13オブザデッド
確かにモール組のふたりは地獄を見てきたのだろう。だが急に裏切り者がいるだなんて言われても……、とそんな戸惑いが出発組の間に漂う。
そのとき、館のどこかから悲鳴が響いた。館のどこかに人がいるのか、それともこっそりと誰かが部屋に入ってしまったのか。ともあれ、この人数を完全に管理するなんて不可能だ。裏切り者に関しても。
30代の女性、茶髪で長身のミルドレッドが頭をかきながらふたりに近づいてゆく。
「つってもさ、私たちはずっと一緒にいたよ、一度モールに戻るなんてできないってば。だいたいそんな動機がないし」
「…………モールの資源を独り占めにしようとしたんじゃ」
「それなら最初からモール組に加わればいいでしょ」
ぷりんと桂林怜夜は納得がいかないという顔をしている。その気持ちはわかる。だが、それよりも確認しておきたいことがあった。
「どうしてふたりはそっちのドアから出てきたの?」
「…………」
ふたりはこちらをじっと見つめる。疑いの眼差しだ。
「いこう、桂林怜夜」
「ああ」
そう言うと、ふたりは再びきびすを返した。「あっ、待って」とミルドレッドが彼女たちを追いかけてゆく。さらに放っておけなかったのか、メガネをかけた寒がり少女のカンナと白熊のきぐるみを着たのすおのすのすがふたりについていった。
また別行動か。作家はため息をつく。まあこの集団が信頼できないなら仕方ない。
「裏切り者だなんて、そんなのいるわけないのに……」
作家は腰に手を当てたままひとりごちた。だがなにかが頭に引っかかっているのも事実だった。
小休憩を終えて、これからのことを話し合う時間が必要だった。
「まずひとつは先ほどの叫び声を調べにいくこと。それと、モール組の入っていったドアを調べること。あるいはこの洋館を探索すること。この三つが考えられマス」
C3-POみたいなロボットのAHIOが進言した。最初は四人いた知力10の面々も、今はもう彼だけになってしまった。
「三手に別れる?」
メガネを掛けた尊大っぽい黒髪ロング(心は硝子なみ)の心之硝子がおそるおそる尋ねてきた。ううむ、と顔が傷だらけの強そうな戦国武将(でもめちゃくちゃ弱い)の松永久秀がうなった。
「モール組のドアには正直興味がない。それよりも特殊部隊基地に向かう手がかりを見つけることが最善であろう」
ビジネススーツを着たたけしも「賛成だね」と言った。
とりあえずそのようになった。洋館のホールは広いが、それでも数十人がぞろぞろと探索できるほど部屋は広くはないだろう。一同は十人ずつのグループを作って、それぞれが洋館の中を探索することになった。グループは全員参加の大富豪バトルで決まった。盛り上がり、白熱した。
その結果、洋館を調べるためのチームが結成した。知力7の松永久秀をリーダーとした、レンナ、メアリー、ふんたー、レルブ、さっちゃん、アベックトースト、まけぐみ、とーよ、雨乃 時雨、ルノーの、合計11名のチームだった。
「じゃあいってきまーす」とJCセーラー服のさっちゃんたちが元気よく出ていった。残ったメンバーたちは待っているのが暇だから、再び大富豪を始めた。これもまた吊り橋効果と言うのだろうか。ハラハラドキドキ、とても盛り上がったのだった。
チーム松永久秀は、おっかなびっくりと洋館を調べてゆく。
まずは一階の横の廊下からだ。通路は左右に伸びていて、特にゾンビの気配はしない。慎重に進んでゆこう。中年太りの30歳男である雨乃時雨がバールのようなものを手に先頭に立つ。松永久秀がもっていた槍はめちゃくちゃ天井とかにつっかえるので置いてきた。
「その鎧めっちゃうるさいんだけど、なんとかならないかな」
「うん、そっちに言われたくないよね」
ガンキンU一式を着たはんたーの言葉に、スティールアーマーを着たレルブがため息をつく。レルブはショッピングモールで希望を手にしたが、チーム松永久秀に入ったことは正直貧乏くじだったような気がしていた。
まけぐみは負け組的な雰囲気を漂わせながら、最後尾を歩いている。容姿説明『負け組的な』は正直、イメージの広がりがおびただしくてえぐいと思う。そんなまけぐみはふとなにかおかしな感触を靴の下に感じて、足を止めた。
「……え?」
直後である。ぱかりと床が抜けた。なんの変哲もない廊下の真下には巨大な針が仕込まれていた。まけぐみは声をひとつ立てることなく落ちて串刺しになった。直後、床は再び元に戻る。誰もまけぐみがいなくなったことには気がつかない。
「今、なにか音したー?」
「ううんー、わかんないー」
金髪ポニテ9歳のメアリーが首を振り、白髪碧眼肌白幼女のとーよが「そっかー」とうなずいた。いくら大富豪で決めたとはいえ、こんな危険なことを幼女にやらせるのはいったいどうなのだろうか。そんなことを思いつつ、チームは怪しげな洋館の中を探索して回るのだった。




