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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
34/100

穴だらけの計画

「じゅーう、きゅーう、はーち」


『数えるな数えるな!! 今めっちゃ走ってるから!!』


電話口から、八乙女やおとめ君が必死にそう言ってくる。 結局あの馬鹿二人は今日も遅刻。 既に待ち合わせ時間を5分オーバーで、電話したところ「今向かってる!」と言ってきたわけだ。


「なーな、ろーく、ごー」


『もう少しで着くから待てって!! てかそれカウント無くなったらどうなんの!?』


「決まってるでしょ。 死刑よ死刑」


『ええっと……どういう意味で?』


「社会的にも肉体的にも」


『勘弁してくれ!』


「じゃ、間に合うことね。 ほらほら走れ走れ」


『だぁあああ!! 走ってるよ!!』


というか、昨日あれだけ言ったのに遅刻って……。 もうそれが当たり前みたいになってるけど、わざとじゃないよね?


「あ、カウント忘れてた」


「よーん、さーん」


「セーフ!! あぶねぇ!」


「チッ」


うまい具合に時間稼ぎをされてしまったか。 とっとと数えておけば良かった。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った」


「必死ね。 ま、十分以内だし仕方無い。 許してあげる」


「おう……どうも……」


それよりも、気になる事が一つ。


「八乙女君、ところで神宮じんぐうさんは?」


葉月はづき? 葉月は……あ、すっかり忘れてた」


「……走って置いてきたの?」


「いや、そもそも起こすの忘れてた。 多分、まだ寝てるんじゃないかな……」


「……はぁ」


結局、それから神宮さんを起こしに家まで戻り、彼女が着替えるのを待って、ようやく病院へ着いた頃、時計は真上を回っていた。




「寝過ぎ、寝過ぎ、寝過ぎ」


「……叩かないで。 葉山はやま


「一体昨日何時に寝たのよ……。 頑張るって言ってたでしょ」


「三時には寝た。 余裕だと思った」


「夜中よねそれ。 あー、だから背が……」


「……背のことは言わないで。 気にしてる」


気にしていたのか。 でもなんだか小さくて可愛らしいから、私は少し羨ましかったりするんだよね……。 背でかいし、私。


うーん。 私と神宮さんを足して、二で割ったら丁度良いんじゃないかな? 男子の八乙女君と殆ど同じ視線って女子として嫌だし。


願望としては、背の高い人に憧れるよね。 だから自分より背の高い人が良い。 同じとか自分より背の低い人は嫌。 こう、神宮さんから見た私と八乙女君みたいに見上げる感じの相手が良いなぁ。


「あ! それよりそれより」


私はある事を思い出して、神宮さんに耳打ちする。 あれから結局どうなのだろうか?


「……ねね、あれからあの症状とかある? 神宮さん」


神宮さんはそれを聞いて理解すると、すぐに服の中からお面を取り出し被る。 で、小さな声で返事をした。


「……たまに」


やっぱかぁ! うわぁ、可愛いなこの子! そしてそれを放置してるあの馬鹿は何をやってんのよ!


「な、なんだよ……なんかしたか? 俺」


私の殺気を感じたのか、八乙女君は振り向いて言う。 そこまで怯えられると軽くショックだ。


「別に?」


でもでも、こうやってモヤモヤとした気持ちをするのも学園祭まで。 内容は未だに掴めていないメインイベントだけど……きっと、二人の仲が深まる切っ掛けにはなる筈よ! それに私と天羽あもうさんで協力すれば間違い無し! 頑張れ歌音うたね! えいえいおー!


「……葉山、これはいつ治るの?」


「……そのうちよ、そのうち。 本当に病気じゃないから安心して良いよ」


「……それはなんとなく分かる。 悪い物じゃなくて、良い物みたいな感じ」


「……でしょ? まぁ、安心して大丈夫。 もうすぐで治るから」


「ほんと?」


「ほんとほんと。 だから、今日はとりあえず天羽さんの退院パーティね。 で、その後は学園祭。 終わったら次は体験学習! ……北海道なのが気に喰わないけど」


「……分かった」


そう言って、神宮さんはお面を取った。 その頬は少しだけ、赤くなっている。


……こうやって素直な時は可愛いよね。 普通に。


「おーい、二人して何話してるんだ? さっさと病室行かないと」


「はいはい。 分かってるわよー。 ほら神宮さん、いこ」


「うん」


私は神宮さんの頭に手をポンと置いた後、八乙女君の方へと歩いて行く。


「……なんか、お前ら変わった?」


それを見ていた八乙女君は首を傾げながら言う。 一体何が?


「変わった?」


「うん。 なんていうか、仲良くなってるというか……俺が入り込めないオーラがあるというか」


……他人の事に関しては鋭いなぁ。 それが厄介極まりないし、事態を更にややこしくしているんだけど。


「別に良いでしょ? 女子同士秘密のお話だってあるわよそりゃ。 八乙女君だって私達にしない話があるように」


「ん? 何の事?」


「え? 言って欲しいの? 例えば北沢君と話してた高嶺の花である女子の落とし方とか」


「待て葉山! お前それ誰に聞いた!?」


「あは。 秘密~」


「言っておくけど俺はそれに対して何も言ってないからな!? 勘違いするなよ!」


「勘違いって?」


「いや、だから……お前ってそういうタイプだろ? 高嶺の花って感じの」


「……あっそ」


いやいや、まさかそんな事を言われるとは。 というか、私の性格を知って良くそんな台詞が言えた物だ。


「さーて! そんな話してないでさっさ行こ。 天羽さんと入れ違いになったら元も子もないし」


「そうだな、しっかしあいつ、どんな反応するかなぁ」


私達が退院日を知れたのも、凛さんからの連絡があったから。 私は八乙女君からの又聞きだけどね。


最近は学園祭関係のことで色々と追われていたし、部活動で作る新聞のネタ探しもあったから。


実は私、学園祭の実行委員だったりするのだ。


「あ、それなら……いっそのこと驚かす? いきなり後ろから頭殴ったりして」


「お前の驚かし方は怖いんだよ!! それもうただの襲撃じゃねえか!!」


うん。 今日も八乙女君のツッコミは絶好調だ。


「あー、それなら真っ暗な部屋に連れて行って、真ん中に神宮さん座らせておこ。 多分ショック死するから」


「やらないって……。 それより、葉月がまず怖がりだから先に孤独死するぞ。 寂しさと怖さから」


ウサギか。 神宮さんはウサギだったのか。


「私に案がある」


そう言って、神宮さんは私と八乙女君の服の袖を掴む。


「嫌な予感するけど……聞こうかな」


私が言うと、神宮さんは自信満々……かは分からないけれど、そんな感じの喋り方で話し始めた。


「まず、葉山がズタボロになりながら天羽の病室へ駆け込む」


「ふむ」


「それで、天羽に「助けて」と言う。 必死に言う」


「なるほど」


「それを見た天羽は立ち上がって、戦う。 裕哉ゆうやと」


「そこで俺か」


「三日間の死闘の末、天羽は裕哉を倒す」


「それって俺死んだよな」


「助けて貰った葉山は天羽と結婚する。 はっぴーえんど」


「どこがだよ!?」


「いたっ」


「私も異論あり。 まず助け求めないから」


「いたっ」


最初に八乙女君が神宮さんの正面から頭を小突いて、後ろに反れた頭を私が小突く。 見事な連携技!


「……二人でいじめる」


最近、なんだか憎たらしいというより可愛らしいと思うようになってきた。 子供っぽいところとか、この小型サイズなところとか。


「良いから早く行くぞ。 どうせいあいつのことだし、どんなやり方でも「おお! 驚いたぁ!!」とか言うだろ」


……確かにごもっともな意見。 想像できるなぁ、それ。


「てか、八乙女君はしっかりプレゼント持ってきた? 天羽さんの」


「大丈夫だって。 さすがに自分の事分かってるから、何回もチェックして完璧だ」


ま、それなら良いか。 いざプレゼントをあげる段階で「あ、忘れた」とかなったら最悪だし。


「それより葉山も持ってきてるよな?」


「私? もちろ……」


あれ? そう言えばプレゼント入れたっけ? 昨日確かバッグに入れたような気がするんだけど。


「あれ……」


バッグの中に手を入れて、覗きこんで。


「……無い! やば、どうしよう!?」


……私としたことが、人の心配よりもまずは自分の心配だった。 大事なプレゼントを忘れるなんて、ありえない。


「しっかりしてるのに珍しいな。 疲れてるんじゃないのか」


「疲れてるって、そんなわけ……」


無い、とは言い切れない。 最近では夜遅くまで新聞のネタになりそうな物を纏めてリストにあげたり、学校では空いている時間で聞き込みしたり、ずっとそうやって慌ただしく動いていたから。


「……疲れてるのかもなぁ」


ほんと、頭が痛くなっちゃう。 まさか自分がこんな八乙女君みたいな事をするなんて。


「ちょっと急いで取ってくる。 もしあれだったら、先に部室行ってて。 なるべく急ぐから!」


私は言って、八乙女君と神宮さんに両手を合わせる。 今から家に行って戻ってくる頃には予定の時間は大幅にオーバーだ。 天羽さんに申し訳ないよ、本当に。


「……待て待て。 ほら、これだろ? お前のプレゼント」


そう言って、八乙女君が私の頭に綺麗な包装紙に包まれた箱をコツンと当てる。 え、これって。


「……私の? へ? どうして八乙女君が持ってるの?」


「昨日俺の家来ただろ? その時忘れてたんだよ、だから今日持ってきた。 大丈夫か? お前」


「う……そういうことか。 はぁああ……なんて凡ミス」


「うっかり葉山」


「……うっさい!」


「いたっ」


「見つけたの葉月なんだから、そう叩いてやるなって。 けど葉山がそんなミスするなんて、明日は雪か……」


どれだけ私を完璧人間だと思っているのよ。 私にだってそういうのが無いわけじゃないし……。 確かに、滅多に無いけどさ。


「……まぁ、なんて言うか……ありがとう、二人共」


「はは、どういたしまして」


「罰として一日私の奴隷」


「それは嫌!」


迷惑掛けたり掛けられたり、ちょっと良いかもなんて思う私。




そんな一悶着があった物の、なんとか病室前まで到着。 時間も丁度、天羽さんが病院を出る頃だ。


「よ! この前振り?」


「……歌音ちゃん? え? どして?」


「凜さんに聞いたんだよ。 今日退院なんだろ?」


「八乙女くん! ってことは……あたしもハメられたのか!?」


あたしも? も、というのはどういうことだろう?


「お勤めご苦労」


「それはちょっと違うよ葉月ちゃん!!」


天羽さんは既に私服へ着替えており、荷物をまとめて今まさに病室を出ようとしていた所だったらしい。 タイミングで言えば、サプライズとしては完璧だね。


「いやぁ、でもそういうことか! わはは! やられたよこれは。 今日は空いてるってことは言ったけど、退院ってのがバレるとはねぇ。 あたしとしては後で部室でパーティの時に言って驚かせようと思ってたんだけど」


「……部室? あれ? 天羽さん、部室でパーティすること知ってるの?」


「ん? あっ!!」


そう言い、天羽さんは両手で口を抑える。 不審に思って顔を見つめるも、あからさまに目を逸らして逃げられた。


「……ってことは、八乙女君か神宮さんが口を滑らせたってことね」


うーん、この二人だと実にありそうだ。 でも、そう考えると天羽さんが退院祝いで私達が来るのを知らなかったってのもおかしい……かな? んー? なんだろう、この妙な感じは。


「あ、ああー! 実はさ、俺がこの前お見舞いに来た時、ついな。 でもなんとか誤魔化して退院祝いってことは言わなかったんだ! だろ?」


「そうそう! いやでもあたしとしては驚かされたよ? ふっつうのパーティだと思ってたし! 何の記念か良く分からないパーティだと思ってたし! だからその日は予定空けて行けるって言ったし!」


必死にそう言う二人はどこか怪しげ。 何か隠してる……みたいだったけど、そんな考えも神宮さんの突拍子もない行動によって霧散することになる。


「天羽、これあげる」


「ん? なになに?」


「プレゼント。 退院祝い」


「え!? マジで!? マジでくれんの!? うっひょお! 葉月ちゃんからの愛のプレゼントだぁ!!」


「愛は愛でも憎愛」


「こわっ!? いつからそんな感情を!?」


「って! 今あげるわけ!? 後でパーティの時に渡そうって話だったでしょ!!」


なんかもう、台無し! パーティ会場へ連れて行って驚かせるのも、八乙女君がドジった所為で台無しだし……プレゼントをあげるタイミングも、神宮さんの所為で台無し!! まぁ二人が考えてた計画ではあるけど……。


「ははは! なんかグダグダだな。 まー、それならほら。 俺からもプレゼント」


「おおう!? なんだいこれは……湯呑みか! また渋いセレクトだね、八乙女くんっ」


「熱いお茶が好きって言ってたろ? で、今部室にあるのもティーカップだけだしさ。 そっちの方が趣あるかなって思って」


「全然あるよぅ! ありがとありがと! なんか悪いね、こんな貰っちゃって」


「ちなみに私のはDVD。 税込み6073円」


「値段を言うなっ。 恩着せがましいだろ!」


「いたっ」


「わはは! 例え1円でも1万円でも、あたしにとっては最高のプレゼントだよ! ありがとね、二人共」


天羽さんは言って、にこっと笑う。 その屈託の無い笑顔は正直羨ましい。 女の私から見ても、とても魅力ある笑顔だ。


「あーもう! ほんっとグダグダね。 私からもプレゼントあるから……はい、どうぞ」


「……爆弾?」


「違うわよ!! まともな普通のプレゼント! ていうか八乙女君と神宮さんの時と反応違いすぎて傷付くんだけど!?」


なんて失礼な奴だ。 人に物をあげて「爆弾?」って反応をされることは、多分後にも先にも今回だけじゃないか。


「わはは。 ごめんよ、ついついね。 歌音ちゃんからプレゼントって想像出来なかったからさ」


「失礼な奴ね……」


「うひひ、じゃあ開けちゃおっと」


言いながら、天羽さんは包装紙を綺麗に剥がす。 子供っぽい性格の割りには破いたりしないんだ。 意外。


「……おお、これって」


「そ。 いつか言ってたでしょ? 私が読んでた雑誌見て、これ欲しいーって。 結構探すのに苦労したんだから」


「……あはは」


そう笑うと、あろうことか天羽さんは涙を零す。 ポロポロと、自然に溢れだしたように。


「ちょ、なに泣いてんのよ!」


「いやいや……いひひ。 なんでだろ?」


「なんでだろって……自分のことでしょ」


「……多分、覚えててくれたのが嬉しかったんだ。 あたしのこと」


「馬鹿じゃないの。 あんたみたいな奴、忘れるわけ無いでしょ? この私が」


言って、私は天羽さんに笑いかける。 忘れるわけが無い、もう絶対に。


「わはは! そうだそうだ。 忘れるわけ、無いよね。 えへへ」


「良いから早く行くわよ! こんなとこで時間潰すわけにはいかないの! 早く部室行きましょ!」


私は恥ずかしさから言い、病室の外に出る。


ちなみにこの時、八乙女君が「葉山が照れてるのって結構面白いな」とボソッといつもみたいに感想を述べたので頭を叩いておいた。


「あ、待ってよ歌音ちゃん!」


直後に腕を掴まれる。 もうこれ以上ここに居たら、なんだか暑苦しくて堪らないから、さっさと行きたいのに。


「なによ?」


イライラしている振りをして、私は返す。 しかし、天羽さんはさっきみたいに笑って、私にこう言ってきた。


「ありがと。 歌音ちゃん」


「……どういたしまして」


全く、友達というのは些か扱いに困る物だ。

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