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14オブザデッド

 ……。しばらくの間、大富豪に熱中していたため、誰も言い出せなかったのだが。


 気づいてしませば、それはだいぶ大きな違和感となって一同の表層に浮かび上がってきた。


 いわば。


 ──洋館を探索しに行ったはずのチーム松永久秀が、一向に帰ってこない。


 遅い、あまりにも遅すぎる。いくら広い屋敷だとはいえ、その中を改めるのにここまでかかるということはないだろう。捜索部隊を出すべきだと誰かが言ったが、しかしそれでは第二遭難になるだけではないかとも作家は思った。


「なんだか、面白いね」といつのまにか隣にやってきていたフェフがつぶやいた。


「え?」

「さっきのモール組の。裏切り者だって。人は常に誰かが誰かを裏切っているのにね」

「ああ、そうだね」

「ふふ、争え、争え……、僕はもっと人の『業』が見たいんだ……」


 フェフが怪しい光を目の奥に秘めながらつぶやいた。それはなんだかとても意味深な言葉に思えたが、基本的にフェフは人の不幸で飯が食べられるタイプの小説家なので、作家はああまたいつものアレかと思いながら適当に相づちを打った。


 ともあれ、待っているだけというのは、やはり応える。今度は新たに二階を捜索するチームと、だいぶ前に聞こえてきたあの叫び声を調査するチームのふたつが結成された。


 果たしてこの洋館にはどんな秘密が隠されているのか。まあ調べても大したものは見つからないだろうな、と作家はなんとなく感覚で思っていたのだった。





 チーム松永久秀の方である。彼らは三つ目の客間を調べている時点でようやくいなくなったまけぐみに気づいた。といってもバケモノに襲われたら叫び声のひとつでもあげるのは常で、黙っていなくなったまけぐみはきっと逃げ出したのかトイレだろう、と松永久秀は判断した。


 探索は続行される。めぼしいものは特に見つからなかったが、奥へ進むに連れて不気味な絵や動物の剥製など、奇妙なオブジェクトが増えてきた。四つ目の客間にはモロにアイアンメイデンが飾ってあった。針の先端には血がこぼりついているようだ。


 ばたん、と音がした。奥の部屋からなにかが飛び出してきたのは、直後。それはまるでカマキリのような腕をもつ、二足歩行の巨大な生き物だった。ゾンビではない。


「ん、あ?」


 やさぐれ少女のレンナがソリッドブック(百合)を大事そうに抱えながら声をあげる。バケモノは音もなくこちらに忍び寄ってくる。といっても、逃げてきた集団にもこんなバケモノみたいなのは山ほどいたわけで(自分で勝手に動くぬいぐるみとか、のっぺらぼうとか)レンナはより注意深く観察しようと目を細めた直後、その首が飛んだ。


 バケモノに一瞬にして切り落とされたのだとレンナが気づいたとき、もう彼女の意思はなかった。アベックトーストがパン柄の服の裾を押さえながら声ならぬ声をあげる。バケモノが刃一閃。アベックトーストの首も切り落とされた。一瞬にして部屋の中を血が吹き上げる。


「ちょっ、やばっ!」


 消臭機能つきマスクをかけていたことで血の臭いをかがずに済んでいた、黒猫のロリ獣人であるルノーが声をあげる。それで一同は気づいた。


「なんだこれ!?」

「知らないけど! 敵っぽい!」


 雨乃時雨の悲鳴に合わせて、ふんたーがガンランスっぽい傘を構えながら前に出た。


 ふんたーはバケモノの攻撃をその傘で受け止める。傘の先端がひしゃげる。こいつはやばい。ふんたーは渾身の力でバケモノを突き飛ばす。逃げるべきだ、そう叫ぼうとしたふんたーは絶句した。


 すでに松永久秀は新たに現れたバケモノに首をはねられていた。先ほど隣にいたはずのレルブもだ。


「なんだ、これっ!」


 二匹のバケモノに狙われたふんたーはなんとか身をかばおうとする。しかしその波状攻撃に耐えきれずついには首をはねられた。雨乃時雨もまた、手に持ったバールのようなものごと一裂きだ。ルノーもやられてしまった。


 残ったさっちゃんととーよ、メアリーはせめてこの事態をホールのみんなに伝えようと走り出す。


「なにこれなにこれ、ゾンビなんかより全然やばいじゃんっ」


 だが廊下に飛び出て足を動かす三人は、その瞬間ぽっかりと空いた穴に気づかず落下してしまう。串刺しにされた三人はそのまま息を引き取ったのであった。


 チーム松永久秀の面々が全滅していたことに気づかず、ホールでは新たな捜索隊が結成されていた。




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