18オブザデッド
サンタコスプレをしたあんじゅと、黒髪長髪薄幸少女のメリーさん、そして白いスーツに白いハットをかぶったじじい(名前がじじいなのである)は、最初に松永久秀チームが向かった方へと逃げ込んでいた。
廊下にあった針山の仕掛けは起動しなかったものの、彼らはその先の扉を開いて奥へと逃げ入ってしまう。そこで待っていたのは、かまきりのようなバケモノである。
「げっ」
じじいがサッとフッ素加工フライパンを差し出すも、それでは盾代わりにはならなかった。フライパンごとじじいは首をかっきられた。
「ひ、ひい! なんなんですかー!」
あんじゅはトナカイのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。それはふわふわで柔らかくて、ほんのりと甘いいい香りがした。ほんのりと甘いいい香りに包まれて、あんじゅは首をはねられた。
メリーさんは「えやー!」とばかりに包丁を構えてバケモノに突っ込んでゆく。バケモノの攻撃に合わせてカウンターをたたき込んだ。メリーさんは頸動脈に致命傷を負ってしまったが、代わりにバケモノの心臓に包丁を突き立てた。両者は同時にダウンする。ダブルノックダウンであった。
こうして三人の命がまた儚く散った。
また、洋館にはびこっているのはゾンビやバケモノだけではない。ここには人の悪意もある。
その五人はゾンビを逃れて二階へたどり着いたものたちだった。ルルシィール、ナイト、ブルー、クリス、そしてサンタ。彼らは小部屋に入り息をつく。
ルルシィールは『ルルシィ・ズ・ウェブログ』のコスプレをした熱心なファンだが巨乳なので本人とは全然違う。それが目印のようなものだ。
「どうやらゾンビはここまでやってこないようだね……」
「ああ、助かったな」
兜をかぶっていない巨漢の騎士、ナイトは壁にもたれかかりながらにやりと笑った。
「どうだろね、ここも安心はできないけど」
クリスは銀髪シスター長身で端正な顔立ち。タバコ吸いながら1人で街中を散策しそうなクールビューティだ。二階に避難できたのも彼女の冷静な指示があってのことと言えるだろう。
その言葉で目の青い白猫のブルーはぷるぷると震えた。首にくくりつけられた鈴がチリンと揺れる。またサンタと名付けられたトナカイも心配そうに足で地面をかいた。名前が紛らわしい。
そのときである。最初に気づいたのはやはりクリスだった。天井を見上げて目を細める。そうして「まずいね……」とつぶやいた。振り返り入ってきたドアを開こうとするが、鍵がかかっているのか開かない。
「ナイト、トナカイ、手を貸しな! やばいよ!」
「む」
「トナカーイ!(鳴き声)」
天井がずずずずと迫ってくるのだ。これはお馴染みのトラップ、吊り天井というやつだ。このままでは天井に押しつぶされる。幸い、こういうものは少しの猶予が──。
なかった。急降下してきた天井に押しつぶされ、五人は一瞬でプレスされた。部屋は真っ赤に染まる。正直トナカイの鳴き声はトナカーイではなかったと後悔していた。今は反省している。ポケモンかよ。
カーネルは赤い服に白い髭、ぽっちゃり爺だ。油のようなものがしみ出た大きな白い袋をもった彼の後ろには、心は二十歳と言い張る三十路の女、OL仕様のすみれと、パンクっぽい格好の女子、あゆきさ。それにぽっちゃりなおっさんのあっつぁんがいた。
四人は入り口から押し入ってくるゾンビをやり過ごした後、すぐに外に飛び出した四人だった。すでに昼の太陽に照らされた外はゾンビでいっぱいだったが、しかしあの洋館の中にいて身動きがとれなくなるよりはマシだろうと考えたのだ。
あちこちを警戒しつつ、四人は進んでゆく。こうなったら外からのルートで特殊部隊基地を目指すしかない。厳しい戦いが始まった。
ゾンビはどうやら臭いでも人間を識別しているらしく、すみれのもっていた湿布薬を体にべたべた貼り付けてゾンビをやり過ごしていた。万が一見つかった場合は、あゆきさがバットでゾンビの頭を粉砕する。即席のチームはそれなりに機能していたはずだ。足下にそれが忍び寄るまでは。
ちくっとした痛みにあっつぁんは顔をしかめる。するとそこには、ゾンビ化した猫がいた。まさか。他にもゾンビにわとりやゾンビハムスター、ゾンビ鯖、ゾンビペンギンなどのゾンビ動物が自分たちを狙っている。なんということだ! ゾンビは人間タイプだけではなかったのか!
「逃げなきゃ!」
「くっ」
カーネルは袋からケンタッキーの山を取り出して放り投げる。だが動物たちはすでにフライされてから長時間経過した新鮮じゃなくなった油には興味がない。動物こそが真のグルメなのだ。彼らは逃げるカーネルやすみれ、あゆきさを思う存分ついばんだ。
食物連鎖の頂点に立っていることに慢心する愚かな人間よ、捕食される恐ろしさを味わうがいい。そう告げるかのように、ゾンビ動物はひときわ高く鳴いたのであった。
トナカーイ!