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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
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脱出作戦

「んで、最近ツイてないってのはどういう?」


「色々とだよ。 今日のこれだってそうだし、葉月はづきとも喧嘩っぽくなっちゃったし、それにお前らに食べ物奢らされたりな」


「いっひっひ。 それはもう、八乙女やおとめくんが生まれ持った物でしょ。 そういう星の下に生まれたんだ!」


「最悪だな……それ」


こいつ、なんかこの状況を楽しんでないか。 そんな声色だぞ。 ひそひそとした声だけれど、どこか楽しげな声色だ。


「でもま、それでも八乙女くんは嫌だって思わないんでしょ?」


「……まーな。 逆に面白いくらいだ。 ここまで来ると」


「ならいーじゃん! そうやって何事も楽しんで行こうよ! 葉月ちゃんのそれだって、普段は怒らない葉月ちゃんが見れて面白いなぁ、って思えば良いんだよ」


「それは」


それは少し酷くないかと、言い掛けた。 しかし、言えない。それは確かに俺も思ったことだったから。


……最悪だな、俺。


「あたし達に食べ物奢ってくれたのも、面白いって思えば良いんだ!」


「どういう風にだよ」


「んーっと……。 あ、こうこう。 こんな可愛い子に食べ物あげて俺は幸せだ、みたいな?」


「……切実に張り倒してやりたいな、そんな奴が居たら」


「わはは! でも、いっつも文句言いつつもさ、八乙女くんは助けてくれるよね」


「俺は別にそんなつもりじゃ……」


「無くても。 無くても、あたし達はそう思ってるよ。 歌音うたねちゃんだって、これ言ったら怒られるかもしれないけど……。 八乙女くんの事、大親友だと思ってるんだよ。 感謝しても感謝しきれないって前に言ってたし」


あの葉山がねぇ。 さすがに誇大しているとは思うけど、そんな事を言っていたのか。


「葉月ちゃんだって、そう思ってるよ。 八乙女くんに一番お世話になってるのって葉月ちゃんでしょ? だから、今日言われちゃったことにもきっと、理由があるんだ」


「理由?」


「あたしには残念ながら分からない。 けど、葉月ちゃんが何も理由無くそんなこと言うなんて、ちょっと考えられないかなー」


葉月が怒った理由。 それが本当にあるのなら、俺が悪いのだろうか。 なら、やっぱり一度会うべきなのか。


「なーんか、酷いこと言ったんじゃない? 八乙女くん」


「言ってないって。 そんなの」


「八乙女くんがそう思っていても、葉月ちゃんにとっては酷い言葉だったのかもしれないよ。 嫌な言葉だとか、嫌な感情だとか、嫌な気持ちってのはさ、本人にしか分からないんだから。 八乙女くんがそれを決めちゃ、ダメだ」


いつものふざけた感じでは無く、天羽あもうは真っ直ぐ、俺に言葉を向ける。 背中合わせで話している俺達だが、その言葉は不思議と、胸のど真ん中にどっしりとぶつかった。


「逆に、嬉しい言葉ってのもあるんだ。 歌音ちゃんの場合は、友達って言って貰えたのが嬉しかったんだろうし、葉月ちゃんの場合もあるんじゃない?」


葉月の場合……それはきっと、一番最初にあいつの部屋へ入った時の事だ。 その時に、俺があいつに言った言葉。 あいつは今でも、その時のことをたまに「嬉しかった」と言うし。 聞かされる俺は恥ずかしくて堪らないんだよな。


「なるほどな。 なら、天羽が言って貰えて嬉しかった言葉ってのは?」


「あたし? あたしはー、あれだ! 八乙女くんが「お前と会えて良かった」って言ってくれた奴かな! 泣きそうな声で! あたしが死んだ振りした時。 いっひっひ」


「お前それは忘れろっ!! 思い出したら死にたくなってきた……」


「わはは。 でも、嬉しかったよ。 本当に、嬉しかったんだ。 心がさ、いっぱいになる感じで」


「……そりゃどうも」


人にはそれぞれ、嫌な言葉や、嫌な感情や、嫌な気持ちがある。 それとは逆に、嬉しい物ってのもある。 天羽が言いたいのは、そういうことだ。


「八乙女くんが分からないってのも仕方無いんだよ。 だから、そんな時のとっておきの必殺技、教えてあげよう!」


「必殺技? 葉月みたいなこと言うんだな、お前……」


「いやいや、本当にこれさえすればすぐ仲直りだよ。 マジマジ」


「じゃ、一応聞いておくか」


「うん、えっとだね」


背中側でゴソゴソと天羽は動く。 体制を変えているのか?


「顔を見て、手を握って、真っ直ぐ迷わずに」


先程よりも、天羽の声が近くで聞こえる。 恐らく、俺の方に体を向けたのだろう。


「ごめん。 って、それだけ言えば、充分だよ」


そう言うと、天羽は俺の背中に体重を掛けた。 ここからは見えないので、どういう状況なのかは分からないけれど、多分天羽は俺の背中に頭をくっつけたんだ。


「そういう真っ直ぐな気持ちはさ、きっと伝わるから。 だからね、頑張れ、八乙女裕哉ゆうや


その言葉からは不思議と、色々な想いが詰まっている気がした。 俺と葉月に対する想いも、葉山に対する想いも。 それと、もう一つの何か。


最後の()()は分からない。 けど、暖かい物だった気がする。 暖かい、()()()()()()向ける気持ち。


「……ああ、ありがとう。 出来るだけやってみるよ」


「なーに弱気になってるのさ。 そこはビシッと決めてもらわないと。 男の子でしょ! 八乙女くんっ」


「おお、良かった。 お前はまだ俺の事を男だと思ってくれてたんだな」


それが今日一番安心できたな。 割りと真面目に。


「ほい? 当たり前でしょ?」


「その当たり前が通じない奴が居るんだよ。 身近に」


「……わはは! うたたねちゃんか」


「誰がうたたねよ! 人の居ない所で悪口言うなっ!!」


そんな声が聞こえると同時に、ドゴンという音と共にロッカーが蹴られ、次に扉が思いっきり開く。


「あ、開いた」


「お久し振り。 八乙女君に天羽さん」


突然に開かれた所為で、俺と天羽は倒れ込みながら、引き攣った葉山の笑顔と恐ろしい声色を肌で感じた。


「いったた……葉山……?」


「元気そうで何より。 何してんのよ、あんたら」


「わお! 歌音ちゃんだ! 助かったぁ!」


天羽は俺の上に座りながら、さぞ嬉しそうに言う。 早く退いてくれない物か。


「はいはい。 お礼なら後でね。 ってか、わざわざ二人で同じロッカーとか……八乙女君、天羽さんに変な事してない?」


「してない! 仕方無いだろ!? 隠れる場所他に無かったんだから!」


「ま、それもそっか。 それにしても、全く何しているんだか……」


「わはは! 成り行きだよ成り行き! ごめんよ、歌音ちゃん」


「ったく。 けどこうなっちゃった以上、仕方無いわね。 本当は私が手を貸すのは御法度なんだけど……友達だしね」


友達か。 なんだか、さっき天羽と葉山のことについて話していたのもあり、笑えてくるな。 葉山がこうやって、友達って言っているのを聞くと。


「……あはは」


「なに笑ってんのよ」


言うと、葉山は俺の顔を軽く足で蹴る。 駄目だこいつ、やっぱり優しくもなんともねえ。


「というか天羽、そろそろ退いてくれよ……いつまでも床にべったりなのは嫌なんだけど」


「んん? おおっと! ごめんごめん! 座る心地が良くてさぁ~」


揃いも揃って酷いな、こいつらは。 絶対友達に対する接し方じゃないと思うんだが。


「はあ……。 八乙女君には色々聞きたい事はあるけど、とりあえずは今の状況ね」


葉山は言い、一度廊下を確認した後、俺と天羽に向かって話を始める。 どうやってここから脱出するかだ。


「まず、普通に階段を使っても絶対捕まるわ。 そこら中にそれを探している人が居るから」


「その状況にしたのはお前だろ……」


「そうするしか無かったでしょ? あの時点でゲーム終了! ってなってたら非難轟々よ。 企画倒れも良いところだし」


まぁ、それもそうだ。 天羽が頭にかぶらず、持ったりしているだけならまだ道はあったかもしれないが……。 説明を終えた後、王冠を被っている天羽が全員に見られているしな。


「ていうか、天羽さんなんかそれやけに似合ってるわね」


「お? そう? あっはっは! 照れるなぁ!」


「それ別に褒められては無いからな」


「え? そうなの!? 歌音ちゃんめ……!」


「はいはい。 そういうのは後でね、本題本題」


逸らしたのはお前だろって言いたいけど、言ったら物凄く叩かれそうな気がするので止めておこう。 ここでビシッと言えないから、俺は葉山に女子として接せられているのかもしれない。


「さっきも言ったように階段は駄目。 それを使わないで一階まで降りる必要があるわ」


「お前、まさか窓から飛び降りろとか言わないよな?」


「そんな馬鹿なこと、誰も言うわけ無いでしょ。 もしも言う奴が居たら顔を見てみたいわね」


「……わはは」


居たよ、一人居たよ。 俺の隣で笑って頭を掻いているこいつが言っていたよ。


「てか、何の為に私が来たと思ってるの? とっておきがあるのよ、こういう時の為に」


葉山は言うと、笑って鍵を俺に見せる。 そこにはネームタグが付いていて、書いてあるのは。


「……職員用エレベーター?」


「そっそ。 生徒は普段、使用禁止なんだけどね。 学園祭中は実行委員に限って利用して良いのよ。 主に機材運んだり、そういうのをスムーズにする為なんだけど」


「職権乱用だな……」


「文句あるなら使わなくても良いけど?」


言いながら、鍵を指でくるくると回す。 顔は既に勝ち誇っている。


「……ありがたく使わせて頂きます」


「あはは、よろしいよろしい」


こうして、俺達三人はエレベーターを使い、校庭へと向かうことになった。

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