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神宮葉月の命令を聞けっ!  作者: 幽々
俺達の関係とは
32/100

その心中は如何に

「最悪……」


「すごい落ち込んでるな……。 そんなにお化け屋敷やりたかったのか?」


あれからクラスでの出し物は映画になり、何を撮るか等は後日決めることになった。 私としては、どうせならラブロマンスが良いかな……。 もう、何でも良いしどうでも良いけど……。


葉山はやま、葉山」


そう私の名前を呼びながら、神宮じんぐうさんは私の服の裾を引っ張る。 誰かに話し掛ける時はこうやって呼び掛けていることが多いから、癖なのだろう。 その動作が可愛らしいのに腹が立つ!


「なに? 神宮さん」


もしかしたら、慰めてくれるのだろうか? 意外と気の利くところがあるじゃない。 なんて思って聞き返すと、神宮さんはこう言ってきた。


「葉山、どんまい」


「なに嬉しそうにしてんのよ!! ああこの人形捨ててきて八乙女やおとめ君!!」


「お前、葉月はづきが嬉しそうって良く分かったな。 凄いじゃん」


「別にそんなのすぐ分かるでしょ!! 言い方で!!」


さすがにあれなら誰でも分かるって。 それより八乙女君がいつも神宮さんの微妙な感情を読み取ってることの方が凄いでしょ。


ていうかね、こうやってそもそも私が思っているのを隠すのもあれだから、言っちゃうけど。


正直、八乙女君は神宮さんが好きなんだと思う。 本人は気付いているのかいないのか、まぁ、そんなのは結局本人の問題だけどね。


神宮さんの方は……。 まぁ、あまり言わない方が良いかな、これは。


それで、そんな二人を見てきた私から、一つ言えることがあるとすれば。


八乙女君のそれはきっと、逃げいてるだけなんだ。


「そう怒るなよ……。 今から天羽あもうのところに行くんだし、笑顔笑顔」


「ふん。 一人で笑っとけば?」


「俺は不審者か!?」


あれから天羽さんは私達が住んでいる方の病院へ移り、今は病室で毎日を過ごしている。


行く度に「暇だ暇だ早く出せ!」と文句ばかりだけど、天羽さんの姉であるりんさんに聞く限り、かなり前よりも大人しく、しっかりと療養しているとのこと。


それと、この調子なら今月中には退院出来るらしい。 学園祭には間に合うと思うので、私は結構楽しみにしている。


裕哉ゆうや、喉乾いた」


「はいはい。 ほら、今日はレモンティーな」


「さすが。 分かってる」


そんな仲の良い二人を横目に見ながら、一つアイデアを思い付く。


……これ、もしかして上手く行くんじゃ無いかな?




「うひょう。 なるほど、中々面白い事考えるじゃん、歌音うたねちゃん」


「でしょ? ってわけで、天羽さんにも協力して欲しいんだけど」


あれから三人で病室へと行って、少し経った後に八乙女君と神宮さんは帰っていった。 私はもう少し話していくと言って、今こうやって天羽さんとお話中。


「でもさ、確かに八乙女くんは葉月ちゃんに惚れてると思うよ。 見ててもやもやーってするもん。 それは間違い無い!」


「でしょでしょ? だからやっぱ良い作戦だと思うのよね!」


名付けて、馬鹿二人をくっつけよう作戦。 成功確率は9割超だ。


「でもね、でもね歌音ちゃん。 葉月ちゃんの方はどうなのさ? そっちの方が問題じゃない? うわマッズ! これめっちゃマッズ!」


天羽さんは病院食を食べながら、文句を言う。 相当マズイのか、だけどしっかり食べてるのは笑えてきちゃう。


「あはは。 私がそんなミスすると思う? 片想いの恋を実らせようってわけじゃないのよ、これは」


「……ってことは?」


「この前のことよ。 珍しく、八乙女君と一緒じゃなくて神宮さんだけで部室に来たことがあるの。 で、私にこう言ったのよ」


私は思い出しながら話す。 確か、夏休みが明けてすぐのことだ。




「まだあっついなぁ。 窓開けとこーっと」


一足早く部室に着いた私は、制服をパタパタとしながら窓を開ける。 風通しは良いので、そうするだけでも結構涼しくなるのだ。


「葉山、大変」


「うわぁ!! びっくりした……神宮さん? あれ? 今日は相方さん無し?」


「裕哉は会議。 部長の」


「ああ、そういえば罰ゲーム中だったっけ。 だから一人なのね」


名付けて、仕事を全て押し付けるゲーム。 八乙女君は律儀にそれを遂行中。


「そう。 それで、大変」


神宮さんは珍しく、見た感じで何やら落ち込んでいる……ような、少し違うような。


「大変、って何が? どうしたの?」


「……具合が悪い」


「そうなの? なら保健室行った方が良いんじゃない? 何なら付き合うけど……」


「もう行った。 だけど、熱も無かった」


……ってことは、何だろう? 具合が悪いって言っても色々あるし、何より私が聞いてどうしてあげればいいのかが分からない。


けど、とりあえず聞くことから始めないと。 いつも八乙女君がやっているように出来るか分からないけど。


「とりあえずさ、座って座って。 何か飲む? あ、寒いなら窓閉めようか?」


「緑茶が良い。 窓は平気」


「そ。 少し待っててね」


言って、私は持ってきた冷蔵庫の中から緑茶を取り出して、コップに注ぐ。 ちなみにこの冷蔵庫は八乙女君が持ってきた物だ。 あの人は真面目に見えて、結構大胆な事をするんだよね。


「どうぞ。 で、具体的にどんな風に具合が悪いの?」


「……苦しい」


神宮さんは言うと、制服の中からお面を取り出してそれを付ける。 どういう訳か、夏休みの旅行の一件から、話す時に時々このお面を付けて話す時があるんだよね。


きっと、八乙女君との間で何かあったんだと私は予想しているけど。


「苦しいって、何が?」


「息が苦しい。 けど今は平気」


えっと、つまり時々息が苦しくなるってことかな? 普通に考えたら。


それって結構ヤバイんじゃない……? 天羽さんの件もあったし、慎重にしないと。


「……他には?」


「夜眠れない」


「それはアニメ見てるから……じゃないわよね、さすがに」


「……アニメも頭に入ってこない。 大変」


「それは確かに重症ね……」


神宮さんって暇があればアニメ見ているし、それが頭に入ってこないってなったらかなり辛いんじゃないだろうか? 趣味というか、最早生活の一部になっているし。


「ぼーっとすることが多い」


「いつもじゃない?」


「いつもよりもっと。 もっとぼーっとする」


「……うーん」


「お弁当が食べきれない」


「……今のお弁当箱で?」


「うん。 そう」


あの小さなお弁当箱ですら食べきれないってなると……結構な食欲不振ね。 予想以上にマズイかも?


「それに心臓がバクバクしてる」


「それってずっとそうなの?」


「ううん。 違う。 教室に居る時」


「……だけ?」


「学校に行く時。 帰る時。 部室に居る時」


「だけど、今は平気」


「ますます分からないわね……。 家に居る時は平気なの?」


「平気……だけど、時々なる」


一体何だろう? 何か条件的な物があって……それが切っ掛け? って考えると、その条件は。


「裕哉がいると、なることが多い」


「……それだっ!!」


「葉山? 何が?」


「へ? あ、あはは。 何でも無い無い」


……それだ。 絶対それだ。 間違い無い。 でもそう考えると余計厄介ね。


簡単に言うことは出来るけど、それを知ったら間違いなくこの子はしばらく部屋から出て来なさそうだ。 やっぱり、一番良いのは八乙女君からって方法だよね。


うーん……。


「とりあえず神宮さん、それは病気……みたいな物だけど、病気じゃないから大丈夫。 私も時々なるのよ、女の子特有みたいな感じだと思って置けば良いわ」


まぁ、私はなったこと無いけどね。 雑誌の情報からいって、それでほぼ間違いは無いとの判断。


「そうなの?」


「そうそう。 その内治るか、収まるか、それとももっと酷くなるかもしれないけど……。 とりあえず、何かあったら私に言ってね。 相談には乗るから」


「うん。 分かった。 ありがとう」


「神宮さんに素直にお礼を言われるとコメントに困るわね……。 あ! それとそれは八乙女君には秘密ね? 女の子の秘密だから」


「分かった。 言わない。 秘密にする」


神宮さんは最後にそう言って、付けていた猫のお面を外した。


「うんうん。 それで良し!」




「もう早くくっつけよぅ! 八乙女くんは何を考えているのさ!?」


「私に怒らないでよ……。 だから、八乙女君を上手くけしかけられれば良いんだけどね」


そこで問題が一つ。 あの馬鹿が自分のことを分かっていないという問題点。


「単純にさ、八乙女くんに教えちゃうってのは? 葉月ちゃんは八乙女くんの事が好きだよーって」


「それは一番駄目。 八乙女君っていざという時は頼りになるけど、基本はヘタレなのよ。 だからそれを聞いたら、今は八乙女君が神宮さんと普通に接しているからいつも通りだけど、八乙女君の方が近づかなくなったらそれこそ終わりよ。 でしょ?」


「ううーん……。 確かに確かに。 でも、それだと方法は?」


「一つあるわ。 天羽さん、来月は学園祭でしょ?」


「おお、そうだね。 今から楽しみだなぁ!」


「じゃなくて。 学園祭といえばそういうのがあるじゃない? カップルが出来るとしたら、打って付けだと思うのよ!」


「……なるほど! そこであたしと歌音ちゃんが協力して、二人をなんとかってことか! それ良いね!」


「でしょでしょ!? んー、私ってやっぱり才能あるかも」


「嫌な才能だね。 わはは!」


「うっさい。 入院長引かせるわよ」


とまぁ、こんな感じで作戦は決まる。


その算段も既に、頭の中で構築されていた。


学園祭にはメインイベントがあって、それに上手いことあの二人を出場させることが出来れば!




「という訳で、部の名声を上げる為に二人共参加すること。 良い?」


「いや待て、全く意味が分からない」


「裕哉と同じ。 意味不明」


……あんたらの為にやってるんだけど一応。 まぁ、勝手にやっていることだし仕方無いか。


「それに何だこれ? 箱山はこやま学園祭。 オンリーワンでナンバーワン。 覇者は君だ」


「つまらなそう」


「そう言わないでって! 内容は当日発表だけど、それで二人のどっちかが一番取れば良いでしょ? バレないように協力出来ることなら協力して、どっちかを一位にすれば良いのよ。 オーケー?」


「ノーだな。 やだよこんなの」


「あーあ、一位取ったらこれあげようと思ってたのに。 神宮さんに」


私は言いながら、昨日必死にゲームセンターで取ってきたフィギアを見せる。 ちなみに取るのに三千円掛かった。


「アモール戦艦! 格好良い……」


「なんつったんだ? 今」


「アモール戦艦。 大宇宙ラグナロクに出てくる戦艦」


「……つまりは何かのアニメのってことか?」


「うん。 欲しい」


一体この船にどんな価値があるのか分からないけど……。 必死に神宮さんが好きなアニメと、持っていないグッズを調べた甲斐があった。 そして知り合いが来ないような遠くのゲームセンターで取ってきた甲斐があった!


……必死にゲームセンターで景品を取ろうとしている姿とか、見られたら終わりだからね。 私で無くても。


「でしょ? ま、参加しないとこの戦艦? は海に流しまーす」


「駄目。 アモール戦艦は宇宙専用」


「……そもそも宇宙までいけないでしょ」


きらきらと光っているような目で、ジッとなんちゃら戦艦を見つめている神宮さん。 うう、この無邪気な姿を見ていたら、無性にこれをあげたくなってしまう。 だけど、我慢よ歌音。 ここは我慢。


「……ま! それはさておき。 八乙女君、神宮さんはこう言ってるけど?」


「裕哉、一位取ろう。 あれ欲しい」


「……だあああ! もう分かったよ! 参加すれば良いんだろ!? けど葉山、一位ってちょっと難しいって」


「それもそうかもね。 じゃ、参加するならあげるわよ。 ただし、ちゃんと一位は狙うこと。 良いわね?」


「良い! 頑張る」


私としては、頑張って欲しいのは神宮さんでは無くて八乙女君なんだけどね。


「りょーかい。 でも、どうして俺と葉月なんだ? 葉山も参加すれば良いのに。 才色兼備だろ? お前って」


「私は今回はパース。 色々忙しいのよ」


てか、普通女子に面と向かって「お前って才色兼備だよな」とか言わないでしょ……。 ナンパかって。


「へえ。 ま、それなら仕方無いか。 じゃあ葉月、頑張ろうか」


そう言いながら、八乙女君は神宮さんの前にしゃがんで言う。


「……」


「無視かよ……」


いやいや、無視じゃないだろ!? 照れてるだけでしょどう見たって!! 馬鹿かこいつ!? 背中蹴っ飛ばしたい!!


今に限って言わせて貰えば、八乙女君より私の方が神宮さんの気持ちを理解しているかな、きっと。


「ってわけだから、一応どんな内容かは私の方でなんとか調べて置くから、二人はまぁ……前みたいに練習とか出来ないし、心の準備くらいはしといて」


「なんか悪いな、それだと」


「だから良いんだって。 人の心配よりも自分の心配自分の心配。 それより今週末、分かってる? 予定空けてる?」


「勿論だよ。 こいつもしっかり予定空いてるし、こっちは問題無し。 お前も大丈夫だよな?」


「当たり前でしょ? 私がそんな大事な日に予定入れるとでも思ってるの?」


「葉山はどうせ暇」


……実際そうだったとは言えない。 変なプライドだ。 ここだけの話、私は八乙女君と神宮さんと天羽さん以外と遊んだ事は皆無と言って良い。 勿論、一緒に出掛けたりってのはたまーにあるけど、普通に友達だと思って、普通に遊んでるって思えるのはこの三人だけだ。


「んじゃ、そう言うわけで私は新聞作りもあるし、またね。 ネタがある程度集まったら、あんたらもしっかり書きなさいよ?」


「ああ、分かってるよ。 てかさ、本当にネタ集め任せて良いのか? お前、なんか最近頑張りすぎって感じだぞ?」


「私を誰だと思ってんのよ。 余裕よ、このくらい。 それより八乙女君と神宮さんはしっかりプレゼント考えておくこと。 そっちも分かった?」


ま、八乙女君が言うのも無理は無いか。 気合いをいつもの倍くらい入れて望んでいるのは事実だし、そこに八乙女君と神宮さんの関係ってのも乗ってきているし、更に今週末、天羽さんがついに退院なのだ。 いくら頑張っても追いつかないって。


「天羽が喜びそうな物だよなぁ。 うーん……」


「基本的に何でも良いんじゃない?」


「参考までにさ、葉山は貰ったら嬉しい物とかってあるの?」


「私? 私は……んー」


「あ、最近新しい雑誌読み始めてさ。 読むのは良いんだけど、うちってソファーとか無いから姿勢がキツイんだよねぇ。 腰痛いし、座椅子みたいなのが欲しいかも!」


「まるでお婆ちゃんだな……」


「うっさいわね。 てか私のなんか聞いても参考にならないでしょ?」


「なりそうだとは思った。 だけどならなかった。 他には無いのか?」


「他かぁ……あ、後は新しいティーカップ欲しいかも。 最近発売されたのがあって、結構可愛いんだよね。 他には低反発の枕とか? 段々寒くなってくるだろうし、マフラーも欲しいかも! ウサギがプリントされてる可愛いのをこの前雑誌で見つけてさ!」


「……ウサギ?」


「そうウサギ! ウサギ……」


……私は一体何を言っているのだ! ついつい勢いで欲しい物をずらりと並べて、更にあろうことか、私の性格では考えられないアイテムを述べてしまった。 最悪だ。


「じょ、冗談に決まってるでしょ。 私がウサギのマフラーなんか付けると思う?」


苦し紛れにそう言うと、八乙女君は苦笑いをしながら。


「……はは、そういうことにしておく」


とだけ言った。


今度、神宮さん辺りに記憶の飛ばし方について教えて貰おう。 良く分からないけど詳しそうだし。

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