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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校一年生 三学期
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終業式

 終業式の日は、とても寂しい気分になった。この教室やクラスメイトたちとは、この日が終わるとお別れだからだ。クラスメイトがまた同じメンバーでまとまることはない。わたしは拓人や舞ちゃんやあやちゃんと別れなければならないかもしれない。特に、篠原と別れるのが辛い。教室は、朝から何となく寂しさが漂っている。

 終業式が終わり、教室で成績表が配られた。わたしは悪くない成績で、篠原はやはり一位。田中先生の簡潔でわかりやすい話が終わると、篠原の周りには人だかりができていた。相変わらずだ。けれど多分、これは今年度が最後だ。

 わたしは来年、文系のクラスに入る。篠原は理系に行くと決めている。だからわたしたちが同じ教室で学ぶことは、もうないのだ。

 舞ちゃんやあやちゃんは文系に決めたようだ。だからわたしたちが同じ教室に通う可能性は充分ある。けれど、物足りなさがある。篠原がいないということは、あるべきものがないのだ、と感じさせる。寂しい。

 人気がなくなり、教室が落ち着きを取り戻したとき、わたしは篠原に一緒に帰るよう頼んだ。篠原はにっこりと笑い、うなずいてくれた。

「あーあ、つまんない」

 校庭を歩きながらわたしが言うと、篠原は無言で横を歩きながらわたしを見詰めた。

「篠原も文系だったらよかったのに。現代文得意じゃん」

「大学は理系に進みたいんだよ」

「どうして?」

「どうしてって……。はっきりとは言えないけど、理系のほうがいい」

 篠原は困惑していたが、詳しい説明をしてはくれなかった。わたしは唇を尖らせる。

「隠し事はやだよ」

「隠し事、かな」

「理系でやりたいことがあるのに言わないんでしょ? 隠し事だよ」

 篠原は困ったように空を見上げた。それからわたしを見下ろし、

「いつか言うよ」

 と言った。わたしはまだ唇を尖らせたままだ。

「いつかって?」

「来年度以降」

 わたしは不満を抱えたまま、うなずいた。

「絶対だよ」

 これ以上つついて、篠原を怒らせるのが怖かったのだ。わたしは篠原に対して、まだ中途半端にしか怒りや甘えをあらわにできないようだ。

「約束する」

 篠原は笑った。わたしは怒らせずに済んでほっとする。校門を出て、篠原が利用するバス停まで一緒に歩いた。たどり着いたとき、篠原は言った。

「町田のこと、来年も再来年も好きだから。クラスが別れても大丈夫だよ」

 少し赤くなりながら、笑っていた。わたしは一気に嬉しくなる。

「わかった。来年も再来年も一緒にいようね」

「うん」

 わたしたちは微笑み合った。しばらく見詰め合い、またにっこり笑って、篠原はバス停に残り、わたしは家に向かって歩き出した。

 きっと大丈夫だろう。そんな気がした。

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