くっうま
安心しつつお読み下さい。
敵軍との戦いの末、満身創痍となった女騎士は敵軍の捕虜となってしまった。
剣が折れ、盾が砕け散っても己が心だけは決して折れるまいと固く誓う女騎士に、敵兵たちが歩み寄る。
敵兵たちの方から、得も言われぬにおいが漂ってくる。
女騎士は己の運命を自覚した。
両手は後ろに固定され、首には鉄の輪と動きを縛る鎖が繋がれている。
せめてもの抵抗とばかりに出来るのは顔を動かし、ギリと睨みつける程度のこと。
そんな女騎士に対し、歩み寄ってきた敵兵はニヤリと笑いかけ、首輪から繋がる鎖を掴み、女騎士をにおいのもとへ向かって強制的に移動させる。
一歩、一歩。よろよろとした足取りで敵兵たちに近づくに連れ、においが強くなっていく。
やがて、敵兵の間に分け入り、においの中心へとたどり着いた。
周囲を囲むのは敵兵ばかり。
女騎士はおもむろに背もたれのない椅子に座らされた。
「ふふふ、どうだ」
女騎士のすぐ後ろ、鎖を短く持ち直した敵兵が尋ねる。
白いクロスのかけられたテーブルに、戦場とは思えないほどに彩り豊かな料理が並び、女騎士の目の前には湯気のたつ肉汁がたっぷりと滲みでた熱々のスープが置かれ、得も言われぬ匂いが女騎士の鼻腔をくすぐった。
「うまそうだ」
女騎士はただ一言そう告げた。
女騎士は自覚したのだ、己の運命を。自分が空腹だということを。
だが、今の自分はどうだ。後ろ手に手枷をはめられ自由に動かして食事をすることもできず、かと言って首には鎖をかけられているためにプライドを捨てた犬食いすら行えない。そんな己の運命を。
「さあみんな、席につけ!」
女騎士の後ろにいる敵兵が、周囲を囲む仲間たちに声をかけた。
「やめろぉ!!」
女騎士はたまらず叫んだ。
己に待ち受ける、悲惨な運命に。
己を窮地に陥らせて厭らしい笑みを浮かべる鬼畜たちに。
女騎士は叫んだのだ。
「天よりの恵みに感謝し――」
「やめろぉ!! やめろぉ……!」
女騎士の叫びなど知らぬとばかりに、敵兵たちは食前の祈りを捧げ、ついに、女騎士の前で牙を向いた。
「んっめぇーーーーー!」
「さいっこうだなぁーーーー!」
湯気を立たせるスープを啜り、歯ごたえを感じさせるさわやかな音をさせながらサラダを齧り、軽快な音を響かせてグラスをぶつけあい、敵兵は、鬼畜たちは思い思いに食事を始めたのだ。
女騎士は動くこともできない。腕は動かせず、上体を前にやることすらできないのだ。出来ることと言ったら悔しさに体を震わせ、その豊かなふたつの膨らみを左右に揺らすだけ。しかしそれさえも目の前で団欒を続ける敵兵たちの気を引くことすら出来なかった。
「くっ……そう……!」
「ん?」
背後に立っていた鬼畜が、女騎士の顔を覗き込んだ。
感極まった女騎士の目尻から、涙が一筋こぼれ落ちていた。
剣が折れたとしても、盾が砕けたとしても、この心だけは折れぬと誓った女騎士の、その心が折れた瞬間だった。
つぅっと頬を伝った涙が一滴、女騎士の細い顎から胸の谷間へと零れ落ちた。
「くっ……! 美味そう……!」
新ジャンル「くっうま」のご提案。もうあるかなぁ……?
女騎士もくっころされてばかりじゃ可哀想ですしね。