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23オブザデッド

「ま、まだだよ! まだここから!」


 フェフは両手を前に突き出して待って待ってのポーズをした。その場にはフェフを殺そうと近づく一同がいる。しかしそれでもフェフは諦めなかった。


 その場に手をつく。


「それじゃあ僕の奥の手を見せるしかないかな……、これはやりたくなかったんだけど! 僕自身の手で君たちを殺すなんて、美学がないからさあ!」


 一同は身構えた。いったいこの期に及んでなにをするというのか……!


「いでよ、『僕の妹はバケモノです』!」


 フェフは誰にも聞き取れない謎の呪文を唱えた。すると地面からずずずずずと巨大ななにかがせり上がってくる。それは見上げるほどに大きく、あの超巨大ゾンビにそっくりな姿をしていた。


「まさか、フェフがあれを操っていたのか!?」

「馬鹿な!」


 JIROとアカツキは目を見開いた。こちらは六人+一人しかいない。どう考えても勝てる勝負ではない。


 フェフは超巨大ゾンビの肩に乗りながら、はははとかわいらしい笑い声をあげる。桜色のふっくらした頬を緩めながら、地面を這いつくばる人間どもを指さした。


「さあ、夢衣ちゃん(仮称)! 僕の邪魔をするやつらをなぎ倒すんだ! 吐き気が催すほどの邪悪を見せつけてやれ! きょうも他人の不幸で飯がうまい!」


 じりじりと汗が流れ落ちる。ここから地下通路に逃げるにしても距離が遠い。ツーダやJIRO、アカツキはもはや覚悟を決めてファイティングポーズだ。戦おうというのか、あれと!


 六人の腕力合計値は、7、3、2、4、1、3、の20ぴったりだ。作家はステータスがないのでただのお荷物だ!


 フェフは一同を見下ろしながら、にんまりと花咲くような笑顔で笑った。


「はっはっは! 僕の夢衣ちゃん(仮称)はなんと6面ダイスを5000個振れるのだ! 君たちの生存は万が一にもありえないのだ!」


 とんでもないチートである。絶対死ぬやつじゃんこれ! ツーダだけは「えー、5000個かあ、すごいなあ」とわくわくしていた。死ぬから!


 そしてフェフが一同を指さして、別れを告げた。


「それじゃあばいばい、たのしかったよ! またね! 死ねー! どーん!」


 ……。


 ……。


 作家はうっすらと目を開ける。だが、いつまで経っても超巨大ゾンビの攻撃は振ってこない。


 あ、あれ……?


 みんなも顔をあげた。こめかみからつつつと冷や汗を流しているフェフを見上げて、怪訝そうに眉を寄せる。そこで最初に気づいたのは、作家だった。


「ああ、そうか!」


 手を打つと、フェフがびくっとのけぞった。


「夢衣ちゃん(仮称)はすごくブラコンなキャラクターでかわいいけどお兄ちゃんが好きなだけだし、別にフェフさんのことはマジでなんとも思っていないから、フェフさんの命令は効かないんだ!」

「なんでだよおおおおおおおおおおおおお!」


 フェフはちびっ子らしく地団駄を踏んだ。


「僕の作ったキャラクターなのに、なんで作中の主人公に惚れているんだよ! 僕に惚れろよ! 僕の命令を聞けよ! なんなんだよこの寝取られ感は! おかしいだろ! なあ、僕の夢衣ちゃん(仮称)だろ! 登場人物なら作者の命令は絶対だろおおおおお!」


 そう叫ぶと超巨大ゾンビはうるさいとばかりにフェフを肩から叩き落とした。フェフは地面に落下してべちゃりと潰れた。ずずずずずと超巨大ゾンビは再び地面に潜ってゆく。


「うう、うう、痛い、痛いよ……。他人の不幸は気持ちいいのに、僕の不幸は気持ちよくなんともない……」


 ぐすぐすと鼻をすすっているフェフを一同は取り囲んだ。そして普通に殴る蹴るの暴行を加えてゆく。フェフはぼろきれのように地面を転がった。もはやフェフなのか泥なのかわからない。一同はめっちゃスカッとした。


「さて、帰ろうか……」

「でもゾンビだらけだし、どこに……」

「困ったにゃあ」

「これからずっとゾンビとプロレスができるのかー」

「仇は取ったぞ……、ぷりん、桂林怜夜……」

「とりあえずヒナプロに連絡するか」

「そうだな」


 JIROとアカツキはヒナプロジェクトに電話した。スマホは普通に繋がった。


「ああ、もしもし。そうだ、JIROだ。今終わった。ああ」


 しばらく言葉を交わしていた後、JIROはスマホを切って一同に向き直った。


「大丈夫だ。今から迎えをよこしてくれるらしい」

「えっ」

「さらにゾンビウィルスを中和する薬も、この街にばらまくそうだ」

「えっ」

「壊れた建物や死んだ人は、全員生き返らせて、何事もなかったかのように処理をさせてくれるらしい」

「えっ」


 JIROとアカツキ以外の皆は目を剥いた。いやいや、それはまさしく神のような所行……。


「ヒナプロは神だった……?」


 作家は小さくつぶやいた。


 そう、この小説になろうのサイトにおいて、ヒナプロジェクトの存在は神──。


 Hina Pro is GOD...!!


 こうして丸一日の戦いを終えた一同は、非日常に別れを告げ、日常に戻ってゆくのだった。


 光り輝く、あの愛しい日常の中へと──。





 次回、エピローグ。


 

 フェフさんごめんな!!!

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