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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
葉月と俺の関係とは
7/100

思惑と想いと感じる事と

状況を説明しよう。


俺。 今、ベッドの上で横になっている。


葉月はづき。 その横ですやすやと眠っている。


凄く簡単に、今の状況を分かりやすく丁寧に纏めてみた。 なるほど、全っ然! 意味が分からない!


「……んん」


少し離れて寝ている葉月は、寝息を漏らす。 体を丸めて、すやすやと気持ちよさそうに眠る姿は、まるで猫か或いは妖精のようだ。


「なんだこの状況は……」


頭が痛くなる状況。 こんな状況になったのにもしっかり理由はあって、断じて変なことでは無いのだけど……。


遡ること数十分前だ。 俺と葉月はアニメを見終わって、その感想をお互いにワイワイと話して、そろそろ帰ろうかとなった時のこと。




「んじゃ、俺はそろそろ帰るよ。 明日も学校あるし、さっき言ってた犯人のこともあるし」


「うん。 明日はバトル。 体力を温存して」


「バトルってな……。 絶対今見てたアニメに影響受けているだろ」


「そうかもしれない」


良くも悪くも、こいつはすぐに影響を受けるんだ。 一番分かりやすいのはこの髪型。 何でも、好きなアニメのキャラを真似しているらしい。 こいつの端正な顔立ちのおかげで良く似合っているのが救いだけど。


「影響受けるのもほどほどにな。 それじゃ、また明日」


「また明日。 ばいばい」


俺の言葉に、葉月は手を振りながら言う。 小さな手を振る姿はやはり、どこか人形じみている。


まぁ帰るとは言っても、さすがにこの時間では秘密の通路を使って帰るしかない。 玄関なんて鍵が掛かっているだろうし。


というわけで、俺は秘密の通路を塞いでいる木の板に手を掛けたのだが。


いつもなら、軽く持ち上げただけで開く。 だが、何故か今日はそれが上手くいかない。


「あれ? なんだこれ」


暗くて良く見えないが、板の位置がいつもと違う……ような気がするな。 なんだ?


「あ」


俺がその板をガタガタと鳴らしながら懸命に開けようとしていたところ、葉月がすぐ後ろで思い出したかのようにそう言った。


「……どした?」


「さっき、裕哉ゆうやを殴った時に足がぶつかった。 それで」


「それで?」


「それで……めり込んだ?」


「可愛くねえ!」


いつもみたいに首を傾げながら言う葉月の頭を軽く叩き、俺はツッコミを入れる。 いやそんなツッコミとかしてる場合じゃないけど。


「でも、裕哉。 思いっきり引っ張れば大丈夫」


「普段ならな。 けど、こんな夜遅くにそんなことしたら、間違いなく桜夜さよか母さんが起きる。 それでバレたら、お終いだぞ」


「問題無い」


「おお……いつもよりやけに自信たっぷりだな。 何か妙案でもあるのか?」


裕哉ゆうやに責任を押し付ける。 それで、大丈夫」


「大丈夫じゃねえよアホ!」


「ご、ごめんなひゃい……ひ、ひっぱららいれ。 いたひ」


「ならそんな恩知らずなことを言うな。 分かったか」


これは本当にどうでも良いことだが、こいつのほっぺたって凄い柔らかいな。 まるでマシュマロみたいだ。 どうでも良いけど。


「……でも、妙案があるのはほんと」


「次変なことを言ったら、揺らしながらほっぺた引っ張るぞ」


「大丈夫。 裕哉、私の部屋で寝れば良い」


「……え? なんつった?」


「私の部屋で寝れば良い。 ベッドもある」


「……いやそれはマズイだろ! マズイし、駄目だろ!?」


「どうして?」


「どうしてって……」


こいつ、理解してないのか。 男と女が一つの部屋で寝るって、そりゃもうマズイって。 さすがに。


「私は別に良い。 裕哉も良いでしょ?」


「……いや良くないって。 てか、それでもやっぱり同じベッドってのはマズイだろ。 他に布団とか無いのか? 客用のとかさ」


「お母さんと、お父さんのならある。 使う?」


「おお、ならそっちで、違う部屋で使うよ。 どこにあるんだ?」


「裕哉が選べるのは、三つ」


葉月は真っ直ぐ俺の事を見ながら、手の平を俺に向ける。 指を三本突き出して。


「三つ?」


「一つは、四十超えのおばさんの布団」


言って、薬指を折り曲げる。 その折り曲げる際に釣られて中指も一緒に折れ曲がっていたが、すぐに葉月は元に戻す。


「もう一つは、五十近いおじさんの布団。 加齢臭」


言って、葉月は中指を折り曲げる。 今度は人差し指が釣られる事は無かった。


「最後は、私の布団。 良い香り」


最後に人差し指を折り曲げて、グーの形になった手を降ろし、ひと言。


「どれにする?」


「今すぐ両親に謝れッ!! 土下座して謝れっ!」


「今すぐは無理。 居ないから」


「冷静な返しどうも……」


確かにそうだけどな。 そうだけど、葉月自身は「寂しい」って前に言っていた事をそうもあっさり言われてしまうと、何だか俺が悪い事を言ってしまった気がするよ。


「……どれが良い? 裕哉」


しかし当の本人である葉月は全く気にしておらず、再度俺に問う。


「いやだから、普通にどっちでも良いって。 葉月の以外だったら」


「……実は、昨日ゴミに出して無い」


「すぐ分かる嘘は言わんでいい。 俺が探すわけにはいかないから、場所に案内してくれよ」


「……やだ」


やだって。 勘弁してくれよ……。 どうしてこいつはそこまで自分のベッドに寝かせたがるんだ? 普通、逆じゃないか? 確かに俺と葉月は仲良いけど、それでも普通は嫌な物だと思うが。


「やだじゃないって……。 ああもう仕方ねえ、怒られるの覚悟で玄関から行くか……」


「……待って、裕哉」


そう言って、葉月は俺の服の裾を掴む。


「何だよ?」


「……怖いの。 一人は」


「怖いって、いっつも一人で寝てるんだろ?」


「うん。 そう」


「だけど、今日は一緒の時間が長かった。 だから、()()


「それは怖いじゃなくて寂しいっていうんじゃないのか……」


まぁ、俺もあまり人のことは言えまい。 寝る時になって寂しくなったりするのも、たまーにあるし。 けどなぁ、だからと言ってなぁ。


「裕哉、お願い」


「……そこは命令って言っとけよ」


「それなら、命令」


「……はぁあああ。 ああもう分かった分かった! だけど今日だけだからな! それと、距離は置いて寝ろよ。 分かったか?」


「うん。 分かった」


ほんの少しほっとした声色を出して、葉月は言う。 本当に僅かな物だけど、そういう小さな物から葉月の感情が伝わってきた気がした。


「んじゃ、おやすみ」


それから俺と葉月は布団に入る。 俺は毛布を借りてその中に包まって、葉月は掛け布団で。


「おやすみ」


こうして、冒頭へと戻るわけだ。




「……というか、無防備すぎるだろさすがに」


何の警戒もしておらず、葉月は俺の方を向いて、体を丸めてすやすやと眠っている。 何もしていないのに、何だか悪いことをしている気分だな。


「これ絶対俺寝れないパターンだ……普通に寝れる方がおかしいだろ、まず。 このお人形さんは気持ちよさそうに寝てるけどさ……」


だって、俺が葉月の立場だったとして……一応友達ではあるが、会ってからまだ一ヶ月そこらだぞ? それで同じベッドで寝るとか、俺が女だったら絶対に嫌なんだけど……。


それだけ、葉月は俺の事を信じてるってことか? もしもそうならそれは喜んで良い物なのか。 状況的には少し、難しいけども。


……そういえばさっき、気になる事を言っていたっけ。 葉月。


顔を見たら分かるだとか、なんとか。 あれは一体どういう意味なんだろう? 俺の顔を見て、することが分かった……ってことで良いのかな?


ううむ、考えれば考える程分からん。 明日にでも、葉月に聞いてみようかなぁ。


それよりあれだ、そんなことより今はどうやって朝までこの状況を凌ぐかってことだ。 正直に言うと、葉月が行った通りにこいつのベッドは良い香りがする。 多分、葉月が使っているシャンプーだとかの、そういう類の匂い。


……って俺は何を考えているんだよ。 確かにこいつはこうして眠っている分には結構可愛いとは思うが……あの性格だぞ。 俺をいじめてくる葉月だぞ。


深夜ということもあり、少し思考回路が鈍っているんだな。 これで相手が葉山はやまとかだったら、俺はもう大変なことになってただろう。 良かった、葉月で。


そんな風につらつらと考えながら時間を過ごす。 もう、一時間くらいは経ったんじゃないだろうか?


「……おいおい、冗談じゃ無いぞ」


しかし、無情にも時計の針は三個程しか進んでいない。 勿論、長針の方が。


こんな風に朝まで寝られない状態が続いていくとか、軽く拷問だ……。




「……ゆうや、ゆうや」


「……ん?」


「裕哉、起きて。 学校に遅刻する」


「……やべえ、めっちゃ爆睡してた」


自分で自分の無神経っぷりに驚いた。 多分、葉月だったからこんなことになったのだろう。 葉山が相手だったら間違いなく、緊張して眠れなかったはず! 多分。


「おお……おはよう」


「おはよう」


「……今、何時だ?」


「朝の九時」


「遅刻するじゃない! もう遅刻確定じゃないか!!」


登校時間は朝の八時三十分。 行くまでに電車に乗って三十分程は掛かるので、明らかに遅刻である。


「それより、朝ご飯」


「いやそんなの食べてる暇無いだろ」


「作った」


「だから、急いで学校に行かないと……」


「裕哉の分も作った」


「……はぁああ。 分かったよ。 食べる食べる」


結局押し切られる形で俺は葉月の作った朝飯を食べて(やはりかなり美味い。 こう言ってはあれだけど、母親が作るのよりも美味い)、俺は一旦自分の部屋へと戻る。


どうやら親は俺が早くに出て行ったと思ったようで、携帯にメールが一件届いていた。 内容は「毎朝そのくらい早く出れば楽ができる」とのこと。


俺の親は結構放任主義なところがあり、部屋には勝手に入らいないし洗濯物も自分で片付けなければそのまま。 だから、俺が履いている靴のチェックもしておらず、この場合はそれが良い方向へと傾いてくれたようである。


しかしまぁ、いくら部屋の鍵を掛けたところでこの秘密の通路がある限り、どちらかの部屋が空いていれば行き来することが出来るってのは防犯上どうなんだろうか。 空き巣に入った奴がこの通路の存在に気付くかどうかはさておき。


「裕哉、大変」


と、言いながら秘密の通路から頭だけを出して葉月は言う。 せめて来る前に何かしらの合図をしろ。 着替えていたらどうするんだよ。


こいつがこうやって唐突に俺を尋ねることは珍しく無いけど……いきなり来ると、本当に心臓に悪い。 この前なんて、風呂から出て部屋に行ったら葉月がベッドの上でゴロゴロしてたからな。 その時は驚く以前に張り倒そうかと思ったけどな。


「どうした? 何か無くしたか?」


葉月はしょっちゅう物を無くすのでそう尋ねたところ、こう返答があった。


「見逃してたアニメの再放送が始まる」


「……」


無視しよう。 無視して俺は学校へ行く準備をしよう。 それが懸命だ。


「裕哉、再放送が始まる」


「知るか! 俺は学校へ行くから一人で見てろ!」


「……仕方ない。 録画しておく」


最初からそうしろ。 てか、こいつはそれを聞いた俺が「本当か!? よっしゃ一緒に見よう! 学校とか行ってられない!」とか言うと思ったのだろうか。 だとしたら物凄く心外なんだけど。


「俺の方はもう準備終わったから、録画の設定終わったら行くぞ」


「分かった。 すぐに設定する」


「……なんか葉月と一緒に居るようになってから、めっちゃ遅刻してる気がする」


「気のせい」


「だと良いけど」


今日は放課後、特に予定は無い。 ある一つのことを除いて。


葉月から聞いた真犯人との待ち合わせをしなければならないんだ。 未だに半信半疑な部分はあるけど、信じるって言ってしまったし。


けどなぁ。 だけどなぁ。 本気だよな、やっぱりあれって。


……まぁ、もしも違ったらその時はその時だ。 信じないで後悔するより、信じて後悔してみようじゃないか。 なるようになれ、ってことだな。


「じゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


「いってらっしゃいじゃねえ! 葉月も行くんだよ!!」


全く、油断も隙も無い奴だ。 危うく普通に葉月を置いて学校へ行ってしまうところだった。




「で、どうして俺はここに居る?」


「裕哉、見て」


葉月は言いながら、頭の上に猫を乗せながら俺の方を向く。 猫はなんとも気持ちよさそうに、葉月の頭の上で眠っていた。


「待て、状況が飲み込めない」


「裕哉が行こうって。 猫カフェ」


「そうだっけ?」


「うん。 そう」


「嘘を付くなッ!」


そう言いながら、俺はいつも通りに葉月の頭を軽く小突こうとしたのだが。


「ぐっ……。 くそ……」


猫が乗っている所為で叩け無い。 素晴らしい防御術だ。


「裕哉、どうしたの」


「……何でも無い! それより葉月、連絡取れたのか?」


「裕哉、猫に好かれてる」


うるさい。 昔からそうなんだよ、歩いていると気付けば後ろから猫が付いてきていたり、犬が付いてきていたり。 全く嬉しくないことに、何故か動物に好かれやすいんだ。


その所為で今もこうやって、頭の上と肩と膝の上が猫によって占領されてしまっている。


「俺が猫に好かれてるか好かれてないかはどうでもいい。 大藤おおどう先生とは連絡取れたのか?」


「大藤? 誰?」


「……一応、担任の先生なんだけど」


「ああ、あの人」


やはり礼儀知らずだ。 まぁ、大藤共治きょうじに対しては礼儀知らずでも良いかもだけどさ。


「取れた。 昼までには来いとのこと」


「また適当だな……。 けど、仕方ないよなぁ」


外は大荒れ。 強風は吹き荒れ、雨は横殴り状態。 どうやら今日は、季節外れの台風が直撃とのこと。 俺も葉月もそんなことは全く知らず、呑気に家から歩いて駅まで来ていた。 段々強くなっていった風とかで、あれこれってヤバイんじゃないかと思っている内に、とてもじゃないが出歩けない状態へとなってしまったのだ。 当然、電車も運転見合わせ中。


そんなことがあった所為で、今はこうして葉月と一緒に猫カフェへと来ている。 丁度良い場所がここしか無かったからであって、別に俺が猫が好きだからって理由では無い。 葉月はどうか知らないけど。


「やっぱ、猫は可愛い」


「まーな。 それは分かるけど」


「裕哉、この猫欲しい」


「そうか。 それは俺じゃなくて店員さんに言ってくれ」


「……」


そんな悲しそうにするなよ。 そこまで落ち込む程のことか?


「……ったく。 それなら、暇な時に来るか? 俺も付き合うから」


「ほんと?」


「本当だよ。 嘘付いてどうすんだ」


「うん。 じゃあ、また来る」


「……おう」


またしてもすることが増えてしまった。 ただでさえ最近は忙しいっていうのに。 まぁ、暇するよりは良いけどさ。


「ん? おい、葉月。 あれって」


「どれ?」


「あそこだよ。 あそこで、雨宿りしてる奴」


俺が指さす先には、コンビニの入り口でスマホをいじる一人の人物。 どうやらあの様子だと……俺達と同様にここまで来たは良いが、途中で立ち往生してしまったようだな。


「……あ」


「どうする? 行くか?」


俺が未だに猫を頭に乗せている葉月に聞くと、葉月はその人物をしばし眺めて、言った。


「……うん。 行く」


さて、それじゃあ行くとしますか。 タイミング的にもどうせ今日やることではあったし。 時間もあるので丁度良い。 話を聞くには、今回の場合は人が居ない方が良いしな。




「ちょっと良いか?」


俺と葉月は猫カフェから出ると、コンビニの前でスマホをいじっている人物の元へ行く。 すぐ近くに行って、声を掛けたところでようやく携帯から視線を外して、俺達の方に顔を向けた。


「……八乙女やおとめ君に、神宮じんぐうさん? 嘘! こんなところで会うなんてびっくり!」


いつもの笑顔で、いつもの調子で、葉山歌音うたねは言う。


「ああ、そうだな。 俺もびっくりしたよ。 で、ちょっと良いか? 話があるんだ」


「え? 八乙女君から私に? あはは、何だろう?」


「あのさ」


そう、言おうとしたところで、葉月が口を開いた。


「どうして、あんなことをしたの?」


……おいおい、いきなり直球で行ったな。 もうちょっと誘導的にする物じゃないのか、普通。


まぁ、別に良いか。 普通でも普通じゃなくても。


「あんなこと? あんなことって、何のことかな? 神宮さん」


「人気投票。 葉山がやったこと」


「へ? 私が?」


「そう。 理由が知りたい」


「いやいやちょっと待ってよ! 何で私がそんなことをしないといけないの? それに、私だって神宮さんと一緒で、被害者なのに」


「違う。 嘘吐かないで」


「……嘘じゃないって。 八乙女君、八乙女君もそう思ってるの? 私がしたことだって」


「いや、俺は……」


葉月の言った言葉。 理由も、しっかりとした証拠も無く、葉月は葉山が犯人だと断言したのだ。


迷いがない言葉で、俺の顔をしっかりと見て。


本来だったら、もっと調べに調べきってから言うべきことだ。 これは明らかに、葉山のことを疑っていることが本人にバレるから。


もしも違ったら、それは葉山に対して物凄く失礼なことになる。 それはもう、二度と関係が修復出来ない程に。


「俺は」


俺のことを上目遣いで見てくる葉山。 本当に、こんな奴があんな性格の悪いことをしたとは思えない。 心の底から、思えない。


葉山と葉月。 比べたら、何を取っても多分、葉山の方が上だろう。 葉山は頭も良いし、運動も出来ないって程でも無い。 性格だってこの通りだし、クラスの奴からの人気はダントツだ。


だって、俺が犯人捜しを手伝ってくれと言った時もこいつは協力的だったし、最初にその現場を見た時、すぐに怒ってたじゃないか。 今までに見たこと無いくらい怒って、何をしているんだって。 川村かわむらに対しても、()()()()()()()()()って。


「……俺は」


……あれ? いや、ちょっと待てよ。 何か()()()()ないか?


あの日、俺が学校に来たら既に人気投票は始まっていて、確か蒼汰そうたに聞いたんだ。 何だよこの状況はって。


だって、分からなかったから。 何が行われているのかが分からなかったから。 これだけならまだ、察しが良い奴だったり頭の回転が良い奴だったら、すぐに状況を把握出来るかもしれない。 それこそ葉山くらい頭が良ければ。


だけど、そんな葉山でも分からない事だってあるはずだ。 例えば。


――――――――――どうして、皆が素直に投票をしているか。


「俺は、葉月と同じ考えだよ。 葉山」


それをすぐに葉山は把握出来たんだ。 普通じゃ絶対に出来ないだろう事を。 だが、もしも犯人ならば……それは辻褄が合ってしまう。


「……そっか。 気付かれちゃったんだ」


葉山は項垂れて、悲しそうな声でそう言った。 本当に、こんな奴がやったとは思えない。 思いたくも無い。


葉山に対しては怒りというか、どうしてだろうという疑問がまず浮かんできた。 勿論怒りも湧いてきたけど、その矛先は葉山ではない。 俺自身だ。


結局、俺がさっき葉山に対して言った言葉。 葉月と同じ考えだ。 という言葉。 それは不審な点に気付いただけであって、葉月の事を信用して、信頼して言った言葉では無かったら。


それがどうしようも無く頭に来て、自分自身に腹が立つ。 これじゃあ葉月の事を裏切ったと同じじゃないか。


しかし、葉月には俺の考えなど分かるはずもなく、言う。


「どうしてやったの。 葉山」


「……」


しばらく項垂れて、葉山はゆっくりと顔を上げる。 その顔は、笑っていた。


「……チッ。 あーあ、上手いこと騙されてるなーって思ってたんだけど。 いつ気付いたの? 神宮さん」


「いやちょっと待てよ! お前キャラ変わりすぎだぞ!!」


「は? そんなの当たり前でしょ。 そうやって人気になりそうなキャラを作ってるんだから。 八乙女君も、私がこの前話し掛けた時すっごいびっくりしてたし? あはは!」


「……えっと、じゃあ、俺と一緒に二人三脚やろうって言ったのは?」


「決まってるでしょ。 そこの黒髪人形が気に入らなかったから。 それだけ」


なんてこった。 最早変わり身というより、生まれ変わりじゃないか! まるで葉月が良く見ているアニメに出てくる典型的なキャラだなおい!


「裕哉」


「……え? ああ、何だ?」


「こいつ、性格悪い」


そう言い、葉山を指さす葉月。 そういう葉月も相当悪いからな。 人のことを指さすんじゃない。


「んで! 私がやったとかやってないとか、そんなの正直どうでも良いの。 いつ気付いたの? 黒髪人形さん」


「裕哉、いつ気付いたの?」


「なんで俺なんだよ!! 黒髪人形って明らかに葉月のことだろうが!!」


確かに俺も髪は黒だけど、人形と呼ばれる程、無表情じゃないし。


「そうなの? 葉山」


「チッ……。 いつ気付いたんですか、神宮さん」


一々舌打ちをするなよ。 凄い怖いんだけど。


「最初」


「は? 最初って、私がせっせと工作して、朝、皆が馬鹿みたいに私に投票してた時?」


「違う。 もっと前」


「……もっと前? でも、私がやろうって思ったのは、八乙女君が神宮さんと遊ぶようになってからなんだけど。 決めたのだって、色々仕込みをするすぐ前だし。 思い立ったら即行動だからね。 私」


「そうなのか? てっきり、最初から葉月のこと嫌ってるのかと思ったんだが」


「さすがにそこまで性格腐ってないっての。 私が思った切っ掛けは、教室の出口で八乙女君とぶつかった時」


ぶつかった時……ああ、あの時か。 けど、あれのどこに葉月を恨む要素があったんだ? 考えられるのは……葉山が俺に気が合って。 いや、万が一にも無いと思うがあったとして、それで葉月が横から入り込んできたから……とか?


「……お前、俺のことが好きだったとか?」


「死ね」


どうしてこう、俺の周りに居る女子は俺の死を願うのだろう。 葉山といい、葉月といい、本当に死んだほうが良い気さえしてくるんだけど。


「そんなわけ無いでしょ。 私が気に入らなかったのは、私以外の女子と仲良さそうにしてたこと」


「だって、考えてみてよ。 私って美人でしょ? で、性格もああいう風にしておけば受けが良いでしょ? 他の男子は皆、私とばっか話そうとするんだよ。 だけど、八乙女君だけはそうしなかった。 それが気に入らなかった」


「だから、葉月を貶めようとした?」


「そういうこと。 二人三脚に誘っても「葉月が」とか。 ムカついてムカついてムカついた。 あんな屈辱、生まれて初めて」


「……でも、だからってあんなこと」


「するよ。 私はする。 他人を蹴落とす為ならね。 上履きがジュースのゴミ箱にあったでしょ? あれも私がやった。 いい気味だって思ったんだけど……結果的にまた、八乙女君が助けちゃったし。 神宮さんが八乙女君の上履き履いてて、まさかなーなんて思ってたらそのまさかだったってこと」


「裕哉、やっぱりこいつ性格悪い」


「今度は同意だ。 性格悪いなこいつ」


「はいはい仲良いですねぇ。 で、話を戻すけど気付いたのはいつ? それだけ教えてくれないかな」


「だから、最初」


「その最初ってのが分からないんだけど。 一体いつの最初のこと?」


「初めて、会った時」


「……は?」


その葉月の台詞は、俺にも全然意味が分からなかった。 初めて会ったって、それこそ入学式の時ってことか? その時から、葉山がこうするって分かっていたっていうのか? 葉月は。 超能力がどうとか言い出さないよな……まさかとは思うけど。


「顔を見て、分かった」


「葉山は、こういうことを平気でする人って。 自分が一番じゃないと、納得しないんだって。 それが、分かった」


「顔を見てって……何言ってんの、あんた」


「いつも、作った顔をしてた。 嘘で塗り固めた顔」


「それが私だから。 てか、もしも神宮さんが言っていることが本当なら、どうしてすぐに言わなかったの? 八乙女君に。 そうしてれば、八乙女君が私と犯人捜しごっこなんてする必要無かったんじゃないの?」


「それもそうだな……。 確かに、どうして最初に教えてくれなかったんだよ?」


ついつい気になってしまい、葉山と一緒になって葉月に問う。 その質問に、葉月は少しだけ嫌そうにしてから、口を開く。


「別に、私が我慢すれば良いと思ったから。 ずっとそうしてきた」


「顔を見たら、分かっちゃう。 どういう性格なのかって。 何を考えているって」


「……超能力?」


「違う」


俺が冗談交じりに言うと、葉月はすぐに否定する。 もうちょっと勿体ぶって欲しかったのは内緒だ。


「例えば、裕哉」


葉月は言って、俺の顔をいつもみたいにジッと見つめる。 それが何だか、恥ずかしい。 いつもそうなのだが、こいつは俺の顔を気付いたら見ているんだよな。


「今、恥ずかしがってる」


「私から見たら、気味悪がってるように見えるけど?」


「葉山は少しホッとしてる」


「……この状況でどうしてそうなるのよ」


葉山はさておき、俺の場合は当たっているというのが、何だか凄い。 一体どうして分かったのだろうか。


「……目を逸らしたり、顔の筋肉が動いたり、そういうの」


「そういうので、分かる。 だから、友達を作るのは嫌い」


「……それって、つまり。 怖いのか? 分かっちゃうのが」


「うん。 だから、嫌い」


「気持ち悪いとか、馬鹿とか、ウザいとか。 そういうのが少しずつ、伝わる」


「……だから、一人が楽」


何だか、葉月のことが少し分かった気がする。 こいつはこうやって、人見知りだとか、口下手だとか、そういう理由で友達を作らなかったわけじゃないんだ。


そうやってやっと出来た友達の本音を聞いてしまうのが、怖かったんだ。 葉月は変わった奴だと思っていたけれど。 こいつはただ、ただただ怖がりなだけじゃないのか。


「ふうん。 それで私の性格がこれってことが分かってたんだ。 でも、八乙女君とはどうして友達なわけ? 二人いっつも一緒に居るけど」


「裕哉は一回も、私の事を悪く思わなかったから」


「……そうか? ウザいとかしょっちゅう思ってるけど」


「違う。 そういうのじゃなくて」


「……少し、難しい」


ってことは、昨日のあれもそうなのだろうか。 葉月が言ってきた「信じて」という言葉。 俺は信じると言ったけれど、結果的に葉月の事を信じて、葉月と同じ意見に至ったわけでは無い。 なら、どうしてだ? ただ単にあの時は分からなかったってことなのか?


「でも、裕哉」


「裕哉のことは、たまに分からない」


「分からない? どうして?」


「それも、分からない」


それはどういうことだ? と聞こうとしたが、葉山によってそれは遮られる。


「あーあ、はいはい! ま、要するにお互い仲良いから問題ないでーすってこと? ムカつくなぁ」


葉山は腕組みをしながら言う。 もうその顔に笑顔は無く、いらついていることを隠そうともしていない。


「んで、どうすんの? 大藤先生にでも言って、私を停学にする? それとも退学? 別に、()()したのは私の方だからどうなったって良いけど」


「……俺はそこまでしなくても良いと思うけど」


「っはああ! ほんっと、八乙女君って気持ち悪いほどお人好しだよね。 仲良しの神宮さんがあんな目に遭ったのに、そんなこと言うなんて」


「気持ち悪いは余計だ。 お前は気持ち良いほど性格悪いなおい!」


だって、俺にはまだこいつがそこまで悪い奴には見えなかったんだ。 ただちょっとだけ捻くれてしまっている、普通の女子ってだけにしか見えなかったんだ。


本当に悪い奴なら、自分がやったことを「悪さ」だとは言わなかったんじゃないかって。 そう、思う。


「俺が決めても仕方ないし、葉月に任せるよ。 被害者は葉月だし」


「そのことについては、決めてある」


「……随分早いな。 どうするんだ?」


「葉山、謝る?」


「……ま、神宮さんが謝れって言うなら、頭くらいは下げても良いけど」


偉そうな態度だな。 まるで性格が悪くなった葉月みたいな奴だ。


「なら、謝らなくて良い。 代わりに、目を瞑って」


「目を? 別に良いけど。 言っておくけど、物理的攻撃してきたら反撃するから」


「しない。 私は人に暴力を振るったことが無い」


「嘘吐くなっ!」


俺がどれだけ葉月に攻撃されていると思っているんだ! 攻撃どころか、部屋の壁までぶち抜いていたじゃねえか!


「いたっ」


「……すぐにいじめる」


「人聞きが悪い。 で、葉山に目を瞑らせてどうするんだよ?」


「裕哉も瞑って。 それで、並んで」


「何で俺も!?」


「命令」


「……あーもう! 分かった分かったよ! 目を瞑って並べば良いんだな? ったく」


渋々その命令に従う俺。 そんな俺を見て、葉山が口を開いた。


「やっぱり仲良いよね、二人。 八乙女君は苦労してそうで笑えるなぁ」


「笑うな。 それと仲もそこまで良くない」


「ふうん。 ならどうしていつも一緒に居るの?」


「別に、ただ部屋が隣で、クラスが一緒ってだけだよ。 もし理由を他に付けるなら……放っておけないというか、それだけ」


「へえ、そっか。 そうなんだ」


「何か言いたそうだな」


「別に? ほら、神宮さんが早くしろって目で見てるよ」


そうか? 俺には殴るぞって目に見えるけど。


まぁ、話が思いの外長くなってしまったし、さっさと終わらせる為に命令に従っておこう。 隣に居る葉山は既に、目を瞑って真っ直ぐ前を向いているしな。


俺もそれに習って、目を瞑って前を向く。 一体、葉月は何をするつもりなのだろう?


「よし」


「ちょっとまだ? 早くしてくれない?」


「大丈夫。 すぐ終わる」


「……きゃ! へ? ちょ、何してんのあんた!!」


「目を開けないで。 すぐ終わる」


「で、でもなんか指に付いたんだけど!! ちょっと!! やめてぇええええええ!!」


「良いから」


それから葉山の悲鳴が時折聞こえて、やがて葉月が口を開く。


「うん。 これで、良い。 完璧」


「次は裕哉」


「いやいやいやいや!! ちょっと待て!! すっげえ隣で悲鳴みたいなの聞こえたんだけど!!」


「大丈夫。 怖いのは最初だけ」


「嫌だよ!? 怖いの嫌だよ!? てか、今ですらもう怖いって!!」


「すぐに終わる」


そう言うやすぐさま、葉月は俺の手首を握る。 離すまいと、結構な力で。


もうこうなってしまったら、この恐怖体験が終わるのを待つしか無い。 抵抗したところで、それを通過した葉山より根性が無いとして葉月に言われる未来が見えるし。


まず最初に、親指の付け根辺りをがっちりと掴まれた。 そして、そのまま俺の親指を移動させて。


「ひっ! なんか触った! なんか湿ってる物に触った! 何したんだよおい!」


「……もう大丈夫」


意外にも葉月のそれはあっという間に終わり、俺はゆっくりと目を開けた。


まず目に入ってきたのは葉月の顔。 相変わらずの無表情。 だけど、どこか楽しそう?


そして次に目に入ったのは葉月の持っている紙。 葉月はそれをどこか満足そうに眺めている。


「神宮さん? 何したの?」


横では葉山も同じように目を開けていて、自分の親指を見ながら、葉月に向けて言っていた。


親指、親指。 そういえば俺も、さっき親指に何かやられたような。


「……なんだこりゃ」


何かの、インク? 真っ赤なインクが親指に付いている。


「これで、大丈夫」


「ん? それって……」


葉月の持っている紙には、こう書いてあった。


『部活動設立 申込書』


部名 葉月と仲間たち 部


部長 葉山歌音

副部長 神宮葉月

部員 八乙女裕哉



「……部活?」


「そう。 部活」


「何で私の名前が入ってるの!? てか、勝手に部長に名前書くな!!」


「三年間、部長として頑張れば許す」


「こ、この……! べ、別に許して貰わなくても良いんだけど? 私は」


「なら、警察に行く。 一生台無し」


「警察って……」


さすがの葉山も、そこまで話が大きくなると身動ぎしているな。


「そして、葉山の家の駄菓子屋」


「……何よ」


「駄菓子に毒を混ぜる」


「ちょ……!」


俺からしたら冗談にしか聞こえないが、葉山はどうやら本当にやると思い込んだらしい。 まぁ、この無表情で言われたらびびるよな。 俺だって最初はびびったし。


「……神宮さんも、中々性格悪いよね。 分かったわよ、入れば良いんでしょ、入れば。 だけど、どうして部活なんかに誘うの? 二度と関わるなとか、そういうのなら分かるけど」


「だって、悪い人じゃないから」


「はぁ? あんないじめみたいなことして? 上履きあんなことにして? それのどこが悪く無いの? 頭おかしいんじゃない?」


「でも、嘘は吐かなかった」


「……そんなこと無いでしょ。 八乙女君と犯人捜しとかいって、騙してたし」


「今、吐かなかった。 葉山が今した話は全部、本当だった」


「それは、私のしたことがバレたからで……」


「本当に悪い人は、全部が嘘。 全部、全部、嘘」


「葉山は、本当を持ってる。 だから、一緒に居たい」


「……神宮さんってほんっと変わってる。 普通、そんな台詞言わないよ」


「そう? 変わってる? 裕哉」


「俺かよ。 まぁ、変わってるんじゃないか? 俺も正直驚いたし」


「でも、葉山が居たら面白そう」


「……確かに」


ここまで性格に裏表があるやつなんて滅多に居ないだろ。 その点で言えば、確かに葉月の言う通り面白いかもしれない。


「何見てんのよ。 ぶっ飛ばすわよ」


「裕哉、裕哉。 戦闘してみて」


「しねえよ! アニメの見過ぎだっ! 何ワクワクしてるんだよおい!」


全く、結局これだもんな。 さっきは真剣に話していたと思ったら、すぐこれだから参ってしまう。 それに、この葉山歌音。


「……はぁ。 分かったわよ、とりあえずは入ってあげる。 だけど、私が神宮さんのことが嫌いなのは変わらないから。 性格暗い癖にカワイコぶっちゃって。 ウザ」


「裕哉、葉山の性格は暗い?」


「私のじゃなくて神宮さんのに決まってるでしょ!! なんで私の性格が暗いって話になるのよっ!!」


「だって、上履き隠したり」


「っ! それは……まぁ、その」


「……ごめん。 ちょっと、やり過ぎた」


「はぁ……ああもう! 調子狂うって、本当に……投票のことも、今思えばやり過ぎたわよ。 神宮さん、ごめんなさい」


葉山は言い、深く、深く頭を下げる。 なんだかんだ言ってもしっかり謝れる奴なんだなぁ。 やってることは許されないし、大きすぎるけど。 それでも葉月の言う通り、本当を持っている奴なのかもしれない。


「別に良い。 これから部長として頑張って貰う」


「それは納得出来ないって! ってか、それより納得出来ないのは部活の名前! なんで部長の私がおまけみたいな扱いになってるの!?」


「おまけ……だから?」


「おまけじゃなぁあああああい!! どっちかって言うとあんた達がおまけだからッ! 私がメイン! 分かった!?」


「じゃあ……これでどう?」


部名 葉月と葉山とおまけ


「私だけ苗字ってのが嫌。 こっちの方が良いでしょ」


部名 黒髪と葉山歌音様とゴミ


「どう? いい感じじゃない?」


「おい」


「何、文句あるの? ゴミ」


「ゆう……ゴミ。 いい名前」


「名前を言いかけて言い直すんじゃねえよ!! それに乗ってるんじゃねえ!!」


「なら、やっぱりこう」


部名 面白研究部


「……無難になったな」


「一番最初に思い付いたのがこれ」


「私の名前が部名になってないのが気になるけど、まぁ良いや。 どうせ大した活動もしないでしょ?」


「する。 皆で面白いことを見つける」


「随分と大雑把だな……」


「うふふ、それなら良いこと思いついちゃった。 早速後でためそーっと!」


「……お前がそうやって嬉しそうにしていると、本性を知った俺からしたら恐ろしいな」


「あ、それと一応もう一回言っておくけど。 神宮さんのことは嫌いだから。 すっごい嫌いだから」


「つんでれ?」


「つんで……え? 何?」


「何でも無い何でも無い。 気にするな」


葉山がその単語を知らなかったことは、不幸中の幸いだ。 俺も思いはしたけど口に出せなかったことをこいつは平気で言うからな。


「明日、この紙出しておく」


まぁ、いくら酷いことをしても、されても。


本人同士が良ければ、それはそれで良いのかもしれない。 少なくとも、本音で話している葉月と葉山を見ていたら、割りとそんなのはどうでも良いと思えるのだった。


「……つうか、一つ良いか? 二人とも」


「何?」


「まだ何かあるわけ? 今、神宮さんにどんな罠を仕掛けようか考えているんだけど」


考えるなよ。 さっき思いついたってのはそれか。 それで仕掛けたとして、どんな見え見えの罠でもこの馬鹿は引っ掛かるぞ、多分。


「いや、もう結構時間経ってるけど……学校は?」


「「あ」」


今の時刻は午後の二時。 今から言っても、授業は全て終わっているだろう。


こうして、俺と葉月の関係に更に一人変な奴が増え、騒がしくも楽しい日常は、更に騒がしく面倒な物になっていくのだった。

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