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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺と彼女の関係とは
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あたしに課せられた難題の解決方法 【1】

いよーし、ようやくだ。 何がようやくかは分からないけど、ようやくだ。


まずは、そうだね。 自己紹介から。


名前は天羽(あもう)羽美(うみ)。 年齢は16歳。 あたしは誕生日が早いから、今年の4月には既に16だったのだ。 皆よりも早くて、多少の優越感に今日も浸っている。


好きな食べ物は病院食以外。 嫌いな食べ物は病院食。 好きな人は部活の皆。 恋愛的な意味だとゴニョゴニョ裕哉(ゆうや)。 まぁ、叶わない恋だ。 叶わない恋で、あたしじゃ到底敵わない恋でもある。


特技は特に無し。 敢えて言うなら死んだフリ。 やったら怒られるのでもうやらないと決めている。 取り柄は元気と笑顔。 笑っていれば、何でも楽しく出来ちゃうんだ。 ああでも、勉強だけはムリ。 あれは笑い事じゃない、マジで。 あたしの華やかな人生で唯一超えられない壁だ。 恐るべし、勉強。


まぁ、そんなあたしの話に多少付き合ってもらおう。 あたしがするお話は、まぁ簡単に言ってしまえば皆のこと。


あたしから見た皆のことだ。 八乙女やおとめくんと、歌音うたねちゃんと、葉月はづきちゃんのお話だ。


始まりは、とある日のこと。 あたしが葉月ちゃんに呼び出され、校舎裏へと連れて行かれた日のことだ。 あたし達が歌音ちゃんの家で遊んだ日から、大体一週間ほどが過ぎた日の、月曜日のこと。


その日は晴れていて、気温は低くて、朝からずっと気分が良かった日のこと。 気分が良いっていうのは、あたしがずっと患っていた病気的な意味では無くて、気持ち的な意味で。


「天羽」


葉月ちゃんは校舎裏にやってきたあたしを見ると、そう口を開いた。 表情は真剣……かどうかは分からない。 いつもの無表情。 それもそれで物凄く可愛らしいから参った物だよ。 葉月ちゃんのぬいぐるみを売りに出せば、そりゃもう物凄く売れると思う。 将来の仕事にしようかな?


あー、また勝手に頭の中で話がズレてる。 そうじゃないそうじゃない。 今は葉月ちゃんの話に集中しないと。


んで、雰囲気は真剣その物といった感じ。 そんな雰囲気で、葉月ちゃんはあたしに話し掛けてきたのだ。


「天羽は、裕哉のことが好きだった」


「……えと」


……ううむ、いきなり直球勝負。 これにはさすがのあたしも、言葉に詰まってしまう。 それは勿論図星だし、あたしがずっと想っていたことだ。 というか、宣戦布告していたわけだしね。 あれから特に何も言われていなかったから、それはもう終わったことだとばかり思っていたよ。


そんな話が、まさかここで来るとは。


「あー」


いつまでも黙っているわけにはいかず、あたしは笑って返事をする。 葉月ちゃんとは対照的に。


「うん。 けど、葉月ちゃんの勝ちだ」


「それは……うん」


否定しないか!! いやまぁ、事実はそうなんだけど、あたしが思っていたのは「違うよ、あんなのは勝ちとは言えない」みたいな青春的流れだと思っていたのに! あーまぁ、まぁそうなんだけどさ。 葉月ちゃんが頷いた通り、事実はそうなんだけどさ。


「でも、天羽とは話さないといけない」


「わはは、それはどうしてだい?」


「天羽は、悩んでいるから」


「む。 どしてそう思う?」


「顔を見れば、分かる」


ふぅううむ。 そこまで分かりやすい顔だったのだろうか? うーん……自分では分かっていない内に、案外悩んでいるのだろうか? 特別そんなことは無いように思っていたんだけどなぁ。


もしもあたしが悩んでいるとしたら、それはとある一つのことだけど……。 それが分かったというなら、もしかして葉月ちゃん超能力者だったり? いやいや、まさかね。 あっはっは。


「天羽、私は」


顔を上げ、葉月ちゃんは言おうとする。 その顔を見て、葉月ちゃんが何を言おうとしたのか、理解した。


「駄目だよ、葉月ちゃん。 その先は言っちゃ駄目だ。 葉月ちゃんは勝ったんだから、もっとあたしのことを馬鹿にしないと」


「それは出来ない」


「わはは。 ありがと」


葉月ちゃんはきっと、謝ろうとしたんだ。 ごめんって、言おうとしたんだ。 でも、それは言っちゃ駄目なんだよ。 その言葉は、言うべきじゃあない。


「いやでも、あたしはそのことでは本当に悩んでないよ? こればっかりは、マジだから」


「他は嘘なの?」


「あーいや……そういうわけじゃなくて、例えばの話」


「そう。 でも、それなら何に悩んでいるの?」


「何に……ううむ」


最近悩んでいること……悩んでいること……普段から悩みなんてこれっぽっちも無いから、サッと出てくると思ったけど……いざ考えてみると、難しいな。


あたしは頭をフル回転しながら、葉月ちゃんの顔を見る。 見る。 見る。


あ、思い出した。 葉月ちゃんと八乙女くんのことで悩んでいたんだ。 ついさっきまで覚えていたのに忘れちゃうなんて、若年性アルツなんちゃらの可能性が!? うわぁ、嫌だなぁ。


「思い出したよ葉月ちゃん!」


「……忘れてたの?」


そんな馬鹿を見るような目をしないでください。 悩みを忘れるほどにプラス思考だということに、しておいてください。


「あたしが悩んでいるのは、二人のことだっ!!」


「二人のこと」


「そっそっそ。 葉月ちゃんと、八乙女くんのこと!」


「やっぱり……」


「ああ! 違くて違くて。 そうじゃなくて。 葉月ちゃん、最近歌音ちゃんに相談してるでしょ? 八乙女くんと上手く行ってないーって」


「……うむ」


うむ!? なんか偉そうな返事頂いちゃったよ!? 何だそれ!?


「んでんで、どうにかしたいなーってあたしも思っているわけだ。 確かにあたしは八乙女くんのこと好きだけど、それ以上に皆のことが好きなんだよ。 歌音ちゃんも、葉月ちゃんもね。 だから、どうにかしたいなぁって」


「なるほど」


「そ! ってわけで、あたしに何か手伝えることないかな!? 早速だけどっ!!」


「ある」


おお、これは良いかもしれない。 何だか、明日の道がぶわーって光っている感じだ。 いつもだったら「分かったら苦労しねえよクソ女」って感じで言われてそうだけど……ああ、それは歌音ちゃんだった。 葉月ちゃんの場合は「ない」のひと言だからね。


「んじゃ、聞いちゃおう! その手伝えることとは!?」


「……プレゼント、一緒に考えて欲しい」


「プレゼント?」


それから、あたしは葉月ちゃんに色々聞いた。


今、八乙女くんにあげるクリスマスプレゼントで頭を悩ませていること。 それに歌音ちゃんも巻き込まれていて、最近では時間がある時は二人で一緒に考えていること。 そして、クリスマス2週間前の今日になってもそれがまだ決まっていないということ。


でもでも待てよ。 確か八乙女くんによると、初デートの日はクリスマス前だったはず。 そこで、八乙女くんは葉月ちゃんにプレゼントをあげることになっているはずだ。 ええっと、待て待て。 状況整理。


まず、一番始めに相談を持ってきたのが八乙女くん。 それが12月の始めのこと。 内容は葉月ちゃんと上手く行っていないという、誰しもが通る道だ。


次に、歌音ちゃんの家で遊んだこと。 これがつい一週間前。


で、八乙女くんのプレゼント相談。 これは結構最近で、土曜日だったから一昨日か。 んでんで、その時聞いた話によると、どうやら冬休みに入ってすぐ、二人はデートをすることになっていると。


そして最後に、この葉月ちゃんの相談だ。 葉月ちゃんは知らないだろうけど、八乙女くんがプレゼントを渡すのはその初デートの時。 ってことは、つまり。


予想以上に、残されてる時間すくなっ!! 歌音ちゃんは一体何しているのさ!?


初デートの日は日曜日……だから、来週の日曜日だ。 冬休みは今週の木曜日からだしね。 ええっと、今日は月曜日で、いち、にー、さん、しー。


あんま無いな! すぐにパッと答えが出てこなかったから数えるの諦めたけど、とりあえずあんま無いな!!


「天羽、大丈夫?」


「おう勿論!! で、で、で。 えーっと、だね。 よし、今から歌音ちゃんにも招集掛けよう。 3人で作戦会議だ!!」


「了解」


「もっと大きな声で!! 気合入れないとっ!!」


「了解」


あまり声量が変わっていない……。 いや、気持ち大きくなった気がするけどね。 本当に気持ち程度。


「もっともっと!!」


「……喉が痛い」


マジで!? 今ので喉痛めたの!? すっごい悪いことしちゃった気分だあたし!!


「よ、よし。 それじゃあ気合も入ったところで……歌音ちゃんに電話するね」


「……うん。 よろ、しく」


「……ごめんね? 大丈夫?」


「……たぶん、だいじょうぶ」


いやはや、本当にごめんなさいだ。 まさか、ここまでか弱い喉をお持ちだったとは。 触ったら壊れそうどころか、風が吹いたら壊れそうな女の子だなぁ。


「よっし、んじゃ電話すんぞー!」


「おぉー……ゲフッ!」


「ちょっと葉月ちゃん!? 葉月ちゃぁああん!!」


あたしはその日、もう二度と葉月ちゃんに無理をさせるのはやめようと誓ったのだった。




「へえ、なるほどね。 そんで天羽さんも来たわけか」


あたしはそれから歌音ちゃんへと連絡し、とりあえずはいつものファミレスとのことで、葉月ちゃんの案内の元、そのファミレスへと移動。 状況を説明したあたしに納得した様子なのは歌音ちゃん。 おしぼりで喉を抑えているのは葉月ちゃん。 ごめんよ、本当にごめんよ。


「……は、やま。 あもう、も、きょうりょく、しゃ」


「……天羽さん、何でこいつこんな死にそうな声になってるの?」


「あ、あーっと……わはは、ちょいと色々あってね。 気にしない気にしない」


「そう? なら良いけど」


あたしが言わなかったのは、保身の為ではない。 歌音ちゃんの場合、それであたしに怒るってことはまず無いからだ。


なら、何で言わなかったのか。 そんなのはあれだ。 歌音ちゃんが面白がって、葉月ちゃんをいじめる可能性が90%をゆうに超えているからである! あたしの親友である葉山歌音は性悪女なのだ!!


「よっし、んじゃ新たに天羽さんも加わったところで、作戦会議始めますかー」


手をパンと叩き、歌音ちゃんはあたしと葉月ちゃんの顔を見る。 何だか、随分場慣れしているなぁ。 それに、結構焦っていたあたしに反して随分余裕の表情だ。 頼りになるぜ、歌音ちゃん。


「はいじゃー、天羽さん。 プレゼントと言えばー」


「お、来たね来たね。 そりゃとりあえずは、ベタに行くと……プレゼントは自分自身という、古くから伝わる方法が」


「次同じこと言ったら殺すから。 はいどうぞー」


ヤバイ。 今の言い方はマジだ。 殺されるのは嫌だな……。


「あ、ええっと……あ!! 何かのアクセサリーとか!! 自分のも買ってお揃いとか!!」


「……むり。 はずかしい」


「おおう……」


「らしいのでー却下しまーす。 はい次の案どうぞー」


歌音ちゃんは再度手をパンと叩き、言う。 えーっと、次は次は……。


「あ! じゃあさじゃあさ、八乙女くんが好きそうなジャンパーあげれば? あの人って、何かチンピラさんが着てそうなジャンパーよく着てるでしょ?」


「……むり。 はずかしい」


「おおう……」


「らしいのでー却下しまーす」


あ、なんとなく分かった。 歌音ちゃんはあれだ、場慣れしているわけじゃない。 いや、ある意味で場慣れしているとも言えるかもだけど……。


これは、あれだ。 今の歌音ちゃんのすんごくだらけきった顔。 まさしく、諦めの顔だ。 恐らくこんな会話を延々と続けていたのだろう。 そりゃ歌音ちゃんの性格だ、こうなるに決まってる。


まぁ、それでも今尚付き合ってあげている歌音ちゃんだけどね。


前途多難。 そんな葉月ちゃんのプレゼント探しはこうして、幕を開けた。

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