生きる作業
生きる作業とは、己の中にある哀しみと世に充満する哀しみを結び付け混ぜ合わせ理解し合い、そこに新たな命を生み出す作業であり、それはどこか溶接作業--異材溶接――に似ていた。私も世界に満ちる哀しみの一つ。父も母もその他顔も知らず名も知らぬ人々もまた哀しみの影となって、世界に霧散している。巨大にしかもしんしんと孤独に薄青く雲のない空を渡り続ける哀しみだけが愛おしい。
――生きる作業として言葉を生み出すこと――(あなたとわたしの塊への姿勢)
それを振り上げるものではない
むしろ 泣き止まぬ幼子のように温かな柔らかないい匂いを胸にしっかりと抱いている
それを振り仰ぐものではない
むしろ 曇り空の下で哀しみにくれる あなたのように愛おしい
それを踏み敷くものではない
むしろ 黙々とあなたとわたしを材料として溶接作業を行おう
――あなたとわたしの哀しみの像が消えない――(生きる作業として言葉を生み出す作業)
綿100%の厚手の作業着が最良だ
アクリルが混ざれば火花に融けてしまう
色はなんでも
丈夫なベルトを締め 同じくズボンを履き 安全靴を履く
柔らかく軽いけれどとても熱しやすく冷めやすいあなたの哀しみと
固くて重たくてでもこの地球にもっともありふれたわたしの哀しみを
異材溶接する
二つの哀しみを突き合わせ固定して電圧は高すぎない方が好きだ
哀しみ同士のV字の境目で溶接棒を通電(アークを発生)させる
バリバリバリバリとアークが輝く
眩過ぎる強い強い光
(あなたとわたしの接合点)溶融した二つの哀しみは分子レベルで混ざり合い一つの哀しみとなる
熱に歪んだ一塊のあなたとわたしの溶接の滓と被膜を黄銅製のワイヤーブラシで擦り取る
そこには 全くこの世に新しい一つだけの金属が輝いていた
(その時の私は)溶接現象によって発する光を直視して眼が焼けてしまった
暗闇でも目蓋の裏にアークが消えない
眠りを許さぬ 青い赤い白い光の矢
輝きを失わぬ1500度Cの閃光に型どられた
あなたとわたしの熱いままの哀しみの影が目の奥で疼いている