理Ⅲ②~合格したのか
合格発表の日である。
東大の代名詞"赤門"は受験生・父兄と野次馬で溢れかえり加賀の大名屋敷の伝統の赤門が開門されるを待ちきれない。
溢れるのは受験生ばかりではなかった。
「うわっ~さすが東大!テレビが騒いでいる」
テレビ局中継車両がずらりと東大正門前から一筋奥の通りにまで並ぶ。
「東大合格の喜びを毎年テレビ局が生中継するんだ」
受験生はテレビ中継を知っている。(YouTubeにもある)
細身な女子アナが赤門の前にちょこんと立ち受験生にマイクを向ける。
「朝早くの東大は人混みばかりです。いらっしゃいますのは憧れの東大を受験されたみなさん」
憧れの大学・東大…中継担当女子アナしばしの興奮を覚える。
東京大学・合格者名簿に名前が挙がれば"おめでとう東京大学"
胸がはち切れんばかりの喜び。
(発表前に)女子アナは受験生をつかまえてインタビュー予行演習をしてみる。
「えっと…。あらっあの学生服ね!あの子がよろしくてよ」
日本有数な進学校の学生服がありネームバリューは絶大である。
「インタビューよろしいかしら」
(発表前に)マイクを向けると…
受験生は"高校名を誇らしげに告げる"インタビューに答える。
「東大(入試)は思った通り簡単でした。僕は法学部に進みます。日本最高峰の司法の世界で学びたい。祖父と父・親戚にもいる母校だし。最終的には弁護士になりたいから」
すらすらと淀みなく自慢話しをインテリ風に語る。
はあっ~
開門されたら東大職員が現れ手際よく白い合格発表用紙を張り出した。
「定時になりますので文Ⅰから合格発表します」
サアッ~と開いていく。
ワアッ~
目をしっかり見開き掲示板にある受験番号を探していく。
キャア~
あった!
あった!
やったあっ~
いつもある大学合格者の喜びの瞬間である。
「文系(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)から発表か」
キャア~キャ!
合格の掲示板。
喜びの四千人余が歓声をあげ新東大生となっていく。
「理Ⅲ」は東大の真打ちである。最後の最後にサアッ~と約100人定員が張り出される。
「さあっ残りは理Ⅲだ。テレビクルーは100人の合格者全員の素顔をカメラに収めるんだ」
理Ⅲは他の局も狙い目である。女子アナは先を越されぬように新東大(理Ⅲ)生にスタンバイする。
私大文系のアナウンサーはすっかり東大というブランドに酔っている。
「理Ⅲはエリートの中のエリートだもん。すごい勉強をしたんだろうなあ」
東大入試などおよそ解けない女子アナは知識よりも容姿端麗が自慢である。
東大合格でもエリート意識満開というのに…
「東大」ときてプラス「医学部」である。難関大学の中の最難関学部は最高峰という存在。
「私もどんな子が理Ⅲに合格なのか知りたいなあ」
報道機関のアナウンサーより俗っぽい興味から見たくなる。
「では"理Ⅲ"の発表に移ります」
大学職員は短めな合格発表の白いロールを取り出した。
小さな小さな張り紙がチョロチョロ。(約100名)
最難関の医学部はたったの100名。受験競争の最難関勝利者はこれだけである。
サアッ~と張り出された受験番号
1番から続き番号の合格で欠番がなかった。
「受験番号が続きの…(合格者が)連番かい」
地方進学校の教師は上京し東大入試窓口に出向いている。本学の受験生を初番から順にと連番手続きを済ませている。
「凄い凄い!」
連番を見た女子アナだけでなくテレビクルーも驚く。
No.1~No.10が綺麗に並び欠番はなかった。
…(No.11不合格)
No.12から再び合格者は並んでいた。
やったあっ~
受かったぁ~
合格した受験生が絶叫する
高校の教師が万歳三唱!
予備校の関係者が掲示板をメモしながら受験番号に追随し喜びを表す。
「おめでとう」
理Ⅲになれた合格者に悲喜こもごもなことであった。
毎年15人前後の合格者を輩出するエリート進学校が躍進している。
進路指導の教諭は合格者数の多さに胸がわくわくしてしまう。
「20人近いぞ理Ⅲ合格者」
大躍進は教頭と校長に胸を張って祝福報告である。
PTAに威張って報告だ
「他の東大理系も昨年度をはるかに上回った合格者」
(新聞記者の速報値)
今年の3年はいたって質が良かった。
ライバル校の動向が気になるところでもある。
「我が校始まって以来の20(の大台)かな」
嬉しい教諭はメガネを前後にやり掲示板に焦点を合わせた。
あまりの喜びから受験番号を数え間違いをする。
テレビ局スタッフは合格者(出身高校名)を聞いて回った。
新東大生を片っ端から"キャッチ"(インタビュー)してくれ
「ハイわかりました」
ワイワイと歓喜の渦を見た女子アナはマイクを向けた。
受験生は狂喜乱舞し"嬉しいです""信じられない"など平常心にない受けごたえ。
「マイク向けても"まともな答え"が期待できないなあ」
ちんぷんかんぷんはインタビューにならない。
泣き叫び
髪の毛をくしゃくしゃ
親御に抱きつく光景
「あんな子にインタビューしたらいけない」
ぐるぐる見渡してみる
女子アナの経験からこの子にインタビューしたら
"よい画"が取れる!
「いたわっ!あの子にするわ」
理Ⅲ合格の掲示板をじっと見つめている。比較的無表情な顔つきは落ち着きが感じられた。
じわじわ難関な理Ⅲをクリアした喜びを実感してもいるのであろう!
女子アナはマイクをギュッと握りしめカメラマンを手招き。
物静かな受験生に向けた。
うん?
マイクがニョキっと目の前に出た。
細い女子アナの腕から"落ち着き払う"受験生の前にヒョイッ。
ギョッ!
"…(なんだ!)いきなり…"
テレビ中継のマイクが来たぞ
ギクッ
ピクッ
受験生は目をひんむいて驚く。
「(理Ⅲ合格)おめでとうございます。どちらの高校でございますか」
"不合格なんだぞ!僕は…"
が…プライド高い進学校は不名誉は語らない。
女子アナは可愛らしい女の子で芳しき香水も刺激的だった。
はあっ~突然なインタビューは~
でもカワイコチャンではないか
(可愛い女子アナがいると思い)頭の中は…
パニック!
マイクに合格を喜びを話しなさいと言われた受験生。
手に握りしめる"不合格『受験番号11』"をそっと隠した。
「ハッハイ僕は…」
エリート意識強烈な高校名をすらすらと名乗った。
「あらあらっ」
エリート好き
収入のあるプロ野球好き
それが局の女子アナである。
これはこれは大変な進学校に当たりましたわっ
小さな胸がトキメイテしまう。
女子アナは合格していない"受験番号11の受験生"に合格の喜びを尋ねる。
インタビューは数十秒。
「よく(受験勉強を)頑張りましたね。素敵なお医者さまになってください」
インタビューというより女子アナひとりが一般的な受け応えに終始しただけである。
「はあっ~(素敵な医者って)」
"インタビュー受ける僕は理Ⅲ受験失敗をしているんだから…"
女子アナは受験生を掴まえて"合格者"の喜びをお茶の間に伝えていく。
それは単に流れ作業の一環というもの。
進学校の名はテレビ画面でインパクトである。
当然に視聴者はテレビのワイドショーに釘付けである。
テレビを見ていた母校では…
「今のインタビューは我が校の生徒ですね。学生服も校章の襟に記章がありました」
顔つきから"医薬特進Aクラス"の生徒でございます。
「今年の理Ⅲは素晴らしい。東大全体にも指導が良かったんだね。例年を上回る合格者だなっ」
留守番をする本校は早く週刊誌の『東大・京大』合格発表が待ち遠しい。
「合格した生徒は頑張ったなあ」
好成績をあげた生徒を褒めてあげたい。あくまでも合格者である。
教師にしたら"不合格の生徒"は視野にないのである。
力及ばないまま不合格とは進学校の生徒とは思わない。
「受験番号11」はインタビューを受けたため
母校は合格したものと"カウント"をしていく。
女子アナは"理Ⅲ合格者"インタビューである。
テレビに映り出た受験生は合格者だけである