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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
50/100

聞こえた物、届いた物

「居たか?」


「んーや、駄目だね。 どこにも居ないよ」


「そうか……葉月はづきの方は?」


「……」


「おい? 葉月?」


「え?」


「……大丈夫か? なんかソワソワしてるけど」


「……平気」


あれから、一旦は全員別行動を取って葉山はやまを探したのだが、見つからず。 そしてまた、再度三人で集まっているところ。


葉月は何だか、何かを気にしている様子だ。 葉山のこと……とは、少し違うような、そんな気がする。


「マズイね、さっき本庄ほんじょうは何か企んでそうだったし……。 見失っちゃいけない時に見失っちゃったよ。 何してるのさ八乙女やおとめくんっ!」


「俺か!? 俺がいけなかったのか!?」


びっくりだよ。 俺はてっきり、三人共ボケてるなぁ、なんて思っていたんだけど、どうやら俺が原因だったらしい。


裕哉ゆうや


と、少々落ち込んでいた所で、葉月が俺の袖を引っ張って言う。 何だかいつもより、若干弱々しく。


「どした?」


「……ううん、何でもない」


「そうか?」


葉月の様子も少し気になるけど……。 今はとりあえず、葉山の方をどうにかしないと。


しかし、こうも申し訳無さそうな顔をされると、俺の方がなんだか申し訳無くなってくる。 厄介な物だ。


「ん? お前ら何してんだ? こんな所で」


頭を抱える俺達に声を掛けてきたのは、相馬(そうま)和孝(かずたか)。 クラスの男子で葉山に特別嫌な感情を抱いて無さそうなのは、こいつと後は蒼汰そうたくらいの物だ。


誰が悪いとか、誰が原因だとか、そういうのを考えたらキリが無い。 クラス全体の雰囲気として、葉山が避けられている現在。 葉山に以前と同じように接してくれる友人は正直ありがたい。


「……なんだ相馬くんかぁ」


「何だって何だよ、いきなりキツイひと言だなぁ、天羽あもう。 そりゃお前らすげえ悩んでる風だったし、声掛けずにはいられないだろ?」


まぁ確かに、旅館のロビーで険しい顔をしている知り合いが居たら、俺でも声は掛けただろう。 その点、こいつは俺と少し似ている気がする。


「それで、何してんだ? こんなとこで。 もうすぐ飯って話だけど」


「ああ、ちょっと葉山を探していてさ」


相馬の問いに俺が答えると、相馬は「んー」と唸って、再度口を開く。


「葉山ならさ、あれじゃないか? 夕飯前の代表会議」


「……代表会議?」


「そうそう。 ひとつのクラスから3人で、全部のクラスだから……15人か?」


「6クラスだから18人だけどな」


大丈夫か、こいつ。 蒼汰も中々数学が苦手だけど、これは最早算数レベルだぞ。


「細かいことは良いんだって。 んで、葉山ならそれだと思うぜ」


「ん、ちょい待ち。 代表会議……あれ? どっかで聞いたような?」


「どうした? 天羽」


「いやぁ、その単語なーんか聞いたことあるんだよね。 ううーん……」


腕組みをしながら、頭を左右にゆっくりと動かす。 なんだか振り子みたいだ。 釣られて俺も動いてしまいそうな感じ。


「……あ!! 思い出したッ!!」


天羽は両手をバッと広げて、立ち上がる。 その広げた両手の内、片方が相馬の顔に当たっていたが、本人はどうやら気付いていない。


結構痛そうだったな……今の。


「あいつもその会議出るんだ!!」


「あいつ?」


「本庄だよ! 本庄真絵さなえ!!」


「本庄……そうか! ってことは」


歌音うたねちゃんがピンチだ!!」


俺と天羽は顔を合わせて、同時に頷く。 考えていることは一緒。


「相馬くん! その会議ってどこでやってるの!?」


「え? ええっと、確か一階の大広間だったかな。 ここからだと、その廊下をずっと真っ直ぐ行った突き当り」


「分かった! さんきゅ!」


「あ、おい!」


天羽は相馬の言葉を聞くと、すぐに廊下を駆けて行く。 そのまま行ってもどうしようもないってのに! 即行動ってのは天羽らしいっちゃらしいけどさ!


「なんだ? 何かあったのか? 八乙女」


「いや……まぁ、ちょっとな。 ありがとう、相馬」


「良いって良いって。 それより追っ掛けなくて良いのか? なんか、相当慌ててたぞ?」


「ああ、そうだな」


「ま、良く分からないけど頑張れよ。 それじゃあ俺は一回部屋戻るから、また後でな」


「おう、ありがとな」


軽く手を挙げて、歩いて行く相馬に礼を言う。 その後に天羽が走っていった方を見て、次に椅子に座っている葉月の方へと顔を向けた。


「葉月?」


「……」


気付いてない……感じだな。 何だろう、今日の夕方に一旦別行動を取って、その後に会った時も様子は少し変だったけれど……。 今のそれは、明らかに上の空って感じだ。


「葉月、行くぞ。 葉山の居場所が分かったから」


言いながら、俺は葉月の頭に手を置く。 すると、こいつは一度体をびくっと反応させた後に、小さく頷いた。


「本当に大丈夫か?」


「……うん」


とてもそうは見えないけど……今は天羽と葉山か。


「後でしっかり聞くからな。 とりあえず、あいつらのとこへ行こう」


「……」


それに葉月は頷かず、だけど椅子からは立ち上がる。 言いたく無いことって考えるのが正しそうだ。


けど、一緒に手伝えることなら俺も手伝いたい。 どうでも良いことはすぐに相談してくるのに、こいつは大事なことは結構隠してしまうからな。


まぁ、全部を俺に話さなければいけないなんて必要も無いし、そんな義理も無いのだろうけど。 だから、俺がその事について、物思うことがあるのはきっと、お門違いだ。


そんなことを思いながら、後ろから付いて来ている葉月の方を向かずに、俺は廊下を進んで行った。




「い、いやぁ……だから、別に何か用事があったってわけじゃ……」


「だったら部屋に戻っていろ。 そもそも、あまり館内をうろつくなとは言っただろ?」


「いやでもね! でもね尾山おやまくん」


「……教師に向かってその口の利き方は何だ。 天羽、指導室に連れて行かれたいのか?」


「わ、わはは……まさか」


見えてきたのは、天羽と一人の教師。 あれは確か、サッカー部の顧問だったか? 相馬がいつも「あの顧問さえ居なければ」と言っている教師だ。 体育を受け持っているらしいけど、俺達のクラスとは関わりが無かったので、こうやって話しているところを見るのは初めてかもしれない。


で、物の見事に天羽はあそこで足止めを食らっているようだ。 恐らく、部屋前で見張り役的なことをやっているのだろう。


こういう行事物の時にはふざけすぎる生徒も出るから、そういうのが必要ってところか。


「あ、先生。 ちょっと良いですか?」


「ん? 八乙女か。 どうした?」


「三階で大藤おおどう先生が呼んでましたよ。 何か、持ってきちゃいけない物が見つかったーとか、言って」


「む、本当か? それはいかんな。 八乙女、少しの間ここを見てもらっていても良いか?」


「ええ、勿論」


「宜しく頼んだぞ。 それと天羽、お前には体験学習が終わったら話がある」


「……うへ」


尾山は俺の肩にポンと手を置くと、廊下を歩いて行った。


後になったら俺も怒られてしまいそうだが、そのことについては後で考えることにしよう。


とにかくこれで、厄介払いは出来た。


「にしてもタイミング良かったね、大藤くんが呼んでるとか」


「まさか、そんなわけ無いだろ。 嘘だよ、嘘」


俺が言うと、天羽は少々目を見開く。 何だ?


「……八乙女くんって真面目かと思ったけど、案外やんちゃだね」


「お前には負けるって」


「わはは。 けどあそこまで八乙女くんのこと信頼されてると、何かちょっと納得出来ないなぁ」


「やっぱ、生活態度はキチンとしておくべきだって、天羽」


「んー、身に染みたよ。 まーでも直す気はサラサラ無いけどね。 楽しいし!」


「はいはい。 で、この中か……」


中からは、何やら話し声が聞こえてくる。 内容は明日の予定だとか、部屋での過ごし方だとか、そういった物だ。


「どうするの? 突撃する?」


「いや、それはさすがにマズイって。 せめて、本庄が何か仕掛けてからの方が良いと思う」


「……けど、それだと後手後手じゃん。 事前に分かってるんだから、行っちゃった方が良いんじゃない?」


「って言ってもな……。 証拠が無いと逃げられるだろ?」


「元々そんなの気にしてないよ、あの子は。 だからされる前に止めないと……」


そんな風に、俺と天羽が扉の前で言い合いをしている時だ。 中から、少し会議の雰囲気では無い調子の声が聞こえてきた。


「……でさぁ、ひとつ……あるんだけど」


「本庄だ」


その声を聞いて、最初に口を開いたのは天羽。 一度、会ったと言っていたっけ。 だから分かったのだろう。


「……聞こえづらいな。 少し扉開けるぞ」


「「……」」


俺が天羽と葉月に言うと、二人共ゆっくりと頷く。 それを見て、扉を気付かれない程度に開く。


隙間から覗くと、やはり取り仕切っているのは葉山らしく、用意されたホワイトボードの前に立っている。 そして、そのすぐ隣に座ってノートを開いているのが本庄って奴か。


しかしなんだか、空気は変だ。 葉山に対する妙な壁みたいなのを感じる。


こうやって改めてみると、こんな空気になるのを分かっていて、何も気にしていない様子で立っている葉山は本当に凄い奴だ。 友達として誇らしいよ。


「葉山さんって、何で良い子ちゃんぶってるのかなーって思ってさ。 あはは」


笑って言うのは本庄。 その言い方は、心底人を馬鹿にしている言い方。


「うわ、また直球だな……」


天羽は少し顔をしかめて、葉月はそれには特に反応を見せず、もしかしたら一度会った時に似たようなことがあったのかもしれない。


ちなみに開いた隙間からは、一番上で俺が覗いていて、その下に天羽、一番下に葉月といった順番。


そんな二人の様子をそっと見たのだが、天羽は今にも飛び込んで行きそうな顔をしていた。 ふすまの縁を掴んでいる手は微かに震えている。


「……大丈夫か?」


「うん、平気平気」


そんな俺達のことには気付かずに、中では会話が続けられる。


「今、その話は関係無いので後回しにします。 それで、明日の自由時間ですけど……」


「あーあ、そうやって猫被ってれば良いもんね。 良いなぁ、それで皆からチヤホヤされて。 まだ騙されてる馬鹿だって居るんでしょ?」


そのひと言で、部屋の中の空気はまたおかしくなる。 本庄の言葉に賛同する声まで出る始末だ。


葉山の表情はここからでは良く見えないが、あいつはどんな気持ちになっているのだろう。 良い気分だなんてことは、絶対無いはずだ。


「で、明日は午前9時にロビーへ集合、それからバスで移動となります」


葉山は本庄の言葉に耳を傾けず、話を続ける。


「無視? ま、都合の悪いことはそうやってれば良いもんね~。 良いんじゃない? 葉山さんらしくて」


「お昼ご飯は向こうで食べるので、お財布などは忘れないようにして……」


「類は友を呼ぶって言うし、葉山さんが入ってる部活の連中も似たような物なんでしょ?」


そんな言葉を本庄が言った時、初めて、葉山が話を止めた。


それに味をしめたのか、本庄は続ける。


「そういえば、さっき会ったよ。 葉山さんのお友達。 天羽って子と、神宮じんぐうって子かな」


「やっぱりあいつらも似たような物なのかな? 人に嘘吐いて、騙して、平気な顔してるような連中なのかな?」


「……酷い」


そう、声を漏らしたのは葉月。 その言葉は、自分と天羽の悪口を言われた所為なのか、それとも別の意味か。


「似た者同士仲良くってことか。 あはは、納得納得」


その時。 今まで頑なに無視をして、大した反応をしていなかった葉山は右手で拳を作り、思いっきりホワイトボードへと叩きつける。


物凄い音がして、相当勢い良く叩いたのか、ホワイトボードはそのまま床へと倒れ、再度豪快な音を立てた。


「うわ、何してんだあいつ……」


「さっきから横でゴチャゴチャうっさいわね。 人が黙って聞いてやってれば」


「……何、文句あんの?」


「うん。 でもぉ、私そういうの怖いからぁ……」


……やばいぞ、葉山さん、ガチでキレてないか? これ。


「こんっくらいしか出来ないかなぁ!!」


言って、本庄の机を思いっきり蹴っ飛ばす。 でかい音を立てながら、机は面白いように吹っ飛んでいった。


「……すげえ、見事なヤクザキックだ」


「……止めなくて良いのかな、これ」


俺と天羽は、思わずそんな声を漏らす。 だが、言い合いは終わらない。


「ほ、ほら! 皆見た!? これが葉山さんの本性!! マジ最悪ッ!」


「うんうん、良く分かってるじゃない。 だったら良いよね、喧嘩しようよ」


「……歌音ちゃんこわっ」


無言で首を縦に振る俺。 なんだか、とんでも無い物を見ている気がしてきた。


「へ、へえ。 じゃあ言わせて貰うけど、なんで今まで皆のことを騙してたの? ねえ」


「は? 別にそんなのどうだって良いでしょ。 てか喧嘩するなら早くしなさいって」


「……だから、言わせて貰ってるじゃん」


「何? 口喧嘩なわけないでしょ。 殴り合いに決まってるじゃん。 ほら、早く」


言って、葉山は本庄との距離をどんどん詰める。


「……馬鹿じゃないの? そんな、殴り合いなんてするわけ無いし」


本庄は呆気に取られ、数歩後ずさる。 葉山の予想以上のキレっぷりに慌てているのか。 いやまぁ、俺達も相当驚いているけどな。


「はぁ? だったら言わせて貰うけど」


葉山は言い、息を思いっきり吸い込む。 そして、そのひと言を放った。


「そんな度胸も無いのに、私の友達の悪口を言うなッ!!!!!!」


「良い? 良く聞いておきなさいよ。 葉山様の有難いお言葉」


「別に私の悪口なんて、いくらでも言って良いわよ。 けどね、八乙女君や神宮さんや天羽さんのことを悪く言うんだったら、マジで許さないから」


「あの馬鹿達は、こんな性格最悪の私を一生懸命守ろうとしてんの。 馬鹿でしょ? 今まで散々酷いことしたってのに」


そこで、天羽は扉を閉じる。 気付かれないように、ゆっくりと。


「……心配要らないみたいだったね、歌音ちゃん」


「そうだな……。 なんだか、必死に走り回ってた俺達が馬鹿みたいだ」


扉の中の部屋からは、未だに葉山が本庄に向かって怒鳴ったり、色々な言葉をぶつけている。


普段なら絶対に言わないような、俺達のことを認めている言葉。 俺達のことを想っている言葉。 それは汚い言葉だったかもしれないけど、俺達にとっては何より嬉しい言葉だった。


結局のところ、葉山は俺達が心配しているよりもずっと、ずっとずっと強かったということだ。 その強さの元になっている物に、ほんの少しかもしれないけれど、確かにあいつの力になれているのが、俺はとても嬉しかった。


「……さて、バレない内に離れるか?」


「んだね。 バレたらそれこそ、なんて怒られるか分かった物じゃないよ。 わはは」


「その時は裕哉が犠牲になる」


「やっと口を開いたと思ったらそれか」


「いたっ」


依然、葉月の様子はどこかおかしい。 しかし、それを尋ねてもやっぱり葉月は答えない。


葉山か天羽なら、その理由が分かるのだろうか? ううむ、後で時間がある時にでも聞いてみよう。


とにかく本庄真絵の件についてはこれで、一件落着だ。

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