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蜂蜜製造機弐号  作者: 酒田青
高校一年生 二学期
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放課後の会話とメール

 わたしは帰宅部だ。何かに情熱を注ぐ質ではないし集団行動が苦手なので、部活に行くこともなく、いつもホームルームが終わると学校を後にする。行き先は、図書館、本屋、漫画喫茶、河原、雪枝さんのアパートなど。とにかく少女漫画が買えたり読めたりする場所だ。雪枝さんは三十歳の少女漫画フリークで、わたしは彼女から少女漫画の古典の面白さを学んだ。

 今日は雪枝さんの元に行こうと思っていた。今日は仕事がなくて暇だと言っていたから。彼女は恋人がいないのに、恋愛至上主義の少女漫画が大好きだ。まあ、わたしもだけど。

 教室は慌ただしい。皆部活や放課後に任された仕事で忙しいのだ。人いきれで生暖かい教室で、わたしは伸びをする。見渡すと、学級委員長の篠原は女子の学級委員と何か話しているし、サッカー部の拓人は慌てて今日提出の課題をやっている。レイカを始めとする派手な女子のグループは何やら会議中だ。皆忙しいな、と思いつつ教室を出ながら、誰にともなく挨拶をした。

「じゃあね」

 近くの席の男子たちがにこにこ笑って手を挙げたので、わたしもにこにこ笑って手を振った。レイカたちは無視。完全無視。夏休みのあとからずっとこんな感じだ。わたしもあの集団の何人かと仲良くしていたつもりなんだけど。

「頑張れよー」

 扉のそばの拓人に声をかけた。途端に拓人が振り返ってわたしの手を掴む。

「今日、部活終わったら歌子んち行くね」

 拓人はにこにこ笑っていた。わたしもにこにこ笑う。

「わかった」

「じゃあ夜ね!」

「うん」

 手を振って、今度こそ廊下に出た。何だか教室が静かになっている。わたしは廊下の窓から中庭を眺めながら歩く。突然、誰かにぶつかった。紺色のブレザーに包まれた長身を見上げると、やっぱり篠原。集めたプリントを持って、黒板側の扉から出てきたらしい。

「ごめん」

 篠原が謝るので、わたしも謝った。篠原はちょっと笑って、

「帰るの?」

 と訊いてきた。わたしはにっこり笑ってうなずく。

「じゃあな。また明日」

「明日もお弁当食べようね」

 わたしが言うと、篠原は視線を泳がせ、唇の端を上げた。

「うん。あ、なあ」

「何?」

「町田の家に、ちょくちょく来るの? 浅井は」

 篠原はわたしの上から上目遣いになってそんなことを言ったので、ちょっとわたしにかがみ込む格好になっておかしかった。わたしはくすりと笑う。

「来るよ。幼なじみだから」

「幼なじみ……」

「わたしの少女漫画を読みにくるんだ」

「少女漫画?」

 篠原が驚いたように言うと、後ろのほうから拓人の声で、「余計なこと言うな!」と聞こえてきたので黙った。

「じゃあね。わたし帰る」

 わたしが帰ろうとするのを、篠原はうなずいて送り出した。「また明日」とお互いに言い、教室の前から離れる。

 一階に降りて下駄箱にたどり着く。靴を床に置いていると、ポケットで携帯電話がバイブレーションで鳴った。開くと、知らないメールアドレスからのメールが来ていて、

「ブス。ビッチ。死ね」

 と書かれていた。わたしは黙ってもう一度それを読み、すぐに消去し、それから靴を履いて学校を出た。

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