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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 一学期
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篠原の名前

 次の日の昼休み、わたしは二組でお弁当を食べていた。天気のいい日は購買部前が暑くて、とてもではないがずっといられるものではない。教室は軽く冷房が効いていて涼しい。わたしと篠原たちは黙々とお弁当を食べていた。

「あ、護」

 渚が岸の名前を呼んだ。岸はぎょっとしたように彼女を見た。

「梅干しちょうだい」

 彼女は岸の日の丸弁当の梅干しをほしがっているのだった。岸は戸惑いつつも彼女の箸を受け入れた。それから彼女はお返しに自分の卵焼きを彼のお弁当の上に載せた。岸は嬉しそうに笑った。

「現代人でよかったよ。昔は公立高校に冷房なんてなかったでしょ?」

 渚が言う。篠原が応じた。

「昔は温暖化が進んでなかったから必要なかったんじゃないか?」

「あ、そうか」

 わたしは教室のざわめきの中、三人の様子を窺っていた。いつも通りだ。昨日、渚が篠原の下の名前を呼んだことも、渚がわたしに告白したことも、なかったかのように。わたしは篠原に声をかけようと彼を見た。向こう側にいる渚が微笑んでいた。応援してくれているのだった。

「総一郎」

 篠原がわたしを見て目を大きく開いた。渚はそのまま微笑んでいるし、岸がにんまり笑っている。

「何?」

 篠原は少し緊張したように訊いた。わたしは言葉を続けた。

「夏休み、どうする?」

 篠原はにっこり笑った。それから少し慣れない様子でこう言った。

「歌子」

「うん」

 わたしの胸は高鳴っていた。彼に名前を呼ばれた。嬉しくてたまらない。

「一緒に花火大会に行こうか」

「うん!」

 わたしは勢いよくうなずいた。彼は照れくさいような様子で首を掻いた。

「あたしも行く」

「おれも」

 渚と岸がテンポよく声を上げた。総一郎が驚いているのをよそに、

「じゃあ、皆で行こっか」

 とわたしは笑った。

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