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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
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追われる二人

「というわけで! 到着!」


「ここに来たかったのか? 天羽あもう


「まーね。 やっぱり、学園祭といえばお化け屋敷でしょ!!」


そう言って、にっこり笑う天羽。 良く笑う奴だな、ほんと。 葉山はやまにももう少しこの笑顔を見習って欲しいよ。 あいつのは殆どが、何故か悪そうな笑顔だからな。


「ってか、このお化け屋敷……結構本格的だな」


色々な物を使って、それはもう丁寧に作られている。 そこら辺の遊園地にあっても不思議では無いレベルだ。


「だよね!? さすが三年生ってだけあるよ~。 楽しみだぁ!」


別に楽しみなのは良いんだ。 一向にそれは構わないし、楽しんでくれるなら俺も少し楽しいし面白いし。 けど、手をぶんぶんと振り回すのはやめてくれ。 お前が繋いでいる所為で、俺までぶんぶん振り回されるから。


「ってわけでゴーゴー!」


と、半ば強制的に俺はお化け屋敷の中へと連れられて行った。




「ひっ!」


「うぎゃああ!!」


「ストップストップ!! タンマだって!!」


「誰か助けてぇええええええええ!!」


中はかなり本格的に作られていて、悲鳴が響き渡っている。 それに結構長く複雑に作られていて、出て行く頃には結構な疲れが溜まってしまった。


「……八乙女やおとめくん大丈夫?」


「ん? え? 何が?」


「いやだって、八乙女くんめちゃくちゃ叫んでたじゃん。 その叫び声にあたしびっくりしたんだけど……」


……余計な事は言わないで欲しいな。 折角、叫んでたのはどこかの誰かで済ませられそうだったのに。 あの葉月はづきだって一度もツッコミを入れてこなかったんだぞ? あいつに気を使われるのは背中が痒くなる感じだったけどさ!


「……怖かったんだから仕方無いだろ」


「……は、はは」


笑われるのは良い。 だけど天羽にこうやって苦笑いをされると、すげえ傷付くのはなんでだ……。


「てか、八乙女くんってホラー好きじゃなかったの? 歌音うたねちゃんとかと、そうなんじゃないかって話してるんだけど」


「ああ、好きだよ。 けど怖い物は怖いんだ」


「……そりゃまた、難儀だねぇ」


慣れないけれど、楽しいんだ。 ジェットコースターとかそういうのも、スリルを楽しむ物だから似たような物じゃないだろうか。


「よっし、んじゃ気を取り直して次いこー! って言いたい所だけど……少し休むかい? 八乙女くん」


「そうしてくれると、大変嬉しい」


「わはは、なら仕方無い。 屋上にでもいこっか。 風浴びれて気持ち良いだろうし」


情けない事に、俺は天羽に手を引かれながら、屋上へと行くことになったのだった。 怖い物にはどうにも慣れない。 多分、一生こればっかりは無理だな……。




「っふぅうう。 気持ちいーなー」


「……はぁ、死ぬかと思った」


「あっはっは! 腰抜けちゃってるよ、本当に大丈夫?」


「しばらく大丈夫じゃない。 悪いな、天羽」


「べっつに良いって。 面白い物見れたし」


そりゃまぁ、お化け屋敷自体は面白かったかもしれないけど……その怖がってる俺を見て面白いとか言うな。 それに関して、俺は面白くも何とも無いからな。


もう天羽とは二度とお化け屋敷には行かない方が良さそうだ。 女子の前ってだけで見栄を張っていた三十分前の俺を殴り倒したい。


「はれ? これは何だろ?」


そう言う天羽の方に顔を向けると、天羽が持っているのは……何だ? 王冠?


「何だそりゃ。 どこにあったんだ?」


「ここ。 この明らかに怪しい箱の中に入ってたんだけど……すごい工作臭がするね、この王冠」


「確かに……。 てか、紙じゃないか? これ」


「んだねぇ。 誰かが落としたのかな?」


まぁ、その可能性が一番高そうだな。 誰かが学園祭で作って、それをここに忘れていったって所だろう。


「お。 あたしピッタリだ! どう? 似合ってる?」


「……人ので勝手に遊ぶなよ。 ちゃんと箱の中に戻しとけよ? それ」


「うひひ。 ちょっとだけちょっとだけ。 んんん?」


「今度はなんだ?」


次に天羽は柵に手を掛け、校庭の方を見つめている。 目を細めて、何かを確認しているようにも見えた。


「いや……。 あれ、八乙女くん。 あれって歌音ちゃんじゃない?」


「葉山? どれ?」


「あそこあそこ。 あの大勢の人の前に立ってるの」


「……本当だ。 あいつ何してんだ、あそこで」


何やらマイクを持って、今まさに話そうとしている……感じだな。 何かのイベントを開いているのだろうか?


イベント、イベント……。 いや、ちょっと待てよ。


「天羽、葉山って委員会なんだっけ?」


「んん? えーっと、学園祭実行委員だね」


「ってことは」


そこで、スピーカーを通した葉山の声が聞こえてきた。 幸いにも、この屋上までしっかり聞こえる音量だ。


『えー! それでは、今から学園祭メインイベントを執り行いまーす!』


やっぱりか! 何だよあいつ、それなら知っていたんじゃないか? イベントの内容を。


『今年のイベントはこれです! 愛する彼女の為に走れ野郎共……って何よこの名前。 ええっと……とりあえず!』


『校舎の屋上にある王冠を取って、男子生徒なら女子生徒へ! 女子生徒なら男子生徒にこの校庭でプレゼントしてください! あ、屋上ってのはあそこの事でーす』


と言い、葉山が指差して俺達の方を見る。 瞬間、動作が止まった。


『……あ、えっと。 クリアした人には豪華賞品プレゼント! これで仲を深めるも、友情を深めるもご自由に!』


ってことはなんだ。 この、今天羽が被っているのがそのイベントのアイテムで、それを異性に渡せば良いってことか? てか、天羽が被っている時点でこのイベント終わってないか?


『ちなみに! 今屋上でコソコソしている二人は仕掛け人なので、彼らから王冠を奪うのはオッケーです! それではよーい、スタート!!』


「……ねね、八乙女くんっ」


「なんだ?」


「今、歌音ちゃん奪うのもありって言った? もしかして」


「言ったな」


「それで、物凄い勢いで校舎の中に人来てるけど……」


「……とりあえず逃げるか。 ああくそ!! 葉山の奴何考えてんだよ!!」


「わっはっは!! 楽しくなってきた! てか、あそこまで逃げてあたしが八乙女くんに渡せば終わりだよね?」


「まぁそうだな! でも相手はかなりの数だぞ……。 とにかく、一旦この屋上から離れた方が良さそうだ」


「うひひ。 そうと決まれば逃げよう逃げよう! 地球の果てまでっ!」


「それは一人で行ってくれ!」


俺と天羽は再び手を繋いで、一旦屋上から校舎内へと入る。 既に結構近づいてきているのか、下の階からは階段を上る足音が聞こえてきていた。


「うはぁ、凄いね。 あれ、でもここって階段二つだけだよね? 無理ゲーじゃない?」


「どっかに隠れるしか無いな……。 とりあえず階段からは離れた方が良いだろ」


「おっけ! んじゃー、隠れる場所を探してゴー!」


こんな状態だというのに元気な奴だな……。 軽く尊敬してしまうぞ。


と、そんな時にポケットで携帯が揺れる。 慌てて取り出して画面を見ると、葉山からだった。


「もしもし!? 葉山か!?」


『そうよ! あんたら一体何してんのよ!? 台無しじゃない!!』


「そうは言ってもたまたまなんだよ! 天羽と一緒に色々回ってて、んで屋上に来たらあれがあってさ!」


『そんなのはどうでも良いっての!! 私が言ってるのは……ああもう! それよりあんた、神宮じんぐうさんは!?』


「葉月? 葉月なら部室で……」


『死ねアホ!! 間抜け!! ボケ!!』


酷い罵声だな……。 ここまで言われたのは久し振りだ。 そんな大事なイベントだったなら、後でちゃんと謝らないといけないか。


『とにかく一度取ったからには、取られたら承知しないからっ! 分かった!?』


「分かった……って言ってもどうしようも無いぞ!?」


聞こえてくる足音はさっきよりも更に、近づいてきている。 このままでは俺も天羽も捕まるのは時間の問題だ。


『ったく……。 今どこに居るのよ、あんたら』


「今か? 今は屋上から降りて、丁度四階の廊下だな」


『なら、そこから左に行けば準備室があるでしょ? 化学の。 その中に隠れなさい』


「ああ、あるけど……普通にバレないか? そんなとこ隠れても」


『良いから! そこまで行ったら後は天羽さんに任せるわ!』


「は!? 天羽に任せるって……おい!?」


葉山はそこで通話を切ったようで、それから聞こえてくるのは無機質な機械音だけ。 ちょっと薄情すぎやしないか!?


「やーおとっめくん。 そろそろ逃げた方が……良さそうな?」


「へ? うわ、本当だ。 もう大分近いな。 とりあえずこっちだ!」


俺は言い、天羽の手を引いて走り出す。 一体何でこんなことになってるんだか……。 というか、天羽がかぶっている王冠を追い掛けて来ている奴らに渡せば解決じゃないのか? これ。


……けどまぁ、葉山はそれを望んでいない感じだったし……仕方無い仕方無い。 あいつはこのイベントを楽しみにしていたし、その気持ちを裏切るわけにはいかないか。


「おー! この化学って感じの香り堪らないね!」


準備室に入るなり、天羽はさぞ嬉しそうに言う。 気持ちは分からなくも無いけど……良くこの状況でそんな悠長な事が言ってられるよな。 さすがの天羽か。


「で! この後どうするんだ!?」


「ん? この後って、何が?」


「……葉山から何か聞いてないのか? 天羽に任せるってあいつ言ってたんだけど」


「マジで!? あたし任されちゃった!?」


「その様子だと何も聞いてないんだな」


「うん! わっはっは!」


腰に手を当て、高らかに天羽は笑う。 今この時程、この笑い方に腹が立ったのは無いだろう。


「おい! いたか!?」


扉越しの遠くの方で、そんな声が聞こえてくる。 こりゃ、どうしようも無いかもしれないぞ。 こうなってしまったらこの準備室からは出れないし、ここに留まっても時間の問題だ。


「……うひひ。 ワクワクするね、八乙女くんっ」


「……そう思ってるのお前だけだからな」


何でこいつはこんな嬉しそうなんだ。 俺はもう、とっとと部室に戻って暖かいお茶の一杯でも飲みたい気分だよ。 アニメでも見ながら。


「でもこれじゃあ本当にすぐ見つかっちまうぞ? 何か案無いのかよ?」


「んー、閃け羽美うみちゃん、閃け閃け……あ!!」


「あれだ! あの窓から!!」


「それはするなっ。 落ちたらただじゃ済まないし、そこまでして逃げる事でも無いだろ!」


「あいてっ。 うひい、結構効くね、八乙女くんのツッコミ」


頭を両手で抑えながら、天羽は若干涙目になりながら言う。 葉月とはまた違った反応だな。


「今、そこから何か声がしなかったか?」


そう、扉のすぐ向こう側で声が聞こえた。


「「……」」


如何にもやっべえって顔をしている天羽。 多分、俺も同じような顔をしていたと思う。


「そういえば、まだここは見てなかったな」


二人……か? いや、それよりもっと居る可能性はある。 だけど、それが一人でも何人でもここじゃ隠れきるのは……。


「じゃ、見てみるか」


その言葉と同時、扉がガタガタと音を立てる。 マズイ、こうなってしまった以上、せめて天羽だけでも。


そう思い、後ろに居る天羽の方へ振り返った時――――――突然俺の体が浮いた。


「あれ? 誰も居ないじゃん。 聞き間違えじゃねーの?」


「あっれ。 聞こえた気がしたんだけどなぁ。 幽霊だったとか」


「バーカ、居るわけ無いだろそんなの」


「はは、だよな」


そして、扉は再び閉まる。


「いっひっひ。 ギリギリだったね」


「……助かった。 ありがとな、天羽」


扉が開く直前、天羽はすぐ横にあった掃除ロッカーの中へと身を潜め、俺を引っ張りあげて中へ入ったのだ。 こいつって結構力あるんだな。


「どういたしましてっ。 いやぁ、さすがにダメだーって思ったけど、意外とどうにかなるもんだねぇ」


「んだな……。 てか、葉山はこれを狙ってたのか? お前が気付くと思って」


「どうだろ? 分からないけど。 それより八乙女くんや、狭いしそろそろ出て欲しいんだけど……」


「あ、ああ! そうだな、悪い悪い」


言われて気付いたけど、狭いロッカーに二人して入っているから体が妙に密着してしまう。 真っ暗な所為で顔は見えないのが軽く救いだな……。


「……あれ?」


「どしたの?」


「いや……天羽、これ扉開かないぞ」


勢い良く閉めた所為か、古いロッカーの所為か、押してもガタガタと音がするだけで、全くびくともしない。


「思いっきりバーン! ってやれば開くんじゃない?」


「それでロッカー倒れたらお終いだぞ。 本当に」


「おお、確かにその通りだ! わはは、ならここでしばらくこうするしか無いかぁ。 誰か助けに来るまで」


……色々とマズイな、それも。


「……なんかツイてないなぁ、最近」


「ほほう。 お悩み相談?」


「いーや、ただの愚痴だよ」


「八乙女くんから愚痴ってのも珍しいね! どうせ暇だし、聞いてみよう!」


こんな状況だってのに、相変わらず元気な奴だな。 顔こそ見えないが、きっと笑っているんだろう。


まぁ、今はその明るさが助けになっているけど。


「聞いて面白い話じゃ無いぞ? 言っておくけど」


「それはあたしが決めるよ。 ほら、さっさ言う!」


「分かった分かった! 分かったから体くっつけるなよ!」


「いっひっひ。 この狭さだしどうせ一緒だよ~。 気にしない気にしない!」


気にしないのはお前くらいの物だ。 俺としては気が気じゃないって。


「……じゃあせめて、こう向かい合った形じゃなくて背中合わせにしないか。 なんて言うか……凄く正直に言うと、恥ずかしいから」


「……ま、まそうだね。 わはは」


なんだ? 今、ちょっと慌ててたか?


うーん、余裕っぽかったり慌てたり、良く分からない奴だな。


そうして、俺と天羽は背中を合わせる。 さっきよりは多少マシになったけど、体がくっついているのは相変わらず。


だけど、それはもうどうしようも無い。 だから、俺はそのままの姿勢でゆっくり話を始めた。 せめて、気が紛れればと思って。

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