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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
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機内ではお静かに

裕哉ゆうや、これが飛ぶの?」


「そうだよ。 飛行機乗ったこと無かったのか?」


「無い。 初めて。 裕哉は?」


「俺は……まぁ、何回かあるよ。 昔だけどな」


「そう。 何だか不思議な感じ」


そう言って、葉月はづきは窓の外を眺める。 今はまだ離陸すらしていないが、葉月にとってはこの空間が不思議なのだろう。


俺としても、この独特な匂いとかは不思議だなーって思うしな。


神宮じんぐうさん、神宮さん。 飛行機って飛ぶ時にね、体がぶわぁあああってなるんだよ。 で、極稀にその所為で死んじゃう人も居るんだって。 極稀にだけどね。 それじゃ」


……葉山はやまの奴、それだけ言いにわざわざ前の座席から身を乗り出して来やがった。 明らかに葉月に対する嫌がらせだな。


「裕哉、死ぬの?」


「何で俺なんだよっ」


「いたっ。 いつか覚えとけ」


「いつもより恨みたっぷりだな!?」


「私もやられっぱなしじゃない」


「はいはいそうかよ。 気を付けとく、それなら」


「気を付けても無駄。 私には策がある」


そう言うと、葉月は猫のお面を取り出して、それを付ける。 こんな所にまで持ってきているのか、そのお面。


「聞いとこうか。 どんな策だ?」


「秘密の通路を使って、裕哉が寝ている所を」


「……俺が寝ている所を?」


「包丁で、一刺し」


「もう捕まれ!! マジでやろうとしたらあの通路塞ぐからな!?」


「それはだめ。 私が朝起きれなくなる」


「……自分で起きる努力はしろよ。 一応」


「冬だけはだめ。 体が起きるなって言ってる」


雪が好きなのに寒いのは苦手なのか。 てっきり寒いのに強いから、北海道に行きたいって言ってる物だと思ったが、どうやら違うようだ。


まぁ、確かにこいつ、最近だと部室に居る間はずっと床に寝そべっているしな。 床暖房付けて、毛布に包まって。


「そんなので大丈夫なのか? 北海道、もうかなり寒いだろ」


「大丈夫。 こんな時の為に買ったダウンがある」


「へえ、てか葉月って結構お金持ってるよな……アニメのDVDもそうだし」


「うん。 毎月15万円。 振り込まれる」


「……ちょっと待て、それってあれか? 電気代とか水道代とか、そういうのは?」


「それは別。 振り込まれてるお金は、食費とお小遣い」


「おい、二度と俺の家に飯をタカリに来るな。 っつうか逆にどうやったらそんな使えるんだよ!? 何買ってんだ!?」


「殆どアニメのDVD。 たまにフィギア。 後は洋服」


「ここまで金使いの荒い奴は初めて見たな……」


「大丈夫。 貯金もしてる」


「……怪しいな、その発言は」


「一ヶ月1円。 ちゃんと貯金箱に入れてる」


「一年で12円しか貯まらないじゃねえか!!」


「いたっ。 また叩く……」


なんて奴だ! 俺がジュース一本我慢するかしないかで悩んでいるというのに、こいつはそんなにホクホクした生活をしていたのか!


俺が毎日財布の中身と今後の予定で計画を立てている中、こいつは特に何の考えも無しに欲しい物を買っていたというのか!!


「もう絶対飯食わせないからな!?」


「……絶対?」


「ああ、絶対だ。 ていうか、そこまで振り込んで貰ってるならもうちょっとしっかり管理しろって……。 だらしないな」


「本当なら、後2倍は欲しい所」


「今度両親に会ったら土下座しとけ」


「するの? 裕哉」


「何で俺なんだよっ! 葉月だ葉月!!」


「ゆ、ゆゆゆううや。 ゆらっさささないで」


「……全く」


500円貯金ならまだしも、1円貯金とは。 今葉月は15歳だから、平均寿命的に後60年くらいって考えて、一生掛けて貯まる貯金が720円か。


……なんて無駄な計算を俺はしているのだろうか。 答えを出してから気付いてしまった。


「あ、ねえねえ八乙女やおとめ君、神宮さん。 お菓子食べる? 甘いやつ」


そんな風に葉月と話していた所、前の席から葉山が身を乗り出して、俺と葉月に何やら丸い飴みたいな物を差し出す。


「食べる!」


「俺も貰おうかな。 悪いな、葉山」


「良いって良いって。 折角の旅行だし!」


「体験学習な。 お前、やっぱりすげー楽しみにしてるだろ」


「……あはは。 ま、それなりにはね」


会話をしながら、俺と葉月はその飴を受け取る。 で、葉月は取ると同時に包装を破り、それを口に放り込んだ。 お面を取って。


「あ、ちなみにそれハバネロ飴ね。 これこれ」


「え? おま、おいっ!!」


慌てて葉山が見せる袋を見ると、確かに葉山の言う通り、そこにはハバネロ飴と書いてある。 横には勿論激辛の文字。


「……ゆ、裕哉」


「おい葉月! 大丈夫か!?」


「だ、だめ……さようなら」


「さようならじゃねえよ! ええっと……」


急いでポケットからティッシュを取り出して、葉月の口元へ。


「とりあえず吐き出せ! そのままだと死ぬぞ!」


まぁ、死ぬはさすがに大げさかもしれないけれど。


「……んー」


よし、これで後は何か飲み物を飲ませるだけ。


「葉山、お前これ捨てとけよ。 葉月に飲み物あげないといけないから」


「しっかたないなぁ。 それより、まるで毒物でも食べた勢いね、二人共」


「毒物だろ!?」


「……この飴作った人に謝りなさいよ。 心の中で」


お前がこんなことをしなければ、そうする必要も無かっただろうが。 自分勝手な奴だな、全く。


「ほら、葉月。 これ飲め」


「うう……」


「……大丈夫か?」


「……なんとか」


「ったく。 葉山、お前それはやめろって……。 本当に死ぬぞ、こいつ」


「はいはい悪かったわよ。 ほら、これあげるから」


そう言って、葉山が渡してくるのは違う色の飴。 ううむ……。


「何よ八乙女君、その目は」


「マジで大丈夫な物なのか?」


「今度は大丈夫だって。 本当に」


「なら貰う」


言いながら葉月はそれを受け取って、口の中へ。


先程騙されたばかりだというのに、疑うということを知らないようだ。


「……おいしい」


「本当か? 後になって辛くなったりしないよな?」


「大丈夫。 おいしい」


「ほら、だから言ったじゃん。 私が人を騙すわけ無いでしょ? ったく」


良く言えたな。 今言った言葉の方が衝撃だよ。 マジでな。


「はいはい悪かったよ。 てかお前良いのか? 俺達と話してて」


「んー? 何で?」


「……あーいや、別に」


今、俺が少し気に掛けていること。


葉山はあの日以来……あの学園祭での事件以来、少し皆とは距離を取っている感じがする。 取っているというよりかは、取られているといった感じか。


教室内では話しているのをあまり見なくなったし、誰かに話し掛けられているのも、話し掛けているのも見なくなった。 この部活メンバー以外では。


……やっぱり、このままって訳にはいかないよな。 なんとか、葉山の事を皆に理解して貰えれば良いんだけど。


「葉山、この飴最高」


「そう? お婆ちゃんがさー、特別に取り寄せてくれたんだよね。 昔は良く食べてた飴なんだって」


本人から直接聞いたわけでは無いが、こういう会話の節々から、葉山とその祖母がどんな関係なのかは伝わってくる。 こうやって、そのお婆ちゃんの話をする時の葉山の表情は、本当に優しそうな物だから。


「おいしい」


「あはは。 そんな気に入った? ならもう一個あげるよ。 いっぱいあるし」


「ありがとう。 葉山」


「良いって良いって。 それよりほら、そろそろ出発だから」


何だかんだ言っても、仲の良い二人だ。 葉月にこの前聞いた所に寄れば、休日に二人で出掛けることとかもあるらしい。 どんな会話をしているのかが、割りと気になったりもする。


「あれ? そういや天羽あもうは?」


「……横で寝てるわよ。 なんか、飛行機だけは苦手なんだって。 だからこうやって離陸する前に眠るのが基本って言ってた」


「へえ」


あの苦手な物無しって感じの天羽に、こんな苦手な物があったんだな。 葉月は辛いのが苦手で、天羽は飛行機か。 だとすると葉山は何が苦手なんだろう?


そう思って、俺は葉山に尋ねる。


「なぁ葉山、お前って苦手な物とかあるのか?」


「うーん、シスコンかな」


「シスコン? ふうん」


なんだろう、なんか悪口を言われた気がするのは気の所為だろうか? でも俺はそんなのじゃないし、気の所為だとは思うけれど。


だよな?


「裕哉、裕哉」


「ん? なんだ?」


葉山はそれから一度不敵に笑うと乗り出していた体を元に戻す。 その少し経った後、葉月が俺の袖を引っ張って話し掛けてきた。


「ランプが付いた。 あれは?」


「ああ、シートベルト付けろってやつだよ。 席の横にあるだろ?」


「あった。 なるほど」


「あれが付いてる間は外しちゃ駄目だからな。 お手洗いとか大丈夫だよな?」


「平気」


「なら良いけど。 携帯の電源は切ったか?」


「機内モード。 ハイテク」


「自慢か。 残念ながら俺のにも付いてる」


「私の方が、裕哉のより新しい」


「それは認めざるを得ないな……」


そんな会話をしていたところ、葉山が俺と葉月に向けて声だけを掛ける。 葉山ももうシートベルトはしているようで、それを一々外すのが面倒だったのだろう。


「あんた達、ほんっと親子ね」


「私が親で、裕哉が子」


「どう考えても逆だろ……。 それに親子じゃない!」


こんな風に、葉山は時々からかってくるんだよな。 俺と葉月の事を。


それで、葉月も葉月でそれに乗っかるから余計だ。


「あはは。 でも、ほんとそう見えるって」


「……ったく」


もう放っておいて寝ようと思った時だった。 葉山の隣の席、この場合は天羽がそこに座っているのだが、その天羽が俺達の方へ顔を向けたのだ。


「あれ? お前、寝てたんじゃなかったの?」


「……寝れないんだよ! どうしよう!?」


困っているのは分かるけど、それを俺に言ってどうするつもりなんだ。


「一つ良い方法がある」


「マジでっ!? なになに!?」


「お前の隣に座っている奴に、絞め落として貰えば良い」


「嫌だよそんな睡眠方法!?」


「天羽、それならこれ。 睡眠薬」


「なんでそんなの持ってるんだよ……って、それさっき葉山に貰った飴じゃないか」


「大丈夫。 葉山のことだから、きっと睡眠薬入り」


「……確かに、ありえるな」


「ありえるなじゃないわよ! あんたらさっきから私を何だと思ってんの!?」


割りと本気だったんだけどな。 葉山ならやりかねない。


「んー、悪魔!」


と言うのは天羽。


「クズ」


と言うのは葉月。


「鬼か?」


と言うのは俺。


結果、怒り狂った葉山によって、三人共に頭を一発叩かれた事は言うまでも無いか。


それと、騒ぎを聞いて駆け付けた客室添乗員に葉山が怒られたのも言うまでも無いことだ。 その所為で後で恐ろしいことになりそうなのは、考えないでおこう。


こんな感じで、三泊四日の体験学習は幕を開ける。 担任である大藤おおどうは前に二泊三日だとか言っていたけど、あれは結局随分適当な事を言っただけらしい。 大藤らしいと言えば大藤らしく、その迷惑っぷりにも最近では慣れてきたのだから、慣れというのは怖い怖い。


「葉月、怖くないか?」


「……多分」


「大丈夫だよ! 八乙女くんが葉月ちゃんの手をぎゅー! って握っておけば!」


「握るかアホ!」


「……あんのブス。 良くも私に逆らってくれたわね」


「あれはお前が悪いだろ……。 シートベルト外すから」


「裕哉、裕哉。 アニメ見たい」


「向こうに着いてからにしろ!!」


全く、皆で好き勝手言って、話に纏まりが全く無いじゃないか。 けどまぁ、そんなぐだぐだで、変わらない日常が、変わらない関係が。


俺は、好きなんだ。

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