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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 一学期
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渚と買い物

 それからしばらくして、渚とアーケード街に夏服を買いに行った。渚はグレーのサルエルパンツにペンキを塗りたくったようなTシャツを着ていて、奇抜ではあるがスタイルがいいのでかなり格好よかった。わたしはいつも通りだ。この間と同じショートパンツにプリントTシャツ。二人ともキャップを被っていたのでお揃いのようにも思えた。渚はわたしの格好を見ていたく感動し、生足! と一言叫んだ。わたしの足はそんなに目立つだろうか。

 服の趣味に関しては、それぞれ全く違うようだ。渚は思い切った色使いの服の前で足をとめるし、わたしは淡い色使いの服が好きだ。けれどお互いの似合う服というものがわかってきたので、薦め合ったり提案をしたりして、一緒にいても退屈することはなかった。わたしたちは服屋の紙袋を提げてコーヒーショップに寄った。今日は日差しが強くて暑く、喉がからからだった。席に着き、わたしたちは汗ばんだ顔を拭いた。

「はー、暑かったねえ」

 そう言ったあと、渚はオレンジジュースを飲む。わたしは桃ジュースを飲んでいた。すっきりしたものが飲みたかったので、クリームがたっぷり載ったカフェオレは頼まなかった。

「歌子の趣味が段々掴めてきたよ。淡いピンク好きでしょ。でもちょっと変わったものがいいんだよね」

「そう、単純に女の子らしい服も好きだけど、ファッション誌そのままの格好はピンと来ない」

 わたしは渚がわたしの趣味を把握してくれたことに喜びを覚えた。

「あと、今日化粧してるでしょ」

「あ、気づいたんだ」

 わたしは驚き、視界に入ってくる黒い睫毛を意識した。今日もマスカラを塗っていた。

「すっぴんでもかわいいけど、一割増しな感じだね」

 渚は眉毛以外ノーメイクのようだが、化粧に対して偏見はないらしい。わたしは化粧なしでも充分にきれいな渚にいつも驚きを覚える。彼女が本格的に化粧をしたら、どんなに華やかになるのだろう。

「学校ではしてる?」

「ううん」

 渚が訊いたので首を振った。学校では化粧が禁止されているので、している生徒はほとんどいない。スカート丈も厳しくチェックされるので、わたしの学校は近隣の学校と比べても保守的だと思う。

「篠原は『そのままの町田がいいよ』って言い出しそうだね」

 渚が笑って言う。わたしも笑い、

「そう思ったらこの間全く気づかなかったみたいなんだよね。マスカラ程度じゃわからないみたい」

「篠原は鈍感だねえ」

 渚が大袈裟に呆れたふりをする。わたしはくすくす笑い、この間の遊園地の話をした。もちろん観覧車での出来事は省いて。渚は楽しそうに聞き、相槌を打った。

「浅井って目立つよね。片桐さんみたいな雰囲気の子が一目惚れするの、わかる」

「え、本当?」

 わたしが訊くと、渚はわたしをじっと見て、

「まああたしは浅井か歌子かと言ったら歌子だけど」

 と言い出した。よくわからない比較だ。わたしは面白くなって笑う。そんなわたしを渚はにこにこ笑って見る。

「本当に、篠原と歌子って意外な組み合わせだよね。あたし、びっくりしたもん」

「そう?」

 その言葉に、わたしがびっくりした。わたしと篠原はちぐはぐなところがあるのだろうか。

「何というか、すごく羨ましかったもん」

 わたしは混乱した。篠原と恋人同士のわたしのことが羨ましいのだろうか、と。一瞬、レイカの言葉が頭の中に蘇った。それから馬鹿馬鹿しくなって振り切った。そして、「どうして?」と訊く。渚は笑った。

「何でもない!」

 わたしはまた、レイカの言葉を蘇らせた。篠原を取られるよ、と言われたのだった。

 わたしは不安を出さないようにして、渚に笑いかけた。

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