エピローグ
「やだっ。そんなに見ないでよ!」
心なしか顔を赤く染めたシェリルが、伸びてくるカインの手を払いのけて後ろを向いた。いつもは服でしっかり隠されている首元が今日は胸元近くまで露わになって、白い肌がみるみるうちに赤くなっていくのが容易に見て取れる。
「見えるからしょうがねーだろ。それに今日はどうやったってお前が悪い」
きっぱりと断言されむっと眉を寄せたシェリルが、反論しようとカインの方を振り返る。その隙を狙って、カインはいとも簡単にシェリルの体を両腕の中に閉じ込めた。
「きゃっ!」
「相変わらず無防備だな」
「そんな事言われても……。別にカインを警戒する必要なんてないじゃない」
「そりゃ嬉しいね」
にやりと笑って顔を近づけてくるカインに、シェリルはしまったと心の中で後悔した。
「ちょ、ちょっと待って! 今から式が始まるのに、そんなっ」
「まだ三十分はある。十分だろ」
「何が十分なのよっ。カインの馬鹿ーっ!」
これでもかと言うほど顔を真っ赤にさせて、慌ててカインの腕から逃れたシェリルが、そのままドレスの裾を引きずりながら窓際へと避難する。と、その指先が、窓辺に置かれていた大きめの箱に触れた。
「あれ? ……何、これ」
箱を持ち上げて視線をカインに向けても、知らないとの答えしか返ってこない。淡いブルーのリボンがつけられた白い箱は、大きさの割には軽い方だった。
「開けてみるか?」
そう言ってシェリルからひょいっと箱を取ったカインが、ゆっくりと蓋を持ち上げる。中に入っていたのは、天使の羽根を絡ませて作った、ウェディング用のティアラだった。
「これ……もしかして」
驚いたように口元を手で覆ったシェリルに、カインが肯定の意を示して静かに頷いた。壊れ物を扱うようにそっとティアラを箱から取り出して、カインも驚いたように言葉をなくして息を呑む。
「ルーヴァとセシリアと……リリスに、それからここはアルディナの羽根だ」
飾り付けられた羽根を見つめながら、カインが掠れた声で小さく告げる。驚きと感動とで胸がいっぱいになり、シェリルは瞼が熱くなるのを感じてせわしく瞬きをした。
箱の中に一緒に入っていた、二人の結婚を祝福するカードを見て、さすがのカインも少しだけ照れくさそうに微笑みを浮かべた。
「……あいつら」
小さく呟いてカードをシェリルへ手渡したカインが、持っていた羽根のティアラをそっとシェリルの頭に乗せる。それは純白のドレスを身に纏うシェリルに、とてもよく似合っていた。
「行くか。あんまり遅いと、クリスにまた怒鳴られる」
「うん」
今にも泣きそうな顔で精一杯の笑顔を向けたシェリルを、カインは両腕に軽々と抱えて歩き出す。
閉じられたドアの向こう、誰もいない部屋の窓から見える晴れ渡った青空に、幾つもの羽根が二人を祝福するようにふわりと優しく舞い降りていった。




