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立てば爆薬座ればボカン

 さて、面談が終われば愛すべきパーティーメンバーと合流だ。


 あの後無謀な迷宮潜り(ダンジョンアタック)について改めてキツめの説教と反省文五枚の提出を申し付けられたあげくについでとばかりにいくつか雑用を押し付けられて、げんなりしながら面談室を出れば、学園の廊下はすっかりと生徒たちに埋め尽くされていた。


 新入生の入学ラッシュから一ヶ月、物珍しげにあちこちきょろきょろしながら歩く一年生の姿も少なくなり、多少不慣れな空気を身にまといながらも、まだ真新しいローブや教科書を抱えたさまざまな種族の若者たちが友人と談笑しながらあちこちを行き来している。


 ほんの一年前の今頃の自分を思うと懐かしくもあり、気恥ずかしくもあり、また、改めてこの光景のカオスっぷりに圧倒される。


『師匠』につれられて大陸のあちこちを旅していたころ。貧乏旅芸人だった師匠と僕はおよそ大陸のほとんどの地域を周ったといっていい。


 東部山脈のリザードマン集落にもいった。西部の砂漠地帯ではほとんどのオアシスコロニーを見たし、南部の荒野を突っ切って大陸最大のカーニバルも見物した。

 北部のエルフ小国家にいったときは師匠のうっかりのせいで百を超えるエルフの狩人に追いかけられ頭のてっぺんを弓矢がかすったりしたものだ。


 しかし、一部の都市で二、三の種族が共存していることはあっても、ここまでごちゃごちゃはしていなかった。


 種族差別や男女差別が恥ずべき事として認知されたのは結構昔のことらしいが、実際のところ、全く別の生態をもつ多種多様なヒト種それぞれが狭い生活圏で肩寄せあって暮らしていくのは難しい。


 たとえば僕はエルフのことを、クソ気難しくて自己中で頭が固くて屁理屈好きのいけ好かない美形集団だと思っていて遠めに見るだけで胸の中がもやっとしていたし、オーガ系の種族といったら牛だの鳥だのの丸焼きをもりもり齧りながら酒を飲んでは腕相撲したりする豪快<ちょっとばか>な連中しか居ないと思っていた。それは世間一般でのその種族に対する普遍的なイメージで、そして往々にして的を射ている。


 実際、エルフというのはまず先に自分のことから考える利己主義的な発想が強い。彼らが自分のコミュニティから出て、大陸で使われている共通語(コモン)でしゃべる必要に駆られたとき、まず覚えるのは自己紹介と『私の都合にあわせてください』というフレーズだそうだし、それを自分たちでも認めている。


 オーガは酒と肉が好きでたまらなく、十歳になるころには水代わりに酒を飲み、自分で動物を狩っては、モツを抉って棒を刺して塩コショウだけで焼いておやつと称して食べてしまう。仲間内での挨拶は出会いがしらの全力パンチなんてコロニーも多いらしい。


 正直、ヒューマン種としては理解し難い。エルフは油断ならない腹黒で、オーガは野蛮で知恵遅れに思える。


 しかして結局、『理解し難い』だけであって、『理解できない』ではないのだろう。


 エルフは確かに自己中心的だが、決して自分以外を低く見ているわけではない。彼らは『自分の都合』に則って我を通すが、同時に、『自分の都合』によって他者に信じられないほど奉仕的にもなる。


 オーガは確かに酒を飲み丸焼きの肉を食うが、彼らにとってアルコールは重要な栄養分であり嗜好品でなく、肉をこまめに刻んだり煮込んだりするには、単純に手の大きさと口の大きさがデカすぎるというだけ。


 わかってみればなんてことはない。多少価値観や体の都合が違うだけの、ヒューマンと同じヒト種であるのだ。


 だからこのようにおんなじ入れ物に入れてしまえば、案外それぞれ仲良くやっていける。こうしてざっと見ただけでも、同じ種族だけで固まっているグループというのはほとんど見受けられない程度に。


 まぁ、生活リズムや食生活の違いもある。大勢が固まって暮らすなら単一種族でコロニーを作ったほうが都合がいいのも確かだ。


 だけれども、リザードマンを「トカゲモドキ」と呼んで蔑むヒューマンや、獣人種を「毛玉」とののしるエルフ、ドワーフを「引きこもりのひげだるま」といって憚らないオーガなんかを見てきた僕としては、なんとなく、こういう光景がうれしくもあるのだ。


 アクァリウムというこの学校は、トート随一の自由な校風が売りでもある。


 だから僕は純血エルフであるところのイードに「口先ばっかりのモヤシメガネ」とか偏見を抱きたくないし、オーガ系の先祖がえりであるセキを「脳みそまで筋肉、筋肉、アンド筋肉」とかこれっぽっちも思ってないのだが。


「今回ばっかりは僕の中のレイシストをとめられそうにないぜ親友共」


 朝市の食堂で目にした光景に僕は毒づくことを止められなかった。


 僕らはパーティーこそ組んでいるが(というか、だからこそ)専門はそれぞれバラバラだ。僕がイードと肩を並べて近接戦闘の訓練に励む必要はないし、イードが僕と一緒に隠密行動を訓練する必要もない。もちろん、そういった専門技能を教える授業はそれぞれがそれぞれに必要なものだけをとっている。


 基礎学習の多かった一年生と違って自分の特性や役割が明確になってきた第二学年では、パーティーメンバーが学校で行動を共にするのは難しい。だから朝早くに食堂で集合することにしたのだが。


 まず、僕が食堂で目にしたのは上半身裸のセキがテーブルにがっしとしがみつき、肌が真っ黒な牛顔の大男と腕相撲しつつ、全身から湯気を立て苦悶の表情を浮かべる姿だった。


「さぁ張った張った! アクァリウムアームレスリング最強決定戦! いよいよ最終カードの決定だ! 学年一の呼び声高い黒き猛牛バルザック四年生に対するは無名の新人! セキ・キュルテン二年生だ! 両者すでにして満身創痍! これはセキ二年生の下克上もありえる展開だ! さぁさ一口10ジッタだよ! 張った張った!」


 見たことない猫獣人の生徒が食堂のお盆を勝手に使って賭けの胴元をやっている。なんだこれ。なんで僕のパーティーメンバーがなんか新たな戦いに身を投じてるの。


「どうやら面白いことになっているようですね」

「うぉっ!?」

「変な声を出すんじゃありません。寝起きの頭に響くでしょう」


 唐突に僕の真後ろから姿を現すメガネ・オブ・メガネことイードの頭にぴょこんとたったアホ毛を確認。


「ふむ。いかにセキといえど朝一の、しかも開放的なこの食堂では全力の三割も出せないでしょうね。あのバルザック四年生というのもバイソンオーガ(牛鬼)ですから条件は一緒でしょうが、何せ地力が違う。ここは固く賭けておくべきでしょうか」

「冷静に分析してるとこ悪いけどな、口先モヤシ。お前今寝起きっつった?」


 僕にガキとかガキとかガキとかいろいろ押し付けた挙句。

「明日は朝から用事がある気がするので報告は頼みました」とかのたまった上。

 いまさらっと僕の持ってる反省文の用紙から目をそらしながら。

 寝起きとかいったか貴様。


「細かいことを気にしていると子供の教育に悪いですよ。今手持ちに細かいのがないんですが、500ジッタほど貸してくれません?」

「やぁねあなた。この子ったらさっきからすやすや寝てるわ。だから、ここからは、お、と、な、の、じ、か、ん。具体的に言うとパーティー間の信頼とか金銭の貸し借りについての是非を問うたりとかな」

「500ぽっちも持ってないんですか。しみったれてますね」

「今すぐあのバトルフィールドと化したテーブルとお前の顔面交換してくるんなら無利子無担保で貸してやるよ」


 とか、なんとか。


 いってるあいだにも勝負は勝手に白熱し、猫獣人の手にあるお盆には見る見るうちに硬貨の山が積まれていく。トトカルチョの賭け券代わりに各テーブル備え付けのナイフとフォークが配られて行儀の悪いことこの上ない。ちなみにこの学校。こういうわけのわからんイベントが三日に一度はどこかで開催される。お前らまじめに勉強しろ。


「ブモォオ! やるじゃねぇか二年生の分際でぇええ!」

「ぐ、うう。こ、こんな程度で、先輩面、しないでくださいっ……!」


 なんか二人は二人で盛り上がってるし。


「セキ二年生で、20口」

「あいよ!」


 メガネは結局自腹で買ってるし。


「ぷりゅりゅりゅ……すぴー……もみゅもみゅ」


 トカゲっ子は寝ぼけてまたぞろ僕の服の袖噛むし。


 あれ、なんだろ。なんか、ちょっと視界がぼやけてきた……。


「神様、精霊様、魔法使い様……。この馬鹿どもに天罰を……。それが駄目ならいまここで僕を殺せ……」


 と、一応祈ってみたものの、まさかこんな祈りが届くと思わないじゃないですか。思わないでしょう? 人生そこまで甘くないよね。


 たまには届くんだなぁ、これが。


「あらあら……」


 衣擦れよりも静かに、月の光よりたおやかに、その声は食堂に響いた。


「皆さん、ずいぶん楽しそうになさって……」


 足音もなく、その人影は歩いていた。


 水晶ほど白くすける肌。黒曜石ほど黒い髪。前で合わせた両手の指は、あたかも石楠花の茎のよう。


 東部の民族衣装「キモノ」に身を包み、口元には慈母のごとき柔和な微笑み。糸目の目じりはほんわかと垂れ下がり、まっすぐ伸びた背筋からはまるで凛、と音が聞こえるようで。


 二メートル近(、、、、、、)い身長を除けば(、、、、、、、)上流階級向けの行儀の先生といわれても違和感のない女性が、しゃなりしゃなりと、歩を進める。


「り、りねね、りねっねっねっねねね……」

「せ、せん、せんせっ、先生っ、こ、ここここ、これは、これはですね」

「ちがっ、ちがっちちっち、違うんですよ! その! 違うんですよ!」


 そのたった一人のか弱い女性を前に、食堂で思うさま騒いでいた生徒たちは、真っ青を通り越し白くさえ見える顔色で、がたがたと震えながら後ずさりしていく。


 大型の肉食獣でも目にしたかのように、ぎこちない動きで人ごみが割れていき、どまんなかでいまだに腕を組み合ったままの二人まで、一直線に道が出来た。


 ついさっきまで顔を真っ赤に染め上げ、全身の筋肉を張り詰めていたバカ二人は、道の先の女性を瞬きも出来ずに見つめながら、歯をカチカチと鳴らす。


 ぽたり、と、誰かの汗が落ちる音がした。




「元気ですねぇ。バルザックくん。セキくん」

「せ、先生もっ、本日はっ、ご機嫌が美しくっ!」

「ブモ、ぼ、ぼ、僕たちっ。そうなんです元気なんですっ。元気で、仲良しでっ!」

「それはとってもいいことねぇ」


 うふふ、と女性が口元に手を当てて笑うと、二人も口元を引きつらせて笑った。


「ブモッ、ブモファハ、ハハハハ、そうだな、いいことだな、セキ二年生っ!」

「ハハ、アハハ。いいこと、いいことです、ね。バルザック先輩」


 アハハ、うふふ、ブモファハハ、と静まり返った食堂に響く笑い声ともいえない不協和音。


 ただ、僕は見逃さなかった。


「でもね、いっつも言ってるでしょう?」


 女性の糸目の隙間から、金色の光が漏れ出ているのを。


「食堂で、騒いじゃいけませんよ?」


 軽く、女性が握りこぶしを作る。


 彼女はそのまま、大男二人の板ばさみにされていた哀れなテーブルに、添えて。


「めっ」


 コツン、と軽く小突いた。


 瞬間。


 世界が揺れた。


***


 オーガ種というのは、総じて体が大きく、膂力に優れている。ただ当たり前に暮らすだけでメキメキと筋肉をつけていき、ギチギチに筋肉を緊張させれば生半可な刃物なんて役に立たない程になるというから、まったくもって理不尽な存在だ。


 しかして、かの種族の戦闘能力を絶対的なものにするのは、決してそれだけではない。


 オーガ種の『命』に生まれつき刻み込まれた魔術によって、彼らは特定の条件化においてのみ、その能力を数倍から数十倍に跳ね上げることが出来る。


 モノコーン(単角)種ならば新月の晩の山中、バイソン(牛鬼)種ならば明かりのない閉鎖空間といったような、特定されたフィールドで、感情を極限まで昂ぶらせることにより、他の種族では決して真似できない圧倒的な攻撃力を発揮するのだ。



 そして時折、その『特定の条件』という制約が、生まれつき外れているものが生まれることがある。それはつまり、おつむが茹ると即座にぶっ飛んだパワーをはじき出す、ということ。


 キモノの彼女もその一人。


 実働斥候(スカウト)科担当、リネット・アンガー先生。


 学院で一番、というか、きっとトートで一番、怒らせてはいけない女性である。


「まったく。こんなに散らかしてしまって。皆さんでちゃんと片付けするまでここから出てはいけませんよ?」


 腰に手を当ててぷりぷりと怒る様は非常に穏やかで優しげなのだが、食堂にいるアホタレどもは一人残らず無駄口もたたかず一心不乱に片付けに取り掛かった。理由はひとつ。命が惜しいからだ。


 何せリネット先生の目元からはいまだに金色の光がうっすら漏れている。オーガの激昂態特有の発光現象で、いまだに怒りがくすぶっている証だ。


 リネット先生、穏やかに見えて、実はすごく怒りの沸点が低い。


 あの目が見開かれ、全身から光がほとばしり、口調が若干荒くなった時は先生の怒りゲージ的なのが溜まってしまった時だ。たぶん学院は崩壊するだろう。大陸が割れるかもしれない。


 なにせあの「めっ」の一撃でテーブルは木っ端微塵に粉砕され燃えるごみと貸し、巻き起こった旋風でその場に居た全員の髪型がオールバックになり、間近に居たバルザック四年生と筋肉、(僕の)筋肉、アンド筋肉(パーティーメンバー)などは口から泡を吹いて白目をむいている始末だ。漏らさなかっただけ奇跡だと思う。僕もあと五十センチ近くにいたらちびってた。


「何より納得いかないのはあの胴元の猫獣人がまるまる掛け金持ち逃げしたことだけどな……。ああいう要領のいいやつがいるからうちの学校はイベントが絶えないんだよ……」

「同感です。今日の昼食代がなくなりました。融通してください」

「そういう金で賭け事するんじゃねぇよ無軌道メガネ。飾りか? その頭よさげなノーフレームメガネは飾りか?」

「セキが勝つに決まってると思ってたんですよ」

「……そりゃ僕もそう思ってたけどさ」


 リネット先生の到着が五分遅かったら僕の昼ご飯もなくなるところだった。


「というかですね、あなたスカウトでしょう。もうちょっと早めに危機を察知してください。それができなきゃなんの役に立つんですか」

「僕は魔術師ね。世界を背負う希代の新星にして後を越すものなき空前絶後の大魔導アルト・シュナイゼンとは僕のことだよ」

「なにをいうんですか魔術科全検定落第者、あなたあのオーガ女性型攻城兵装ことリネット先生の授業が一番成績いいでしょう。よっ、名斥候」

「その名斥候を育てたのが、今お前がうかつなあだ名をつけた、真後ろに立ってる淑女なんだよ?」

「え、ちょ、うそ」


 さらばだ、級友。

 ついに糸目を二ミリも開けてしまったリネット先生が君の後ろで金色のオーラ的なものを放っているが、僕には何もできない。命が惜しい。


 この人、このパワーで僕より速くて忍び足がうまい。


 今イードにアイアンクローをかけたまま平気で持ち上げているあのパワーが音もなく忍び寄って背後から飛んでくるわけだ。


 ……リネット先生ならやっぱりドラゴン相手でも勝てると思います。


「イードリアくん? 女性にそのようなことを言うなんて、悪いことですよ? きちんと謝罪しないといけません」


 リネット先生。イードリアくんは顔面を鷲づかみにされていては謝罪も返事もできないと思います。


「アルくんも、友人が道を踏み外そうとしているときにはきちんと引き戻してあげなくては。パーティーを正しい道に導くのが、正しいスカウトのあり方ですよ?」


 すばらしいお言葉ですが、このままだと友人をあの世から引き戻す必要が出てきそうです。


「……皆さん? 何で手が止まっているのかしら?」


 恐怖は人の体をたやすく麻痺させるからです!


 砕け散った元テーブルを拾う手がみんないつの間にか止まり、かといって一流スカウトであるリネット先生の感覚をすり抜けて離脱できる自信のあるものも居らず、もはや食堂は納骨堂にも似た気配に包まれている。


 迷宮でもなかなか感じないレベルの死の香り。ゆっくりと力が抜けていくイードの体。いまだに泡を吹いたままのセキとバルザック四年生。


「……シュトラウトくん」


 ぽつり、と先生がつぶやく。


「袖口が泥まみれですよ? 食堂には清潔な格好で来るように、と言われているでしょう?」

「は、ははは、はい! すいません! つい、今、さっきまで、迷宮に――!」

「指導事項一点」


 シュトラウトくんとやらの喉からコヒュゥッっと音が漏れて、彼も白目をむいてしまった。


「モートンくん、腰に着けているナイフも食堂に持ってきていいものじゃないわね? 指導事項一点」

「シュッ!?」

「マチルダさん、お化粧は色つきのリップクリームまでよ? 指導事項一点」

「ヒュコッ――」

「ウェンフくん、今胸ポケットにしまったのはリラ先生の写真ね? 女性を隠し撮りするなんてとんでもないことよ。特別指導事項一点」

「ゴボッ……!」

「ヨハンくんローブの裾がぼろぼろよ、指導事項一点」コポゥッ「マリアーネさん髪飾りが華美に過ぎるわ、指導事項一点」フォアッ「テッドくんはその傷まみれのブーツは磨くことができなかったのかしら? 指導事項一点」ハッハヒ「コーストホットくんはキーホルダーを足元に落として踏みつけているわね。貴重品管理不十分、指導事項一点」ポヒンッ「リーリットくんったら染めた髪を戻すように先月も言ったじゃないの。特別指導事項一点。フェフィエルさんのその短いスカートはどこで買ってきたのかしら? 指導事項一点。ボンゴバンゴくんがいま隠そうとして落としたのは賭博のカードね? 特別指導事項一点。クスノムくんは片づけが終わっていないのにどこへ行こうとしているの? 指導事項一点。ジーンバックさん。クスノムくんと逆方向に逃げようとしても無駄ですよ。指導事項一点――」


 目線さえ動かさずに次々と指摘を繰り返していくリネット先生に、端の生徒たちから順に白目をむいていく光景は、いっそ壮観でさえあった。


 今呼ばれたものはたぶん必修の総合体育あたりでとんでもないことをさせられる羽目になるだろう。


 よかった。


 髪染める金もなくて、洒落た服買う金もなくて、朝一からリラ先生んとこ行くからってきっちり服にもアイロンかけてて。


 本当によかった――。


「アルくん」

「ハイッ!」

「その、何かにかじられたようなぼろぼろの袖はなにかしら?」


 ……。


 あ。

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