12オブザデッド
墓場を抜けた一行は、そのまま歩いて洋館の前にたどり着いた。ほとんどのメンバーは疲れ果てている。中に入って休憩といきたいところだが……。
作家はふと考え込んでいた。サンタコスの黒髪ロング、簪でハーフアップにしたゆかが作家の顔を覗き込みながら尋ねる。
「どうかしたんですか?」
「いやあ、この洋館にこのまま入っていいのかな、って」
「?」
思えばあの地図はどこか変だった。なぜなら墓場に入る必要がまったくなかったのだ。あんなバケモノが登場するなんて、まるで自分たちを殺そうとしているかのようだ。もう少し安全な道もあったのではないだろうか。
「考えすぎかな」
「かもかも?」
うーん、と作家はうなった。あの地図の通りに洋館に入ってしまったら、また多くの人が死んでしまう気がする。それに、洋館を通って特殊部隊基地に入るというのは、なにかおかしくないだろうか。
「みんなはどうかな。中に入りたいと思う?」
『うーん』
120名近くの集団は考え込んだ。しかし道を外れてまったく違うところに行ってしまうのも困る。二手に分かれるというのも危険だ。
「やはり入るしかないのかな」
「そうだな」
ギャルゲーの主人公のように何故か顔が見えない前髪を備えた10代後半男性の不破真一が静かにうなずいた。
「もしかしたら洋館に地下通路があって、それが特殊部隊基地につながっているのかもしれない」
「ううむ」
だとしたらこの町の住人はみんな洋館の地下通路を通ったということになる。それは考えにくい気が……。と、のんびりと考え込んでいる暇はなかった。後ろからさらにゾロゾロとゾンビが集まってきたのだ。なにかきな臭さを感じながらも、一同は洋館に入る以外の道を余儀なくされた。
ガチャと、扉は意外と簡単に開く。力自慢の人物が何人か先頭に出て、中へ足を踏み入れた。
見渡すほどに大きなホールが一同を迎えた。百人が軽く入れるほどの大きさだ。外から見ても大きいと思ったが、中に入るとさらにその巨大さがわかる。
「お金持ちの家って感じだね」
「あれ、フェフさん、今までどこに?」
「僕は最初っからいたよん。喋らないと出番がないからねっ」
「う、うん」
鹿角フェフはきゅるんと美幼女っぽいかわいらしい笑顔を向けてきた。作家は曖昧にうなずく。フェフは物珍しそうに洋館の中を見渡して楽しそうにしている。
「とりあえずこのホールは安全なようだよ」と村人Gの田奈 奏多と、はるな愛こと大西Kenjiが辺りを見回ってきた。外見はるな愛で名前が大西Kenjiってそれ分ける意味があったのだろうか。
「じゃあいったん休憩かな?」
「賛成ですじゃ」
白衣&メガネ&ヅラ(取るとMハゲ)の教授が真っ先にうなずいた。こうして一同は体力を回復させるためにおのおのショッピングモールからもってきた食事を取ったり、水分を補給したりしている。
皆には疲労の色がうかがえる。ゾンビが現れて以来、12時間歩きずくめなのだから仕方ないだろう。作者も12時間書きっぱなしなので、今から8時間ほど寝たいと思っているに違いない。
そのとき、ガチャリとホール正面のドアが開いた。誰かがいるとは思っていなかったため、一同は思わず身を固くした。そこで現れたのは──。
モール組だったはずの人物。ゴスロリを着たぷりんと、黒髪ロングヘアの桂林怜夜であった。ふたりは憔悴しきっているが、しかし目だけが爛々と輝いていた。
「あっ……!」
とふたりは声を漏らした。作家は慌てて駆け寄る。「無事だったんだ!」と。しかしふたりはとうてい無事には見えない。
「……みんな、死んじゃった……」
「生き残っているのは、あたしたちさ……」
その沈痛な声に、誰もなにも言い出せなかった。
そう、ゴスロリを着たぷりんと、委員長タイプのメガネをした幼女から、それにロングヘアーの幼女であるイリス。さらにスーツ姿の山田さん、黒髪ロングヘアの桂林怜夜、黒髪パンチパーマでタンクトップのグリコや、禿げた中年のうどん。そして黒人(アフリカ系)のサーボの中で、生き残ったのはこのふたりだったのだ。他の皆は逃げる途中、ゾンビに食われて全員死んでしまった。44名のうち、生きていたのはたった2人だった。
そのとき、ぷりんと桂林怜夜は弾かれたように顔をあげた。そうして、ふたりは叫ぶ。
「モールは、誰かのせいで壊滅したんだよ!」
「そうさ、からとサーボが言っていたのさ!」
ふたりはキッと集団をにらみ付けながら、こう言った。
「──この中に誰か、モール組をハメたやつがいるんだ! そいつを暴いて吊さなきゃ、あたしたちは全滅しちゃう! 裏切り者を捕まえて!」
ホールはシンと静まりかえった。
その直後、館のどこかから──悲鳴が響き渡ってきた。
モール組合流。




