすのすは笑った。そうしてアオーンと天に向かって吠える。どうやら今年の冬は、世界で最も熱くなりそうだ──。




 ツーダはこっそりとゾンビを86匹持ち帰っていた。当然、スパーリングパートナーにするためである。


「ああ、いいねいいね! その本気でかかってくる姿勢! いいねえ!」


 リングの上でゾンビと向かい合うと、並々ならぬファイティングスピリッツが感じられる。もちろん彼らは本気で挑んでくるし、そのためにツーダも渾身の力で勝負する。


 これはまさに力と力、技と技とのぶつかり合い。そう、ゾンビとはプロレスの精神をまさしく体現した存在であったのだ。


「おーいい! その噛み付き! すっごくヒールレスラーっぽい! いやあそんなに思い切って反則してくるレスラーってやっぱりなかなかいないからさー、燃えるよねー!」


 ツーダは全身の筋肉に酸素を送り込む。全身に行き渡った酸素はツーダの体をさらに熱く燃やし、暖まった筋肉は無限のエネルギーを生み出した。


「さあ、やろう! プロレスの素晴らしさを世界に伝えるために!」


 ゾンビはきしゃーと牙を剥いた。新たな『ゾンビプロレス』なる競技が生み出されるのも、そう遠くはない未来なのかもしれない。





 アカツキは車を走らせていた。助手席に乗るJIROはガスバーナーを手のひらでもてあそんでいる。


「ったく、次のミッションもお前と一緒かよ」

「……ふん、それは俺の台詞だ」


 ヒナプロジェクトからの特命はひっきりなしに送り込まれている。それはふたりが優秀なエージェントだからこそなのだが、しかしたまに休みがほしいと願うのはそこまで贅沢な話だろうか。


「せめて隣に乗るやつがこんな辛気くさい30代じゃなくて、グラマラスでセクシーなお姉ちゃんならな」

「……それも、俺の台詞だ」

「は? お前、女に興味あったわけ?」

「……フン」


 無人の荒野をどこまでも走ってゆく。太陽は高く、照りつけるほどに暑い。ここは南オーストラリア州のアデレード。


「で、次はなんだよ。半漁人か? オバケか? それともポルターガイスト」


 JIROの軽口に、アカツキはハンドルを切りながら告げる。


「ひとりのなろう作家が太古の邪神を復活させようとしているらしい」

「はー、そいつはずいぶんとでっけえね」

「振り込まれる報酬額も、大したものだぞ」


 金額を聞いてJIROは口笛を吹いた。


「やる気になったか」

「仕事はするさ」

「なら作家をリサーチしておけ。名前は──」


 こうしてJIROとアカツキは新たなるミッションに向かう。彼らの物語はどこまでも続いていくだろう。この赤茶けた荒野を切り開いた道のように、どこまでも──。


 

 

◆あとがき◆

 


 今年もなんとかやりきったわ……!


 登場人物管理については、有志の方々に手伝っていただきまして、誠にありがとうございます! 来年はもうちょっとうまくやります! ミスだらけでホント申し訳ない、申し訳ない……。


 思う存分、人の死に様を描写できたので、今年の企画はわたし的に満足度が高かったです!


 それでは、


 メリークリスマス!!!

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