表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
33/100

明日に向けて

「なんか久し振りだなぁ、この部屋」


「そうか? 俺からしたら、お前はちょくちょく来てるイメージなんだけど」


葉山はやまが前に来たのは、夏休み前」


「そうだっけ? やべ、記憶がごちゃごちゃになってる……」


「あはは! その歳で痴呆症? やったじゃん」


「何がやったなんだよ……」


今日は、明日の退院パーティに備え、各自持っていくプレゼントの確認をしようと言う事で、八乙女やおとめ君の部屋へと集まっている。 ちなみに前回ここに来たのは神宮じんぐうさんの言う通り、夏休み前のことだ。


「で、二人共結局何にしたわけ? 天羽あもうさんにあげるプレゼント」


「んー、色々悩んだんだけどさ、俺はこれかな」


そう言い、八乙女君が取り出したのは、湯呑み。 どんな趣味だ!?


「あいつさ、熱いお茶飲むの好きだーって言ってたから。 まぁ、他に上げる物って言われても難しいし」


「おっさんくさー。 でもま、良いんじゃない?」


「お前に言われたく無いな、それ。 座椅子の癖に」


うるさい。 まだ覚えてるのか。 早く忘れて欲しいのに。


「んで、神宮じんぐうさんは?」


「私はこれ。 天羽が面白いって言ってたアニメの第一巻ブルーレイ。 初回限定版」


「お、それ結構面白かったよね。 私も好き」


独特な雰囲気が面白いアニメだった。 てっきりアニメって、良く分からない女の子達が、主人公とイチャイチャするだけの物だと思っていたんだけど、結構そういう物じゃないのもあるんだよね。 これは本当に見ない人には分からなそうだ。 私も知らなかった事だし。


「それってでもさ、結構高いんじゃないのか?」


「6073円。 税込み」


「はぁ!? それってアニメ何話入ってんの!?」


「二話。 最初のお話と、次のお話」


「それで6000円!? 馬鹿じゃないの!? 録画しなさいよ!!」


ありえない。 だって二話って言ったら約1時間でしょ? それで6000円!? 仮におまけが付いているとしても高すぎない!?


「集めるのが楽しい。 並べて、満足する」


そうだ。 そういえば神宮さんの部屋には何本ものアニメのDVDが並んでいた。 勿論、一巻から最終巻まで。 あれが全部一本6000円だと考えると……。


もしかしてこの子、超お金持ちだったりするのかな。


「だからか。 やっと分かった」


八乙女君が唐突に言い、神宮さんの頭を抑える。 ガッチリと。


「分かったって、何が? どういうこと?」


「いや、こいつさ。 時々俺の家に来て「お金が無くてご飯が」って言ってくるんだよ。 生活費は振り込まれてるって言うから変だなーって思ってたんだけどさ、ようやく分かった」


葉月はづき、生活費から切り崩してアニメのDVD買ってるだろ!!」


「この業界では、当然」


「何が当然だアホっ!! 俺の家の中だと育児放棄された可哀想な子扱いだからな!?」


うーん。 確かに私が神宮さんの隣に住んでいて「お金が無くて」と言われたら、育児放棄にでもあってるのかと思っちゃうな……。 てか、どれだけアニメにご執心なのよ。


でも、それでも八乙女君は神宮さんにご飯食べさせてあげてるんだろう。 お人好しを通り越しているわね、既に。 それは当然両親もってことだろうから……そういう家系なのだろう。


「それより、葉山。 葉山は何にしたの?」


「私? 私はこれ」


言って取り出すのはヘアピン。 前に私が読んでいる雑誌を横から覗いてきて、欲しいと言っていた物だ。


ここだけの話、探すのには結構苦労したんだよね。


「へえ、良いじゃん。 なんか俺達のプレゼントより気合い入ってるな……」


「ふふん。 当然でしょ? 同じ女の子なんだし」


「その言い方だと葉月が女の子じゃないみたいに聞こえるぞ」


「あはは。 そう? 神宮さんごめんなさぁい」


「……」


私がそうからかっても、神宮さんは何も反応しない。 何も言わずにただ床をジッと見つめている。


……まさかとは思うけど、八乙女君が言った「葉月が女の子じゃないみたいに聞こえる」って言葉に照れてる……のか恥ずかしがってるのか。 どんだけピュアなのこの子。


「ま、やっぱり葉山はさすがって感じだよな。 女子らしい女子っていうか、そういうのを心得てるからモテるんだろうな」


「……べ、別にそういうわけじゃないって」


真正面から平然と言うからな、こいつは。 厄介極まりないよ、本当に。


で、神宮さんはそれを聞いて少し悲しそうにしているし。 鈍感というかなんというか、張り倒したいなぁ……この馬鹿男。


「それより! 部室の方は大丈夫なの? 二人にそっちは任せてたけど」


「ああ、大丈夫だよ。 しっかり飾り付けも終わってるし、かなり驚くと思う」


「そっか。 ならよし」


明日の予定としては、まず病院へ行って天羽さんが出てくるのを待つ。 次に天羽さんを連れて学校の部室へ行く。 そして扉を開けば天羽さんの退院祝いパーティというわけ。 サプライズとしては中々上出来じゃない?


「じゃ、段取りね。 まず部室に天羽さんを案内して、したらプレゼントを渡す。 オッケー?」


「オッケーオッケー。 分かってるって」


「料理は神宮さんね。 その辺は大丈夫?」


「うん。 平気。 後で裕哉ゆうやが材料を買ってくる」


「俺が買ってくるのか!? 始めて聞いたぞそれ!!」


「……別にどっちでも良いからしっかりね。 行ってプレゼント渡して解散ですって最悪だから」


「あ、それなら今から三人で行かないか? 材料買いにさ」


「あー、それも良いかもね。 神宮さんは?」


「良い。 行く」


とのことで、話し合いもそこそこに私達は近所のスーパーへと向かう。 こうやって料理を作るのに友達とスーパーって始めてかも。 一人で来ることはたまーにあるけど。


こういう小さいこともまた、私の楽しみでもあるのだ。




「それで料理は何作るの? 神宮さん」


スーパーへと着き、私はカゴを持ちながら横を歩く神宮さんに尋ねる。


「パスタ、リゾット、パン、ピカタ、フリット、サラダ。 後はデザート?」


「イタリア料理ばっかりね……」


「得意」


そういえば、前に一度ご馳走になった時もそういう系が多かったっけ。 見た目的には和食派って感じだけど、イタ飯派だったとは……。


「葉山は料理とかしないのか? お前も割りと得意っぽいなーって思ってるんだけどさ」


「割りとってなによ、割りとって。 ま、それなりには作るわよ」


「悪い悪い。 で、どんなの作るんだ?」


「私は……魚を捌いて焼いたり、お味噌汁とか……天ぷらとか巻き寿司を作ったり?」


「和食ばっかだな」


「お婆ちゃんが好きなのよ。 だから結構作ったりしてるんだ」


「へえ。 なんか性格からいったら、でっかい鍋に食材全部ぶち込んだりしてそう」


「失礼な事言うなッ!!」


どんな料理よそれ。 そんなのする奴が居たら見てみたいって。


多分、相当な馬鹿なんだろう。


「裕哉、これ欲しい」


会話の流れをぶった切り、神宮さんは玩具コーナーへと目を向けている。


「……カード?」


「そう。 ぷりてぃ魔導☆みるきぃのカード」


「またそんなのにハマってるのか……。 じゃあ一袋だけな、一袋だけ」


「やった」


そう言って、神宮さんは私が持つカゴに袋を一つ入れる。


「ふうん……こんなのがねぇ」


私はそれを手に取り眺める。 パッケージには、可愛らしいフリフリな服装をした女の子と、その頭に乗っている謎の可愛い物体。


……この小動物、ちょっと可愛いかも。


「ねえねえ、神宮さん。 このカードってこの謎の生物も当たるの?」


「シャルロキー? 当たる」


シャルロキーというのか、この可愛い物体は。


「……ふむ」


「どうした? 葉山。 早く材料買っちゃおう。 今日は俺、自分で夕飯作らないといけないからさ」


「八乙女君、別にあなたの夕飯はどうでも良いから、私もこれ一袋欲しい」


「……あ、そうか。 夢だったかこれ」


「夢じゃないわよ。 良いでしょ? ついでついで」


「……おい葉月! 葉山に何した!? 頭殴っただろ!?」


「殴ってない。 葉山は健全」


「そうよ、私は健全! 別に良いでしょ!? 一袋くらい!!」


「なんかすげえ頭痛くなってきたな……てか、お前も葉月も最初から自分で買う気ゼロなのは怒って良いのか」


「私は裕哉に料理を作ったりしている。 これでチャラ」


「あー、私も八乙女君とかに結構お菓子作って持ってきてるんだけどなー」


「……はいはい分かりましたよ。 今回のこれでチャラだからな! 次からは断固拒否だ!」


やったやった。 久し振りにこういうの買うから、ちょっと楽しみ。 あのなんだっけ……シャルロキー? ちゃんが出てくれれば文句は無し!




「……みるきぃばっかじゃん! 何よこれ!!」


「葉山、このカードはレア。 おめでとう」


……と言われても価値が分からないし! 私が欲しかったのはシャルロキーちゃんだっての! それ以外なんていらない!


あれからここに帰ってくるまでの間、楽しみで楽しみでようやく開けたと思ったらこれだ! つくづく、こういう場合の私はツイていない……。


「私のはハズレばっか」


「別に慰めなくたって良いって……って!! これシャルロキーちゃんじゃん!!」


「これ? 良く当たる奴。 価値無い」


「価値なんてどうでも良いって! うわ、良いなぁ……」


「盗むなよ」


「盗まないわよ!! 八乙女君って、本当に時々失礼な事言うよね」


「お前にだけは言われたく無いな……」


うるさい。 私より八乙女君の方が絶対失礼だって。 何より頭の中ではもっと失礼な事を考えていそうだ。


「葉山、交換しても良い。 その中のどれか一枚と」


「マジで!? さっすが神宮さん! 私の大親友!!」


「便利な言葉だなそれ」


「うっさい! ちょっとあんたは黙ってろ!」


「……はいはい」


全く。 こう言って置かないと横から延々とツッコミを入れてくるからね。 このツッコミ大好き男が。


「ほら、神宮さんは一枚と言わず全部持ってってよ。 私はそのシャルロキーちゃんだけあれば良いから! ね?」


「でも、それは悪い」


「悪くない悪くない! 私が良いって言ってるんだから。 ほら早く!」


「葉山がそれで良いなら」


そうして、私は当たったカード全部と神宮さんが当てた一枚のカードを交換する。 やったね! やったやった!!


「……可愛いなぁ。 あはは」


「葉山、一つ良いか?」


「チッ、今度はなに?」


「お前、なんか順調にオタクになってないか……?」


「……」


何も聞こえなかったことにしておこう。




「それじゃ、明日は絶対遅刻しないこと! 本当に絶対だからね?」


「分かってるよ。 朝の……9時に学校前な」


「9時半だけど」


「そうそう! 9時半だった。 9時半に学校前な」


本当に大丈夫かな……。 八乙女君がこれだと、神宮さんの方がもっと心配だ。 せめて、明日くらいはこの遅刻常習犯もしっかりしてくれると信じてるけど。


「頼むわよ? 神宮さんも、大丈夫?」


「任せて。 作戦は三つある」


「三つも? 聞いとこっかな、それ」


私が聞き返すと、神宮さんは服の中からお面を取り出し、付ける。


……一体どこにどうやって忍ばせているんだろう。 そっちの方が気になる。


「うん。 一つ目はこのまま起きているという作戦」


「絶対途中で寝るだろ!」


「いたっ」


「それはやめてね。 私も八乙女君と同じ意見だから」


「……なら、二つ目」


「今から学校へ行って、そこで寝る。 起きてすぐに集合場所」


「……俺は付き添わないからな。 言っておくけど」


「私もよ。 一人で行きなさい」


「……最後、三つ目」


「頑張る」


最早、作戦でもなんでも無かった。




あれから、神宮さんから「絶対に遅刻しない」との言質を取って、私は自分の家へと帰る。


辺りはすっかり暗くなって、道を照らすのは街灯だけだ。 そんな中、私は歩いて家へと帰る。


時々、ふと思うこと。


今から数年後、卒業して皆が皆、違う進路に進んでいって。


そうしたら、またこうやって遊ぶことはあるのだろうか?


出会いがあれば、別れもある。 今年の五月、私は八乙女裕哉と神宮葉月という二人の友達に出会った。 二人共、馬鹿みたいに親切で、馬鹿みたいに優しくて、馬鹿みたいに真っ直ぐ進んでいる。


本人達にはそんな自覚は無いのかもしれないけど、少なくとも私から見た二人は、いつだってそうだった。


最初はムカついた。 何もしていないのに優しくされる神宮さんを見て、ムカついた。 あの時のあれは多分、嫉妬なんだと思う。


私がどれだけ周りに取り繕って、どれだけ自分を押し殺して、そうしてやっと手に入れた周りからの親切や評価。 そういうのをあの神宮葉月という少女は、何もせずに獲得していたことに。


妬みだとか、嫉妬だとか、恨みだとか、憎しみだとか。 そういうのがぐちゃぐちゃになって私の中に渦巻いて。 私は最悪な事をしてしまった。


そしてその事が二人にバレて。 話をして。


あの二人は言った。 平然と、何事も無かったように。 私に向けて、友達だと。


その時多分、私は気付いたのかもしれない。 今まで周りを騙して、嘘を吐いて貰っていた親切や評価。 そういった物は結局、それも偽物だったんだと。


私が作って生み出した葉山歌音うたねに向けられた物で、ここに今居る私に向けられた物では無いと。 そう、気付いた。


だから、その時私は初めて、その優しさを受け取ったのだろう。 同時に、神宮葉月という少女が私には無い物を持っているのにも、気付けた。


ウザいと思ったし、くだらないとも思った。 羨ましかったし、嫉妬もした。


しかし、それ以上にこの人と友達になれて良かったなと、そう思ったんだ。


そして、私は怖いんだ。


今もまだ、怖くて怖くて仕方が無い。 一人っきりになると、毎日のようにそう思ってしまう。 考えてしまう。


皆が卒業して、皆が別々の道を進んで。


そうしたら、私はまた一人だ。 また、一人っきりだ。


いくら表面上の友達を作っても、いくら周りに偽りの優しさを貰っても。


この、今私が感じている幸せだとか暖かさだとか、そういった物には到底敵わないんだろう。


一度浸かってしまったら、もう忘れる事は出来ない。 毎日毎日、少しずつだけど確実に削られている時間。


ゆっくりとだけど、確実に。 それがまるで命を削られているようにも感じられて、どうしようも無く怖い。


それに怯えて、震えて、だけど私は皆の前ではそんな弱音は吐かないし、見せもしない。


偽ってるわけじゃ無くて、嘘を吐いているわけでも無くて。 それは多分……強がってるだけなんだ。


それとも、考えないようにしているだけ? 気にしないようにしているだけ?


……どっちでも良い。 何をしたって何を考えたって、削られる時間が無くなるわけじゃない。 この先、別れが待っていることにも変わりは無い。


だったらもう、それは耐えるしか無いんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ