模試の日
今日は日曜日だけれど、模試があるのでまた学校だ。県で実施される簡単な模試なので、わたしは割と気楽に受けることができた。まだ二年生の初めだからか、わたしは模試に対して警戒心がない。
昼になり、模試の前半が終わった。わたしはいつものように居心地のよくない教室を飛び出し、購買部の前に行く。案の定三人はそこでわたしを待っていた。早速テーブルに着いてお弁当を広げる。外は曇っていて、気分が晴れるような空ではない。
「模試、どんな感じ?」
わたしが篠原に訊くと、「まあまあ」と返ってきた。篠原は気がかりそうに尋ねる。
「町田たちの勉強はどうなの? 進んでる?」
わたしと渚は顔を見合わせた。あれから渚は毎日家に来るが、勉強する素振りさえ見せない。
「やってない。だって渚が漫画ばっかり読んでるんだもん」
「ほんとに?」
「うん」
「わかった!」
渚が慌てたように声を上げた。三人で彼女に注目する。彼女は名案があると言わんばかりに人差し指を立てていた。
「四人で勉強しようよ。そしたら頑張る」
「四人? どこで?」
と岸が訊く。わたしが岸に答える。
「うちでやろうよ。近いし」
「町田の家?」
篠原が驚いたように言う。そういえば篠原は家に来たことがない。でも、岸や渚と一緒なら両親に咎められることはないだろうし、いいと思う。
「明日、うちで勉強しようよ。渚とわたしの成績のためにさ」
「明日は部活あるし、無理だな」
と岸。そういえば、岸は放課後忙しかった。わたしは篠原に向き直る。
「じゃあ、篠原だけでもおいでよ」
「えーっと」
「おいでよ」
「……わかった。行く」
決まった。わたしはにっこり笑い、おにぎりをぱくっと食べた。遠慮がちな篠原がうちに来るなんてことは全然なかったので、とても楽しみだ。
*
次の日の放課後になると、わたしは篠原たちの教室に向かった。中に入ると、岸とばったり会った。彼はにやにや笑い、
「篠原、めちゃくちゃ緊張してる」
とささやいた。篠原のほうを見ると、緊張したときに見せる強ばった顔でわたしたちのほうを向き、立ち上がろうとしていた。岸はそれを見て楽しそうに笑い、
「今日行ってみたかったなあ。篠原が町田の家でがちがちに固まってるところを見たかった」
と言った。わたしは声を上げて笑う。篠原が近づいてきた。岸は慌てて、じゃね、部活だから、と言い残して去っていった。
「あいつ、また何か余計なこと言っただろ」
篠原が気がかりそうに岸の行った方向を見て言った。わたしは首を振り、篠原と一緒に渚を待った。彼女は担任と話をしていて、どうやら叱られている様子だ。しゅんとしている。
「町田の家って、すごくかわいいんだって?」
篠原が訊く。わたしはにっこり笑い、
「渚が言ってた? 普通の家だよ」
と答える。篠原は考え込み、
「町田って、大事に育てられてきたんだろうなあって感じがするよ。おれなんかが家に行ったら、ご両親は気にしないかな」
とつぶやく。わたしはけらけら笑う。
「気にしすぎ! 渚がいるから大丈夫だって。一応友達ってことにするから話合わせてね」
「友達かあ」
篠原がちょっと寂しそうな目をする。わたしだって彼のことを恋人だと言いたいけれど、両親、特に父の様子を見ると、まだまだ言えないと思う。
渚が話を終えてわたしたちのところに来た。疲れきった顔だ。
「課題、最近出してないから怒られちゃったよ」
「漫画ばっかり読むからだよ」
篠原が呆れたように言うと、渚は唇を突き出し、まあそうなんだけど、とつぶやいて、どうやら図星のようだ。
「じゃあ、行こっか」
渚がわたしの背中を廊下に向かって押した。わたしたち三人は階段を降り、岸の話をしたり先生たちの批評をしたりながら学校を出て、わたしの家に向かった。