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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校一年生 二学期
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レイカと女子たち

 放課後、わたしはぼんやり少女漫画を読んでいた。扉のそばの拓人はサッカー部の練習に行き、篠原はいつの間にかいなくなっていた。レイカは仲のいい女子と楽しそうに話しながら、リップクリームを塗ったりお菓子を食べたりしていた。一体何の用事だろう。待たされた挙げ句、忘れられてはかなわない。けれど何となく話しかけ辛くて、気づけばそのまま時間が過ぎ、教室はレイカたちとわたしを残して空になっていた。

 レイカたちはまた会議を始めた。わたしはもう待ちきれないので立ち上がり、鞄を机のフックから外そうとした。

「待ってよ」

 レイカの声がした。苛立っているようだ。

「話があるって言ったじゃん」

 わたしは鞄をフックにかけ直し、椅子に座った。レイカは長い栗色の髪を手で弄りながらわたしに近づいてきた。後ろには四、五人の女子。レイカ一人だと思っていた。わたしは緊張しながら上目遣いに彼女たちを見た。この状況は、未だに慣れない。

 レイカはわたしの前に立った。きれいな顔で、マスカラのついた睫毛とリップクリームで光る唇のような人工的な要素が余計に思えるくらいだ。栗色の髪は、先生には縮毛矯正で傷んだせいでこんな色なんだと説明していたが、本当は染めたんだと言っていた。笑ったらかわいいと思うけれど、笑っていない。

「歌子、あんた篠原のこと好きなの?」

 単刀直入だ。しかも昨日の拓人と同じ質問。

「友達として好きだってだけだよ。何で?」

 さりげなく笑おうと思ったけれど、できない。

「篠原のこと好きでもないのにいちゃついてるんだ。ビッチだねー」

 レイカは後ろにいる女子たちに振り向いた。彼女たちはレイカの言うとおりと言わんばかりにわたしを睨みつけている。

「別に、いちゃついてなんかないよ」

「あんた以外はそんなこと思ってないから」

 言下に否定される。

「レイカ、夏休みが終わってから態度が変わったよね。わたし、何にもしてない。レイカも何にも言わなかった。何で?」

 わたしは強張った声で訊く。レイカは顔をしかめ、

「別に。最初から嫌いだったから」

 と言い放った。でも、とわたしは思う。入学式の日、真っ先にわたしに話しかけてきたのはレイカだった。お互い出身中学や好きなミュージシャンや家族の話をし、わたしたちって気が合うよね、と言ったのはレイカだった。次の日曜日に何人かで一緒に出かけて、私服の趣味が同じだとわかって、歌子とわたしは双子だ、と言ったのもレイカだった。毎日お弁当を一緒に食べ、放課後話し、お互いの家に行き、夏休みだって一緒に遠出した。それなのに、新学期になったら突然冷たくなった。他の女子も示し合わせたかのように、わたしを無視した。納得がいかなかったけれど、何か悪いことをしたのかも、と思って一人でいた。

 最初から嫌いだった? なら最初から話しかけなければよかったのに。

「ぼーっとしてないで、話聞いてくれる?」

 レイカは心底苛々した口調だった。そんなに嫌いなら、話なんてしなければいい。

「悠里がさ、篠原のこと好きなんだって」

 一番後ろにいたショートカットの女子が泣き出した。昼休みに教室を飛び出した、レイカとは大して仲のよくない子。

「あんたが悠里を傷つけてるんだよ。ひどいと思わない?」

 思わない。わたしは篠原と友達として一緒にいるだけだ。篠原の恋人でもなく、わたしの友達でもないあの子に、どうして気を遣わなければならないのだろう。わたしは唇をつぐんで机を見た。

「何とか言えば?」

「何でレイカが言うの? あの子がわたしに直接言えばいいじゃん」

 わたしはレイカを見上げた。睨まないよう苦労した。

「レイカはあの子と仲良くないよね。どうして?」

 後ろの女子が戸惑ったように互いを見る。悠里という子は目を見開き、また泣き出した。レイカがそっちを見て、わたしのほうに身を乗り出した。

「ムカつく! 消えろ、マジ」

 それだけ叫び、レイカは真っ先に教室を出た。後ろに控えていた女子たちがそれを追う。篠原のことが好きという子は、わたしをちらちらと見ながら出て行った。

 わたしは机を見詰め、石のように固まっていた。

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