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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校二年生 一学期
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デートの約束

 次の日の放課後、運動部が活動しているのを遠目に見ながら日光で暖まったテラスのベンチで待っていると、篠原がやって来た。にこにこ笑っている。わたしが何かを言おうとする前に、篠原は言った。

「ゴールデンウィーク、暇?」

「暇!」

 わたしは目を輝かせていたと思う。篠原が面白そうに笑ったからだ。

「返事が素早いな」

「だって、デートでしょ?」

 篠原が微笑しつつ周りを見渡した。「デート」の声が大きすぎたようだ。彼はわたしのほうに視線を戻し、次の言葉を口に出した。

「自転車でおれの家の辺りまで来ない?」

「篠原の家? 行きたい!」

「いやいや、おれの家じゃないよ。その近所まで」

「篠原の家、行きたい……」

「それは、いつかね」

 篠原は困ったような、嬉しそうな顔をする。いつかというのはいつだろう。

「アーケードの辺りまで迎えに来るから、一緒に来てくれよ。この辺と変わりないけどさ、町田に見せたいところがたくさんあるんだ」

 そう聞くと、面白そうだと思えてきた。篠原が生まれ育った街並みだと思うと、余計に行きたい。それに、篠原と一緒にそんなに遠くまで行くのは初めてだから嬉しい。今まで学校の近くの喫茶店や本屋に入ることはあったけれど、デートらしいデートはしたことがなかった。更には制服以外の篠原を見られるのだから、どうしても行きたくなってきた。

「行く!」

 わたしが言うと、篠原はにっこり笑った。


     *


 土曜の夜、わたしは洗って乾かしたばかりの白いスニーカーを玄関に出しながらにやついていた。そこにちょうど父が仕事から帰ってきて、おお、と声を上げた。

「歌子、どうした。機嫌がいいな」

「べっつにー」

 階段を上りながら言うわたしの口調や足取りが軽いことから気づいたのだろう。父は台所にいる母に、

「歌子が変だぞー」

 と声をかけながら靴を脱いでいた。わたしはしばらく篠原のことを隠すつもりでいるので、できるだけ嘘をつかなければならない。今回も、友達と出かけるということにしていた。後ろめたいが、篠原のことを話すと両親が騒ぐのは目に見えているので、仕方がない。しばらくは両親の心配など気にせず、篠原と楽しく過ごしたい。多分、いつかは話すけれど。

 二階の部屋に着くと、箪笥の中からたくさんの春服を取り出した。一枚一枚よく見て、組み合わせをよく確かめる。自転車に乗ることを考慮して、下はベージュのキュロットパンツにした。上の服やキュロットパンツの下に穿くタイツの色は、決めるのに一時間以上かかった。そのとき、階下から母の声が聞こえた。

「歌子ちゃん、見たがってたテレビ番組が始まったわよ」

「観なーい」

「どうして?」

「今忙しいから」

 母は何かぶつぶつと言いながら居間に戻って行ったようだ。好きなミュージシャンが出る番組だったのに、わたしは観なかったのだ。悟られていなければいいけれど。

 わたしはそれから姿見の前で決めた服を合わせて、よし、とつぶやいた。篠原がかわいいと思ってくれればいいけれど。そう考えて、わたしはまたにやにやと笑った。

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