表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
51/100

大切な、大切な

うーん、うーん、うーん。


「っはあ、全く嫌になっちゃうわよ。 面倒ったらありゃしない」


「ん? どしたの、歌音うたねちゃん」


「何でも無い。 ちょっとムカつくことがあっただけ」


「わはは、大変だねぇ」


あれから、一旦は部屋に戻ったあたし達。 八乙女やおとめくんは当然別の部屋だから、今居るのはあたしと歌音ちゃんと葉月はづきちゃんのみだ。


歌音ちゃんが言っている「ムカつくこと」と言うのは、もうどのことなんてのは分かり切っているけど、言わぬが花だろう。


それに、今はそれよりも……気になることがひとつ。


「……」


「……葉月ちゃーん?」


「……」


「おーい?」


「あ、え? なに?」


ううむ。 どうにもさっきから様子がおかしい。 最初は八乙女くんの前だからーって思っていたけど、八乙女くんが居ない今もこんな状態だ。


どこか上の空で、ボーっと考え込んでいたかと思えば、何やらバッグの中をゴソゴソとしたり、部屋の中をぐるぐると回ったり。


さっきなんて、部屋の壁に正面衝突していたし……。


「あー、ううん。 何でも無い。 あははは」


「そう」


そう言って、立ち上がる葉月ちゃん。


「あれ? どこ行くの?」


「お手洗い」


「お! 一緒に行く!?」


「……」


睨まれた。 まぁ確かに個室だから、一緒に行くと言われても困るけどね。


それにしても、それにしてもだ。 こんな上の空状態になっている原因を教えてくれないから困る。 出来ることなら、手伝いたいんだけど。


「……ねね、歌音ちゃん」


あたしはそんな風に思いつつ、葉月ちゃんが居なくなった部屋で、歌音ちゃんに話し掛ける。


「……はぁ、言いたいことは分かってるわよ。 神宮じんぐうさんでしょ?」


「そっそ。 なーんか変じゃない?」


「うん。 けど、それとなく聞いても何も言わないのよね。 全く……」


結局、あたし達は似た者同士なのかな。


歌音ちゃん然り、あたし然り、葉月ちゃん然り。 大事なことを一人で抱え込んでしまう癖があるようだ。


「八乙女くんに相談した方が良いかな? やっぱり」


「……それを私に聞く? なんとも言えないわよ、正直言って」


言いながら、歌音ちゃんは綺麗な茶色の髪をいじる。 とは言っても黒髪に近い茶色だ。 本人曰く地毛らしい。


「んー、と言うと?」


あたしが分からずにそう聞くと、歌音ちゃんはすぐに口を開いた。


「だって、八乙女君に原因があるんだったら尚更でしょ? それに神宮さんが言わないってことは、言いたくないってことだろうしね。 八乙女君にも言ってないみたいだし、知られたく無いんじゃないかな。 そういうのがあるから、今は様子見で良いと思うけど」


ふむふむなるほど。 やはり、歌音ちゃんはしっかり考えているなー。 なんて思いながら、歌音ちゃんの顔を見ていたら。


「なんかウザい」


「あいてっ!」


頭を軽く叩かれた。 最近、段々と葉月ちゃんのポジションにあたしが移行している気がする!?


「酷いよもぉ……」


「はいはいごめんなさい。 それよりそろそろ夕飯だから、移動するわよ? 私達のクラスは一階の大広間ね」


「はーい」


どうやら、夕飯はクラス毎で広間を使うらしい。 らしいと言うのも、ついさっき歌音ちゃんに説明されたからだ!


体験学習のしおりなんて、とっくにどこかに無くしたからだ! 葉月ちゃん、たまに見せてくれてありがとう。


それから、あたし達は葉月ちゃんが戻ってくるのを待ち、広間へと移動するのだった。




「おっす」


そう言って、あたし達に手をあげて挨拶するのは八乙女くん。 何故かやつれた顔付きなのは、きっと男子部屋で何かがあったのだろう。 八乙女くんの部屋のメンバーって、結構騒がしい人達だからね。


「なんかお疲れ? 八乙女くん」


「まぁな……。 ご飯も風呂もまだなのに、枕投げ始まってさ」


「おお、良いね! 歌音ちゃん、後であたし達もやろーよ!」


「子供かっての。 やらないわよ、アホらしい」


「えぇ!?」


「そんなにやりたいなら八乙女君の部屋行ってやれば? 男子達と一緒に」


「ううーむ、そうしよっかな」


「おい、頼むから来ないでくれよ。 先生達に見つかったら大問題になるから」


むう。 なら仕方無い、歌音ちゃんに思いっきりぶつけてやろう。 そうすれば多分乗ってくるだろうし。


やっぱりそういうのをやらないとね! 折角皆でお泊りなんだから!


「ほら、くだらない話をしてないで、さっさと座るわよ」


言いながら、大広間へと入る歌音ちゃん。 その姿を見た他の生徒達は一瞬、ざわつく。


無理もないかもしれないけど……何だか、嫌な空気だ。


「歌音ちゃん歌音ちゃん、すっごい良い匂いするね!」


「何よ急に? そりゃ、ご飯なんだし当たり前でしょ」


「いやいやそうじゃなくって、歌音ちゃんの匂い~」


「はぁ!? 何気持ち悪いこと言ってんのよッ!!」


叩かれるあたし。 それを見て、苦笑いするのは八乙女くん。


うん、そうだよね。 やっぱりあたしは歌音ちゃんが大好きだ。


「いたたたっ! ちょっとヘッドロックはやめてぇ!!」


そんな風に騒ぎながらあたし達は席に着いて、食事。 それはもうかなり豪華で、お刺身だとかグラタンだとか、北海道ならではの食材が沢山使われた物だ。 お姉ちゃんが一緒に居ると栄養最優先で作ってくるからね、美味しい物だけ食べられるって幸せ!


その点で言えば、あたしは葉月ちゃんの家に住み着きたいなぁ。 葉月ちゃんの手料理、本当に美味しいし。


「んー、おいしー! 今度あたしも作ってみようかなぁ」


と言った所、歌音ちゃんと八乙女くんが全力で止めてきた。 結構悲しい。


「……ごちそうさま」


「葉月ちゃん?」


見ると、まだご飯は残ったまま。 確かに小食な葉月ちゃんではあるけど……。 さっきからのこともあり、ちょっと心配だ。


「先に部屋に戻る」


それだけ言うと、葉月ちゃんはすぐに立ち上がって行ってしまう。 歌音ちゃんも八乙女くんも、咄嗟のことに何も反応が出来なかった。


勿論、あたしも。


「……っと! ちょっとあたし様子見てくるよ!」


既に葉月ちゃんが出て行った扉を見つめ、あたしは立ち上がって言う。


「え? ちょっと天羽あもうさん! ご飯残ってるけど!」


「歌音ちゃんにあげる!」


「……私こんな食べれないっての。 ったく」


そして葉月ちゃんを追うように、あたしは広間から出て行った。


廊下を走って、部屋へ向かう途中。 二階から三階へ上がる階段に葉月ちゃんは居た。


「おーい! ちょっと待った待った! ストップ!!」


「……天羽?」


葉月ちゃんはあたしに気付いて、足を止める。 振り返った顔は少し驚いているようにも見えた。 そりゃ、追い掛けてもくるよ。 様子がおかしいんだからさ。


「意外と……はぁ……はぁ……足早いね」


「どうしたの」


葉月ちゃんは、あたしの近くに来て言う。 感情があまり込められていない声だけど、あたしを心配しているということは分かった。


「いや、わはは。 そろそろ言って欲しいなって思ってさ。 なーに悩んでるの? 葉月ちゃん」


歌音ちゃんにはああ言われたけど、放っておくのはやっぱり出来ない。 八乙女くんにだけ隠しておけば、問題無いよね? なんて、自分の行動に理由を付ける。


「……別に悩んでない」


「嘘だよ嘘だ。 葉月ちゃんじゃないけどさ、顔くらい見れば分かるって。 いっつも一緒なんだから」


「それに、あたしに手伝えることなら手伝いたいし。 それともあたしは頼りないかい?」


言うと、葉月ちゃんは一度顔をあげた後、あたしの顔をジッと見つめる。 そしてもう一度顔を伏せて、小さく「ごめん」と呟いた。 それはきっと、否定的な意味じゃない。


「天羽、一緒に探して欲しい物がある」


ふふん。 やっと話す気になったか。 全くもう、最初からそうしていれば良いのに。


……とは言えないな。 あたしも似たような物だしね。


「探し物?」


「うん。 大事な物」


「ふむふむ。 それって?」


そして、葉月ちゃんは言った。 胸に手を当てながら。


「ペンダント」


ペンダント……ペンダント……。


「ああ! いっつも付けてるやつ?」


「そう。 どこかに、落とした」


「にゃるほどねぇ、それでずっとソワソワしてたわけか。 納得だよ」


そうと決まれば、することなんて分かり切っている!!


「いよっし! この天羽羽美うみちゃんに任せなさい!!」


「ほんとに、大丈夫?」


「もっちろん! 余裕余裕!」


「……うん。 ありがとう」


そう言って、葉月ちゃんはあたしの服の袖を掴む。 力強く。


……本当に、とても大切な物なんだな。 なんて、思った。


「よしよし。 それで、いつ失くしたの?」


「分からない」


「ふむふむ、落とした場所の心当たりは?」


「分からない」


「家に忘れてる可能性は?」


「分からない」


「よっし! それだけあれば十分だ! 余裕だねっ!」


ヤバイ、どうしよう。 調子良く引き受けた物の、分からないことだらけじゃん! このまま行くと、葉月ちゃんの中でのあたしに対する認識が、ただの馬鹿ってなってしまう!!


「ほんと?」


「た、多分……」


葉月ちゃんは、すがるような目であたしのことを見ている。 ううむ……頼られると弱いあたしだ。


「多分……」


ちょっと残念そうな顔付き。 むう。


「冗談冗談! マジ余裕っ!」


「さすが」


「わはは! でしょでしょ!?」


何だか、上手いこと乗せられている気がしなくも無い……。 いやいや、葉月ちゃんに限ってそんなことはしないはずっ! 多分っ!


そして、あたしと葉月ちゃんは分担を決める。 とは言っても、葉月ちゃんがこう言ったのでそれもすぐに決まった。


「天羽、一階をまた見て欲しい」


「おっけーおっけー! なら、あたしは言われた通り、一階からぐるっと回って探すよ。 葉月ちゃんは上からよろしくっ!」


「うん。 分かった」


後で一旦合流することと、もしも見つかったら連絡をすることを決めて、あたしは一階へと降りて行く。


その道中、さっきの葉月ちゃんの声を思い出す。 とても焦っていて、とても悲しそうで、とても辛そうな声だった。


葉月ちゃんが言っていた大切なペンダント、それはきっと、八乙女くんに貰った物なのだろう。 なんとなくだけど……声を聞いて、そう思ってしまった。


そして、それがどういう経緯を辿って葉月ちゃんが貰ったのか、それが気になるし、あたしが加わる以前のことを聞いて知るしか無いことが少しだけ、本当に少しだけ悔しかったりもした。




あたしは1階に到着した後、最初に取った行動。 相馬そうまくんを探す。


階段を降りている途中で気付いたのだ。 相馬くんは旅館に付いた時に、あたし達を写真に撮っていたことを。


つまり! つまりだよ? その写真を見せて貰えば、葉月ちゃんがどこでペンダントを無くしたのか、それに多少検討を付けることが出来る!


う~む、これは将来探偵になるしかないね。 名探偵羽美ちゃんだ。


……そうそう。 これは余談なんだけど、皆はあたしのことを「天羽」と呼んでくる。 名前で呼んでくれる人が居ないというのは少し寂しい。


前に一度だけ、歌音ちゃんに呼ばせようと試みたけど……どうにもあの子は人を呼ぶ時に、苗字プラス「さん」或いは「くん」と付けたがる。 それもあって未だに「天羽さん」だ。 だからせめてもの意思表示として、たまに自分を「羽美ちゃん」と呼んでいるけど、特に誰も反応しないので、何だか若干寂しい子みたいになってしまう。


と、そんなことを考えながらロビーから廊下に入り、丁度お手洗いの目の前を通った時だ。


スポーツ刈りの男子発見!!


「やいやい相馬くんっ! 君が犯人だッ!!」


「うおっ! なんだ天羽か……。 俺が何かしたか?」


「わはは。 ちょっとお時間宜しいかな?」


「別に良いけど。 どうせもう、就寝時間まで暇だしな。 トランプやろうって話してたんだけど、持ってる奴が居なくてさ」


「ちなみに言っとくと、担当は八乙女のはずだった。 なのに、あいつ見事に忘れやがって……」


実に八乙女くんらしい。 うっかりさんは健在だ。


「なるほどねぇ、それは災難だ。 わはは」


「人の不幸を笑うな。 で、何か俺に用事か?」


「ああ、そうだったそうだった。 実はさ、見せて貰いたい物があるのだよ」


「見せて貰いたい物? なんだ、てっきり告白でもされるのかと思った」


「告白? あっはっは! いやいや無い無い! ありえないでしょ! わははは!」


「……そこまで笑顔で全否定されるとすっげえ傷付くな」


いやいや、だって無いし。 ないない。 ありえないよ。


……あたしはこれでも、一筋なのだ。


「まーまー、それで何だけど……ここに着いた時に写真撮ってたよね? 携帯で。 その時の写真を見せて貰いたいなって」


「ああ、あの時のか。 ちょっと待っててくれ」


言って、相馬くんはポケットから携帯を取り出し、しばらく操作。 その携帯に付いているサッカーボールのストラップが可愛らしい。


「お、あったあった。 ほらよ」


「さんきゅー!」


お礼を言いながら受け取り、画面を凝視。 おお、皆良い笑顔だ。 八乙女くん以外だけど。


って、そうじゃないそうじゃない。 問題は葉月ちゃんのペンダント。


「……付けてる、なあ」


「付けてる?」


「あーいや、こっちのお話だよ。 ありがと相馬くんっ! 後でしっかり送っといてね!」


「りょーかい。 てか、なんか困り事か? 手貸した方が良いなら貸すけど」


この人も大概、お人好しだ。 女子の間でも人気は割りとあるし、噂では何人かから告白されているとも聞く。 だけど、特定の人と付き合っているというのは聞いたことが無い。


……もしやそっち系の人なのだろうか!? 今度色々とプライベートを調べてみたら面白そうかもしれない。


「うーうん。 大丈夫大丈夫」


あたしはそう返事をして、手を振ってその場でくるりと回り、今来た道を戻り始める。 その途中であることを思い出し、もう一度振り返って。


「そだ。 手を貸してって言うより、お願いなんだけど」


「ん?」


「歌音ちゃんのこと、嫌いにならないでね」


「葉山か? 別に俺は嫌いとか好きとか、そういうの無いしな。 でもなんか、さっき大暴れしたとか噂で聞いたぞ」


「おおう、そんな噂が……」


「はは、知らなかったのか? んで、その時の葉山があまりにも男らしかったらしくて、葉山ってすげえ格好良いんじゃないかって噂になってる」


「格好良い……あはは」


本人が聞いたら、激昂しそうな噂だ。 あたしの心の中に仕舞っておこう。


「俺としちゃあ、別に性格なんて人それぞれだしな。 それに他人がとやかく言うことじゃねーだろ?」


「うんうん。 そうだよね、ならこれからもよろしくっ!」


「おう」


そうして、あたしは一度状況を整理するために、ロビーへと戻って行った。




「ええっと……あの写真ではしっかりと付けていたから……」


無くしたとするなら、この旅館に来てからだ。 で、問題はそれをいつどこで無くしたか。


それが分かれば苦労はしないんだけど……うーん!!


ロビーの椅子に勢い良く座って、腕を思いっきり伸ばす。 考えても考えても分からん!!


「いったぁ!! ちょっとあんた何すんのよ!!」


「うおう! なんだ歌音ちゃんかぁ」


そのまま顔を上に向けて、声の方を見ると、鼻の辺りを押さえて文句を言う歌音ちゃんが居た。 どうやらあたしの伸ばした手が命中したらしい。


「なんだって何よ。 ったく……何してるの? こんな所で」


「んー? 宝探しだよ、宝探し」


「宝探し……何か無くし物?」


……おお、驚いた。 宝探しで良く伝わったなぁ。 なんて、言っておきながら思う。 もしかして以心伝心しちゃってる? 歌音ちゃんと以心伝心しちゃっているのか?


「うん。 実はさ、葉月ちゃんがペンダント無くしちゃったみたいでさー」


「ペンダント? ああ、あの八乙女くんから貰ったやつね」


ふむ。 やっぱりそうだったのか。


「けど無くしたって……ドジね、あいつ」


「わはは。 それでさ、それをこうしてお手伝いしているってわけだよ」


その言葉に続けて、あたしは「歌音ちゃんも手伝ってくれる?」と言おうとした。 だけど。


「……はぁ。 で、今はどこを探している最中なの? 無くした場所の見当とか、探した場所を教えてくれない?」


「……あっはっは!」


「何よ、なんかムカつくわね」


「いやいや何でも無い無い! ええっとだね」


そんな言葉はもう、言う必要も無かったか。 文句ばかりの歌音ちゃんだけど、歌音ちゃんも葉月ちゃんのことは大好きなんだ。


あたしはそんなことを思って、ついついニヤニヤしながら説明する。 その所為で頭を歌音ちゃんにチョップされた。 5回も。




「なるほどね。 つまり旅館に来るまでは付けていて……それでいつ無くしたのかが分からないってことか。 無理でしょ」


ようやく説明が終わり、歌音ちゃんが発したひと言がこれだ。


「諦めはやッ!? もうちょっと頑張ろうよ!!」


「はぁ、仕方無いわね。 それで、無くしたのに気付いたのはいつなの?」


「ほい? いやだから、それが分からないんだって」


あはは、歌音ちゃんってもしかして、ちょっと天然なのかな? 自分で「いつ無くしたのかが分からないってことか」と言っていたのに。


「違うって」


「……んん?」


「だから、私が聞いているのは、無くしたのに()()()()のはいつなのかってことよ」


「……んんん?」


「……天羽さんってお馬鹿さん?」


「ひどっ!! 待って待って、今考えるから!」


このままでは、あたしがお馬鹿さん認定されてしまう! それは避けないと! 名誉の為に! そんなの最初から無いかも知れないけど!


ええっと、ええっと……。


「どゆこと?」


うん、やっぱり素直にそう聞くのが手っ取り早いや。


「……はぁああ」


歌音ちゃんはあたしの言葉に、深くため息を吐く。 それと同時にあたしはお馬鹿さん認定をされてしまった気がする。


「だーかーら。 いつ無くしたのかは分からないんでしょ? どこで落としたのかが」


「うんうん。 そうそう」


「でも、その無くしたってことには気付いたわけでしょ? こうやって探しているんだから」


……。


……。


「……おおっ!? そういうことか!!」


「それ以外に何があるのよ。 で、それっていつなの?」


「わはは。 それは」


「……聞いて無いなぁ」


そう答えると、無言で6回目のチョップが落ちてきた。 痛い。


「それを聞かないと駄目でしょうが!! 神宮さんがいつそれに気付いたか分かれば、旅館に来た時からその瞬間までで時間を絞れるでしょうが!!」


7回目。 8回目。 一体何回叩かれるのだろう。


「あいてて……。 ごめんごめん、ちょっと聞いてみるよ」


「全く……。 そんなんで良く探そうと思ったわね」


「わっはっは」


「笑うなっ」


9回目。 あたしが更に馬鹿になってしまうからやめてっ!


もう叩かれるのは勘弁して欲しいから、あたしは頭を抑えながら、葉月ちゃんに電話を掛けることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ