表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺と彼女の関係とは
57/100

デート大作戦 【3】

葉月はづきはさすがというか、自信満々に言うだけのことはある。 何回かやった中で、こいつだけは一度も負けなかったのだ。


残りの三人はほぼ順番通りに負けていって、最初にビリを取ったのは罰ゲームを言い出した葉山はやま


「はぁ……。 言い出しっぺの法則ね、まさしく」


「わはは! じゃ、歌音うたねちゃん早く早く!」


天羽あもうがそう急かすと、葉山は嫌そうな顔をしながら立ち上がる。 そして、言い放った。


「それじゃ、神宮じんぐうさんのモノマネね」


「葉月の?」


「そ。 じゃあ行くわよ」


そう言って、葉山は一度咳払い。 目を一度閉じて、開けて、俺の方を真っ直ぐに見る。


裕哉ゆうや、命令」


……なんだ、この威圧感は。 物凄く、脅されている気がしてならない。 葉月の『命令』を可愛らしいと例えるなら、葉山のそれは最早、絶対に逆らえ無さそうな雰囲気だ。


「……お前、葉山みたいな雰囲気じゃなくて良かったな」


「うん」


隣に居る葉月に言うと、すぐに頷く。 どうやら葉月も同じことを思っているようだ。 天羽の方も見ると、葉月同様に頷いている。 満場一致らしい。


「ちょっと返事くらいしなさいよ!! いつもみたいに返してくれないと、続けられないでしょ!?」


「続きあるのかよ!?」


意外にノリノリだな。 やることはキッチリやる主義の葉山だが、こんなどうでも良いこともキッチリしておかないと、気が済まないのだろうか。


「はいじゃあもう一回ね」


葉山は言い、また咳払い。 そして、続ける。


「裕哉、命令」


「……おう」


「死ね」


……何だろう。 本当に死にたくなってくる。 というか、感情が込められすぎていて逆に怖い。 こいつ、まさか本当にそう思っているわけじゃないよな?


「ほら、早く返事しなさいよ」


「しねえよ!! お前ほんっと最低だな!?」


「はぁ……ノリ悪いなぁ。 いつもの八乙女君なら「おう分かった」って言ってるでしょ?」


「言わないよ? 俺、そんな馬鹿じゃないよ?」


葉山の奴、俺を一体何だと思っているんだ。 死ねと言われて「おう分かった」と言う馬鹿がどこに居るんだ。 葉山から見た俺はそんなにも葉月に従順だと言うのか。 アホかこいつ。


「わはは! んじゃ次次! 歌音ちゃんはもう一回モノマネしたから、ビリでも免除ね。 つっぎっはっだっれっかっなぁ!」


天羽の言葉で葉山は座り、俺もツッコミを入れた時の勢いで座っている場所からズレたので、座り直す。 ウノを始めて数十分だけど、既に疲れてきた。


まぁ、それもいつものことか。


そして迎えた二回目。 最終的に残ったのは葉山と天羽で、ギリギリで葉山の勝利。 とは言っても、天羽のことだからわざと負けた可能性もある。


「んじゃ、次は天羽な。 誰のモノマネするんだ?」


「うひひ。 あたしはね、歌音ちゃんのモノマネだ!!」


……この時点で、もう嫌な予感しかしない。 葉山の真似とか、絶対に誰かが不幸になるぞ? 真似するだけで誰かが不幸になる人間、それが葉山歌音だ。


「ちょっと待った!! 別に私の真似するのは良いけど、そこの二人はなんで明らかに目を逸らしてんのよっ!!」


葉山が言っているのは俺と葉月のことだろう。 だって仕方無いだろ? 目が合ったらその不幸になるって言うのが我が身に降りかかるからな。 俺も葉月も必死なんだ。


「わはは! 大丈夫だよ葉月ちゃん、あたしが振るのは八乙女くんだから」


「おい」


いつから俺はいじめられる側になったんだ。 葉山にもいじめられるし、天羽にもいじめられるし、葉月にはめちゃくちゃいじめられるし。 葉月風に言えば「みんないつもいじめる」だ。 俺が言ったら気持ち悪いだけだから言わないけどさ。


「よっしじゃあ行くよー」


言って、天羽は葉山と同じように咳払いをする。 そして、始めてしまった。


「ねえねえ、八乙女君」


……すっげえそっくりだな。 この、妙に馴れ馴れしいけど嫌じゃないこの感じ。 そっくりだ。 気持ちが込められすぎていて怖い。 憑依しているんじゃないか。


「……はい」


「はぁ? 何いきなり敬語使ってんの? 喧嘩売ってんの?」


これはこれで怖いな。 天羽がこうやってキレ気味に物を言ってくるってだけで、それはもう怖い。 ただ、そっくりだ。


「いや別にそういうわけじゃ……無いですけど」


「ほらまた敬語。 あー、もしかしてぇ、私が年上に見えるとかそういうことを言いたいわけ? ねえねえ、老けて見えるって言いたいわけ?」


「ま、待て天羽。 どうして胸倉を掴んでいるんだ」


俺が言うも、天羽は無視して葉山のモノマネを続ける。 ちなみに、そっくりだ。


「そんなこと今聞いてないんですけど? 良いから答えてよ八乙女君。 私がぁ、老けて見えるんですかぁ?」


ぶんぶんと揺れる頭。 ここまでモノマネに魂込める奴も中々居ないだろう。 そのおかげで、そっくりだ。


「若い若い! めっちゃ若い! 全然若く見える!!」


「そ。 なら良いけど」


言って、ようやく俺を解放する天羽。 葉山と見間違えてしまうほど、そっくりだ。


「あはは! 何今の、全然似てなかったね」


「……」


葉山は一体何を言っているのだろう。 こればっかりは、さすがに全員理解不能だ。 もしも今の台詞を本気で言っているのだとしたら、普段のお前の言動を録音して、聞かせてやりたい。 俺達三人がお前にどれだけいじめられているのか、お前にどれだけ悪口を言われているのか、その全てを録音して、一晩中聞かせてやりたい。 それでも分からないようだったら、四六時中聞かせてやりたい。 お前の言動こんなだぞ、これを聞いても同じことを言えるかと、言ってやりたい。


ちなみに、今までで一番と思える理不尽なことは、ある日の放課後に部室に入ったら、いきなり葉山が「ちょっとこっち来て」と言って、俺が渋々行った所、いきなりしっぺをされたことだ。


聞くと、何でも葉山の脳内で「最初に部室に来た人にしっぺをするゲーム」が開始されていたらしく、めでたく俺が被害者となったというわけ。


全然めでたくないし、最早意味が分からない。 とまぁ、葉山の普段はこんな感じだ。


そして天羽の番は終わり、またウノが再開される。 次に負けたのは俺で、真似をしたのは俺の友達……知り合いの、北沢きたざわ蒼汰そうた


省略させて貰うけれど、大体の内容は俺が蒼汰のように葉山に言って、それを見た葉月が怒って思いっきり脛を蹴ってきたことくらいだ。


まぁ、良く良く考えればそうなるのは当然だった。


……一応は、その。 付き合っているわけだし。


そして、そんな単純なことに気付いたのも、思い出したのも、そろそろ帰ろうかという雰囲気の中、葉月がお手洗いに行った時のことだ。


「あー楽しかった。 たまにはこうやって家に呼ぶのも良いかもね」


「んだね! 歌音ちゃんの可愛いぬいぐるみも見れたしっ」


「あれは忘れなさい、忘れろ」


葉山は言いながら、天羽の頭をぐるぐると回す。 怒っているというよりかは、葉山も葉山で楽しんでいるんだ。


本当にバレたくなかったら、本当にそれが嫌だったのなら、葉山はそもそも俺達を家にあげることだって、しなかっただろう。 俺達にならバレても良いと、そう思っていたんじゃないかな。


だからきっと、葉山の祖母は「友達が家に遊びに来たのは始めてだ」と言っていたんだ。 その意味を知ると、少しこっ恥ずかしい気持ちにもなるし、誇らしい気持ちにもなれる。


「はは、ほんと仲良いよな、お前ら」


「誰がこんなのと! それを言ったら、八乙女君だって神宮さんと仲良いでしょ」


「まぁ、多少は……って、ちょっと待て」


「ん? どったの?」


「いや、今すげえ大事なこと思い出したんだけどさ、今日集まった目的って何だったっけ」


俺はようやく、その本題を切り出した。 もう完全に手遅れになった、今日の本題である。


「……あ」


と、葉山はいつになく間抜けな表情をして。


「ヤバっ!!」


と、天羽は近くにあったぬいぐるみをどさくさに紛れて抱き締める。


「うわ、完全にそれ忘れてた。 私としたことが……八乙女君のうっかりが、感染してない?」


「病気みたいに言うなよ。 見事に普通に遊んでたな、俺達」


「あっはっは! いやまぁ仕方無いっしょ! 楽しかったんだし!!」


仕方無いかどうかは何とも言えないけれど、後者には同意。 確かに、ここ最近では目新しい楽しさだった。


「……んー」


葉山は声を漏らし、少々悩む素振りを見せる。 回転の良い頭で策を練っているのか。


「よし決めた。 八乙女君、諦めなさい」


「マジで言ってんのか!?」


「あはは、冗談よ冗談。 けどさ、こうなったらもう、とりあえずはデートに誘うしか無いわよ。 場所は後から決めるとして、ね」


「良かった……。 俺、お前に見捨てられたらやっていけない所だった」


「何情けないこと言ってんの。 ったく、自分のことになるとヘタれるよね、八乙女君って」


「あはは! 確かに!」


うるさいうるさい。 だって、どうすれば良いのか分からないんだよ、俺にだって。


あいつのことは傷付けたく無いから、そんな気持ちが強いから、付き合って数週間経っているのに、未だに何も変わらないんだ。


「暗い顔すんなッ!! 仕方無いなぁ、それならとっておきの物を貸したげる。 ちょっと待っててね」


「とっておき?」


一体、どんな物だ? 見ると、得意気な顔をしながら本棚を漁っているけれど。


「えーっと……お、あったあった! じゃん!」


じゃんって言ったな。 テンション高いのか、今日。


「何だこれ……」


目の前に突き出されたそれを見ると、何やらでっかい文字でこう書いてある。


『彼女を幸せにするデート。 初心者編』


「なんか凄い胡散臭い雑誌だな」


「うっさいわね。 これ貸してあげるから、少しは役に立てなさいよ。 分かった?」


「……ああ、まぁ一応借りておく。 ありがとう」


果たして参考になるかは分からないけれど、帰ったら目を通しておこう。 もしかしたら「何だこれすげえ!」ってなるかもしれないし。


しかし、それよりも気になることがある。 こういう気持ちは確かに嬉しいし、ありがたいと思う。 けど。


「なあ、何で葉山がこんな本を持ってるんだ?」


「へ!?」


俺の言葉に、葉山はキョドる。 それはもう、分かりやすいほどにキョドる。


「あ、え、いや、えっとね。 これはー、あーっと」


「あ、そう! 友達が部屋に忘れてったんだ!!」


「……さっき、葉山のお婆ちゃんは「友達が家に遊びに来たのは始めてだ」って言ってたけど」


「ん!? あ、ああそうそう!! そうだった!」


「そうだったって……」


何だ、大丈夫かこいつ。 いつになく慌てている様子だけど。


「わはは。 良いじゃん別に、八乙女君と葉月ちゃんのた――――――――――」


「黙れぇえええええええええええ!!!!」


「おわっ!? 何だ!?」


天羽が何かを言い掛けたところで、葉山が天羽にタックルをかます。 大笑いする天羽と、必死に口を塞ぐ葉山。


何だかもう、それはそれは恐ろしい光景だ。 まるで猛獣が人間に襲い掛かって、襲われた人間は狂って笑っているような光景だ。 強ちそれも間違いでは無いけど。


「と……りあえず!! 八乙女君は今日! デートに誘いなさい! 場所はそれまでに考える!!」


葉山は必死に天羽を取り押さえながら、言う。 鬼気迫る表情で、俺は勿論ビビる。


「きょ、今日か!? いやでもいきなりすぎっていうか……唐突すぎというか、そんな気が……」


「女の子を誘うのにいきなりも何も無いっての!! 良い? 今日中に絶対誘え!!」


「なにを騒いでるの?」


「うお! ……居たのか、葉月」


「今戻った。 なんの話?」


首を傾げながら言う葉月。 どうやら、内容までは聞いていなかったようだ。


「あーううん! 何でも無い何でも無い。 この馬鹿が、私のぬいぐるみを抱き締めてたからちょっとお仕置きをね」


「あれバレてたの!? このまま持って帰ろうと思ってたのに!!」


それは駄目だろ。 犯罪だぞ。


「なるほど」


そして、そんな適当な話を鵜呑みにする葉月だ。 純粋というか、何というか。


「それじゃあ、そろそろ帰るか。 暗くなってきたし」


「はいはい。 んじゃまた明日学校でね、バイバイ」


「歌音ちゃん待ってよ!! このままじゃあたし帰れないって!!」


「そういやそうね。 離すけど、そのぬいぐるみはしっかり置いていきなさいよ」


葉山の言葉に、天羽は渋々ぬいぐるみを置く。 めちゃくちゃ名残惜しそうに。


そして皆が荷物をまとめて、部屋を出ようとした所で、葉山が俺に話し掛けてきた。 予想していなかったと言えば嘘になるが、正直に言って今の俺には少しだけありがたい言葉。


「……何だかんだ言っても、私と天羽さんは応援してるんだから、しっかりしなさいよ」


「……ああ、ありがとう」


「今回みたいに何か相談あれば乗るし、一緒に悩んであげるから。 頑張れ」


出会った当初に聞いていたら、何か裏があるんじゃないかと勘ぐるだろう言葉。 けれど、それも今となっては何よりも安心できる、応援の言葉だった。






「……」


「……」


それから、天羽はこの後にりんさんとの予定があるらしい。 まさかと思って聞いたが、病気絡みのことでは無く、普通に外食をするとのことだ。


そういうわけで、今は俺と葉月二人っきり。 並んで歩く帰り道も、今では全然珍しくも無い。


ただ、体験学習のあの日よりも、俺と葉月の間に距離があるというだけで。


二人分ほどのスペースを空けて、葉月は俺の左隣を歩いている。 俺も俺で、同じように歩いている。


天羽がいなくなる前までは会話も弾んでいたのだが、最近では二人っきりの時は常にこんな感じだ。 付き合っていると言っても、ぶっちゃけ関係は悪化しているようにも思える。


……このままは駄目だよな、さすがに。 こんな関係を望んでいたわけじゃないんだ。 俺も、葉月も。


「……なぁ」


「……」


俺が話し掛けると、葉月は反応する。 反応とは言っても、顔を更に下に向け、その表情を長い髪の毛で隠しているような感じ。


正面から見たら、きっと貞子みたいに見えるな、こりゃ。


「良いか? 話しても」


「……」


こくんと小さくだが、頷く。 それを見て俺は再び口を開く。 こんな距離ではあれなので、一人分だけ距離を詰めて。


葉月はそれを感じたようで、一人分逃げようともしたが、家の外壁がそれを邪魔する。


「……なんて言うか、さ。 こういうのってすごい今更だし、本当だったら、もっと俺がしっかりしてないといけないことなんだけどさ」


「今度の休み、冬休みにさ、どこか遊びに行かないか?」


それを聞いた葉月は、何やらごにょごにょと喋る。 しかし、あまりにも声が小さくて聞こえない。


このままでは埒が明かないので、俺は更に一歩、一人分、距離を詰めた。 俺と葉月が一番長く使っている距離。 体験学習のあの日以来の、距離。


「……りで」


「え?」


それでも聞き取れず、俺は顔を近づけて聞き直す。 そして、葉月は少し声量をあげて、言った。


「……二人で?」


「……お、おう。 勿論」


「……分かった」


表情は見えないけれど、感情は何となく伝わってきた。 思い違いじゃないと嬉しいが、楽しみにしているような、そんな声色。


「どこに行くの?」


「へ? ああ、あーっと、それはだな……」


そう来たか。 マズイ、今更になって「いやぁ実はそれ考えてないんだよな」なんて言えない。 葉月の奴、嬉しそうにもしているし……。


「あれだ、あれ。 その日までのお楽しみ……ってことで」


「……うん」


「葉月が喜ぶところだからさ、楽しみにしといてくれ」


「……なら、約束」


言って、葉月は小指を差し出す。 俺はそれを見て、同じように小指を出して、指切り。


「もしもつまらなかったら葉山に言いつける」


「それ一番ヤバイやり方じゃないか……」


「天羽にも言いつける」


「天羽はまぁ……そこまで怖くは無いけどさ」


「分かった。 二人にそう伝えておく」


「やめろアホっ!」


俺は言いながら、葉月の頭を軽く叩く。 何だか、これも懐かしい感じだな。


「いたっ」


「……またいじめる」


「いじめてない。 ったく……」


それからは、いつものように会話を出来た。 本当に前までと同じように、どうでも良い会話を家に帰るまでの間、俺は笑いながら、葉月は相変わらずの無表情で。


アニメの話や、葉山や天羽の話。 学校の話から、この前の体験学習の話。


この日初めて、俺は葉月と付き合い始めてから、普通に話を出来たと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ