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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 一学期
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片桐さんのこと

 窓の外では雨が降っている。土砂降りというわけでもなく、時々やんだりする弱々しい雨だ。校庭は無人で、空は濃い灰色だった。

 わたしは昼休みが始まってすぐに、拓人に声をかけた。拓人はにっと笑って立ち上がり、わたしを廊下に連れ出した。昨日の話だと、わかっているらしい。

「片桐さんは、わたしのことを気にしてるのかな」

 学校の広い敷地を廊下の窓を通して眺めながら、わたしは訊いた。自意識過剰なのだろうかと自問するが、訊かずにはいられなかった。拓人は頭を掻きながら笑い、

「そうだな。ちょっと警戒してる」

 と言った。わたしはびっくりする。

「警戒?」

「うん。何せ、おれが歌子のことを好きだったのは公然の事実だから」

 わたしは言葉が出ず、拓人の言葉を待った。拓人はつぶやく。

「ちゃんと好きだって、どうやったら伝わるかなあ」

「好きだって言えばいいじゃない」

「あんまり何度も言うと嘘くさいかなと思って」

 拓人は苦笑いを浮かべている。わたしは少し驚いた。拓人のことだから正直に言っていると思ったのだ。

「言ってないの?」

「言ってない」

「言いなよ」

「……わかった」

 拓人は床を見詰めながら答えた。わたしはちょっと彼の姉に戻った気分だ。かわいい弟のような拓人は、わたしの言葉を素直に受け取っている。

「町田」

 顔を上げると、篠原がいた。きっとわたしが遅いから迎えに来たのだろう。ちょっと戸惑ったように、拓人を見る。拓人はにっこり笑い、

「おお、篠原。久しぶりじゃん」

 と片手を上げた。あまりに屈託がないからか、篠原は面食らった様子だ。親しくない人に見せる強ばった笑みで、

「うん、久しぶり」

 と答える。拓人はちょっと考えた様子を見せてから、また篠原を見る。

「今度さ、皆で遊びに行かない?」

「皆?」

 篠原が困惑した声で訊くと、拓人は答えた。

「おれと静香と歌子と篠原」

「いいけど」

「じゃあ、日取り決めとくね」

 拓人は、それだけ言うと手を振って教室に戻った。篠原はぽかんとしている。それから、わたしに向き直る。

「静香って誰?」

「拓人の彼女の片桐さん」

 わたしが答えると、篠原はようやく納得したようにうなずいた。

「それにしても、何事もなかったように爽やかだな」

 篠原が拓人が入っていった扉を見詰めながら言った。わたしは笑い、篠原と拓人が仲良くなったらいいな、と思っていた。

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