17オブザデッド
さて、洋館がそんな阿鼻叫喚の騒ぎになっているともつゆ知らず、叫び声の調査にいったAHIOチームの様子を見てみよう。
彼らは声のしたほうに向かっていた。どうせ死んでのはわかっているのだから、死体をチェックするだけの簡単なお仕事だ。二階に探索にいったキー坊チームよりは勝ち組だ。そんなことを思っていると。
「あれ……?」
ぬいぐるみを抱えた幼女のティーがふと立ち止まった。お父さんのカメラを向ける。天井に何者かの死体がぶらさがっていた。なんだろうあれは。
あっと声を漏らす暇もなかった。天井にぶらさがった死体は瞬時に牙を剥く。ティーは全身を蜘蛛の巣でがんじがらめにされて吊り上げられた。そのまま全身の骨をコキャッとやられる。
その様子を他に目撃した人物はいなかった。皆はずんずんと先に向かっていく。後ろでギィ……と静かにドアが開いた。そこからぬめぬめのなにかが這い出てくる。洋館はもはやバケモノの跋扈する恐怖屋敷と化しているのだった。
「ん?」
と立ち止まったクリソンは、スキンヘッドである戦闘民族が着ていたような戦闘服を模したコスプレをしている(原文ママ)人物だ。なにかの気配を感じたのだ。
隣には、頭は鯉、体は人間でムキムキタンクトップの鯉が立っている。彼は「どうしたクリソン」と魚口をぱくぱくさせながら発声した。こいつこそがむしろホラーだった。
「いや、なにかの臭いを感じて、な」
「なにを言うクリソン、お前は鼻がないから臭いが感じられないじゃないか」
「あ、そっか……、ってコスプレなんだからあるよ! 普通にあるよ!」
そう怒鳴った直後、ぬめぬめとしたなにかがクリソンの頭上から落ちてきた。クリソンは一瞬にして丸呑みにされた。
「クリソンー!?」と叫んでも別に鯉はスーパー鯉人に進化したりはしなかった。糸に巻き取られて全身の骨を砕かれる。
「敵です、敵です、構えてクダサイ」
SHIOの号令を受けて、一同に緊張が走る。ぬめぬめとしたバケモノと、蜘蛛のバケモノ。さらにはもう一匹、巨大な右腕をもつ猿のようなバケモノが現れた。合計三体だ。
「そんな攻撃、この私が防いで──」
そう言って騎士甲冑で身を固めたさっちんは、バケモノの腕撃をまともに食らい中身が弾けて死亡した。ぐろい。
フード付きパーカーにジーンズ、クロックスな眼鏡男子の湊は買ったばかりの『滅びゆく世界を救うために必要な俺以外の主人公の数を求めよ』をおもむろに読み始めた。「リルネはかわいいな……」とつぶやいたのが彼の最期の言葉だった。丸呑みにされた。ごっくん。
銀髪ミニスカロリメイドのトレイさんは、鏡のようにピカピカなトレイ(おぼん)を構えて光を反射させた。これによって悪霊であるバケモノたちは溶けて……ゆかなかった。普通に物理で殺された。というかこのチーム、11名中3名が幼女だったのか。みんなどんだけ幼女が好きなんだ。
もうひとりのょぅι゛ょのマリシャスは「ここです!」とばかりにリヴァイブストーンを飲み込んだが、しかしそれは彼女がその効果を信じているだけのただのきれいな石なので、なにも効果はなくマリシャスは殴られて死んだ。でもそれでよかったのかもしれない。もし彼女がリヴァイブストーンを使ったとしても、それはこの場で永遠にこの三匹のバケモノに嬲り殺しにされながら死に続けて魂が砕け散るだけの運命だったのだから……。
残るはおばちゃん、ゆか、アシヤー、それにASHIOだ。活路を見いだすために、四人は撤退を試みた。無理無理、とてもじゃないけれど戦うなんて無理だった。
誰かひとりが三匹を引きつけなければならない。その役目をASHIOが自ら引き受けた。
「ミナサンは、どうぞ、お幸せに──」
ASHIOはバケモノ三匹を巻き込んで自爆した。ASHIOぉおおおおお!
隣の部屋に逃げ込んだおばちゃんとゆか、それにアシヤーはハッとした。そこには死体が転がっていた。おそらく叫び声の主だ。部屋の中には四匹の蜘蛛のバケモノがいた。
三人は叫び声をあげた。それは奇しくもこの洋館に入った直後に聞こえてきたあの叫び声とほとんど同じようなものだった。
こうして三人は蜘蛛のバケモノの養分になってしまったのだった──。ちゃんちゃん。