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22オブザデッド


 最後の道に集った六人とひとりは、立ちすくんでいた。


 ツーダ、千堂、あしあ、JIRO、アカツキ、そしてモール組最後の生き残り、のすおのすのす。さらに筆者だ。


「なんで……、これ……」


 地下通路を進んで上った先には、特殊部隊基地があった。確かにあった。だがそこは──。


 ──もぬけの殻だった。


 もはやみんながいなくなってしまったあとのようだ。ぷすぷすとどこかから黒い煙が立ち上っており、生存者の姿は確認できなかった。作家は呆然として、その場に膝をつく。


「だって、ここまできたのに……、あんなに人が死んで、それでも、って……」


 千堂も悔しそうに地面を叩く。


「間に合わなかったっていうのかよ、クソッ!」

「ふぇぇん、にゃ……」


 猫耳をつけたショタのあしあも、バケツにぽたぽたと涙をこぼしている。


 白熊のきぐるみを着たのすおのすのすが「のす……のす……」と力なくつぶやく。


 木材だろうがゾンビの足だろうが、何でもくべて焚き火したがるサモ・ハン・キンポーのJIROは、チッと舌打ちをしてガスバーナーに火をつけた。

 その火をもらってハードボイルド(30代)のアカツキがたばこをくわえた。


 皆が皆、絶望をしていた。ツーダは一生懸命スクワットをしていた。


 そこに遅れてやってきた影があった。鹿角フェフである。幼女はあちゃーという風に顔をしかめた。


「まさかこういう結果になるとはねえ」

「フェフさん、無事だったんだ……?」

「うん、もちろんっ。大丈夫、どこも噛まれてないよっ」


 フェフはぺかーという笑顔を浮かべた。しかしその笑顔に作家はどこか作り物めいた違和感を覚えてしまった。


 これまでのフェフの行動を思い返してみる。怪しい場面はいくつもあった気がする。だが、こんなにかわいいフェフさんが犯人なわけがない、と作家は思い返した。そう、裏切り者なんていないんだ。ラブアンドピースだ。


「鹿角フェフよ」


 そこで重苦しい声が響いた。皆が顔をあげる。フェフも「うん?」と振り返るが、その声を告げた人はどこにもいないように思えた。まさか死者からの……?


 前に歩み出てきたのは、のすおのすのすであった。先ほどまで「のすのす」としかしゃべれなかったはずの白熊のきぐるみは、その着ぐるみを内側から破る。すると現れたのは──本物の白熊だった。


「えええええええ!?」


 真のすおのすのすはフェフを睥睨しながら告げる。


「貴様のしでかしたことはわかっている。ショッピングモールに先回りし、地図を貼り、裏口を開けてモール組を全滅させたのは貴様だな、鹿角フェフよ」

「えっ、なにを言っているかぜんぜんわかんない! だって僕はみんなとずっと一緒に行動していたじゃん?」

「地下通路を通ればすべての犯行は可能だ。実際、モール組は墓場に先回りをすることができた。我はぷりんと桂林怜夜の無念を引き継ぐ者。貴様の血で購わせてやろう」


 フェフは小さなおててをぱたぱたと振った。


「えっ、えっ、なんで僕が殺されるの!? 意味がわかんないんだけど、ね、てれんさんもなんか言ってよ!」

「……ふぅ、とうとう尻尾を出したな、鹿角フェフ」

「ああ、長かったな」


 そこでJIROとアカツキはフェフを取り囲むように後ろに回った。


「俺達はヒナプロジェクト特命課」

「今回、クリスマスパーティーに招待されてもいないのに会場に現れたお前を、ずっと付けていたんだ」

「えっ!?」


 JIROとアカツキは警察手帳のようなものを取り出した。彼らはヒナプロジェクトの任務を受けて動くプロフェッショナルだったのだ。


「おっと、そこを一歩でも動くなよ。俺のガスバーナーが火を噴くぜ」

「やれやれ、幼女を殺すことになるとは、やりきれんな」


 フェフは周りを囲まれた。事情を知った千堂やあしあも、フェフの退路をふさぐ。作家はあわあわとフェフを見つめていた。彼女の無罪を作家だけが信じている。だって、友達じゃないか!


「……ふ、フフフフ」


 そのときだ。地の底から轟くようなまがまがしい笑い声が響いてきた。


 フェフだ。彼女は幼女の仮面を脱ぎ捨てたかのように、非常に妖艶に、そして悪逆な笑みを浮かべていた。


「全部バレちゃってたなんて、君たちなかなかやるねっ」

「貴様……!」


 のすおのすのすの闘気が膨れあがる。おっと、とフェフは彼を手で制した。ちっちゃなおててにはカプセルのようなスイッチが握られている。


「いいのかい、このスイッチを押しても」

「……なんだと?」

「この街に即座に核が降り注ぐぜ。ゾンビごと街の存在が消滅だ。ここまで生き残ったのに、まだ死にたくはないだろ?」

「き、貴様……、どこまで……!」

「どこまでもなにも、僕は最初からさ!」


 フェフは両手を広げた。そして告げる。


「僕は人の業や不幸が大好きだ! それを見るためなら、街にゾンビウィルスをばらまくぐらいのことはやるよ! それが一流のホラー作家というものだ! おかげで君たちは実にたくさんの死に様を見せてくれた! 感謝しているよ! これで僕のいんすぴれぇしょんがとっても刺激されちゃったからね! さ、ここまで生き残った英雄的存在の君たちは、どういう死に様を見せてくれるのかな!? もっともっと足掻いて叫んで泣いて苦しんで怯えて恐れて倦ねて窮して喘いで悶えてみせてくれ! 僕は君たちの中にある聖女を殺す者さっ!」

「く、狂っている、こいつ……」

「こわすぎぃー!」


 千堂とあしあにフェフはにやりと笑う。


「ありがとう、ホラー作家にとっては最高の褒め言葉だよ! それじゃあ僕はおさらばさせてもらうよ! 一秒でも早くこの創作意欲をパソコンに叩きつけたいんでね!」


 そう言って悠々と歩いていこうとするフェフだったが、地面のでっぱりにつまづいて転んだ。その手からころんころんとスイッチが転がる。


「あ」


 スイッチは側溝の中に落ちていった。


 しばらくの間、気まずい沈黙が辺りを覆った。すべての黒幕である鹿角フェフはドジっ子だったのだ!


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