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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺と彼女の関係とは
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デート大作戦 【2】

そして迎えた日曜日。


俺と葉月はづきは家の下まで迎えに来た天羽あもうと合流し、葉山はやまの家へと向かって歩いている。


葉山の家の場所は俺も知っているし、わざわざ迎えに来なくとも大丈夫だったのだが、天羽は俺と葉月の状態を知っているのだろう。 それに気を利かせ、こうやって家まで来てくれたというわけだ。


「いやぁ、にしてもいきなりだったね。 歌音うたねちゃんの家とか」


「んだな。 天羽も初めてなんだよな? 葉山の家って」


「うんうん。 何回もあそぼーって誘ってるのに、首を縦に振らなくてさぁ」


そんな風に天羽は言い、へらへらと笑う。 俺も天羽も突然葉山の家で遊ぶことになった理由は分かっているが、それを口にしたら本末転倒だ。 なので、こうやって誤魔化し誤魔化しで会話をしている。


それが何だか、葉月を騙しているような罪悪感に苛まれるけど、我慢我慢。


裕哉ゆうや。 この前言ってたアニメ見た?」


なんて、特に前後の繋がりを気にせずに話題を振るのは葉月。 相変わらずのマイペース。


「ん? あー、貸してくれた奴か? ちょっと忙しくて、まだかな」


「そう」


言って、葉月は少し先を行く。 少し怒ってるようにも見えた気がしたが、何だったんだろう?


「……なんか、二人共変わらないよねぇ」


「俺と葉月か?」


「そっそ。 付き合う前も後も、一緒だなぁって思って。 むしろ仲悪くなった? みたいな感じ」


それを否定出来ないのが、あれだ。


似たようなことを葉山にも言われているし、なんとかしなくちゃとは思っているのだが……。 これがどうにも、上手く行かないんだよな。


「前の八乙女やおとめくんだったらさぁ、今みたいに葉月ちゃんが先に歩いて行っちゃったら、追い掛けて「どうした?」って聞いてたでしょ?」


「……そうか?」


「そうだよ。 少なくとも、あたしが知ってる八乙女くんだったらそうしていたなって思ったんだ。 でも、最初なんてそんな物かもね」


「最初……」


「うん。 だってやっぱ、お互いに恥ずかしいでしょ。 仕方無い仕方無い!」


仕方無い……か。 そうやって自分に言い聞かせるのも、一つの手ではあるんだろうな。


「けどさ、いつまでもこんな状態でってわけには行かないだろ? やっぱり」


「それだ!」


天羽は言い、俺の正面に回り込んで、顔を指さす。 すぐに人に向けて指をさす辺り、葉月と少し似ている。


「そ、それだって?」


「そう思っていれば良いんだよ。 それを埋めるのが八乙女くんの仕事で、そうすればきっと、もっと仲良くなれるって!」


「……だと良いけど」


「なに弱気になってんだ! しっかりしろ、八乙女くんっ!」


俺の背中を思いっきり叩き、天羽は笑顔で。


「いってぇ! ……やっぱ効くな、それ」


「わはは。 でしょ?」


葉山の家までに行く道中、そんな会話をしながら俺は、歩いて行った。


難しいことだらけで大変だけど、それを何とかするのが俺の仕事、か。 まさしく、その通りかもな。


特に葉月の場合は、尚更か。 あいつが自分からってのはきっと、難しいことだろうし。




「歌音ちゃーん、来たよー」


天羽が言いながら駄菓子屋に入ると、座っていた葉山の祖母はすぐにそれに気付き、俺達を中へと通してくれた。


聞けばどうやら、こうして友達が家まで遊びに来たのは初めてのことらしく、心底嬉しそうな顔をしている葉山の祖母を見ていたら、何だか俺達も嬉しい気持ちになってくる。


それに便乗して駄菓子をせびる天羽を一発叩いて、言われた通りの廊下を進み、葉山の部屋へ。


ちなみに、結局駄菓子はいくつか貰ってしまった。 今度来る時には、何かしらの手土産を持っていった方が良いかもしれない。


「うーたたねちゃーん」


後で殴られそうな台詞を言いながら扉を叩くのは天羽。 学習しないのか、わざとなのか。 多分、後者だろうな。


「……皆居るの?」


本当に少しだけ開かれた扉。 その奥から、葉山の声だけが聞こえた。 なんか、引き篭もりを説得しにきたお友達みたいになってるな、俺達。


「ああ、居るよ。 俺に天羽に葉月」


「そ。 なら、サッと開けるからサッと入ってね。 分かった?」


「へ? 別に良いけど、どうして?」


「良いから。 良い? 行くわよ」


そして、葉山は扉をサッと開ける。 で、葉山の言うことを無視したら後が怖いので、雪崩れ込むように入る俺達。 誰かに足を踏まれたけど、俺も誰かの足を踏んだっぽい。


ていうか、何でこんなことをしているんだ……。


「いったぁ! ちょっと八乙女君、私の足踏んだでしょ。 死にたいの?」


どうやら、踏んだのは葉山の足だったか。 なんて運が無い日だ。 家の外に出たら、晴天から大雨に変わったのと同じくらい、ツイてない日だ。


「お前がサッと入れって言うからだろ!?」


「わはは! いきなり喧嘩は駄目だよ……ってこの部屋なんかめちゃくちゃ暑くない!?」


……確かに、言われてみれば。 外との寒暖差もあるんだろうけど、それにしても何か馬鹿みたいに暑い。


「寒いのは嫌なのよ。 だから今も、冷気が入らないように、あんたらに入ってもらったの」


なるほど、だからサッと入れってことだったのか。 全然分からない。 少しくらい開けてても変わらないだろ。


「サウナ」


葉月に言わせれば、サウナか。 今回ばかりはそれも大げさでは無いかもしれないな。


「……とりあえず脱ぐか」


この部屋の中で上着を羽織っていたら、汗で大変なことになりそうなので。 俺は言いながら上着を脱ぐ。 すると、葉山が突然こんなことを言ってきた。


「まさか裸になる気!?」


「なるわけ無いだろアホ!! 上着を脱ぐって意味だよっ!!」


「あ、ああそっか。 びっくりした」


いやいや、びっくりしたのは俺の方だって。 いきなり服を脱ぎ出す奴だと思われているのか? 俺って。 とんでも無い変態じゃないか……。


「それにしても、ここが歌音ちゃんの部屋かぁ」


俺と同じように上着を脱ぎながら、天羽は言う。 その言葉を受けて俺も部屋を見回した。


「なんか、随分素っ気ない部屋だな」


「だから言ったじゃん。 面白い物なんて無いって」


勉強机に、本棚。 タンスに押入れと、鏡。 それとベッド。


本棚に並んでいる物も、殆どが雑誌や小難しそうな参考書等々。 俺の部屋と同じくらいに、無趣味と言った感じの部屋。


葉山に言わせれば、雑誌などで情報を集めることが、最早、趣味なのかもしれない。


「よっしゃー! じゃあ早速エロ本さがそ!」


天羽は言い、ベッドの下を探し始める。 ノリが本当に男子その物だな……。


「あったら逆にびっくりだっての。 ま、好きなだけ探せば?」


対する葉山は余裕の表情。 それもそうか、無い物を探しているわけだし。


「裕哉も探して」


「お前も探してるのかよ……」


押入れをガタガタと開けて中を見ているのは葉月だ。 そんな葉月を視線で追いながら、葉山は少々気にしている様子を見せる。


まさか、本当にそういう物を持っているわけじゃないよな?


「うーん、ほんと何も無いなぁ。 葉月ちゃん、そっちはー?」


「無い」


「だーかーらー、言ってるでしょ? そんなの無いって」


葉山は毛布に包まりながら言う。 どれだけ寒がりなのだろう。 見ているこっちが暑くなってくる格好だ。


「いたっ」


そんな声が聞こえる方を見ると、押入れの中で頭を押さえて倒れている葉月。 大方、押入れの上に頭をぶつけたと言った所か。


ドジというかなんというか、予想通りの行動を取ってくれる奴である。


しかし、そんな倒れている葉月の上に一つの物が落ちてくる。 白色の、毛の塊みたいな物。


「ん? なんだ、あれ」


「……ッ!!」


俺が首を傾げる横で、それに真っ先に反応したのは葉山。 慌てたように葉月の元へ行き、そのまま中に入り、押し入れを閉める。


「……なんだ?」


「あ!! 分かった!! 分かっちゃったよ羽美ちゃん!! 八乙女くん、宝物はあそこだッ!!」


天羽は立ち上がり、押し入れへ。 懸命に開けようとするが、中で葉山が押さえているようで、中々開かない。


「ちょっと八乙女くん手伝ってよ! 歌音ちゃんの馬鹿力に一人で立ち向かうの無理だから!!」


「……誰が馬鹿力よ!! ぶっ飛ばすわよあんた!!」


ううむ、なんだこの光景。 なんで女子三人がこんな活発で、俺は大人しく座っているのだろう。


けれどまぁ、ここは天羽に手を貸すか。 だって、そっちの方が面白そうだから。 それに、葉月が監禁されてしまっているし。 結構怖がりだしな、あいつ。 あんな暗い所に閉じ込められたまま放置というのも、些か可哀想だ。


「よっし、開けるぞ天羽! 葉山の奴、絶対何か隠しているしな!」


「あんたら後で覚えておきなさいよ!! 絶対許さないからッ!!」


中からそんな死刑宣告が聞こえるけれど、聞こえない振り。 後で絶対殴られる気がするけれど、聞こえない振り!


「おっけおっけ。 んじゃ、せーのでね、良い?」


「おう」


「……せーのっ!!」


掛け声と同時に、ふすまを引く俺と天羽。 さすがに二人掛かりでは葉山も押さえ切ることが出来ず、重いそれは開かれる。


予想以上に強く開けすぎた為、外れるふすま。 反動で倒れ、押入れの中で背中を打つ葉山。 そして上から落ちてきた板が頭に命中する葉月。


直後に、大量に何かが落ちてきた。 押入れを埋め尽くす程の量の物体だ。 その中の一つを手にとって、俺は何事かと見る。


「……ぬいぐるみ?」


可愛らしい顔をしている、クマのぬいぐるみ。 隣で俺と同じようにしている天羽が見ているのは、ウサギのぬいぐるみ。


倒れている葉月の体を埋め尽くしているのは、大量のぬいぐるみ。 その中から葉月の右手だけが出てきていて、何だかホラー映画を思わせる光景。


「……ふ、ふふ。 あは。 あは、あはは」


……第六感が逃げろと俺に伝えていたが、葉山の見たことが無い狂気の笑顔を直視してしまった俺は、その恐怖からその場から動くことが出来なかった。


葉山の現在蓄積されている怒り、その計算式はこうだ。


隠していた物がバレた+押入れの中で背中を打った+ふすまが外れた+良く分からないムカつき=葉山の怒り。


恐らく、こんな所だろう。


「葉山、可愛い趣味」


ああ、たった今それに「葉月の余計なひと言」が追加された。 もう帰りたい。




「絶対、誰にも言うなよ?」


何故か男口調の葉山に正座をさせられている俺達は、全員が搾り取られた表情だ。 何があったのかは想像に任せよう。


「分かってる。 葉山がぬいぐるみ大好きで可愛いぬいぐるみをいっぱい持っていることは誰にも言わない」


「ぐっ!」


言葉を区切らず、早口で葉月は言う。 いつになく滑舌だ。 その言葉に葉山はダメージを負っている様子。 葉月の奴、確実に面白がってるな……。


「いやぁ、でも毎日ぬいぐるみに埋もれて寝ているんだね、歌音ちゃん」


「そ、んなことしてないしッ!!」


バンバンと床を踏みつけ、葉山は言う。 この時の床に対する八つ当たりはきっと、恥ずかしさからだ。


「お前ら止めとけよ……。 確かに葉山がぬいぐるみってのも、かなり面白いけどさ」


「お前は黙ってろッ!」


「いってぇ!! なんで俺だけ殴るんだよ!?」


「なんとなく」


……理由を聞いた俺が馬鹿だったよ。


「はいはい! それじゃあ今回のことをもしも口外したら、社会的に抹殺するから。 覚えておいてね、皆」


にっこり笑うと、葉山はそう死刑宣告をした。 別にそこまでして隠す趣味でも無いと思うけどな。


「てかほんと凄い量だねー。 いくつくらいあるの?」


「……あんた今の話聞いていた? えっと、100近くはあるかも」


死刑宣告を聞いていないであろう天羽の言葉に、礼儀正しくも受け答えをする葉山。 もうバレてしまったという、ヤケもあるんだと察する。


「マジで! すっげー!! 頂戴!!」


「あげないわよっ!! 絶対に!!」


言いながら、葉山は近くにあったアザラシのぬいぐるみを抱き締める。


その後、俺と葉月のなんとも言えない視線に気付き、それを手放した。


「ん、んん。 とりあえずもうぬいぐるみの話は良いでしょ!! 他の話しよ、他の話」


「えぇ、もっとしようよ。 歌音ちゃんの趣味について」


「あ?」


天羽の提案に反対するのは葉山。 その反対の仕方が恐ろしく、それを受けた天羽は冷や汗を掻きながら、話題を渋々変える。


「あ、それなら……じゃーん!!」


自分で効果音を言いながら、バッグから何かを取り出したけど……。 こういう風に、元気が溢れる程出ているのは俺達の中でこいつだけだろう。


葉山もたまーにそんな時があるけれど、よっぽどテンションが高くないとやらないし。 葉月の場合は「じゃーん!!」とか言ったら頭がおかしくなったのかと思うし。


……俺の場合は、恐らく病院に運ばれるだろうな。


「……またそれ? もう飽きたんだけど」


「えぇ!? 良いじゃん良いじゃん、ウノ楽しいよ?」


「お前ほんと、それ好きだよな」


「ウノなら負けない」


「あっはっは! 葉月ちゃん割りと強いもんね。 ビリになってるの見たこと無いかも!」


言われてみれば、確かに見たこと無いな。


……よっし、なんかそれ聞いたらやる気出てきた。


「あ、ならさ。 折角だし何か賭けてやらない? ビリの人が誰かのモノマネとか」


「お! 良いね、二人共オッケー?」


「俺は良いけど」


言いながら、葉月の方を見る。


「私も良い。 どうせ負けない」


「だそうだ。 じゃあ、またいつもみたいに最後に残った奴がビリってことで」


「オッケー!! んじゃあ配るよ~」


そして始まるウノ大会。 何か大事なことを忘れている気もするが、別に良いか。

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