理Ⅲ④~ウソっぱち
うとうとしながら"朝のワイドショー"を思い出す。
進学校のネームバリューから"理Ⅲ合格者"のひとりとしてテレビである。
女子アナは怪訝さもなく流暢にインタビュー。時間にして数秒間の出来事。
「合格おめでとうございます。立派なお医者さまになってください」
立派な医者?
ハッとした。
新幹線の座席で"医者"の二文字に目覚めてしまう。
「そうだ!」
滑り止め医科大は合格している。東大はダメだったが医者にはなれる。
嘘つきではない朝のインタビュー。
女子アナは忙しくして受験生をつかまえた。
受験番号No.11のインタビューは一塵の風のごとくである。
"すいませんインタビューをお願いします"
東大の合格者として
理Ⅲの合格者となって
テレビに
僕は嘘つきじゃあない!
「テレビ局が間違ってインタビューしたんだ。ひょっとしたら」
悪いのはテレビなんだ。
僕は嘘つきではない…悪くない。
理Ⅲは…
テレビは特別に合格者を識別しているのか?
"…不合格は気のせい?"
合格の掲示板が脳裏にぼんやり見える。
「東大の掲示板は特殊なのか」
日本の最難関学部ゆえ理Ⅲは合格発表を"二段階"で行っている…(かもしれない)
(最優秀合格者と優秀合格者)
本日は優秀合格者だけ掲示した。
(僕は最優秀な合格者なんだ。二段階の合格発表に名前があるんだ)
ぐちゃぐちゃな受験票No.11を開いた。
脳裏に架空の合格者が浮かぶ
夢見心地なのは…受け入れたくはないが不合格が現実ではないか。
二重の合格者かも…
"不合格の悔し涙"がこぼれて来なくなった。
「インタビューしたあのお姉さんの言うように」
僕は…理Ⅲに落ちてはいない!
二段階の次の合格者ではないか。
毎年100余を越える東大合格者を輩出するエリート進学校である。
"合格の特別枠"
腰をあげて座席に座り直すと本郷での様子を思い出す。
「僕の周りにクラスメイトは誰も寄ってこなかった」
理Ⅲ"合格"は特別な存在であるわけだ。
クラスメイトは引率した進路指導の教師の元に集まっていく。
掲示板に名前がった同級生は理Ⅲ合格の喜びを分かち合っていた。
同じ理Ⅲ受験のクラスメイトと擦れ違いに視線が合った!
「…」
最難関学部に合格は成功者。
不合格は敗者たる敗者
勝者は人生の栄光をつかみ(受験の)敗者は敗北し惨めな人生が待つ?
東大医を謳歌できるクラスメイト
"非東大"が決まった男とは明暗はっきり現れてしまった。
「中高6年は常に勝った負けただけの試験漬けだった」
ちらっと見た同級生たち。
まさかなっ…
嬉しく笑っていた同級生は学年トップの常連。進学校6年は常に上位をキープした成績である。
しかし全員が全員笑っていなかった。
最難関理Ⅲは落ちるのである。
日本最難関の理Ⅲは成績よくても落ちるのである。
受かったクラスメイトは鼻高々と合格を鼓舞して止まない。
進学校でトップ成績も不合格を知る。
惨めに東大本郷を去る。
取り立てて特殊な感情を優越感を抱くこともなかった。
…だが二重合格者となるから
理Ⅲは不合格だとは言い切れない!
「東大医学部に行きたいのは僕ら医者の息子の願いなんだ」
日本80医学部の頂点にある医学部として理Ⅲを第1志望にした。
日本中の受験生での競いに勝たなくてはならない。
全国の受験生のトップテンを常にキープしていかなければならない。
中学時代には迷いもあった。
「何も東大医学部がベストではない。いくらでも大学はあるんだ」
国立私立を含め80大学もある。
進学校のライバルは心で思う。
医学部にさえ行けば"医者"になれる。
だが現実は違っていた。
「あいつも俺も父親は開業医。私大医(滑り止め)受かっている」
80もある医系。大学名を選らばなければ…
私大医から医者になれる。
理Ⅲ・京大医
ところが中高6年で国立大でなくても"普通の医学部"は行けなくなる。
在籍した理系クラスでトップを取ってしまう。
トップを見た生徒は例外なく医学部を受験し最高峰は理Ⅲか京大医に進学をする。
トップが医学部の最高峰を受けることは不文律とクラスメイトにあった。
進学校の生徒は医者の師弟が大半。成績別のAクラスはほぼ全員であった。
否応なしに大学は決まってしまった。
「お父さんは街のお医者さん。開業医なんだ」
地元のみなさまに愛される街のお医者さん。
父親は進路先にまずならない"三流国立大医学部"出身だった。
田舎の高校から苦学し医学部へ。
学費捻出に苦慮する医学生の時代に先代(祖父)に目をかけてもらう。
先代の祖父は片田舎の開業医。街のお医者さんでひとり娘(母親)がいた。
先代は苦学する医学生を気に入り跡取りにしたくなる。
三流医学部から都市で開業医になるには至難の業である。
婿養子に入って今の開業内科医院を譲りたいと申し出た。
医学生とは言えサラリーマンの家庭育ち。開業医になれる条件である。
幸せなことに"養子ひとり娘"は色白な美人であった。
政略結婚の犠牲者たる父親の好みのタイプだったようだ。
医院の婿になり跡取りの重責を担う父親。
新婚時代に長男に恵まれ"直系の跡取り"が誕生する。
この男児誕生は先代が大喜びした。
「でかした!でかしたぞ」
自分に男の子がなかったことも手伝ってよほど嬉しかった。
内科医の仕事そっちのけで赤ん坊の世話をしてしまい"小児科"にまで詳しくなってしまう。
男児は英才教育を受け育ち進学校中学受験をする。
「おおっでかした!孫はトップクラスで(中学)合格をした」
祖父はできのいい孫がますます好きになった。
合格した中高6年一貫は日本で一番医学部に合格する学校
言わば医学部附属中高校であった。
先代(祖父)-父親(婿養子)と二代続く医系家族
三代目はひとりっ子の肩にかかっている