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15:草原を超えて―Infiltration―

 ジーパ領、森を抜けた先にある城。レイジス軍の潜入部隊は、森の中で助けた剣士サクヤの招待もあり、無事にジーパ領に入る事ができた。広がるは草原地帯。その中に建つ小さな城に、倒した鎧獣の中身の保護を頼みに来たのだ。

 レイジス達はサクヤに連れられてここまで来たが、こうも警戒されないと何か怪しく思えてくる。何かの罠かとも思ってしまうが、結局のところ城の最上階、と言っても二階だが、それまで何もされなかった。

 城の最上階にある広間、そこに座るは白髪が目立つ老人であった。


「おぉ、サクヤ様。お久しぶりでございます」

「ヤガト殿、お久しぶりでございます。身体の方は大事なさらぬか?」


 サクヤが対応する。鎧を片手で持ち上げているサクヤが老人であるヤガトと呼ばれた男と会話しているのは何か滑稽に見える。だが同時にその姿が様に見えるのもまた事実だ。


「相変わらず腰は弱いままじゃが、まぁ元気は元気じゃ。して、どのようなご用事で?」

「獣を退治した際に少女を見つけてな、申し訳ないが介抱を願いたい」

「その男が背負っている幼子ですな」


 レイジスが指名され、数秒の間をおいて気が付いた彼は、近づいてきたこの城で働いているであろう女性に背負っていた少女を託す。くどいようだが、やはり軽い。託した女性もその軽さに少しの驚きを感じているようであった。


「カグヤ様の御身体もどうでしょうな?」

「なに、元より病弱な方ながらよく動いていらっしゃる」

「ならよかった。して、その後ろの者たちは何者ですかな?」


 サクヤとヤガトと呼ばれている老人が会話している中で、やっとレイジスたちのことを聞いてきた。レイジスは若輩者ゆえ、老人の頭の回りの遅さに違和感を覚えるが、ここは立場の保守を優先すべきだろうと口を開く。


「旅の者……というには言葉が足りんな。名はレイジス。この大陸の外側から来た流れ者だ」

「ほぉ……外の大陸とな」


 ヤガトが興味を持ったようで意味深げにそう呟いた。レイジスからしたらこの話題はあまり膨らませたくはないのだが、聞かれるなら怪しまれない程度で答えなければならない。

 それは後ろの三人も一緒である。一番の問題は無知で無垢なフィリアが問われた場合の時だ。彼女も思考能力が高くなってきたとはいえ、他の二人と比べてもまだ知識は浅い。

 しかしヤガトはそこで関心を止めたようで、サクヤの方に視線を向け口を開けた。


「サクヤ様。旅の者に城下を案内させた方がいいでしょう。こんな爺の事はお気になさらずに」

「……そうか、すまぬな。またいずれ訪問しよう」


 サクヤがそう言って立ったので、レイジス達もそれに合わせて立ち去る。この辺境の砦、いや城に住む一人の老人。言葉からしてサクヤと同等、もしくは上の階級なのかもしれないが、なぜこのような辺鄙な場所に住まうのか。

 その疑問を城から出てしばらくしてサクヤに問うと、サクヤは神妙な面持ちで空を見て応えた。


「ヤガト殿は、カグヤ様の教育係であった。父を失ったカグヤ様に父性を見せてくださった方だ。その階級も、人としての人格も私より上であろう。だが、あの方も不幸が重なってしまったのだ。妻を早くして失くし、子もいないままに隠居なさられた。森に近く城下よりも遠いこの場所で、ひっそりと亡くなられるつもりであったのだろう」


 まるで猫のようだな、とレイジスは思った。だが妻もおらず、子もおらず、ただ年老いる事は人生において拷問に近い。己の血を継ぐ者も意思を継ぐ者もおらず、愛する者もいない。ただ死を待つ人生。ならばせめて、静かに死にたいと年を老えば思うのだろうか。若いレイジスにはそれは解らなかった。


「だから、せめてものお返しだ。先程のあの少女、ヤガト殿に預けたのもその理由だ」


 子には遠いであろうがな、とサクヤは最後の付け足した。君主であるカグヤを育てた男に、カグヤに仕える者として思うことがあるのだろう。その者の人生があまりにも悲劇的であれば、尚更だ。

 そうとなれば、あの鎧獣に入っていた少女の入手は少し難しくなるか、とレイジスは冷静に次なる一手を考えているのであった。



  ◆◆◆◆



 しばらくして夕焼けが見え始め、月が地平線から覗く頃、草原地帯をどうにか走破し、ついに城下の街へやって来れた。来れた、という表現であるのはその距離が思っていた以上にあったからだ。体力が多くないフィリアをおんぶしながら、後ろの二人のジト目をひしひしと感じながらも辿り着いた。

 城下町、というだけはある。巨大な城の下町は、夕焼け時というのに活気がある。商売人達の騒ぎもあり、かのセンチェスを思い起こさせるものがあった。そう思うと、何か悔しいものを感じるのはレイジスが軍の隊長であるからか。


「今宵はこの宿でご宿泊願いたい」


 サクヤが勧めた宿は質素ながらも高級である事が窺える。支払いはいい、と言ってそれがまかり通る辺り、彼女の人徳の高さが窺える。


「ありがとう。重ねてお願いしたいが、いずれ君主とお話しをしたい。できるか?」

「日を改めてお伝えしよう」


 どうやら君主との会合もできそうであった。その会話の後、そそくさと去るサクヤを尻目に宿の女将に部屋を紹介してもらい、ここでやっと四人とも大きな溜め息を吐くのであった。


「長旅でしたね兄様。野宿を二度し、そこから戦闘に草原地帯を徒歩で移動……。フィリアも途中で寝てしまいますし」

「ごめんね、レイジス。全然体力無くて……」

「まぁ、フィリアは軽いからいいが……しかし、遠いな。今後は何か動物でも使ってくるべきか」


 その会話の最中、珍しく会話の中に入らないライオットは、持っていた四つのペンと紙を四枚用意し、各自に渡していた。この行動はレイジスが指示したものだ。

 何分、サクヤという女は抜かりがないようで、部屋の外に監視を置いているようであったからだ。最初は念を置いてライオットに魔力探知を頼んだだけであったが、どうやら一人を忍ばせているようであった。

 これでは会話もまともにできない。特に、中央の国に住んでいる外の大陸の人という立場ゆえ、センチェスの名前を出すのも難しい。作戦会議もまともにできないのはあまりにも痛手だ。なので、旅に出る前に決めていた敵国内での会話手段として筆談をハンドサインでライオットに伝えて用意してもらったのだ。


『あの女、流石だな。しかし、この状況は厄介だ』

『どうしましょうか、兄様』

『しばらくは密事は筆談だな。あと、怪しまれない程度に会話をしなければ』

『フィリアに字の書き方を教えておいて正解でした。書けますか、フィリア』

『がんばる』

『読めるならいい。無理に書くことはないからな』


 一生懸命にペンを握って文字を書くフィリアの様子は非常に微笑ましいが、無理に作戦会議に参加させる必要もない。実際、レイジスはフィリアに外の世界を知ってほしかっただけなのだから、無理に考える必要はないのだ。

 しかしこの筆談も必須な事とはいえ、今すぐにすることはないだろう。そう判断したレイジスは、ただの旅人のように陽気に提案する。


「とりあえず風呂としよう。明日も早いからな」

「いいですね兄様! どうします? 女湯、入ります?」

「やめなさい、イルニス。フィリアに毒です」

「んー? レイジスって毒なの?」

「……女湯には入らないし、毒じゃない」


 さて問題なのは、連れてきたこの三人、センチェス三人娘とセンチェスの男の間では密かに呼ばれている仲良し三人組を統括するのがレイジスという男である、という点だ。思えば職務以外のこの三人組の言動は、まさにフリーで、ライオットは従来の毒舌交じりのツッコミ役をするし、イルニスは淫靡で作為的なボケをするし、フィリアは本来の性格通りの天然ボケをする。そしてレイジスという存在は、三人にとって少なからずとも好意を抱かせる人物である。その三人を前に、誰にも邪魔されない空間で一人でいるのは、大変疲れるのである。

 特にフィリアはその天然さがあまりにも予測できないために、対応に疲れる。


「残念ですね。まぁ、戻りましたらいつでもお相手しますので」

「頼まん」

「そうですよ、イルニス。レイジスにだって選ぶ権利はあります」

「いや、だから頼まんって」

「フィリアも入りたいなー!」

「……どうしてこの三人はフリーダムなんだ……」


 敵地であるのにこの三人娘のフリーダムさに、レイジスは草原を渡り歩いた以上に疲れ、呆れるのであった。

【ゲーム的ユニットデータ】

ユニット名:サクヤ

属性:風

職業:ジーパ領軍大将、刀将、全体指揮官、ストライカー(攻撃担当)

種族:鬼、エルフ(外見のみの情報)

武器:月之不知火(太刀)

基本性能(基準を100とする)

体力:130 攻撃力:150

防御力:120 機動力:120

知力:100 魔力:95


説明:ジーパと君主カグヤを守る刀将。風の魔力を身に纏い一瞬のうちに何撃にも及ぶ斬撃を得意とする。鎧をも切り裂く技量も持つ。

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