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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
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想われること

「とーうちゃく!! ほっかいどー!!」


「さっきまで死にそうだったのに元気だな、お前」


「わっはっは! あの魔の乗り物さえ済んでしまえば元気補充だよ! 完全復活だよ羽美うみちゃん!」


無事に何事も無く北海道へと到着して、空港から出た直後にこの元気。 切り替えが早いのは良いことだと思うけれど、帰りにも飛行機に乗るってことを忘れてないかな、こいつ。


裕哉ゆうや、雪がある」


「そりゃあるだろ。 てか、寒いな……」


空港から出て、すぐ目に入ってきたのは雪景色。 11月の中旬でこの景色っていうのは、俺達の住んでいる所では考えられないな。


「……寒い寒い寒い寒い! なんなのこの寒さ!?」


腕を組んで足をバンバンと地面に叩きつけるのは葉山はやま。 相当な寒さ嫌いのようで、ニット帽を被って、マフラーをぐるぐると首に巻いて、それでもまだ体はぶるぶると震えている。


「あ、そのマフラーってあれか。 天羽あもうが誕生日プレゼントであげたやつ」


「……そうだけど。 それが?」


「いいや、別に」


ちゃんと使っているんだなって思っただけだ。 大した意味は無い。


「お、いたいた。 お前らいっつも同じ面子だなぁ」


そう言いながら俺達の前に来るのは大藤おおどう共治きょうじ。 一応は俺達四人の担任である。


「大藤。 荷物多い」


「んー? おい神宮じんぐう、お前教師を呼び捨てにするなよ……」


「それは何?」


「普通に無視したな今。 で、ああ、これか? 中身が空のカバンだな」


「空のカバン? 先生、荷物忘れたんですか?」


「おい八乙女やおとめ。 いくら俺でもそこまで抜けてはいないぞ? これはあれだ」


「子供たちに、お土産を頼まれていてなぁ。 折角だし、ちょっと奮発して買って行ってやろうと思って」


「へぇええ……って、あんた子供居たの!?」


「待て葉山。 お前今教師に向かって「あんた」って言っただろ」


「どうでも良いでしょそんなの。 で、子供居るの!?」


やけに食い付いてるな、葉山の奴。 まぁ、その驚きは分かるけど……。 このやる気のない駄目教師に子供が居たなんて。


しかも子供が居るってことは、結婚しているってことだよな……? この人の奥さんは一体、どんな変わり者なのだろうか。


「なんだ、お前ら知らなかったのか? 三人居るぞ、三人」


「マジで!? 何歳!? 大藤くんに子供とかっ!」


教師を君付け呼ばわりするのは天羽。 こいつは基本、どんな奴にでも「ちゃん」か「くん」で対応するからな。


「……なぁ、八乙女。 こいつらは俺の事を教師だと思っているのか?」


「……さぁ?」


「悲しいなぁ……。 八乙女だけか、俺に教師として接してくれるのは」


表面上はね。 表面上はそうさせてもらっている。 一応、礼儀として。


「そんなのどーでも良いからっ! で、何歳!?」


「どうでも良いって俺にとっては重要な事だぞ……。 上から5歳、3歳、1歳。 丁度二年ずつ離れているんだ」


とは言いつつも、大藤は嬉しそうに語る。 親というのは多分、皆こんな感じなのだろう。 俺はその気持ちがどんな物なのかはまだ分からないけれど、大藤の顔を見れば、なんとなく良い物だってことは分かる。


「うひょー! 超可愛い時期じゃん! 今度連れてきて! 学校に!」


「お前な、俺をクビにでもしたいのか?」


「それより写真! 写真とかないの!?」


「写真か? あるぞあるぞ、見るか?」


「見る見る!」


そんな感じで、大藤は葉山と天羽と楽しげに会話をする。 二人共多分、小さい子供が好きなんだろう。


「……ま、気持ちは分かるかな」


桜夜さよも小さい頃は可愛かったし。 今じゃ生意気に育ってしまったけど。


「で、隅の方で何してるんだ。 葉月はづき


「雪だるま」


「……気持ちが分からなくも無いのが悲しいな」


雪で遊びたくなる気持ち。 俺達の地元でも降るのは珍しい事じゃないけど、積もるってのは滅多に無いから……微妙に葉月の気持ちが分かってしまう。


しかし、こうやって雪で遊ぶ葉月はまるで雪ん子みたいだな。 ちっさいし。


「葉月は大藤先生の子供に興味無いのか? 可愛いってあいつらはしゃいでるけど」


「無い。 子供は嫌い」


「そうなのか。 まぁ、どっちが子供か分からない……って冷たっ!?」


「隙あり」


「だからって雪をぶつけんなっ! 服の中に入ったじゃねえか!!」


「油断禁物」


「……そうかそうか、よく分かった」


この野郎、調子に乗ったな。 痛い目に遭わないと分からないか。


そう決めて、俺は葉月の肩を掴む。 どうやら反撃は予想外だったようで、葉月は何も反応をしなかった。 隙ありまくりだな。


「ほら葉月、大好きな雪だぞ。 喜べ喜べ」


言って、俺は葉月の服の隙間に雪を放り込む。 背中側に。


「ひっ。 ゆ、裕哉。 冷たい」


こんな時まで反応が薄いな……。 いやでも、可愛らしい悲鳴はあげていたか。


「八乙女君! 神宮さん! イチャイチャしてないで行くわよー!」


と、横から葉山の声がする。 見ると、どうやら大藤との話は終わったらしい。


「別にイチャイチャなんてしてねえよ!」


言われてつい、そう言い返して、手に持っていた雪をノリで葉山の方へと放る。 正直に言うと当てるつもりは全く無かったのだが、それは見事に葉山の顔へと命中。 砕けた雪が綺麗に散っている。


「……ほーう、そういうことね。 なるほど」


悪そうな顔で言う葉山。 こういう顔が一番似合っている。


……って、それどころじゃ無い。


「いや待て葉山。 当てるつもりは無くて……」


「問答無用ッ!! 戦争だッ!!」


場所的に近くに居た俺と葉月。 そして葉山とノリで参加してくる天羽。 少しの間、雪合戦をした後に、見るからに怒りオーラに溢れている笑顔の宮沢みやざわ美希みきによって、俺達は移動用のバスへと連行されたのだった。




「……最悪最悪最悪。 八乙女君と神宮さんと一緒に居ると、ほんとにろくなことが無い」


「それはこっちの台詞だ。 お前が宮沢先生にも雪ぶつけるから、更に怒らせたんじゃないか」


「流れ弾でしょ。 それにしてもありえないんだけど……なんで私達がついでで宮沢先生個人の頼み事聞かないといけないのよ!!」


あの教師はやはり一緒に面倒事を持ってきて、札幌にある陶芸店で、依頼しておいたティーカップを引き取ってきて欲しいとのこと。 自分で行けと全員が心の中で思ったが、さすがに怒られるような事をした後でそんな事は言えず、更に丁度札幌を回る予定だった俺達だからこそ、その頼みだったのだろう。


……うーん、全部が多分計算済みだよな。 恐ろしい教師だ。


そして、今は旅館に荷物を置いて、一旦は自由時間となっている。 初日と言うこともあり、殆どの生徒は旅館で休んでいるようだが、効率主義の葉山によって、天羽と葉月と俺はこうして町へと繰り出しているというわけだ。


「にしてもさっむ。 誰よ、北海道が良いとか言った間抜けは」


「裕哉」


「俺は! ……まぁ確かに北海道って言ったけど! 葉月がそれが良いって言うからだろ!?」


「わはは! でも本当に寒いねぇ。 まるで冬だよ、冬」


「冬だけどな、今」


「あっはっは! そうだった!」


というか、葉山はこうやって俺達を集めてどこへ行くつもりなのだろう? 夕方にはご飯の時間だから一回集合しないといけないし、あまり時間があるようには思えないんだが。


「お、あったあった。 ここよ、ここ」


そう言う葉山が指さす先は……喫茶店?


「はいじゃあ質問! 北海道と言えば!?」


振り返って、俺達三人に尋ねる葉山。 それを見て、俺達は声を揃えて答える。


「寒い」 「SnowFriend」 「北!!」


言わずとも誰が何を言ったか分かると思うが、葉月のはまぁ、アニメの話だろう。 良くもまあそうやってポンポンと名前が出てくるもんだな。


「はい残念でした。 北海道と言えばスイーツ! 早く行きましょ!」


最早、何の為に聞いたのかが分からない。 自分で答えを出すなら、聞く必要無かったんじゃないか?


しかし機嫌良さそうだなぁ。 でも、これって俺達が付いてくる必要あったのだろうか。


「……甘い物?」


「そうそう、神宮さんが大好きな甘い物! いっぱいあるわよ!」


「行く」


そうか、葉月はそうだったか。 こいつは砂糖をそのまま食べていてもおかしくない程、甘い物大好きだったんだ。


「あ! あたしあれ食べたい! プリン!」


……どうやら天羽もらしい。 そう言えばだけど、こいつらって女子だった。 いつも一緒に居るから、ついつい同性だと思い込んでしまう。


「ほら、八乙女君は何ぼーっとしてるのよ。 行くわよ」


「……はいはい分かりました」


ここまで来てしまった以上は仕方無い。 今更のこのこと一人帰るのも間抜けだし、付き合うとしよう。




「うわぁ、すっごいいっぱいある。 どうしよっかなぁ」


気持ち悪いほどの笑顔でメニューを眺めているのは葉山。 こういう所はなんだか、女子っぽいと言えば女子っぽい。


「裕哉、私はこれが良い」


「待て。 なんで俺に言うんだ。 まさか奢らせる気じゃないだろうな」


「チッ」


「舌打ちすんなっ!」


「……いたっ」


なんで奢って貰うのが前提で、こいつは堂々と店に入ってきたんだ。 不思議で仕方ないぞ。


以前までなら「じゃあ俺の半分にするか?」みたいな態度を取れたけど、毎月大金が振り込まれているのを知った今では、ただただ頭を叩きたい。


「決めたっ! あたしはこれ! このプリン!」


「早いわね。 私はー、このチーズケーキにしよっかな。 美味しそう。 神宮さんはどうする?」


「私はこれ。 パフェ」


「……お前らよくこの甘い匂いの中で、そんな甘そうなの食えるな」


「はぁ? んなの普通でしょ。 それが更に幸せ度を増してんの。 馬鹿な男子には分からないと思うけど」


相変わらずの酷い言い方だな。 葉山らしくて良いんだけどさ。


……葉山らしいか。 そういえば、あの件は一体どうするつもりなんだろう?


「そういえばさ、葉山」


「ん? 何よ?」


「お前、どうするつもりなんだ? クラスでの立ち位置」


「……あー、その話? 別にどうだって良いかな。 省かれようと、裏でコソコソ言われようと」


「いやでも……」


「あはは。 知ってるでしょ? 私はそんなの気にしないって。 だから、面倒臭いしこのままで良いかなって。 変に理解してもらうより、気楽だし」


確かにそうだ。 葉山はきっと、そんなのは気にしていないんだろう。 俺達四人で居られれば、それで良いと思っているんだ、こいつは。


けど、それは何だか……少し、悲しい。 それにあれは、俺と天羽の所為でもあるんだから。


「それでもさ、皆に納得してもらった方が良いだろ? 悪い奴はクラスに居ないし、話せば理解してくれると思うぞ」


「っはあ。 またお節介? 私本人が良いって言ってるんだから良いでしょ? 何もいじめられてるわけじゃないんだから。 それとも、それって八乙女君の自己満足?」


「ちょ、歌音ちゃん」


葉山の一言で、空気が変わったのを理解したのか、天羽が急いで止めに入る。 しかし、葉山はその静止を無視して続ける。


「何よ、元はと言えば八乙女君と天羽さんが原因でしょ? 図々しい言い方だけど、二人の為に私はやった。 で、その結果をどうにかしたいって事を八乙女君は言ってるんだよね? それは自分勝手だよ。 私はそんなのいらない」


「そんな言い方無いだろ。 俺はそっちの方が良いと思って……」


「私はそう思わない。 第一、本来だったらあそこに居たのは天羽さんじゃなくて……」


そこまで言って、葉山は口を咄嗟に閉じる。 何を言おうとしたんだ? 葉山は。


「わはは。 ごめんよ」


そう、天羽は俯いて言った。 いつもの笑い方だけど、元気も笑顔もいつもと比べては無いも同然で。


「……なんかムカつくし帰る。 先に旅館戻ってるから」


「は? おい、葉山!」


葉山はそれからすぐに席を立って、店から出て行った。 天羽とのすれ違い様、本当に小さく何かを囁いた気がしたが、その声は俺に聞こえなかった。


「……っはぁああ。 ごめん」


「八乙女くんが謝ることないって。 誰も、悪くは無いよ」


一つだけ空いてしまった席。 折角の楽しい雰囲気が、台無しになってしまった。


「よっし、とりあえずスイーツ食べよ! スイーツ! あたしと葉月ちゃんは決まってるけど、八乙女くんはどうするっ!?」


「俺か? 俺は……何でも良いよ」


「それはダメ! 折角来たんだから食え! さあ選べ!!」


そう言って、いつものようにニッコリと笑って、天羽は俺にメニューを突き出す。 強引だけど、今のこの状況にとっては丁度良いくらいかもしれない。


「分かった分かった。 じゃあ、ゼリー貰っておこうかな。 メロンの」


「いひひ。 了解! すいませーん!」


「……そこのボタンで呼ぶんじゃないのか?」


「おお、そんなシステムが。 ま、こっち来てくれてるし一緒一緒」


「はは、あっはは!」


笑って言う天羽を見ていたら、何だかおかしくなってしまい、俺は思わず笑い出す。


「……裕哉が壊れた」


「壊れたね~。 葉月ちゃん、叩いて治してあげよう!」


「いや壊れてねえよ! なんか、天羽見てたらおかしくって。 悪い悪い。 はは」


「むう。 なんかそれ、褒められてるのか貶されてるのか分からない台詞だね。 まー、どっちでも良いけどさ。 わはは!」


こういう時、天羽が居てくれて本当に良かった。 俺と葉月だけだったら、雰囲気最悪どころじゃ済まなかったよ。 お互いにマイナス思考的な部分があるしな。


「なんていうか、ありがとうな。 天羽」


「げふっ! な、なに!? いきなり!」


飲んでいた水が器官に入ったのか、むせて顔を真っ赤にしながら天羽は言う。


「天羽が居てくれて良かったって思ったんだよ。 だから」


「……そ、そうかい」


「……あのー、ご注文お決まりでしょうか?」


「へ!? もっ勿論!! ええっと! あたしはこれで! ええっと!?」


いきなり声を掛けられて焦ったのか、天羽はしどろもどろになりながら言っている。 当然そんな状態で店員さんが分かるわけも無い。


「ちょっと貸せって。 えーっと、この小さいのがパフェで、こいつがこのプリンで、俺がこのゼリーです。 全部一個ずつ」


「あは。 分かりました。 少々お待ちください」


ほら見ろ。 店員さんが苦笑いじゃないか。


そう思って天羽の方を見たのだが、どうやら先程慌ててしまったのが恥ずかしかったらしく、珍しく顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。

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